第13話 パーティ結成
光る石なんかで喜んでみたが、日本にだってタッチライト照明ぐらいあったわ。
ロウソクの炎だけ石の中に埋まってる感じも、LEDロウソクとかで炎の揺れを再現したやつがあったもんな。
あれ? 俺の居た現実って実はすげえ魔法的世界なんじゃない?
このファンシーな家や世界も誰かが新たなヴァーチャル技術を俺を使ってテストしてるのかもしんない。さすがに妄想が過ぎるか。
徹夜でハイになってるらしい。
素に戻ると急に眠気の方が強くなってきた。
流しをチラ見すると、半モヒは謎の石を使って小鍋の水を一瞬で沸かした。
眠くても、さり気ない現実との乖離を目の当たりにすると意識がそっちに向く。
「こいつも魔法具っスよ」
半モヒは鍋と木のカップと急須をテーブルに持ってくると、俺の無知具合を学んだらしく先回りして言った。
お茶を煎れながらしてくれた説明によると、これらの魔法具は妖精さんの力を利用したものらしい。
妖精さんの力って、やっぱ素材を奪うとか? 皮でも剥ぐのか?
ゴブから拾った石ころはなんだったんだよ。
当然のように、その疑問も読まれた。やばい二級品の適応力舐めてた。
「妖精の方は属性を定めるのに必要なだけで、主な素材は魂の欠片なんス」
「燃料になるのは欠片の方ってことか」
妖精の素材ってのは、魔物族とは違って固定の何かがあるわけではないとか。
素材は交渉によって入手するが、種によってそれぞれ分けてくれるもんが違うらしい。
空の大妖精さんほどの超越した存在は滅多になく、ほとんどの妖精は小さなものなんだと。なんだ、そこは俺のイメージに近いんじゃん。
それでも「生皮でも剥ぐのかと思った」と言ったら怯えられたのだから、迂闊に手を出してよい相手ではないのだろう。内容に引かれたのではないはずだ多分。
「ま、まあ、そこは魔法団の領分なんで、あんまオレらが関わることはねっス」
「あ、そうなんだ」
半モヒは再び流しに戻り、ガチャガチャやり始める。
俺はテーブルに着いて半モヒの話を聞きながら、出された漢方系の薬臭いお茶を啜りつつ項垂れていると目の前に木皿がどんと置かれた。
「さぁ、晩飯っスぜ!」
いつの間にかエプロン姿だった半モヒは、うきうきと小さなテーブルに俺と向かい合って座る。
つい目が行ってしまったがエプロンもきのこ型、胴と下で二つのきのこがくっいたようなものだ。好きなのかきのこ。
皿に添えられていた木製のスプーンを手に取って、恐る恐る料理を見下ろす。
「帰りに買い出しすりゃ良かった。うっかりして碌な食材なくてすいやせん」
半モヒは俺がしょぼい飯に落胆してるとでも思ったのかそんなことを言ったが、それ以前の問題だ。
何かに似てるけどちょっと違う食材で、本当に食べていいのか迷う。
胡麻のような粒々が混じった赤茶や黒いムラのある、ごつごつとしたパンらしき塊。
ぼこぼこした緑色の豆に極細もやしが絡み、一見鰹節のようにスライスされた木屑っぽいものが垣間見える、野菜炒めらしきものというシンプルなメニューだ。
野郎の料理なんてこんなもんだろう。ヤロゥだけに。
普段だったら口にするには躊躇する色合いだけど……。
「いや、ありがとう」
なんだか色々ありすぎて食欲も感じてなかったのが、癖のある胡椒のような匂いを嗅ぐと一気に空腹感が押し寄せてきた。
急き立てるように腹が鳴って野菜炒めを口にする。
塩と胡椒の他は素材の味だろうという素っ気なさ。
不慣れな食材のためか妙な苦みと野菜の甘みだとかが味のまとまりもなく広がり、お世辞にもよく出来てるとは感じられないはずなのに……美味くて美味くて夢中で掻き込んでいた。
なんと木屑もどきはビーフジャーキーぽくて肉味もあってハッピー。
パンは千切るのも噛み切れもしない強情な奴だ。
しかし食わせろと念を込めて右手で鷲掴みにするとあっさり崩れる。
やはり使いどころが微妙な力だな。
