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第14話 新たな朝

 空を裂く音に壁が振動。

 直後、目を刺す光に煽られ全身が無理矢理に覚醒させられる。


「ぐがっ!」


 首が痛ぇ……なんだよ、今の。

 なんか似た体験をしたような……。


 そうだ、妖精が空飛んで夜になるとかいうやつ。

 頭おかしい話だったが、夢なんて取り留めのないもんだよな。

 なんか前日にファンタジー系のゲームとかしたっけ?


 腫れぼったい目を薄く開くと、部屋が傾いている。

 さっきの驚きで頭が椅子からずり落ちかけたらしい。


 そう椅子から……なんで椅子?


「あっ、アニキぃ! ぉっはよーざいやーっス!」

「ヒィ!」


 すっ飛んできたモヒカン野郎が側でガバッと頭を下げたせいで、モヒカンに顔を叩かれた。


「おぇっ……んだよこれ、夢、じゃねえ!」

「ぅーっス! 朝っス。飯出来てるっスよ」


 なんだこれ。なんだっけここ。

 昨日車に撥ねられたと思ったら冒険者組傘下に入ってゴブの縄張りにカチコんで妖精でメルヘンで!


 あ、あああぁぁ……晩飯食ってちょろっと話してたら猛烈に眠くなって、ここで寝るっつって強引に半モヒの椅子を奪ったんだ。

 それから椅子ベッドにして寝たのを思い出した……。


 体のあちこちが痛ぇ。

 どうにか起き上がると、腹にピンクの星模様の布がかけられていた。

 人の趣味にケチはつけまい。


「はぁ……夢じゃなかったかぁ」

「よっぽどいい夢だったんスか? あ、お茶もバッチっスよ。飲んで落ち着きやしょ」

「あーうん、ありがとう……その前に、顔洗いたいんだけど」


 扉は玄関しかないし洗面所がありそうには見えない。

 そもそも流しにだって蛇口はなく、端に炊飯ジャーより少し大きいくらいの樽が置いてあって、栓を抜いて鍋に水を注いでいたからな。


「裏手っス」


 外だったか。不便。


「樽の水も魔法具とやらで貯めんのか」

「おぉ、っスがアニキ。オレも水を補給しておかねぇと。案内しやスぜ」


 半モヒは樽を小脇に抱えて外へ飛び出す。

 だるだると追って裏手に回ると赤煉瓦色の細い土管が生えていた。


 側の木に巻かれた縄には注ぎ口のついた壺みたいのが括ってある。

 白地に青い花柄模様のティーポット?

 それを手にした半モヒは、土管から木の鍋蓋を取り中へ壺を落とす。

 そして顔を洗わずとも俺の目は覚めた。


「ふおぉ……」


 ジャポーンと音がしたと思えば、壺が土管の上にすっと姿を現したのだ。

 もうやだこのせかい。


「水やら食糧だとか、魔法で作れりゃ面倒なくていいんスけどねぇ」

「魔法は万能じゃないんだな。あ、でも水属性とかあんじゃねえの?」

「水関連は露属性なんスが、どうも魔法の水は人の飲む水とは違うらしっスぜ。飲んだところで乾きも癒えず、下手すりゃ気分が悪くなるとか。欠片酔いって呼ばれてやス」

「擬似的に再現してるから、霞食ってるようなもんになるんかな」


 カロリーゼロ食品はうまく取り入れないと胃を騙して食った気になるが栄養が足りなくて脳が腹減ったと喚き余計に空腹感が増す、みたいな話だったりして。


 それに魂の欠片は人体に馴染まないってことだろう。

 俺も気を付けよーっと。


 木桶に汲まれた水で顔を洗い、渡された毛が茶色い歯ブラシで歯を磨く。豚毛製らしい。豚いるんだ。

 もちろん使う前に半モヒに拳を翳して、新品ということは念入りに確かめた。


 そして再び水を……このポット、一度しか汲んでねぇのに、外見無視してどぼどぼ注いでくれる。

 わざわざ井戸らしきもんに落とす意味はあるのかと思ったが、桶を四杯分ほど注ぐと半モヒは再び土管に落としていた。


 リミットがあんのか。

 不思議アイテムまみれだが、これまで目にした物に限れば、ちょっと便利になるくらいで永久機関的なもんはなさそうだな。


 ついでにトイレの場所を聞くと、井戸とは逆の端にあった。

 井戸は玄関から左回りの流し側の裏手で、トイレは右回りの裏だ。


 そこで目にしたものに俺は絶句する。

 森の中でないだけマシだが、雑草の中に腰までの高さしかない板の柵に囲まれているだけだったのだ。

 怖々と上から覗き込むと、地面に穴が開いてるだけ。


 おえぇ……おや?


 思わず口を押えたが、警戒していた臭いがない。

 穴の中心に、井戸のポットと似た白地の壺が埋まっている。


「意外と、汚くないな……」

「ヘヘッ、そりゃ狭い家っスから、せめて使い勝手にゃ金かけてるっスよ」


 半モヒは自慢げだ。


「こいつも魔法具か。やっぱ灯りの石とかより良い物なんだろうな」


 質問すると半モヒは、うきうきと柵に縋りつくようにして解説を始めた。


「こう見えて属性を複数使ってるんス。中は廃棄物を処理する闇属性。なんでも喰らいつくす悪食効果を利用してんス。で、外側にゃ清浄を司る光属性。あ、光なんてのに惑わされちゃいけやせんぜ。こいつは潔癖効果なんて呼ばれる、ちっとばかし人には毒なもんで長く触れちゃなんねぇ。んで最後に露属性で、周囲までさっぱり洗い流しやス。さらには効果の長期化のため、ふんだんに欠片を使用してるときたもんだぁ! 家を空けることの多い冒険者にゃぴったりの代もんですぜ旦那!」


 段々と実演販売の様相を呈してきたぞ。ちょっと引く。


「でもお高いんでしょう?」


 あ、真顔に戻った。


「三級品時代の蓄えを全て注ぎ込みやした……」

「あぁ……」


 そもそも俺は家を持つ予定なんかないし、無駄な知識となってしまったか。

 半モヒを追い払って用を足すと、壺の中から怨念のこもった地を這うような唸り声と共に黒い霧が立ち昇り、それをかき消すように外側がきらきら輝くと、黒い霧は白い霧となって天に昇って行った。


 ……えぇっと、なんか汚れを浄化っつーより、魂が浄化されてるような。なんの魂だよ。

 まあ、エクソシスト気分を味わえるエンタメトイレとでも思っておこうか、心の平穏の為に。




 朝のつまらない身だしなみの時間が、こうもハラハラドキドキに満ちているなんて、さすが異世界。異様な世界って感じだが。

 それでも……魔法のある世界なんだよなぁ。


 朝食をいただきながら、室内を見回す。

 一見普通に見えるが、そこらの置物が妙な効果を持っている。


 やっぱ憧れは消えねえや。


「いいなあ魔法かぁ、魔法。俺も使いてぇ」

「アニキ、魔法ダメなんスか?」

「ダメっつーか……」


 昨日、回復魔法をかけられた感覚を思い返し、へこんでいた頭を撫でた。


 ん? 変だな。


 俺はあんなごっついメダルが刺さったのに、へこみができただけだ。

 爪ヤスリの刺さった半モヒは血が滲んでたのに。


 ……どういうことだ?


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