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第18話 未経験者可の簡単な倉庫内作業です!

 俺と半モヒは、街なかにある日用品店らしい小さな店を訪れていた。

 暗くひんやりとした店内には、ごちゃっと竹ぼうきや竹網っぽい塵取りやらの小物が所狭しと詰め込むように並んでいる。


「ごめんくださーい。冒険者組合の方から来ましたー」


 声をかけると奥から出てきたのは、この商店を営む恰幅の良いおじさん。

 俺たちが冒険者メダルと依頼書を掲げるのを見て、おじさんの顔は輝いた。

 依頼者である。


「おおぉ、冒険屋さん、よく来てくだすったなぁ!」


 五級品冒険者相手なんて居丈高に対応されるかもなあと身構えていたのだが、意外にも好意的だ。


「あの支払いで引き受けてもらえるのかと、少し心配しとったんだよ」


 んで、そんな不安になることを言う。

 これは逆に胡散臭い。


「アンタ運が良かったぜ。アニキは組合期待の新人なんだ。どんと任せておけ!」

「勝手に売り込むなよ!」

「でしゃばりやした!」


 なんとなく不安になったが今更断れないし、これ一件かぎりだ。

 なにかあっても我慢。


「早速頼めるのかい?」


 俺が頷くと、店番を奥さんに頼んだおじさんは自ら案内のため歩き出した。


 作業場所は倉庫だから、街外れにある倉庫が建ち並ぶ区域になるようだ。

 しかしどんどん歩いて倉庫区域を横切り、端っこのボロ小屋で立ち止まった。

 その小屋は、そこそこ大きさがあるためか、ボロさが余計に不安を掻き立てる。


 作業中に崩れないよね?

 建築基準法なんてないだろうしなぁ。


 おじさんが小屋の横幅がある扉を開くと、中は薄暗く埃っぽい。

 欠けた木箱や壊れた台車だとか藁束なんかが、目一杯に詰め込まれている。

 ゴミ置き場やんけ。


 通り道にかろうじて空けてある隙間に進み入りつつ、おじさんは懐から丸石を取り出し光を点した。


「おっと、こいつはあんたら用だ。作業に必要だから貸し出すよ」

「助かります!」


 ほっ。まだ何も持ってないからありがたい。

 おじさんはもう一つ取り出して奥へ進んだ。

 俺も臨時ながら魔法具を持てたのがちょっと嬉しくて足取りが軽くなる。


 ゴミの奥は普通に棚が並んでいたが、すぐに壁との隙間に入り、おじさんは足で何かを踏んだ。

 ギギィと床板の一部が持ち上がり、四角い穴が現れる。


「仕事は地下倉庫だ」


 マジかい。

 空気の流れはあるようで、むあっと吹き上がってきた風は湿気臭かった。

 うわー気が滅入りそう。


 ひたひたと石の階段を降りきると、おじさんが脇に避けた。

 暗いし物も多く全体像がはっきりしないが無駄に広い。

 上の四倍はあんじゃね?


 しかし、問題はそこではない。

 不安は的中し、思わず内心が洩れた。


「甘かった……」


 まあ想像はしてた。

 依頼書の内容から掻い摘んで理解できたのが、普通の雑用?

 なんてハテナが浮かぶ時点で何かが変なんだろうって。


「ちと量が多くて大変だろう。棚の建付けが悪くてなぁ。やっぱ安普請はいけねぇや。あいつらの整頓を頼んますよ」

「ひょーこりゃ難敵ですぜアニキ。久々に気合いが入るぜぇ!」


 おじさんに紙の束を差し出されて訳も分からず受け取る。

 俺は無言で去っていくおじさんを見送り、依頼内容を読みなおした。


『整理棚の仕分け作業』


 これを見た俺の頭に浮かんだのは棚卸といったものだ。

 期間は指定されていても時間指定がないことから、もしかしたら言い方を取り繕った大掃除を押し付ける腹ではないかとかも考えていた。


 力仕事にはなるが外で動き回るよりはマシだろうとか、単純作業なら無駄に覚えることが多くて金額以上の苦労を伴うことも少なそうとか。

 そんな仕事内容で昨日のゴブ襲撃より多く金が入るなら、悪くないと思った。


 なんで悪くないなどと思ってしまったんだ……。

 震えそうになる指を悟られないよう依頼書をポケットに押し込み、部屋を睨む。



 なんで大量の棚が動き回ってんだよおおおおぉーーーー!!!



 しかもこいつらの仕分けってどういうこった!

 半モヒのモヒ丈ほどあるでかい棚だぞ?


 ギィギィとうるさい徘徊する棚にパニックを起こしそうになって注意力が落ちていた。

 俺の背後から腕が左頬を掠って飛び出て、ビビりすぎて硬直する。

 耳元でズシッと思い音が響いた。


 見れば本棚の側面が目の前すれすれにあって息をのむ。

 横から突っ込んできたらしいその棚を、半モヒが片腕で止めていたんだ。


「アニキ、気ぃ抜くと圧殺()られやすぜ……ぬんッ!」


 ぎりぎりと軋む音を立てた攻防。わずかの後に半モヒが払いのける。

 悔し気にカタカタと揺れた棚は別の方向へ移動していった。


 ……とんだ戦場だぜ。




「五級品舐めんなオラッ!」

「すげぇ威嚇だアニキぃ!」


 そうして俺たちは奇怪な棚を追い立てている。

 なんで棚が、こんな風になってるかと聞くと。


「こいつらは自分の居場所を見失っちまってんでさぁ」


 などと半モヒは格好つけて言っていたが、当然のようにしょーもない理由だ。

 実情はラベルの紙が薄れてしまい、定位置が分からなくて迷子になっているのだそうだ。


 本来ならそうなる前に年一とかでチェックするのだが、持ち主がうっかり放置すると稀にこんな事態になるという。


「っすがアニキの心眼。面白ぇ依頼だ。滅多にゃ見れない支払いだと思ったんス」


 助言なら選ぶ前に言ってくれよぉ!


 文句を言おうにも、てんでばらばらだった棚が連携し波状攻撃、らしきものを仕掛けてくる。

 こちらを共通の敵と認識し手を組んだらしい。気は抜けない。

 俺たちも対抗し並んで迎え撃つ。


 はぁ……大真面目に自分がこんなこと考えてると思うと頭痛がしてきそうだ。


「てめぇの相手はこっちだぜ!」

「よっしゃ、これでっ、終わりだぁ!」


 半モヒが棚の気を引き……えー正面を向くように動き、俺は側面に回りこみながら文字の書かれたラベルをバシッと貼り付ける。


 ギギィ……。


 みるみる棚の動きが鈍り、項垂れるようにして、ラベルと同じ文字の書かれた床へと移動していった。


 暗い静寂の中には、俺のぜぃぜぃと息を吐く音だけが響く。

 全ての棚はきっちりと並んで、元の秩序を取り戻していた。


 静まった部屋を見て、半モヒを向く。

 ニカッと頷くのを見た俺は、全てが終わったことを理解し、力尽きて床に四肢を投げ出したのだった。


 半モヒも座ったが、特に息切れはしてない。それとも、すでに整え終えたのか。

 ったく、毒姉のやつ変に煽てやがって。真に受けるんじゃなかった。

 これじゃ一級品目指すどころか……一般的なのは三級品か? そこに上がるまでだって、どれだけかかるか分かったもんじゃねぇな。


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