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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活

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第27話 門の外

 けたたましい朝の大妖精に否応なく覚醒を促され、重い体を起こした。

 寝床は椅子ベッドのままだ。

 半モヒが二階を献上してくれるかもと密かに期待したが、俺はここが気に入ってるのだと思われて、逆に少し厚めの布を敷物にしてくれたりと整えられてしまっていた。


 さすがに、これ以上の贅沢は言えないけど。

 初日よりは体は痛くないが、せめてもう少し好きに睡眠を貪りたいのに。


「くそっ……時報妖精のせいで寝過ごせねぇ」


 朝晩の二度とはいえ心臓に悪すぎる。

 二度?

 確か三大妖精とか聞いたよな。


 身支度を済ませると、さっそく朝飯をいただきながら半モヒに聞いた。


「なあ、天を司る三大妖精だっけ? あれ朝晩で良さそうなのに、なんで三種類いんの」

「そりゃあ、朝晩の大妖精を起こす役目がありやスから」


 三勤交代制ですか。

 もう少し詳しく聞いてみよう。


「行動というか反応というか、見ないからさ」

「あー、その大妖精はなかなか姿を見せないっスからねぇ」


 他の二匹? と言っていいか知らんが、朝晩のだって姿見えてるとは言えないだろ高速過ぎて……まさか、こいつには見えてんの?


「一般的に言われてんのはっスね――」


 半モヒの説明にふんふんと頷きながら食後の茶をすする。


 朝露招きが煌々の鳥を呼び昼となり、煌々の鳥を夕闇の覇者が追い立て夜が来て、夕闇の覇者を朝露招きが宥める――そんなサイクルらしい。


 聞いて後悔した。

 何かの喩えでもなんでもなく、そのものが居るんだもんな。

 朝露招き? なんか朝晩の妖精の繋ぎ役がいると覚えときゃいいか。


 話を終えて、何も聞かなかったかのように玄関に向かうと呼び止められた。

 半モヒから巾着袋を差し出される。


「昼飯っス。食材仕入れたんで、今日はちょいと凝ってみたんスよ」

「おぉ、悪ぃな」


 昨日まで硬いパンを渡されただけだった。

 それでも十分腹は膨れたけど、おかず付きになるのは素直に嬉しい。

 水は水筒用の革袋を俺も自分用に買ったから飲み物の問題も解決した。

 着々と生活が充実してきてると思うといい気分だ。


 そして渡された巾着を手に家を出た。

 巾着を両手で抱えたまま。


「あっ、持ち歩き辛いっスかね。オレが荷物持ちするべきなんスが、外に出るなら食いもんは各自で持ち歩いた方がいいんで。何か入れもん持ってきやスか?」


 それだ。

 どうしようと考えたのは鞄とか持ってないからか。


「いやいい。もうちょい稼いだら好きなもん買うから」


 少し迷って腰に括りつける。

 服を買ったとき、サイズ調整用にベルトも買っておいて良かった。


「荷物持ちするもなにも、半モヒだって鞄とか持ち歩いてないよな?」


 もしかして容量無限の魔法鞄とか持ってるのかと期待したが、この不思議世界は、どこかがガッカリ仕様だ。


 思った通り半モヒも巾着袋を括りつけているだけだった。

 ただし斜めがけの幅広のベルトに、ガチャガチャと金属製の飾りだとか小物入れが並んでいるのだが、そこに固定している。ぶらぶらと動かないのが羨ましいくらいだ。


 それより物言いが変だったような?


「食べ物は外に出るなら各自で持つ?」

「なにかあって、はぐれちまったら、救助が来るまでの命綱になりやスから」


 おぅ、物騒な世界だ……。

 これからお外行こうというのに怖いこと言うなよ。


 森を抜けると、いつもは真っ直ぐ進むところを右手に逸れる。

 小刻みに曲がる路地を抜けると、すぐに壁だった。


 切り出した岩をそのまま積んだような灰色の壁は、隙間を埋めてある土のせいか表面が粉を噴いたようでざらついて見える。

 壁沿いに歩けば、真っ直ぐではなく波打つように建っているのが分かった。


 街の家はほとんど一階か低めの二階建てで、壁はそれよりは高い程度だ。要塞というほど物々しさは感じられない。

 人の住めない恐ろしい外と区切るには、少々物足りないのではないかと思う。

 そこは魔法具で補強してあるんだろうけど。


 間もなく壁に柱のように厚みのある部分のある場所に出た。

 黒ずんだ重そうな板の扉の嵌った、いかにも門だが……。


「小さくね?」

「あんま人通りはねっスから」


 まじで裏門と言っていいと思う。

 車一台通れるかなという、まあ普通サイズなんだけどさ。

 こういうところのって、背丈の倍はあって巨大なイメージあるじゃん?


 しかも門の前は広場というほどもない。街からの道の行き止まりで、通り抜けように門を設けましたって感じだし。


「ほら、そこがギルドっスよ」

「え、どこ……マジだ!」


 半モヒに言われて門とは逆を向いたら、樽看板が家々の隙間に覗いていた。


 位置の確認を済ますと半モヒが門に近寄る。

 小さな掘っ立て小屋みたいなのが壁の柱に取り付くように建っていて、そこの前には、いかにも兵士っぽい全身革鎧姿の男が立っている。

 しかし、そいつは大あくびをしていた。


「うーっス」

「ふぁ? ヤロゥ、討伐か。そっちのは見ない顔だな」

「期待の新人ミノルアニキだ。覚えとけ」

「おう、行け行け」


 兵は手をひらひらさせ、半モヒはそのまま通り過ぎ、俺も何も言われなかった。

 え、冒険者メダルもいらんの? それでいいのかよ……。

 さらには門を半モヒが勝手に開けて出て行こうとする。

 ザル過ぎる!


 俺が門をくぐると半モヒが閉めた。


「んじゃ、この辺の壁沿いを歩きやスか」


 そう言って半モヒは歩き出したが、後を追って門を出た俺は、その場で足を止めていた。

 すごい光景が目の前に広がっていたんだ。


 左手に鬱蒼とした黒い森、右手には赤と黄色の枯れたような荒野が半分、地層のような筋の入った地平線。

 その上を、分厚い綿菓子のような積乱雲が帯のように連なっている。まるで初めからそこに飾られているかのように規則的に。


 丘の上からも異様な雲の出来方をしてるのは見た。

 けど、これほど異様ではない……。


 積乱雲ベルトのやや上空に浮くのは、巨大雲の島だ。

 もこもこ雲の上に、岩山と滝と虹が鎮座していた。


「うわぁ、マジ異世界……」


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