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第118話 本物の輝き

 土を被った、俺が丸まって寝られそうな煉瓦の台を見下ろす。

 上の仕掛け扉のことを考えれば、これもそういった蓋だよな。

 左右に揺れているトサカが嫌でも視界に入り、ちらと見れば眉間に皺を寄せて唸っている半モヒ。


「これも仕掛け、分かりそうか」

「う~ん、すいやせん。こりゃ分からねっス」


 闇力を増したままの手で、四角い台の側面に手を滑らせる。上部に極わずかな段差を感じて目をやってみれば、うっすらと線が入っている。


「こんなときの力押し!」


 角を崩してみると、はっきり溝が走っているのが分かった。

 ある位置で手を引っ掛けられそうな窪みもある。

 ……なんか普通に蓋っぽい。


「これ、取っ手っぽいよな」

「オレやりやス!」


 半モヒは警戒しつつも重そうな蓋を軽々と持ち上げ、脇に立てかけた。

 悪いな半モヒ。

 年月のせいで土を被ってたから分かりづらくなってただけで、やっぱ何の仕掛けもないただの蓋だわこれ。


 そして中身が露わになった台座だが、大仰なわりに、中央に小さな窪みがあるだけだ。

 けど、明らかに、何かがありそうな朽ちかけの箱が埋まっていた。


「おぉ、なんか初めて冒険者してる気分」

「未知なる遭遇って感じっスねぇ」


 期待に気持ちは逸りつつも、まずは観察。

 簡素な装飾で縁取られた、いかにもダンジョンの宝箱という蓋がかまぼこ型になった金属の箱だが、錆びが浮き、黒ずんだ染みには穴が開いているところもある。

 あんまり高価な箱ではなかったのか、環境のせいか。


 この世界で仕掛けがあるとすれば魔法具となる。

 とすれば、何か罠があっても俺なら大丈夫だろ。


 物理的な罠のことは頭から締め出し、ネズミ捕りとかで挟まれませんようにと念じつつ手を伸ばす。


 意を決して蓋を開けば、緑色の艶が灯り石の光を受けて煌いた。

 覗き込む二人の息を呑む音が響く。

 幽体ゴブレットよりも、随分と色鮮やかで、本物の質量を感じる輝き――。


「え、ゴブレット……本物の?」


 元々持ちやすいよう底がやや細くなっている形状だが、通常よりも大き目に作られたようで、片手で支えるには持ちにくそうなサイズのコップが収まっている。

 ただし、置物としてなら俺でも出来の良さを感じられるものだった。


 分厚い硝子の、細かくひび割れたような表面は艶やかで、濃緑と水色のグラデーションが綺麗だ。

 ……この色味には覚えがあるな。


「あ、ああー、そっか。これ星屑製だろ」

「ぅおぉ! なるほど! こんだけ得体の知れねぇ圧があるからにゃ、魔法加工されてるってこった! っすがアニキゃ、面白ぇもんにぶち当たる天才だああぁぁゲバっ!?」


 また俺には分からない何かを感じて唐突に興奮した半モヒは、自分の大音量のせいで崩れた土砂が降りかかり口を塞がれる。

 そういえば支柱みたいなのはなかったし、長居は危ないかもな。


 箱の中身へと視線を落とす。


「……魔法具ってことだよな」


 もし何かを見付けたら報告するだけのつもりだった。

 勘だったし、まさか本当になにかがあるとは思わなかったし。


 どうするか悩んで、そっと手を伸ばし、箱ごと……箱の埋まっていた土塊ごと取り上げた。

 さすがに持ち出そうとしたら罠が発動するんじゃないかとハラハラしたが、杞憂だった。

 闇センサーには引っかからなかったし、これの出処を考えたら、そういうもんじゃないだろうという思いもあったけど。


 なんかさ、半モヒから聞いたように、怨念に呑まれて出来たって感じがしないんだよな。

 ゴブたちの、やる気があるのかないのかといった態度からも窺えるというか。


 多分、職人が類稀なる執念を発揮したのは真実なんだと思う。

 ただ材料だとかに拘って拘り続けて……思うに、とうとう独学で魔法具レベルのコップを作っちまったんだろうなって。


 この一つが、その職人の思う最高傑作だったんじゃないか?


 大切に保管しようとはしたが、あんま金のかかってそうもない箱の作りとか、特に罠をかけようといった気配がないところとか。

 そもそも隠すにしては共同窯だし。

 こそは偉い人だったのかもしれないけど。

 師匠とかの立場だから材料も場所も時間も注ぎ込めたんだろうし。


 まあ、考えるのは後だ。

 静かに戻るぞと告げて、半モヒを促す。


 よじ登るのどうしようと悩んだのは一瞬だ。

 半モヒが台を蹴って天井の穴の縁を掴むと階上に消え、すぐに逆さまのトサカがぬっと手を伸ばした。

 浮かび上がる逆さ吊りの半モヒは不気味だったが、何も言わずに引き上げてもらった。




 急ぐの優先で俺たちは、無言のまま細い階段をよじ登っていった。

 なんとか地上に這い出して、盛り土の上に箱を置くと、煤汚れた全身を叩いて払っていく。


 汚れを落として水袋を取り出し、じゃりじゃりする口をすすぐ。

 横目に箱を見たが、日の光を浴びて消えることもない。

 本当にただのコップなんだよなぁ。


 ふょぉ……!?


「生えるな」


 普通のコップではないか。自動幽体分身生成装置付きだったわ。



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