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第112話 思い違い

 クロムの様子が、また荒野で出会った晩のように威圧感ましましで、ついびくっとしてしまった。


「え、えぇ? 納得してくれたんじゃねぇのかよ……」


 すげえ分かり合った感あったと思ったんだけどなぁ。

 異界からってのは信じてないみたいだから、そこで辻褄合わねぇと冷静に考えられたらおしまいなわけだが。

 あの後で余計な方に考えが行ったのか?

 闇川からこっち、ずっと考え込んでる風だったし、だからこそ余計な情報で攪乱しようといった意図もあったりした。

 ……それでも、一度は納得した態度を見せたのにここまで変わるとは、どんな悪い想像をしたのやら。

 またしても俺に敵意を向けそうな理由といえば、天然記念物から来たなら始末しなきゃならないってところだったら困る。

 緊迫感を増した沈黙の中に、自分の生唾を飲み込む音が響くようだった。


「少しだけ、詳細に考えてみたの。もしも、魔法で人を引き寄せるならって」


 クロムの声は深刻というだけでなく、沈んでいるようにも聞こえる。

 落ち込む要素も幾つかあるな。

 俺にだってもう、これ以上の複雑なことはさっぱり分からん。これでも一杯一杯なんです。

 覚悟して耳を傾けたところ、クロムが口にしたのは、俺が納得させたかった結論についての補足みたいだった。


「空間を歪めるなんて大自然が起こすことを、小規模で成せるのは妖精だけ」


 思わず眉間に皺が寄る。

 なにか気になるな、それ。

 クロムの方は知識があるからこそ、俺では考えつかないあれこれに結びつけてしまうんだろう。

 他にも、悪い過去の事例でも思い出したとか考えたらきりがない。


 空間を歪めるか……これまでの話し合いで出てきた重要な要素が、頭に並ぶ。

 人が生活できない自然環境。新天地が絶対安地の理由、空を支配する三大妖精。そして、天然記念物。

 これらに共通する事象――まさか、それが、外で人間が暮らせない最大要因?


 以前、外の世界については、ゴブみたいなもんが巨大化するようなのを想像していた。

 唐突にあんなもんが出現し続けるなら、そりゃ住めるわけないって、そう受け止めていた。物質もちょっと変質するみたいだし。

 後は魔力濃度が高すぎて人間の器官では相殺できないとかさ。

 色々知ったし、考えたんだよ。


 ところが、それどころじゃない思い違いだ。

 外は、空間が歪むのも当たり前のように起こってるってことだったのか?

 クロムを説得するのに持ち出した屁理屈として、過去に一度破れた空間に負荷をかけたから、再び異界に繋がっただとか言ったが……。

 そうなると、どこもかしこもやわやわじゃん!

 やっぱ付け焼刃では穴だらけじゃったか……。


 血の気が引く。

 俺にも、こっちの人みたいに人間離れした耐久力がついたから、甘く見てた。

 都に行くことも、安地は街道を通せるていどの幅だけど、危険は虹の浮島の動向だけ気にしてりゃいいとかさ。

 地面の上に乗ってるもんにだけ、意識が向きすぎていたんだ。

 うっかり道を外れてしまったら……俺なら間違いなく戻って来れない。

 道が見えている範囲だからと、観光気分で街道を出て辺りを見回ったりとかしてたかもしれない。

 ただの遭難とも違い、おかしな空間に飲み込まれて、下手すりゃ石の中にいる状態になるかもしれないとか……。

 先に知れて良かったな!


 じっと半目で俺を見ている視線と合う。

 クロムのこと忘れてた。


「その怯えた顔、まさか嘘がバレたと思ってる?」

「い、いやまさかー。俺が異世か……別の場所から、一瞬で冒険者ギルドに居たのは本当だ! そこだけはまじだから」

「だけってなに!? いやそこは今はいい。もう少し詳しく、その意識だか場所だかが飛んだときのこと話してくれる?」


 クロムの声は微かに震えている。

 明らかに本気で探りにきてるよな。

 ならば、まだ希望はある!

 なるべく真剣を装って話す。


「突然、目の前に、夜でも分かるくらい真っ黒の塊が迫ったと思ったらぶつかって、気を失ったと思ったら、朝の冒険者ギルドにいた。本当に、それくらいしか分からないんだよ。あ、その時のことは半モヒや毒姉とか色んな奴が見てるからな。嘘だと思うなら聞いてくれ」


 問題は、誰も俺が転移してきたとは思ってないことだけどな。

 必死に駆け込んできた要救助者とか思われたんだっけ。

 クロムが確認するように半モヒを見る。


「まごうことなき真実だ。即ぶっとばされたが忘れねぇ! アニキゃ忽然と、扉から差し込む光の中に居た。目にも留まらぬ足さばきで、扉を開いた形跡も残さず立っていたということだ……思い返すほどに、只者じゃねぇ」


 半モヒが嬉しそうに請け負う。


「俺も初耳だよ」


 やっぱり見えてなかったんじゃねぇか!

 ま、まあ、これは利用させてもらおうか。


「ほ、ほらな。二級品の化け物じみた目で追えないとか、もう転移しかないだろ」


 クロムは困ったように眉尻を下げる。

 嘘だと言って欲しかったというように。


「早朝なら、時間も合う……。異界を通したんじゃなくても、人を……あなたを……それって」


 おや、みるみる青白くなっていきますぞ?

 直接には天然記念物と関係無いと言えば、あとは単純に天才的な力を発揮したと喜ぶと思ったのに。実際、さっき嬉しそうなときもあったのに。

 俯き気味のクロムの肩が震え、目は見る間に潤み始める。


「へ、へぐぅ」

「なぁっなんで!? なんで泣くんだよ!!」

「だって、あなたを、故郷の山から、引きずり降ろしたって……」

「山じゃねーよ!」


 それに、それもさっき自分で自嘲気味に言ってたよな?


「大魔法を失敗させる原因を自分で呼び寄せたのかとか、嘆いてたのはなんだったんだよ」


 クロムは首を振って否定する。


「さっきのはそうじゃなくて、あなたのことだから、濃い闇の場でもあれば、うっかり流れてくるくらいするかなって……でも、わたしが歪めた空間に、あなたを引き摺り込んだなら別問題」


 俺は河童かなにかかよ。


「生身の人間が、歪んだ空間で無事なわけない。それを、わたしが……」

「あ、やっぱ無事じゃないんだ」


 こっちの人間でも耐えられないって、元の地球人ボディだと粉微塵じゃね。


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