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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活

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第36話 丘の上の大きな木

 げはげはと嬉しそうに弁当を片付けた半モヒを、つい恨みがましく見た。


 元々俺には兄貴が居る。

 あいつが大学進学で家を出るまでは一緒に遊ぶと「おい、危ないからやめろ」、「ばか! だから言ったろ!」とか、それやるな、あれやるなとうるさくて常に偉そうにされたというか虐げられてきたような気がしないでもないというか……なんか思い出したのが、たまたま俺が失敗したことばかりだったが、えーとにかく!

 俺だって弟がいたらふんぞり返れるのにと何度思ったことか。


 だからってな、間違っても欲しかったのはこんな凶悪面の弟分ではない。

 へりくだられても常に負けた気分になるのは何故なんだぜ。そもそもこいつ兄貴より年上だろ絶対。

 くそー俺は染みついた家族で一番下の甘え根性から抜け出せないのか!


 いじけたこと考えてる場合じゃない。

 幸か不幸か今はそんなしがらみは遠い彼方だ。


「腹も膨れたし働くぜ!」

「うっス!」


 こうして人は悔しさをバネに羽ばたくのさ。




 前に目星をつけていたが、ひとまず避けていた依頼が余ってたため、毟り取ると受付に差し出す。


「ごほん。この五級品の依頼をですね……」

「勇ましく叫んでたからまた森にでも行くと思ってたのに」

「な、なんでも慎重なくらいがいいんだよ……それより、この荷物運び依頼? 昼からでも大丈夫だよな?」

「ただの雑用だし予定もくそもないでしょ。依頼主が何か用事やってたらちょっと待たされるでしょうけど、そのくらいで済むわ。それに大抵は、いつでも構わないから頼みたい、しょーもないものだから余ってんだし、どうしても予定を合わせたいなら条件は指定されてるし、それなりの報酬にもなるから、そんな依頼は朝一でなくなるものよ。残り物を片づけてくれるなんて私としちゃ大助かりだけどね」

「あー分かったから!」


 くどくどと何か言いたげな毒姉から依頼書をもぎとってギルドを出た。

 もういっこ聞きたかったのは、他に似たような依頼はないのかってことだったんだよ。

 まあ安い雑用依頼だからって、すぐに終わるとは限らないのは学んだけどさ。


 毒姉一人なんだから、掲示板に貼り出す前のやつとかねぇのかなって、ちょっと期待したんだ。

 小さな街だからか、毎朝貼り出す分も急激に増えるわけではないようだし、受け付けてすぐ貼り出していてもおかしくはないか。


 というわけで半モヒと街の中心部に向かう。


「こっちでいいよな?」

「へぃっス。すでに街並みが頭に入ってるたぁさすがですぜ!」


 そんなことで煽てられても嬉しくねぇ。

 そりゃ民家の狭間は入り組んでいて路地に入ったら迷いそうだけど、街の中心に丘があるんだから、そこを目指せば抜けられるし途方に暮れることはないだろ。


 東西南北だといった言葉はあるようだが、うさんくさい現象を考えると方角の感覚を当てにしていいのか迷うから、ひとまず丘を目印に考えることにしたというのもあるけど。

 ゴブ森のような場所でも光景が変わったなんてことはないから、そろそろそんなことは起こらないと信用してもいいかな。


 小さな街だから物珍しさもすぐに消えてつまんなくなりそうだけど、依頼の移動は楽で助かる。


 これから向かうのは日用品店のおじさんの店とか布屋とかがある通り。商店街と俺が勝手に呼んでるところだ。


 店などがある程度固まっているからだが、民家の合間にたまたま多いだけって感じはある。

 そうなった理由は、そこそこ真っ直ぐで見通しのいい通りだからだと思うんだ。


 道も他と違って簡易ながら石ころを並べたような舗装がされてるから、その区画に入ったと分かりやすい。

 これは元々商店街用なのか、店が並び始めたから舗装されたのか、どっちが先かは分からない。道の途中から不自然に切り替わってたから後者っぽいけど。


 その商店街を目指して歩いていたら件の丘が近付いてくる。

 目を逸らしかけて、いつもと違う気がして目を凝らした。

 いくつか人影が見えるような。

 そう言えば、今まで俺が通りかかったときは人がいたのを見たことがない。


「誰かいるよな?」


 半モヒが俺の視線を追って顔を向ける。


「ああ兵士っスね。例の魔法跡の調査に関係あるんじゃないスか」


 即座に答えられた。やっぱ視力も異常。

 いや、丘自体は物見用に残してるとか言ってたから、いるとしたら兵しかありえないとか……?

 暗黙の了解で入ったら駄目だったらどうしよう……。


「あの丘、侵入禁止区域に指定されてるとかある……?」

「いゃあ、そんな話は聞かないス。ただ特に用がなきゃ近付く必要もないっスし」


 ま、まあね怒られてないから平気だよな。


「そっか、いつも人が居ないから不思議で。子供とか遊んでそうなのに」

「そりゃあ、あの妖木っスから。ガキが近付くにゃ早いっスよ」

「へ? ようぼく? 子供には早いってなにそれいかがわしい……」

「ヒャーッ! あっアニキは人を笑わせる天才だあ!」


 ぐひゃげひゃ笑う半モヒを殴って止めたいが、不安でそれどころではない。

 どうしよう、なんて言おうなんて言えばいい……。


「俺知らずに触っちゃったんですけどおおぉ!」

「え、えぇー!」


 思いっきりそのまんまだー!


「プフッ、すいやせん! たんに妖精が住んでんっスよ。別に触ったからって、どうかなるわけじゃないっス。ちっとばかし妖精の気が強いもんで、ガキの体にゃ負担が大きいってだけで。厳しいお山の鍛錬を積んだアニキにゃ効きやしませんて」


 なんと、あの木は妖精さんの棲み処だったのか……。

 俺はそのワンダーな鍛錬など積んだ覚えがないので、ますます不安になったんだけど?


 不安に丘の上に立つ、縦より横に広がる木を見上げた。

 俺、幹に触ったよな?

 気が強いらしいけど、たまたま機嫌が良かったのか?

 短い時間だったと思うから、怒られる前に離れたから助かったのかもな。

 ほんと街の中だからと気が抜けない世界だぜ!


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