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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活

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第31話 木の実採り

 目の前の巨大ドングリを見て思わず固まってしまった。

 どうしたもんか。

 下見だったけど、これから街に戻るんだから、ついでに拾ってもいい気がする。

 ギルドは門の近くだと分かったしな。


 色々と黒い森の中だが、この特大とげとげ木の実が垂れているため、ちょっとした隙間がぽつぽつあるらしい。

 実際に見渡してみれば、薄いながらも木々の狭間に木漏れ日が斜線を描いているのが確認できた。

 おかけで俺でも、なんとなく歩くのに困らないくらいは視界の確保ができていたようだ。


 木の方も、こうして場所を空けてないとマズイと分かってんだろう。

 ここに実を落としても、新たな木が生える余地はなさそうに見えるが……怪しい魔界の生態をあれこれ考えても無駄だよな。


「依頼受けてないけど、勝手に持って帰っていいのか?」

「もち買い取ってくれやスぜ」


 試しに持ち上げてみよう。

 買いたての長そでシャツは伸びが悪くて肩辺りが突っ張る気がするし、引っ掛けると即ほつれそうだ。

 そっと手を伸ばす。


「棘にゃ気を付けてくだせぇ」

「毒とかある?」

「ないっス。そこそこ鋭いんでグサッといくんスよ」

「経験者は語るだな」

「ゲヘッ、面目ねっス」


 汗拭き用に買っておいた、シャツよりは目の詰まった布きれを取り出して両手に巻いた。

 まだ防具だとか買える余裕はないけど、グローブは街の依頼するにも必須だよなぁ。

 心の買い物リストで優先順位を上げておこう。


 木の実が巨大なためか、幸いにもトゲの間隔は開き気味だ。

 慎重に手を間に差し込み本体を掴む。

 持ち上げようとしてズシリと腕に負荷がかかった。


 うわ、重い。

 想像以上だ。

 今日のところは、二個……いや三個は持てるか?


「オレも、もいできやす。フンッ!」


 妙に気合いの入った掛け声が聞こえて横目に半モヒを見れば、素早い動きで掴んだドングリを枝との付け根からねじ切っていた。

 そこで、俺はあんぐりと口を開ける。


 ヒュン――空を切る音を残し、ドングリが離れた枝は空へと掻き消えていく。

 さらには上空でバシンとハタキで叩かれたような音と鳴き声。


「――キャギャーッ!」

「なっ、なんか落ちて来たあぁ!?」

「アニキ! すいやせん!」


 とっさに木の実から手を放して後ずさる。千切る前で良かった。

 直後、長細い動物らしきものが過る。

 なんと狐色の毛並みが落下したところは、ドングリのトゲトゲ。


「キャン!」


 毛皮のマフラーは尻から落ちて棘に刺さって一声上げると、飛び上がって丸まりながら転がり落ちていった。


「うっわー……憐れすぎる」


 俺の足元までくるくると転がり、そいつはもさっとした毛皮のみ残して消えてしまった。


「……死んだ?」

「クワガタリスって四等級の魔物っス。間が悪いことに木の実を狙ってたみたいっスね」


 半モヒは気まずそうに頭を掻きながら解説すると、ひょいと毛皮を拾って首に巻いた。

 ますます悪者っぽい姿に。


「クワガタリスね……クワガタムシとリスが魔物合体?」

「まあそうっスかね。鍬形虫と呼ばれる農具に似た角を持つ虫の、顎のような攻撃手段を持ち、素早く走る細長い毛並みから、誰ともなくそう呼ぶようになったらしっス」


 クワガタのような顎を持つリスとか……危険なんてもんじゃねえぇ!


 半モヒは毛皮の次に欠片を拾ってたから、あれも魔物族だったというのはすぐ分かった。

 野生動物じゃなくて、なんとなくほっとした。

 まだそこまでサバイバルな覚悟はないし。


 何事もなかったように半モヒは改めて木の実をもぎ取ると、革製の紐を取り出して二つを括りつけて背負い、さらに片腕に二個を担いだ。ひょいひょいとな。

 見せつけやがって。


「片手は空けておきたいんで、こんくらいっス」


 俺が見ていたのをどう思ったのか、そんな説明をしてくれた。

 いつ魔物が襲ってくるか分からんもんなって、片手空いてりゃいいってもんでもないだろ。

 そんな状態でも戦えるとか随分と余裕ですね。


 ついつい手際の良さについ見入ってしまった。

 俺はまた掴んだところだ。

 枝に顔を打たれないように、付け根を鷲掴みにして枝を砕いて切り離した。

 ねじ切る腕力がないどころか片腕で支えるだけでも大変なんだが……。


 俺も戦えるよう、念のために二つくらいにしておこうかな。

 ノルマ十個とか、俺の場合何往復せにゃならんのよ。


「ほい、こいつを使ってくだせぇ」

「たすかります……」


 半モヒから革紐を借りたことによりドングリを背負うことができ、両腕は空けられた。

 しかし結構な重量だ。

 なにかあれば、これで逃げるのは俺には無理。


「戻るか……」

「帰り道は、こっちっス」


 半モヒは帰る道筋を指示しながら、俺に先に行くように促した。

 言われるままに背を丸めて、のそのそと歩き出す俺の背後から話しかけてくる半モヒの声には、なんの苦も感じられない。


「魔法具の背負子がありゃ、もちっと楽っスよ」


 魔法の背負子ね……。


「買った方がいいのか?」

「元が取れるまで何十回か採取に通わないとならないっスが」

「いらない」


 魔法具は俺には高すぎたようだ。

 それでも明日から真面目に採取を考えないとならないんだよな。

 あんな魔物が居たのは予想外だったけど……。


「わざわざ、こんな採取の依頼が出されるのはなんで」


 ぼやきがてら用途を聞いた。

 俺にも役に立つもんなら、やる気が上がるかもしんない。


「食いでがありやスね」

「そこは見たまんまかい」


 所詮は低級依頼。裏があった。

 食いではあるんだが、こんな場所だし重いし魔物もいて面倒だから依頼に出さないとやってられねぇよってことだ。

 来てみりゃよく分かるよ。


 それで安いのはどんな了見だと思ったが、街のすぐ側で危険度も低いからってことらしい。

 危険度を決めたのはどこのお花畑野郎か脳筋野郎だ。

 ……まぁ、面倒くさがらずに往復しろってことだろうけどな。


 半モヒを見れば慣れりゃ採り易そうだが、特に乱獲禁止だとか注意事項はないらしい。

 まあ幾ら食いでがあるといっても、特に味気はない非常食の扱いだから需要もそこそこで高値もつかないし、是非食べたいというものではないらしかった。


 持ち帰りづらいのに、苦労してせこいことする甲斐はなさそうだ。

 大して美味くもないと聞くと、俺も少しやる気が目減りした。


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