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第116話 ゴブを断つ

 ゴブ塚調査の許可を得るとき、毒姉にはったりかましてみた。


「消しちまってもいいんだな?」

「やれるもんならね」


 不敵に笑って言ってみたのだが、胡散臭そうに見られただけで、あっさりと許可が下りた。

 俺にできると思ってないとかではなく、心底つまらなそうな態度は、ゴブ塚がどうなろうが本当にどうでもよさそうだった。

 その反応にも首を傾げるところだが、新人冒険者用に残されていた区画ではないかという予想は否定されたといっていいだろう。

 これで心置きなく調べられる。


 この、幽体ゴブレット退治という、街の中で唯一の討伐依頼。

 俺が知ったことの中で、異常自然現象の起きない安全地帯にありながら魔物を生み出すという、唯一の例外だ。


 だから、あえて残してあるのかとも思ったが、毒姉が許可を出すなら真面目に片付けてないってことだろう。

 街づくりの際に外の環境をわざと残すなんてのは、異常が発生しないってのが新天地帯の条件なんだから有り得ない。

 しかし発生原因は人為的なもんらしい。


 そこそこ大きな疑問点だったから、できるもんなら都行く前に確認できることはしておきたかった。

 あわよくば、原因の欠片でも得られればラッキーだしな。

 なんせ都行きを早々に決めていた理由が、俺が帰るのに手がかりがないかだ。


 その後に実はこの街こそ魔法団の本拠地で、「あれ、実はこっちのが詳しい資料ありそう……?」といったことも知ってしまったが。

 せっかくだから観光したいというのは脇に置くとして、最大の理由ができた。

 クロムが、俺の転移に関係する大魔法を行使したときに使ったという希少素材の確保だ。

 その辺り相談する前に逃げられたけどな!




 元、共同大窯があったという段々状の盛り土へと近付いていく。


「どうしやス?」

「ひとまず、普通に退治」

「うーっス」


 盛り土の周辺をゴブ退治しながら回っていく。


 ふとゴブ塚を怪しいと睨んだのは気まぐれだった。

 こいつら幾ら倒しゃ消えるんだ? つーかおかしくね? その職人はどれだけ作っては捨ててんだよ。

 といった愚痴、いや深い疑問からだな。

 この短期間で俺たちが叩き割っただけでも数百はいく。

 それ以前から冒険者たちが挑んでは飽きて去った場所だ。


 黒森の闇の霧からクワガタリスが生まれるように、ゴブを生み出す魔力を供給しているもんがなければおかしい。


「ここって何年前からあんだ」

「オレが生まれる前からあったらしっス」

「……お前、何歳なんだ?」

「二十四を数えやした」

「そ、そう」


 やっぱ兄貴より年上かよ!

 それどころ三十近いと思ってたのに意外と若かったことに驚きだ!


「確か五年はこの街にいるとか言ってたよな。何歳から働いてんだって」

「いや普通に十八からっスよ? 体ができてねっスから」

「ああ、魔法の免疫か……じゃあ上京、じゃなかった、都で一年働いて心折れて地元に帰ってきたような感じ?」

「折れてねっスよ!? ふらっとこっち来たら水が合ってたってだけで!」

「分かった分かった。実家に帰らねぇの」

「もーほんとっスからー。あ、生まれ故郷は帰れる距離じゃねっス」

「え、ここじゃねえの」

「別の新天地群から渡って来たんで」

「は、別の」


 ここは、星歩き荒野内の新天地領国家群……。

 色んな話の端々に、人が移り住んで来たと聞いたし、幾つかの城塞都市間の街道なんかが整備されたのも最近のような話だっけ。

 そりゃ、そうか……。何も人が住めるのが、ここだけのはずないよな。


 聞いた話が、じわじわと人間追い詰める系の絶望的世界観だし、外の光景を見ても速攻で行き倒れそうで、取り残された感しかなかった。

 一応は他にも行き場があるのか。なんとなくだが、少しだけ安心した。


「ふつうは訛りが違うってんで即バレなんスけど、さすがアニキはブレねぇや」


 ……そこは感心しなくていい。

 もし文章にするなら一部カタカナ混ざりになりそうな変なアクセントなのは、訛り表現だったようだ。




 それよりゴブです。

 俺は、目星をつけた盛り土の低い場所で立ち止まった。


 ふょよ~?


 こいつらは敵が来たから生むだか生まれるんじゃない。

 半モヒから聞いた話では、ゴブもランダムに湧いては、地中に埋まってたりするらしい。

 黒森でランダムにクワガタリスが生まれるように。


 ゴブの場合はゴースト系だから、その地中だとかに埋まってるといっても消えてると思ってたんだよな。地上に現れる時に、ゴブレットの姿を見せるというか。

 でも、本当にそのまま埋まってるなら。


「この盛り土ん中に、何かある」

「うおぉぉぉぉ! 殴り込みだあぁぁ!!」


 大いなる闇の力を得た。


 この力で、俺は――――掘る!!!


「どぉりゃあああああああ!!」

「アニキぃ、多分、入り口は、こっちの側面っスぜ?」

「ゃりゃあああああ!?」


 足元の土がぼこっと崩れて、俺は落ちた。


「ぼべっ!」

「だいじょぶっスか~」


 頭上から半モヒの声が反響する。

 狭いが空間があるらしい。助かった……。

 くっ、ここは黒森の土じゃないから、全身に闇力を強めてもあんま払えねぇ。


 ちなみに元の入り口は、俺が落っこちたすぐ側でした。半モヒが穴をあけて入ってきたのだ。

 いいんだ。どのみち土には埋まってたから掘り出さなきゃならなかったし……。


 ポケットから灯り石を引っ張り出す。

 紐でベルトに括ってるから、飛び出して失くすことはない。

 空洞の中まで土に埋まってなくて、ほっとした。


 灯り石を掲げると、案の定ゴブが居たのだが。


「きもっ! みっちみちじゃねぇか!」


 段々状に並んで詰まってる巨大ゴブレットが、ふるふると身を震わせると、押し合いながらもこちらへ寄ってくる。


「むごぉ!?」


 何もしなければ擦り抜けるはずだったよな?

 はい反射的に敵意を込められるようになった弊害出ましたー。

 敵意を持ったままでいると、干渉できる状態なわけだ。そのままだと近寄られれば押され、大量の人間大コップにつ、つぶされる!

 必至に右手を前に向ける。


「や、闇餅発射ぁ!!」


 黒く重々しいもっちり闇が一直線に飛んで行き、斜線上にあるものは一斉に砕け散る。

 大量の甲高い擬似音が、ご丁寧にも重なり合い反響まで再現。

 余計なところで芸が細かいせいで、耳というか頭が痛い。

 ともかく敵は消えた。

 た、たすかった……。

 最弱魔物だろうと侮れませんな。


 改めて敵の居なくなった空間を確かめれば、暗い空洞は段々状になっているのが薄っすらと分かる。

 あいつら、並んで焼かれてたときのつもりだったのか?


「調べるぞ」

「うーっス」


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