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第113話 帰る目処

 トラック並みの闇質量を体に受けたと思った、転移してきたときの感触が甦る。

 これは死んだと思った危機感は本物だったってことだ。

 そう考えたら、生きて冒険者ギルドにいたのも奇跡的な確率だよな。


「あやうく殺人事件になるところだったな」

「え」


 クロムは目を見開いて固まった。

 やば。さすがに言い方が悪いか。

 だが謝ろうとする前に怒涛の反撃!


「なんてこと言うの! そ、そんな、物騒なこと言わないでよ……え、さ、殺人? う、うう……わー!」

「ええぇっ!? な、泣くほどかよ! 泣きたいのは俺だろ!?」

「わー!」

「あわわあわわ」

「怖いもん知らずのアニキにも、弱いもんがあったんすねえ」

「半モヒっ、ちょっとこいつ、ど、どうにかして、これ、なっ!」

「いやぁ、ガキの口封じるなんて鬼畜なこたぁ、さすがにアニキの頼みでもちょっと……」

「お前の想像が鬼畜だよ!」

「立派な淑女に向かって誰がガキよ、失礼な奴の下僕もやっぱり失礼ね! この半分ハゲ!」

「誰が半ハゲだゴラぁ! ぐげぁ!?」


 クロムは大粒の涙を振りまきながらも、半モヒを容赦なく闇触手で絞る。

 精神的なものか、ちょっと加減ができてないというか、さすがの半モヒもやばそう。


「あー、淑女って歳かよ、同い年くらいだろ」

「山籠もりする変人と同じなわけないでしょ! でも、十八だから大人だもん! 独り立ちもしてるし」

「ぐぬ、まだ独り立ちはしてないが、俺だって歳は十八で一緒だっつーの」

「うそ……わたし、ひょうたん顔と同い年なんだ……わー!」

「なんでそこで泣く! ひょうたん顔てどんなん!?」

「アニキ、助かりやした……」


 よろよろと立ち上がった半モヒに、俺の発言は聞こえていなかったらしい。

 聞かれても冗談としか思われなさそうだけど。

 それより泣きだしたクロムを見てると気まずくて仕方がない。

 少しだけ闇座布団の高度は下がっているため、側に立ってクロムの顔をしっかりと見ながら訴える。


「もうさ、勘弁して? 帰る方法、一緒に探してくれよ。頼むから。天才なんだろ?」


 天災過ぎるが。


「おこって、ない?」

「当たり前だ。事故みたいなもんだろ。でも帰る方法をクロムが知ってるなら、手を貸してくれると助かる」


 頼みについてはクロムも素直に頷いてくれて、ようやく俺は安堵することができた。俺のシャツで鼻を啜りながらだったが。

 こいつ……頷かなかったら、一生人でなしと責めてやるところだ。意外と素直で助かった。

 それに、小さな呟きが胸元に伝わったんだ。


「……ごめんなさい」


 さもなんでもないというように俺は頷いてみせる。

 是が非でもご機嫌取って帰らせてもらわないと困るからな。

 あ、そうか、いよいよ解決するかもしれないのか?

 よ、よし、今の内に、話を進めよう!


「さっそくで悪いが、帰してほしいんだけど」


 特に大事な荷物があるわけでもないし、こいつの気が代わらない内に飛ばしてもらいたい。


「……わかったわ。いいわよ」


 ほっとして、緊張がゆるむ。


「そうか……よし、いつでもいいぞ!」

「うん。あなたが帰れるように、どうにかその時の現象を再現してみせる」

「再……現?」


 俺のゆるんだ笑みは固まった。


「お、おいおいおい、どういうことだよ!」

「ぐ、偶然だったのよ! 今なら思い出せるけど、あの時のしっかりした手応えは、場と繋がった感触だったんだって。単に新魔法が安定しただけじゃなかったってことなの! ま、まさか色んな事が重なりあってなんて思わ……いや魔法は成功させるつもりだったけど、想定と違うっていうか、あなたが指摘したんでしょ!」

「た、たしかにそうだけど」


 そんなに簡単に行くわけないよな。期待しすぎて落胆がひどい。

 はぁ……溜息くらいは許してくれ。

 クロムはさらに気まずそうな顔を向けてくる。


「それに、すっっっごい希少な妖精素材を使ったけど……残ってない」


 は?


「はあぁぁぁぁん!?」

「ま、また怖い顔する……へぐぅ」

「わー待った! 俺の顔怖くない怖くないよぉ?」

「へにゅうって笑って気持ち悪い」

「余計なお世話だ。いやその、魔法のことなんか分かんねぇから疑問だっただけ!」

「そ、そう……? ぐしゅん」


 うぅむ、難しいやつだな。

 鼻を赤くして大きな目に涙を湛えて上目遣いに見られたら、俺の方が物凄い悪者っぽいじゃないか。


「……普通に可愛いのがムカつく」


 ぼそっと呟いたつもりだったが。


「なっ! ま、また、かかかわいいって言った! けどなんで普通ってつくの、それがムカつくってなに。普通なのか可愛いのかどっちなのよ! あっ、美人じゃないってことは、まさかあんたも子供扱い!?」


 余計なところに耳ざといな。

 それにしても、説得はうまくいったのに、また問題かよ。

 いや具体的になっただけでも、喜ばないとな。


「くっ……仕方ないわね。わたしが悪いし、いいわよ…………あげる」


 できるなら協力させようと目論んではいたけど、ほんとに原因の一つがこいつなら、どのみち手を借りないで済む方法なんかないんじゃないか?

 諸悪の根源が手伝ってくれる気でいるのは助かるが。

 あくまでも、要因の一つなら、環境の再現も必要そうだ。

 うわー闇川消したのまずかったりしないだろうな。

 それに、ただでさえ調査のための旅支度にさえ苦労してたってのに、その上、希少な素材がいるとか……うーん。


「って、ちょっと聞いてるの!」

「わりぃ、なに?」

「ほんとに聞いてなかったの……あーもう。あんたを帰す魔法の準備ができるまで、い、一緒に行動してあげるって、言ったの!」

「ああ、まあ、それもそうだな。逃げられても困るし」

「逃げないわよ!」


 真っ赤な顔で睨むクロムを見て、魔法団所属の魔法使いが冒険者とパーティー組めるのかと気になっていた。


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