第37話 魔法耐性
人間の扱える魔法は三属性しかないけど、この世の中にはそれで括れない様々な要素が在る――らしい。
この世界の妖精さんは、魔物族と並んで大きな存在だろう。
今のところ俺が知るのは時報妖精さんだけだが、日を司るなんて、それだけでとんでもなくでかい存在だ。
やはり妖精さんの周囲に与える影響は大きいらしく、その妖気は耐性の育ってない子供には辛く感じるんだと。
妖気という言い方はどうかと思うが、単純に妖精さんの気配だから妖気と呼んでるようだ。
半モヒが言うには、人間は成人までに色々な耐性が自然と付いていくらしい。
病気にもかかりづらくなるとか、免疫だとかも含まれてそうな口ぶりだ。
個人差も多少はあれど、最低限は肉体の成長と共に少しずつ育ち、十八から二十歳辺りで成長は止まるということだ。
だから成人の基準は二十歳となってるようだ。
俺、ぎりぎり十八なんだけど……。
こっちで育ったわけでもないし、余計に不安になってきたな……。
それと妖精さんの地味に大きな影響といえば、魔法具の属性設定。
属性を決めるには妖精の素材を使うと言ってた。
でも、そこから考えられるのは、もっと大きなことだ。
妖精素材を使うのは道具のためだけど、普通に魔法を使う人間がいる。
なら、人間が使う魔法の属性を決めるのはなんだ?
妖精や精霊と契約だなんだというものはないから、人間は元から魔法を使える生態ということだ。
俺が召喚魔法はないのかと毒姉に問いつめたとき、ないと断言されたからな。
あらゆるバリエーションを訊ねたつもりだが、ゲームや漫画とかの知識だから偏った質問だったとは思うけど。
まあ何かの力を借りるようなもんじゃないってことだ。
とにかく耐性の成長は、魔法を扱えるかどうかの力にも関わるんだってよ。
魔法を使っても耐えられるだけの身体強度の判断が別にあるらしくて、魔法使いとしての強さも決まってくるらしい。
だから、基本的には誰でも魔法を使うことはできるってことだ。
魂の欠片を作るという、人間の心臓にくっついてる謎器官があると聞いた。
肉体の成長に依存するってことは、それの成長に繋がってんだろうな。
実際、魔法力を扱うにはその器官から、「あーもしかしてこれじゃね?」という気配が感じられるようになるらしい。
話を聞いてすかさず試したが、俺にはまったく分からなかった……。
「えー、ということは、半モヒは分かるんだろ? なんで魔法つかえねーの」
「いやぁ、体内の感触っつーのは捉えられるんスが、それをどうやって形にして捻り出すかってのがさっぱりでして……」
半モヒにしては珍しく苦笑いで頭を掻く。
ごめんトラウマつついたな。
でも形にして出すのが分からんって……どういうことだ?
魔法を捻り出すための括約筋みたいのが足りねーってこと?
それとも排泄口みたいなのが無いか、どこにあるか分からないとか?
「慣れの問題なら繰り返すしかない気も……ま、まあ大人になってからだと難しいことは多いとか聞くけど」
つい言いかけて、しょんぼり顔とうなだれたトサカ頭を見て口を閉じる。
繰り返したって無理なもんは無理ってことはあるもんな。
「まあ、ガキの頃から触れたならまた違うのかもしれやせんが、結局は成人後の体質によりやすから難しい問題っスね。どのみち魔法に関わる機会は滅多にありやせんが」
あー、器官の成長具合によって、耐性具合やら得意魔法に影響が出るのか。
「機会がないってのは? その、読み書きとか、教えるところがないとか?」
「ええ、まあ、そんな場所はないっスけど」
たんに俺は学校がないのかなと思ったんだ。
半モヒが不可解そうに目を丸くして答えたように、それも事実だったが。
やはり子供の内から小さな魔法を使って練習するなんて習慣はなく、親の仕事に関係してるとかでなければ機会はないということだった。
たとえ親が魔法使いだとしても義務的に教えられるということもなく、子供の方に興味がなければ無理に関わることはないらしい。
俺なんかは魔法とか使えたらいいのになんでだよと思うけど、いくら将来に役立つと言われたって勉強に身が入らないようなもんかな。
いいことだけでなく悪いことも見聞きするだろうし、身近過ぎると、そんな良いものには感じないのかもしれない。
実際、街の中を見てもギルドでも、魔法使いだからすごい! といったものは感じなかった。経緯のわりに魔法団なんかも職業の一種というか。
生身で半モヒみたいのがうろうろしてるなら、殊更に有り難がるほどではないのかも。
「まあ腕一本でどうにかなりやすから。幅を広げたいとでも思わなけりゃ必要はないもんっス」
力こぶを見せつけて笑う半モヒだが。
幾ら強くても筋肉魔法とかは、ちょっとなぁ……。
もう少しスタイリッシュさがほしいというか……。
「オレもっスが、冒険者は下町の出ばっかっスから、特に級が低い内は魔法使えるヤツは少ないんス」
「金かかるもんな」
級が上がれば増えると言われて思い出した。魔法の使い方を聞いたとき、ものすごく身に着けるの面倒くさそうだったじゃん。本代だけでなく情報代もあるし。
大抵の冒険者は下っ端町人の出だから、それまでに魔法に関わることがなくて、半モヒのように冒険者になってから挑戦してみるのが普通らしかった。
「まあ使えないのがほとんどなんで、それが普通なんしょ。だからオレも、技を磨く方に集中しようと決めたんス」
技ね……それで俺に師事してるつもりなわけだ。
半モヒと同じく魔法を諦める理由に、使い方の取っ掛かりがどうしても掴めないという者は多いという。
なら俺も時すでに遅しなのか?
やっぱ英才教育ってズルいよな。
なんとなく俺も諦めモード入ってきたんだけど。
何かが気になる。
「あ、半モヒさ、前に闇耐性が強めとか自慢げだったじゃん?」
そうだよ、言い方的に個人差を超えてるように聞こえたから、能力的なものとか魔法的な何かがあるのかと思ってたんだ。
「あ、使う方は失敗したんで、せめて受けきらねぇとなって思いやして」
なるほど大人になってから自分で鍛えたのか。
なんでそんな考えに行くのか分からない。
というか鍛えられたのかよ。
けど、これもやっぱり人間に伸ばせるのは、光闇露の三属性だけなのだそうだ。
なんか免疫力と思うと鍛えるのは変な気がするけど……謎器官がある時点で、俺の普通で考えても意味はなさそう。
うーん、人体の魔法耐性から話が広がってしまった。
結局は魔法属性の話になるんだが、それさえ思ったよりもあちこちに関わってるようだ。
改めて、今まで見聞きした中から属性に関することはないかと考え始めてしまった。




