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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活

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第26話 級上がり

 いきなり四級品冒険者に上げられてしまったことに動揺してしまう。


「営業の邪魔なんだけど。まだ何か不満?」


 毒姉の底冷えのする声で我に返り立ち上がる。

 ついカウンターに齧りついていたようだ。


「いや、そんな短期間で上がるなら、なんで五級品なんて位があんだ?」

「五級品なんて居ても居なくてもいい級なんて様子見以外に存在意義ある?」

「毒姉はぶっちゃけすぎだっての! それに五級品依頼も毎日あるやん」

「それは依頼の分類よ」


 えー、マジかよ……。もう四級品かー。

 だって俺、超軽装だぜ?

 こんな近所に買い物に行くような恰好で、荒野に出ろってか。

 死ぬだろ。


「なんなのよ、これで辛うじて生きながらえる収入が得られるようになるんだから普通は喜ぶところでしょ」

「嬉しいっちゃ嬉しいけどさぁ。この世か……街のこともよく知らないし」


 世界と言いかけて言い直した。意味に幅のある言葉だけど大げさだとは思う。

 それはいいとして、まだ三日目だぞ?

 この世界は訳が分からんし。働きながら、あれこれ調べる時間なんかねーよ。

 一週間は様子見しよーとか暢気に思ってたら、いきなり外に放り出されるとか。


「街の外は危険なんだろ?」

「だから稼げるんじゃない。賭け金がてめぇの命になるだけだ、わよ」

「アニキぃ、そのための知恵袋がオレですぜ?」


 横から頭を出した半モヒは、立てた親指で自分を指しながらにっと笑う。

 そうだな、おんぶにだっこってのも気分は良くないけど、ここは半モヒを肉壁にするのも吝かではない。

 そこに毒姉が追加する。


「勘違いしてるのを見てるのも楽しいけど、一応伝えておくわ。上の級だから下の級を受けちゃダメなんてことはないわよ」


 半モヒ装備の案は即破棄だ。


 すっかり俺をからかうのに興味をなくしたらしく、手元の紙切れの束を整頓しながら毒姉は言う。


「大体ね、下級の依頼を受けらんないなら、ヤロゥはなんだと思ってたのよ」

「え、それはパーティ用の決まりで低い奴に合わせることはできるとか、そういうのだろうなーって」

「あら、上に合わせないようにってことは考えがいってたのね。意外」


 あ、そうか。


「それに、上の奴が楽な仕事ばっかやってたら下の奴らが困りそうとかさ」


 はっきり考えたわけじゃないけど、そう思ったから下に合わせるのはいいんじゃないかと思ったんだ。


「まあ、そういうのもあるわね。決まりにはしてないけど。そんな輩が居たら上の依頼を無理矢理にでも混ぜるわ」


 毒姉なら無意識にやってそう。

 こんな特異点任せの体制で、この組織は本当に大丈夫なのでしょうか。


 けどこの話の流れじゃ、しばらくは様子見したいとも言えねぇよな……。

 ちょっと考え直す時間がいる。

 急遽予定変更ということで、なんの依頼も見ずに帰ることになった。




 ひとまずは落ち着いて情報収集してみた方がいいだろう。

 ギルドを出ると、なんとなく辺りを見回しつつ半モヒに質問した。


「壁の外の依頼だけどさ、四級品依頼ってどんなもん?」


 外は物騒な荒野で、街道があるといえど何か邪魔もあるらしいし、壁沿いでやれる依頼もあるらしいと聞いただけだ。

 門には屈強な門番もいるだろうし、そんな場所でできることなどさっぱり思いつかない。


 あ、でも……。

 半モヒが俺を勘違いした理由を思い出して首を捻る。


「アニキの相手になるようなもんはいないっスね。どうしやした?」


 外で襲われて駆け込んでくるってことは、門番はあくまで監視だけとか?


「どこかに門が、じゃなくて……幾つか門があるんだろ? それでなんで、初めに俺が助けを求める一般市民だとか勘違いしたんだ?」

「あー、ここ門のすぐ近くなんスよ。都側街道とは逆側なのもあって、裏門なんて呼ばれるくれぇしけた界隈でして、領主が警備の費用をケチりたいからギルドに安く場所を貸したなんて言われてるんス」


 単純な理由だった。

 門が、すぐ近く? そんなの見てないぞ。


「ほら、そこっス」


 半モヒが指した方を見る。

 俺、思いっきり反対側に走ってたのかよ……。


 簡単に言うと冒険者事務所から向かって左に俺は走ったが、門は右だった。

 因みにモヒハウスは、背を向けて真っ直ぐ進む。


 しけた界隈だとか言われたように丘周辺の街並みと違い、この辺は道も狭く真っ直ぐではない。家も似たような材質と作りの筈だが、建て増しに建て増したように歪で、ちょっと離れると見通せないんだ。

