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第114話 闇が晴れて

 はたして冒険者と魔法団員がパーティーを組めるのか。

 本来なら依頼して雇うとかになりそうだよな。

 クロムからの提案だから、俺が雇われる方になるか?

 どっちにしても面倒そうというか……仕事内容が曖昧すぎる。

 変に契約して、でっち上げた用事でも達成できないとペナルティとかあるんじゃないかとか、不安になってくる。

 冒険者ギルド内のことなら毒姉に泣き付けばなんとかなりそうだけど、さすがに他の縄張りで揉め事はまずいだろう。

 魔法おやじは真面目そうだし、迂闊に変なことすると後が怖そう……。


 なにか具体的に依頼をでっち上げるとすれば、魔法素材の収集だろうか。

 魔法に必要なアイテムで希少ともなれば、都会の方が集めやすそうな気はするが。

 なんせ都には一級品冒険者がたむろってるというし、情報にしろ人手にしろ手に入りやすいはず。

 希少な理由というのが入手困難な危険地域にあるとして、高値で売れるなら、腕に自信のある奴らが定期的に入荷するだろう。

 単に高いだけなら売ってる店もあると思う。

 その場合は、いかに金を貯めるかで俺の胃がダメージを負うが、ないよりはいい。

 力ごり押しで無理なもんの場合が、問題だよな。

 たとえば、ある時期、ある場所の短時間限定の代物とかさ。

 でも、クロムが目指してたのは大魔法の開発だ。

 そんなに身近でないもんだと、魔法団の教科書に載せられるようなものにならないというか、外付けに頼りすぎると魔法として認められないんだっけ。

 でも、クロムと話してると結構大雑把だし、破れかぶれで試してみた可能性は高い……。


「その胡散臭い目はなに」


 あれこれの疑問なんか、直接ぶつけりゃ早い話だよな。

 いつもの俺なら、ずばっと聞いてる。

 が、まだ責めていると取られかねない言い方になりそうなのと、ここでさらにへそを曲げられると帰れないと思うと、慎重になってしまう。

 それに、弱みを握られるのは怖いからな。

 かなり必死に説得したから遅いかもしれないが……まあ、不安になって泣いてくれるくらいだから、大丈夫と思うけど。


 それより、せっかく付き合ってくれると言うんだ。そっちを考えよう。

 と思ったが、魔法団員の普段の仕事とか知らねぇや。

 あ、それより昨日はクロムも魔法団に泊まったが、ずっとここにいるわけじゃない。


「自宅は都だろ。学校……はないんだったな。クロムも仕事とか家のこととか、ええと何かあるだろ生活が。困るんじゃないか」


 え、クロムから表情が消えた。なにが地雷だったんだよ!?


「ほら、俺も冒険者とか始めたばっかだから、あんま金ないけど、その珍しい素材だっけ。それとか、何か必要な道具があるなら買ったり集めたり協力するし、都に来いってんなら、ちょうど行くところだから」

「ない……よ」


 クロムは目を伏せたまま、呟くように言った。


「家族なんて、いないし……それに、家の手伝いするような歳じゃないって、言ってるでしょ」

「あ……あー、しゅくじょだったな……」

「ふん、そうよ。ようやく教養のないあなたにも分かったみたいね」


 腰に手を当ててふんぞり返って見せるが、鼻水光ってるからな。


 ……家族、いないのか。

 事情なんか聞きたくないけど。代わりに、俺も話せなくなってしまった……。

 だって、俺が帰りたいのは、家族がいるからだ。

 あんな大らかな両親でも、俺に何かあったと知れば探してくれるだろう。多分。

 特に母ちゃんは、泣いてくれると思うんだよ。

 クロムの涙目を見たら、そんな心配をかけたくないって気持ちがより強くなってしまったというのもある。

 なんか夏休み謳歌する気まんまんでいたときに思わず変な世界に来てしまって、しかも今はまだ誰も心配してないと思って……つい面白がってたけど。

 たんに離れただけではなくて、連絡も取れない状況ってのが、精神にきた。

 できれば俺がいないって気が付かれる前に、帰れた方がいいし。

 無理かもしんないと覚悟は決めても、ぎりぎりまで粘りたいからな。


「なによ、今度は辛気臭い死霊顔して……もしかして、同情してるつもり?」


 じっとクロムの目を見てみる。本心はどうなんだろう。


「ちょ、な、なんなの……わ、わたしの大人の美貌に今さら気が付いたなんて言って持ち上げようったってそうはいかないんだから。はっ……ま、まさか、わたしの淀みない清らかな反省心につけいって散々利用しようって腹積もりなのね。そうなんでしょ、ふ、不潔な本みたいに!」


 家族がいないことを気にしてないなら、あんな言いづらそうにしないよな。


「同情するような経緯なんか知らないし。俺はただ、家に戻してくれる気があるならそれでいい」

「そりゃあ、わたしは美人で天才だし? はべらかしたくなる気持ちもわかるけ……へ?」

「でもさ、せっかくだし、これも縁だと思って、できるだけ仲良くやっていけたらなぁと思う。なんていうか、必要以上に気ぃ遣われるのも嫌だから」


 故意ではなかったのは、クロムの様子を見ていれば分かる。

 それを人殺しと罵ったのは、泣かれたからとかでなく、本気で気まずい。

 強い言葉を使うときは、考えるべきだよな。


「あれ、どうした?」


 とりあえず、わだかまりは脇に置いておこうぜ! と提案したつもりだったんだが、なぜかクロムは耳まで真っ赤になって肩を震わせている。


「ば、ばかー! あんぽんたーん!!」


 叫びながら、ふよふよと飛んで行き、瞬く間に青空へと黒い霧を滲ませて流れていく。

 あー、確かに夜だと発見は難しいだろうなあれ。昼だと不自然極まりないな。


「って、あぁ? 俺、逃げられた? な、なんだよ、信じかけたのに裏切りやがって!」

「あれはアニキがまずいっスね」

「なんで!?」


 地上を移動するときと違って動きは早い。

 なんとなく呟いたところ、始まった半モヒの解説によれば、周囲に影響を出さないように抑えているためだろうとのことだった。

 そういえば浮力を得る時だったか、半モヒはすっ飛ばされてたもんな。




 途方に暮れて呆然と見上げていると、近い位置で声がかけられた。


「なんの騒ぎだ」

「ひぃっ!」


 飛び上がりながら振り向けば、見慣れた姿が、外にある。


「なんだ、アクビさんか……」

「お前わざとだろ。わざとだな」

「ちっ、違うぅうっかりで! 槍向けないで!」

「うっかりで出るなら、お前の心の内は分かった」

「藪蛇だった!」


 タツィオさんが外にいるの初めて見た。


「こんな街の近くで魔法騒ぎを起こすんじゃない」

「さーせんっしたー」

「っしたー」


 素直にぺこりと頭を下げる俺と、なぜか半モヒ。癖になってそうだな。

 それにしても、さっきのクロムの闇魔法に、街の内側から気付いたのか。

 やっぱ実はすげー人なんだろうな。


 クロムのことは、魔法おやじに訊ねればいいか。


 余計な考えを振りきり、タツィオさんから逃げるようにして、そそくさとギルドへ走った。

 木の実を持ち帰るの忘れてたから、すぐに戻ることになったのはご愛敬だ。


いったん区切ります。

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