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第111話 納得?

 天才と自ら言い切るクロムだ。異界にまで魔法の影響が及んでいたと知り嬉しさを隠しきれない様子を見て、気が抜けてしまった。


「異界から来たって、信じてくれたんだよな?」


 クロムは、はっとして緩んだ表情を取り繕う。


「それは、その、そう! わたしの力が婉曲的に影響を及ぼしたという点を鑑みてですね……」


 視線がさまよってるし、変な口調になってる。多分、言いながら辻褄の合いそうなことを、どうにか捻り出そうとしているのだ。

 俺のようにな!


「なんと言いますか、あなたが異界から来たなんて思ってるんじゃなくて。えぇっと、わたしがうっかり開いてしまった異界に準ずる亀裂を通って、あなたがうっかり引き寄せられてしまったって寸法よ!」

「俺が言ったんだけどな。いいけど、異界に準ずるってなんだよ。異界もどきもあんのかよ」

「そんな話は聞いたこたねっス……アニキの拳が異界に通ずる力を秘めてるってことなら分かりやスが」


 クロムの言説の端々に明らかな含みがあり、そこを突いたら、半モヒが素直に質問と思って説明してくれた。余計な文は脳内削除だ。

 おかげで無駄な言い合いせずに済み、クロムは隠蔽を認め、震える声を絞り出した。


「だだだって、魔法団のわたしが、天然記念物を引き寄せかねなかった、なんて……」


 あぁ、そうか。言葉は途切れたが、言いたい事は理解できた。

 この黒森の中、短時間ながら濃い話をしたと思うが、クロムはただの魔法馬鹿というわけでもなかった。

 クロムなりに魔法団員としての責任は果たそうと頑張ってたらしい。

 ちょっと才能があると自覚がある分、魔法を強化する一点にこだわり過ぎたから危うく団内で対立するはめになって、それが他勢力まで巻き込んでしまったが。

 というか、基本は自信満々な癖に、天然記念物に関するところになると浮き沈み激しいから分かり易すぎる。


「だから、話をちゃんと聞けって。俺は別の平和な異界から来たから、危険は起こらない」


 反応したのは半モヒだった。


「え、ええええ!? 話が見えねぇ! 天然記念物やらなんやら深い話があったということは……まっ、まさか全ては魔法団の企みか!? アニキを引き抜こうとは、おのれ闇魔女! アニキの活躍の場は冒険者組合のもんだあぁぁ!!」

「えっ、そうね、わたしが闇魔女よ。あ、それはいらないから」


 自分で付けた二つ名を呼ばれて少し嬉しそうにしたクロムだが、俺については極自然に拒否。


「帰りながら話そうぜ」

「そうね、急がないと」


 ふよふよと移動を始める闇座布団に俺は並んで、半モヒは背後から付いてくる。

 小遣い稼ぎに来ただけのはずだったのに、ものすごく疲れた気分だ。

 来た道を折り返していると、上空の枝葉がガサゴソと揺れる。


「半モヒー、予定より少し長引いたくらいか?」

「ッワキャッ!?」


 降ってくるクワガタリスを片手で叩き落としながら時間を確認する。


「そんなもんスね」


 闇が薄くなったせいかは分からないが、毒きのこが居た領域までクワガタリスが移ってきていた。

 魔物は場の魔力濃度によって現れるものが決まっている。

 魔力が栄養らしいし、強くなるほど濃い場と時間が必要になるとかだ。

 しかし四級品最強にすぎない毒きのこならば、予定より時間が経ち過ぎたから帰り道でも稼げるかも、という考えは甘かったらしい。

 その分、行きがけが多かったらしいから当てが外れたということはないが、思いがけないことで時間を浪費した感じ。


 横目にクロムを見る。

 無駄どころか、大前進なのにな。生活苦に浸り過ぎたようだ。

 こんなことじゃ、足元の小銭に気を取られて大金を逃してしまうようなことになりかねない。

 信じかけてくれてるからって安心してられないよな。


 クロムは眉間に皺を寄せて黙りこんでいる。

 変な方向に拗らせなきゃいいが。

 とはいえ、少しは考える時間もあった方がいいかもれない。

 何をどう切りだそうか考えあぐねていたら、クロムが溜息を吐いた。


「じろじろ見られたら気になるでしょ」


 邪魔していたらしい。

 ついでとばかりにクロムから考えを話し始めるが、それは考察というものではなかった。


「あなたの説が正しければ、山に籠ってたあなたを引きずり下ろしたのは、わたしってことで。自分の手で、大魔法の披露会を台無しにしたんだなって。馬鹿みたいね……」


 少し寂し気な横顔に、悪い気がしてくる。だが認めない。

 確かにクロムは、俺が望んだ結論を受け入れてくれたんだ。

 素直に喜びたいというのに、どうして俺に関する噂まで掻き集めて結合した!


「そこは、決定的な間違いを犯す前に気付けて良かったと思おうぜ」

「わかってる」


 クロムは、ぷぅと口を尖らせて見せるが、初めの頃のように本気で不満そうには見えなかった。

 話をした甲斐があったなら、嬉しいんだけどな。

 背後から、台無しにする声が。


「くっ、なんといい雰囲気なのか。認めねぇ。一番弟子はオレだぁ!」

「俺が魔法使いの弟子とってどうすんだよ」

「魔法も肉体も敵なしの前例がありやスから。こう見えて、この娘っこにも素質があるとアニキは踏んでるに違いねぇ」

「毒姉は特例だろ!」


 騒がしい半モヒと言い合いながら引き返したのだが、その間クロムはずっと黙り込んでいた。

 娘っこ呼ばわりで睨んでたが、それだけだ。

 そんなに、小さいの気にしてんのかよ。だから、座布団から下りないのか?


 そんなこんなで黒森が途切れ、門が見えてきた。

 これまでにない安心感。


「外がめっちゃ明るく感じる!」

「さすがは闇の申し子!」

「変な呼び方定着させんなよ」


 その時、爆発的に増した闇の気配を感じて俺と半モヒは反射的に振り返る。

 クロムが闇イソギンチャクの翼を広げていた。

 こっちを、めっちゃ睨んで。


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