欠片を口に放り込む。やっぱ胡麻風味っぽい。
そして、ずっしり重みと歯ごたえがあり腹にたまるパンだ。
日本の柔らかもっちりな口当たりといった売り文句で、実際は水で薄めたか材料をケチってるのか空気が詰まったような何個も食べないと腹一杯にならない上に腹持ちの悪い、すっかすかのパンとは違う。幾らうまかろうと食べ盛りの高校生男児にとって百円の菓子パンとおにぎり、どちらを選ばねばならぬかは明白。ああ費用対効果の差が憎い。やっぱ主食というならこうだよ米なみでないとなー、などとぼんやり考えながらも口は止まらず咀嚼し続ける。
泣きそうに美味いんだ。
食うに食えない不安というのは、かなり精神にくると分かった。
「……よっぽど凄惨で清貧な修行暮らし送ってたんすねぇ。こんなもんで喜んでもらえるなら、幾らでも振る舞いやすぜ、ゲヘッ」
嬉しそうな半モヒは、堅いパンをものともせず豪快に食いちぎっていた。
あっという間に平らげて、食後の茶をすすっていると、ようやく色々と思い返す余裕が出てきた。
そうそう、ゴブ退治の報酬も渡されるままに受け取ってしまった。
小遣い稼ぎのヒーラー姉ちゃんに気を取られていた言い訳はあるが。
「今日の依頼、パーティで受けたよな。半モヒも報酬は受け取ったのか」
「あぁ、もらいやした。コドックさんが分けてくれてたんで」
「口はともかく受付仕事はちゃんとしてんだな」
「元一級品だけあって戦利品を捌くのも早いっスよ」
見たところ毒姉一人しかいないのも、有能だからなんかな。
窓口らしき席は二つあったが、もう一つは使われている形跡がないというか物置きになってた。
他の受付嬢なんて入ったところで上が毒姉じゃ、すぐに辞めそうだけど。
「それで、もしかして半分貰っちゃったのか? 俺、ほとんどなんもしてないし、案内してもらったり世話になってんのに」
「パーティ組むってのはオレが納得して引き受けたんでダイジョブっス」
「二級品の稼ぎに遠く及ばないだろ」
「ヒャハハッ! んなもん投資っスわ! アニキはすぐに追いつきやすって!」
励ますな。
無駄に信頼が厚いのが重い。
「んじゃあ、まあ……今日はありがとさん。明日からは、もう少し自分で頑張ってみるよ」
「あ、ご心配なく。明日も付き合いやすぜ」
えぇ……?
有り難いような迷惑なような気持ちが広がりんぐ。
「お前仲間はどうした」
「短期っスが、ちっと遠出する依頼受けてもらってやス。まっさか治療長が戻ってるたぁ思わなかったもんで、オレまだ空いてるんスよ」
そこまでいうなら、その治療長とやらは回復姉ちゃんと比べても、すごい回復魔法使いなんだろう。
というか、そんな使い手が現れなければもう少し長引く怪我だったってことなのか……。
右も左も分からない俺は、もう少し誰かの側で情報収集した方が良さそうだ。
せっかく付き合ってくれるってんなら、俺に不満垂れる権利はないよな……。
「……そっか。なら明日もパーティ頼むな」
「へぃっス!」
こうして俺の長い長い一日は、ようやく終わりを迎えたのだった。
★★★★☆彡
一方その頃、とある薄暗い屋敷内。
「なに? 空間に変異の兆候があったと?」
「はい、昨日の事です。長いこと静かでしたから、別の影響ではないかと調べるのに手間取り報告が遅れました」
「昨日の今日ならば無理を押したのだろう。結果は」
「魔法媒体の反応は確かなものでした。短時間で消えましたが、調査の必要はあるかと」
判別を難しくしたのは幾つかの巨大な事象が関与したらしいためだ。
そんな大きなことが偶然に、同時期に重なるはずはない。
「短時間で消えた……ふぅむ、災厄の再来ならおかしなことよ」
「だからこそ不穏ですな」
出所に関連性は感じられないからこそ不気味だと彼らは考えた。
「余力のないときに、こうも問題が起こるとは頭が痛いが、無視は出来ん……その件を優先してもらえるか。監視を続けてくれ」
「はっ、ただちに」