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第106話 暗黒天然記念物

「天然記念物は、異次元な力ってことか……比喩的な意味じゃないよな?」

「そのままよ。この世の理とは異なるから異次元」

「次元とか言葉があるのに驚きだ」

「魔法使いなら知ってて当然でしょ。そりゃ普通は使う機会なんてないから知らなくてもおかしくはないけど……そんな馬鹿みたいに強くなるほど山に籠りすぎるから、世間とズレるのよ」

「だから、してないって!」


 初めて耳にしたときから、よく聞いておくべきだったんだろう。天然記念物がどういうものかを。

 この世界の人間にとって、絶対安地であるはずの新天地帯さえ無意味にし得る危険というのが、どういったもんなのかを。


「俺のことは後でいいから、具体的に教えてくれ! 頼む!」

「近寄んな!」


 俺の真摯なお願いに絆されたのだろう、クロムは闇イソギンチャクを無駄にうねらせながらも教えてくれた。


 ただでさえ魔力によって、おかしな場所に変質していく大地だが、それとも異質な現象がある。

 ときに何もない場所に穴が開くのだが、どう考えても別の空間に繋がるらしい。

 そして、そこから湧き出てくる人ならぬ存在は、こちらの人間を見るや襲ってくる。

 問題は、魔物族など比較にならないほど強力なのだという。


 そういえば魔法おやじが、天然記念物の眷属がどうとか話してた気がする。

 要は、その別次元の人間ってことだよな?

 やたら好戦的なのは気になるけど。


「この星歩き荒野が発見されて人が移ってきたときに、運悪く大きな穴が開いちゃって、激戦になったって聞いてる」

「新天地帯だとか、そいつらには関係ないんだもんな……」

「そう、だから何よりも危険なの。その時は、この街で食い止めたって話」

「げっ、ここかよ。あーそれで魔法団の本部もここにあんのか……」


 不思議なことに、それらの穴が開くのは決まった場所ではないものの、繋がる先は全て同じ世界とされている。

 だから危険ではあるものの、過去にかなりの犠牲を出して戦い穴を閉じた経験から、魔法団には対処法が確立されているとのことだった。

 元々滅多にないことだが、ひとたび眷属が這い出てしまえば、洒落にならない被害が出てしまう。

 だから穴が開く兆候を見つけ次第、閉じてしまうことが魔法団に課された本来の使命とのことだ。


 魔法おやじが色々言ってたことの意味が、ようやく理解できた気分だ。

 元より自然とは酷なものだが、それにしても厳しすぎない?


「なんとなくは分かった」

「危険度合いが認識できてるようには見えないけど」


 概要を聞けば、それって異世界じゃねぇかという感想しか出ない。

 それこそ俺が知りたかったことなわけだ。

 やっぱ俺の言ってることは間違ってないと確信した。

 これ以上ないくらい真剣に、じっとクロムを見る。


「な、なに。いかがわしい目付きなんかして……」

「俺の視線に色気があるだとか褒めてもらって嬉しいが、今の話には矛盾がある」

「褒めてない!」


 ノリで矛盾とか言っちゃったが、一つの不安でもある。

 転移魔法だとか、召喚魔法だとかは存在しないと誰もが言い切っていた。


「その異次元の奴ら側だけが、別次元に穴をあけて移動できるんだろうけど、それ、転移魔法と何が違うんだ? それと魔法団が、その穴を塞ぐってのが出来るなら、逆も出来んじゃねぇの?」

「ほんと恐ろしいことばかり平然と言うよね!」


 泡食って揺れてないで、真面目に考えてくれ。というか一緒に考えようぜ!

 クロムを丸め込めそうなだけの情報が揃ってきて、静かに興奮してきているのだが、水を差す情報もある。

 ちょっとした不安とは、その異次元同士は同じ世界らしいことだ。

 俺の母なる地球よ、いずこへ……。


「それと、さっき俺、異世界から来たって言ったけど、間違いなく駆除対象ではないから」

「あーもう! どうしてそんなことばかり言うの!」


 あれ、怯え気味に引かれてる?

 なんだかどんどん本気で心配されてるような。主に頭の方を。


「信じられないのは、俺が同じ人間に見えるからだろ? 聞いた感じ、その異次元とは違って俺の居た世界は魔力がないだけの普通の世界だし! 理由もなく攻撃したりしないから!」

「魔力ないののどこが普通なの!」

「で、でも、ほら見た目だけなら変わらねぇし。クロムほど可愛い子はあんま居ないけど」

「かっ、かわぃ……なんの関係があんの!?」

「俺の力も異常などころか、法則から外れまくりなのは見ただろ!? それ、どう説明するよ!」

「分かったから落ち着いて! あんたに、本当に級外品と呼べる力が身についてるのは認めてあげるからぁ!」

「なんで逃げる! 今の話に怖いことなんか何もねぇだろ!」


 俺も必死だからな。

 ふらふらと逃げようとするクロムに回り込みながらも、すったもんだと説得を続ける。

 クロムもこっちの人間だから身体能力は高いだろうし、多分走った方が俺より速いだろうに、意地で闇座布団から降りる気はないらしい。

 どちらも肩で息を吐くまで攻防は続いた。


 こうして、ようやく謎の一つだった天然記念物の実態が明らかになったのだ!

 いつものように聞いただけだけどな。

 でも、何を調べれば良いか、よりはっきりした。


 くくく、待ってろよ暗黒面に堕ちし天然記念物とやらよ。

 これで俺が日本に帰れる日も近いぜ!


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