 多分、少し道を進むと外壁も見えるんだろう。


「じゃ、でかい丘は、街の中心になるのか」

「市街地の中心スね。元からあった丘を物見用に残してるらしっス」


 ついでに街の構造をざっくり聞くことにした。

 街は卵型らしい。

 底の広い方が市街地と農耕地やらで、狭い方が城のようだ。


 城の方は高台になってて、ぐるりと壁に囲まれてる、あれ全部らしい。

 他の貴族だとか、そういう類の奴らが暮らす区画かと思ってたよ。

 ここは城とは反対側の端っこで城がある辺りは霞んでるが、それでも大きくはない街だからか、監視塔だか城壁の上の方などは見えている。


「城、あんなに広いのか。すげー」

「何かあった時の最後の砦っスから」

「それって魔物が溢れて襲ってくるとか、そういうやつ?」

「そういうのもありやスが……アニキ、そんな希少な例は知ってるんスねぇ」


 えぇ、そっちが希少?

 あーこの世界の場合は大規模不思議現象だっけ、それが襲ってくるとか?

 そっちは想像もつかねぇな。


「あっ街で思い出した! アニキ、ちょい買い物に寄っていっスか」

「なに買うんだ」

「食いもんっス」


 ということで歩き始めたが、商店街方面の道ではなく、いつものモヒハウスへ戻る薄暗い道だ。

 途中の路地に入り込むと、建物と建物の間に布を張って屋根代わりにし、樽やカゴが積まれた路上売りが見えた。


 置いてあるものから八百屋っぽいが、隅に背を丸めたおっさんが座り込んでおり見るからに胡散臭い。積まれた瓜だとかがヤバイものに見えてくる。

 そこへ半モヒは気安く近寄った。


「ちーっス」

「おぅ。今日は仕入れたてのもんがあるぞ」


 行きつけのお店ですか。

 半モヒは幾つかの野菜らしきものをカゴごと買っていた。

 前は俺の生活道具を買って歩いて、食べ物は忘れてたな。

 見た目的にはタレコミ屋とかそっち系の雰囲気だが、ごく普通の八百屋だった。


 それから街のことをあれこれ聞いてる内にモヒ家に到着。

 真っ先にマイ桶を抱えてひとっ風呂浴びる。ただの行水だが。

 桶にはミノルと彫ったので間違えない。


 井戸から戻ると、変な形の野菜だとかが流し側の窓に吊るされたり、横の棚に乗せた籠に盛られている。


 買い物したおかげで今日の晩飯は違う食材だった。料理は同じく肉野菜炒め。

 また少し妙な風味ばかりだが、よく動いたから体に美味いや。

 なんといっても自分で稼いだ金だ。


 まだ宿代は出せないが、食材くらいは払っておきたかったからな。

 テーブルに今日のゴブ賃を置いた。

 受け取れねえと騒ぐ半モヒに睨みを利かせて押し付けたのだ。


 それから異世界料理を貪りつつ、今後について相談というか改めて気掛かりを話す。

 いきなり四級品になったことで俺の完璧で隙のない計画が破綻したのでな。

 というかさ、ようやく四級品からまともな冒険者扱いだったのかよ……。


 情報収集も兼ねて半モヒには曖昧に、外の依頼について質問してみたら、答えはあっさりしたものだった。


「なら明日は、ちょいと覗いてみやスか、外」


 うん、まあ、それがいいよね。

 しかし半モヒは軽く言ってるが、領主も認める戦力らしい冒険者の中でも、二級品の実力者。


「壁沿いは、大したもんないっスぜ」


 そんな言葉は、とても信じられない。

 これまでも同じ疑問は浮かんだけど、今は実際に垣間見てるからね。


 それに、俺が受けたゴミ拾い依頼とかを思い出してみろよ。

 あれ、街の内なのに外の影響のせいなんだろ?


「外壁にもなんか魔法かかってんだよな?」

「ええ、そりゃもう、それが基礎っスから」


 うわー、どんだけ外は殺伐としてんだろ。出たくねー。


 ……まあ、そうも言ってらんないし、覚悟決めるか。


「んじゃ明日はまず外を見てから、街の中の依頼にしよう。雑用依頼がなかったらゴブで」

「うぃっス」


 倒してこいと言われると怖いけど、逃げていいなら見てみたくはあるさ。

 せっかくの夏休みだ。観光ならしたいよな!


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