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第110話 辻褄

 確信を持って、俺はクロムへと言い切っていた。


「逆流現象が、俺を引き寄せたのだ!」


 ちょい前のクロムを言いくるめるための推測で、クロムの大魔法の実験によって得体の知れない場の一点に負荷がかかり、余剰の力が地球の自宅前まで突き抜けたと言った。

 そこから俺はどう巻き込まれてこっちの世界に来たか、という理由づけにぴったりだったからだ。

 かなり近付いてきたんじゃねえの?


「ここらの闇の場と繋がった、前に魔法を試したときも、やっぱこういうのあったろ!」

「え、そうね」


 意外と押しに弱そうだったから、ぐいぐいと半ば思考誘導気味に押し通すつもりだったが、あっさりと認められてしまった。

 現象自体は、あまりレアではないらしい。


「ほら、それだ。絶対、そのときだって! ちょうど時期が重なるんだよ。俺、気が付いたら元の場所とは全く無縁の、この街にいたんだからな!」


 今なら分かる、気がする。

 転移時の記憶の異様さが。

 トラックにでも撥ねられたにしては、真っ黒過ぎた。

 光を遮断して穴があるような感じでありながら、確かに猛烈な勢いで迫り、俺を撥ね飛ばした。

 何が起こったか分かんなかったのは、衝撃で混乱してたせいだけじゃない!

 思わず拳にぐっと力が入る。


「闇を深めないで!」

「ヒッ! アニキッ、オレがいない間に、この娘っこと、どんなえげつない争い何があったか知りやせんが落ち着いて!」

「なっ、娘っこって……どこをどう見ても大人の女性! 淑女、でしょ!」

「ブギュァア!?」


 半モヒのトサカが闇触手に絞られている。

 あのぉ、結構重要な発見的なもんと思いませんか?

 話を逸らさないでほしい。俺の人生かかってるんで。

 この際、ちょい強引だが仕方ねえ。いつもだけどさぁ。


「はい、注目。大事な話だからな?」


 闇餅を伸ばして闇触手を弾くと、はっとしたように二人は振り返る。

 もう何も言わせず畳みかける!


「あれこれ一点にかかった力が空間に穴を開けかけたが、ほんと小さなもんで、俺一人引き摺りだしたら閉じちまったんだとしたらどうよ! だからクロムは気付けなかった。さっきみたく気にも留めずに立ち去ったなら尚更だ!」


 俺の気迫にか、二人はごくりと喉を鳴らす。

 くくく、そうだもっと俺に注目しろ。


「あ」

「今度は、なんなのよ」


 しまった。ちょっと穴だらけかもなと思ってはいたが、つい声に出てしまった。

 渋々、白状する。


「出現地点のズレが大きいのが、ちょっと気になるっていうか……」


 くそっ、無理矢理でもいいからクロムを頷かせられたら、今は御の字と思ってたのに。

 それでも、実行地点と出現時点の距離が開きすぎているのは気になるよな。

 開き直って聞き込みだ。


「クロムは、さっきの闇川のあった場所より、もっと遠くで実験したんだよな? でも俺は、冒険者ギルドに居たから」

「もっと、というほど離れてないよ。街なら影響範囲内の気もする。あれだけの異常だもん。あっ、まだ信じたとか、そういうんじゃないけど!」

「へぇ、影響内になるのか……それだけでかいんなら、なにか他にも影響がありそうなもんだが」


 ぽかんとして、話についてこれてない半モヒを見た。


「半モヒ、俺が来た日さ。外の様子におかしなところはなかったか覚えてない?」

「アニキが飛び込んできた日っスかぁ……オレの人生を変えた決して忘れられねぇ鮮烈な日っスかね」

「俺のことはいいから。森とか魔物とかだ!」

「うーん……朝から風が強かったくらいっスかねぇ」

「それだよ。クロムの方は?」

「言われてみれば、帽子が飛びそうで、ずっと押さえてたかな」


 言いつつクロムは闇触手を一本、帽子に乗せる。便利だね。

 それにしても、結構いい感じにまとまってきたんでね?

 少しずつ調べて全容が明らかになってる感。わくわくする。

 許されるなら夏休みの宿題でレポートにして提出したい。しゅくだ……今俺は何も考えなかった。


 二人に目を向ける。

 半モヒは、「あの日の異質な流れが、この特濃闇川と繋がっていたのだと、アニキは看破したというのかッ!!」などと、大いに俺を煽ててくれている。やめてほしい。

 クロムはクロムで、眉根を寄せて呟くのは、「わたしの、せい? あれが影響するならこれも、あれも……」と、俺が言ったことを前提に悩み始めたらしい。

 せっかくクロムの中で全てが繋がりはじめたみたいなんだが、自分のせいというのが引っかかってんのかな。クロムが原因だと強調し過ぎたのはまずかったか?

 どうせもう一押しなら、気合いだ!

 クロムに向き直る。


「で、でも、そっか……わたしの力、異界にまで通じちゃってたのね」


 クロムはまんざらでもないらしく、だらしない笑顔を浮かべていた。

 気合い、いらなかったな!


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