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第117話 隠し部屋

 外から見た印象通り、窯の利用を止めた時に、壊すのではなく全体に土をかぶせて埋めただけのようだった。

 所々、窓だったらしき穴から土が入り込んでいたりもするが、年月のせいか仕切りの壁が崩れていたりして、ある程度はこのまま進めそうだ。


 灯り石を翳したところで光は届かないが、窯の奥は深そう。

 ただ、俺でも腰を屈めないとならない高さのため、半モヒはほぼしゃがんでいるようなもんだし、移動には時間がかかりそうだな。


 ときに邪魔な壁を崩したり掘ったりしつつも数段は登ったが、特に何も残っておらず、黒く煤汚れた狭い竪穴が表れた。

 指で突いて小さく穴を開けたら光が差しこむ。一番高いところに来たっぽい。

 初めから高い方を掘りゃよかったじゃねぇか……。


「うん? ここが行き止まりか」


 横とか下とか調べる。


「空気の流れがありやスね」

「どこ」


 端に来たなら、そりゃ流れはあるだろと思いつつ振り返って、俺は胡乱な目を向けていた。

 半モヒの鼻ピアスが微かに光っている。

 それは空気の流れセンサー的な魔法具なのかよ。

 使ってる半モヒもだが、魔法団も何を作ってんだか。


 気を取り直して、がたがたの地面に這いつくばり手を翳した。

 こういう時の闇パワーだ。まとわせてみる。

 アンテナみたいに広がらんかなと念じてみたら、うちわみたいに広がった。

 ……どうも大雑把なんだよな、俺の闇の気。

 まあ、いい。機能第一だ。


 その手で壁の隅とか、ひび割れの上で扇ぎながら移動していく。

 半モヒが示す指と、俺の手が同時に、横の壁と床の隅で止まった。

 俺たちのセンサーが示したのは側面の、しかも石片の混じった土が堆積してしまっている底だ。

 掘りだせば、やけに幾何学的なひび割れ。

 壁面はデタラメに煉瓦を積んだような中で、そこだけが浮いている。


「あからさまに怪しいな」

「あーオレが開けやス!」


 無意識に拳を叩き込もうとしたのを止められた。

 ここで地面が埋まったらどうにもできなくなるよな……。


 半モヒは手の甲でこんこんと叩きながら、表面を調べる。

 ただ穴を塞いでいたのではなく、仕掛けがあったっぽい。

 半モヒは唯一の真四角の石を押し込むと、並んでいた長方形の石をスライドさせる。

 がこんと音が鳴り、幾何学的な範囲全体が壁面からずれたようだった。

 半モヒはそっと手前に倒す。

 その向こうには、さらに暗い空間が続いていた。


「おぉ、当たりだ。よく気付いたな」

「げへへ昔ながらの簡易の鍵っス」


 言われてみりゃ、田舎の便所とかで見たことあったようなのと似てるか。

 でもスライドするところの空間を石で埋めて、さらに扉全体をカモフラして分かりづらくするってのは、どう考えればいいんだ?


 こんな場所に秘密部屋を作るなど誰も思うまいと、簡易の鍵で良しとしたのか。

 臨時の物置きというだけで、特に重要な意味はないとか。

 どっちにしろ。


「行くぞ」


 座る様に腰を屈めたまま下りなきゃならないような、細い階段。

 底の方から土臭さが漂ってくる。

 気分的に嫌だなぁ……。


 萎える気持ちを振り払うように、灯り石をしっかり掲げ直すと、暗闇に足を踏み入れた。


 ゆっくりと下りて行けば、曲がりくねっている。

 この狭さに通りづらさは、物置きの線はなしだな。


 ふょ~。


 たまに顔……体? を覗かせるゴブに驚かせられ、叩き割りながら下りていくと、足元に段がなくなっていた。地の底に到着?


 狭い空間には、上の炉内と同じく壁沿いに石の棚。しかし荷物はない。

 が、何かが濃い。


「まだ下がありそうだな」

「こりゃ……本命っスね」


 半モヒも表情を引き締めたとなれば、この足元に感じる魔力の濃さは本物ということだ。

 そして今度は止められないように、そーっと端の方から掘ってみる。

 手応えはただの地面だが、壁沿いから中心へ向けてずらしながら手を刺していくと、掘った土が落ちた。


「来たぞ別の空洞!」


 半モヒは鼻を鳴らして、悪そうな笑みを浮かべながら戦闘態勢に入る。

 気持ち逸りすぎ。

 外の世界じゃないんだから、ボスとか出ないだろ……出ないはずだが、例外って自分で思ったんだった。


 俺は緊張に喉を鳴らして、その穴を広げる。

 どこかに降り口はあるんだろうが、もう手で掘る方が早い。

 自分が通れるだけ……半モヒも通れるくらいに広げると、真下の土の山に着地した。

 灯り石の光が届くほどだから、高さはないと分かってたが、そのまま衝撃でさらに地下に落ちるといったこともなくて良かった。


 上の空間よりも狭く高さもない、崩れかけの狭い空間。

 そこには、中央に煉瓦を積んだ台のようなものがあり、周囲は人一人が通れる隙間があるだけで他には棚さえない。

 この台のためだけの空間だろうな。

 俺が台を回りこむと、背後から半モヒの着地音。


 なんか墓の中にいるようで落ち着かねぇ。

 まぁ経緯を考えたら、墓荒らしみたいなもんか?

 台上が揺らぐ。


 ふょ!?


 なにか生えてきたところに即座に拳を振り下ろした。


「ゴブだよな」

「ゴブっスね?」


 俺の予想では、生まれたゴブは消えたりせず姿を隠してるだけ。

 地上で下から湧いてきたとしても、それは窯の中に潜んでいただけと仮定し、実際にみっちみちだった。

 そしてここは、一番地下っぽい。

 ならば今、台から生えたということは?


「闇餅、起動」


 手の闇濃度を増す。

 闇の場ってわけでもないから意味はないかと思ったが、やはりなにか視認できないはずのものが把握できる感覚はある。

 どうも他の属性も混ざってるからか、混沌として感じるようだ。


 だがこれは、いよいよ原因に近付いたな!


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