第23話 半モヒのひみつ
「悪い、つい」
「いやぁオレが興奮しすぎやした!」
すぐに森の中から物凄い勢いで戻ってきた半モヒと、何事もなかったようにゴブ退治に励む。普通にな。
半モヒはうきうきと揺れながら拳を振り下ろし、ゴブを割るどころか粉砕しているものの、さっきよりは落ち着いてくれたようだ。
よく分からないことで一々興奮しないでほしい。
俺は俺で、またやっちまったという気持ちに、うっかり現実逃避して枝を折って遊んでしまったが半モヒに怪我などなくて良かったけど。
そこら辺のことも改めて聞いたら、初めにぶっ飛ばした時は街の中で戦闘態勢じゃなかったため、まともに喰らってしまったんだとか。
逆に俺を宥めようと力を抜いていたくらいだという……あれでか。
今は討伐依頼中だから気を抜いてなくて平気だったらしい。
本当に良かった。こんな重そうなの抱えて帰れる気がしないからな。
「で、そもそもなんで突進してきたんだ?」
うっかり俺が口にしたことの、なにを聞いて悟ってしまったのか知らないが、興奮した理由を訊ねた。
「実は今まで、限界を感じて足掻いてたんスわ」
「ふーん……?」
などと人生に絡んだ、意外と重い悩みが飛び出した。
「二級品まで来たからにゃ、やっぱ一級品を目指したくなるじゃないっスか……へへっ」
「あー、そうかもね……」
だそうで。
けれど、その差は他の級とは隔絶した感があるとのことだ。
毒姉、どんだけ化け物だよ。
「あぁ! もしかしてそれで押しかけ弟子かよ」
「下心ありありですいやせんっしたああ!」
「まあ、俺も宿借りてっからいいけど」
「ゲヘッ、感嘆したのは本音ですぜ!」
逆にちょっと安心したよ。
漫画とかで勝負して手下になるだとかあっても、現実でそんなイベントで好感度上がるとか不気味だと思ってたんだ。
逆襲する機会を狙われてるようにしか思えないし。
それが俺から技らしきものを教えてもらおうという魂胆だったと。それならまだ理解できるな。
とはいえ俺に山での悟りだとか身に着けた秘技なんてもんはないから、真面目に教えを請おうとか思われても困る。
会ったばかりのよく知らんヤツの深いところなど、これ以上つつきたくはないが、把握しておいた方がいいかなぁと思って渋々と水を向けた。
「それで、何が気になってたんだよ?」
「ヘヘ……ちょいと全身に余計な力が入ってたって気付けたんス。一目でオレの迷いを見抜き、改善点をほのめかし自らを省みるよう促すさりげなさ……大したもんでさぁ」
そう、なんだ……。
俺は何もんだよ。
お前の思考回路も謎。
「やっぱ、アニキについて正解でしたぜ。諦めずに上、目指しやス!」
半モヒは照れ笑いしつつ、期待に満ちた目を向けてくる。
まずいぞ。
これ以上、余計な期待されては困る! ボロが出る! 今はまだ困るんだ俺の宿代的に!
「半モヒ、はっきりさせておく! 俺は、教える気なんてさらさらねぇから!」
俺は拳を掲げて本気度をアピールしつつ誤魔化しようのないよう声を上げた。
真顔になった半モヒは何故か不敵な笑みを浮かべて吠える。
「アニキはそうでなくっちゃなぁ! オレも、んな甘いこと抜かしやせんぜ。もち技は盗んでみせやスからぁ!」
「えーと……うん、そうして」
説得の結果は思った方向と違うが、具体的に何もしなくていいならまあいいや。
あの手この手で秘密を吐かせようと考えるタイプでなくて良かったと思っておこう。
しかしそうなると、さっきは勝手に解釈して勝手に成長したってことかい。
……もしかして半モヒって、魔法の才能がないだけで、戦闘の方は天才系?
怖い。下手なこと言えねぇ……。
ま、まあこういうのはさ、大体はもう自分の中に答えがあって、後は誰かに背中を押して欲しいだけだとかいうよな。
これまでの時間が無駄だったとか考えが間違っていたと思いたくないだとかなんとかで、気付いても素直に方向転換できないのが、ある切っ掛けでふっ切れたりする……。
俺はちょうどいい生贄かよ!
まあいいや、その路線で行こう。
たまに半モヒがそわそわしてたら適当にもったいぶって、それっぽいことほざいてれば、多分勝手に納得するだろう。
ということにして、半モヒのことは頭の奥にぽい。
肝心なのは今後に関わる、俺の能力についてだ。
どれだけ力を込められるか効果の出る範囲はと、あれこれ試した。
指で軽ーく、ちょいと突くだけでもダメージ入れられるし、強く殴ろうが痛みがないだけでなく、ほぼ反動もない優れものだった。
ほんと武器が確保できたようなもんなのが把握できたのはいい。
金のない今は素直に嬉しいさ。
これで一旦、謎力のことは放置。
お次の懸念は?
なんと俺はまだ来たときの恰好のままだということです!
ただの白Tシャツに濃紺のスウェットパンツで、靴は穴がぽこぽこ開いたスポーツサンダルだ。
幸いにも靴はサンダルといっても、ジョギングなどにちょうど良い踵までフィットするタイプだから苦労はしてないけど。
寝起きの部屋着姿のまま魔物退治に出かける冒険者って自殺志願者か何か?
他は、コンビニ行く途中だったからポケットにコインケース突っ込んでたのが助かったくらいか。回転焼きみたいに丸くて、厚みのある側面にマグネットホックのついた便利なやつだ。
他にはなんの便利道具もなし。
特に異様なアイテムに変化したといった気配もなかった。
動けば普通に汚れるし洗えるし、枝に引っ掛けた袖口がちょっとほつれたし……クソッ。
「さすがに防具とか、ゴブ賃じゃ買えねえよな」
「無理っスね……あー、からかってんスか! アニキにゃ防具なんて不要だもんなぁ騙されるところでしたぜ!」
そんな達人になってれば良かったんだけどな。
生憎と頑丈なのは右手だけだし、全身だったとしても服は無理だろ!
四級品に上がった暁には……なんて考えて気持ち盛り上げてたけどよ、しばらく五級品依頼が続くんだし、どうせ捕らぬ狸だったよ!




