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第105話 闇の証明

 殴ったところが、弾かれて穴が空くんじゃねぇかなーって。

 そのくらいの認識だった。

 でも流れてるから、手を引けばすぐに埋まるんだろうなと。

 実際、当たった瞬間、ゴバッとそこだけ派手にぶち抜いた。

 そのまま不自然に固まったのを怪訝に睨んでいると、まるで逆再生するように戻る。それは一瞬で、とっさには動けなかった。


「これは予想外」


 驚愕しすぎて固まり、深刻な状況とは裏腹に軽い言葉が出る。

 闇の川が逆流する。

 拳が穿った位置から激しく渦巻きながら、腕を捩じる様に絡みつき、見る間に這い上ってくる。


「ぅ……ぅおおおおお!?」

「ばばば馬鹿ぁ! 余計なことするから!!」


 慌てたクロムが、最大出力の闇イソギンチャクを四方から伸ばし、川の流れを止めようと触れた瞬間。


「あぅっ!?」


 あっさり弾かれて、自分の顔を叩いて仰け反るのが見えた。

 役に立たねぇ……。

 助けてくれようとしたことには感謝するし、やっぱり根っから悪いやつではないと分かって嬉しい。


 視線を戻せば、木立に絡まる様に流れていた流れは、留まることなく俺に向かってくる。

 激しく流れ込んでくるというのに、体積を無視したかのように腕に絡みついたところで、堰き止められている。

 瞬く間に肩まで染まった闇をよく見れば、絡みついた部分から、そこに濃度だけを高めるように流れ込んで強化しているようだった。

 そこからは、水に墨汁を垂らしたように、滲んで体表へと広がっていく。

 肉体を、侵食してくるようだった。


「うっわーどうするよこれ……」


 もう思考停止。

 だって俺に出来る事なんか……せめて強化を!


「全身、闇まみれ!!」


 訳の分からん掛け声と共に、拳だけ高めていた闇の濃度を全身へも意識する。


 途端に、融点に達したかのように、俺の闇と川の闇の境目が消えていく。


「あっ、れぇ?」


 全身から汗が噴き出すが、それは洗い流してくれないらしい。

 際限なく流れ込みつつある闇は、すっかり全身を包んでしまった。

 濃度を増す度に、闇が軋む。全身を締めあげてくる。ぴちぴちのラバースーツで拘束されて喜ぶ変態の気持ちは分からないから、こんな終わりは嫌だ。


 終わり……こんなところで、こんな終わりなのかよ。


 半モヒに恩を返せないとか。

 ようやく同年代の女の子と出会ったってのに、もうちょっと仲良くする時間、欲しかったよ。

 クロムは、無事かな。

 馴染みある闇を探して、痛む体で振り返る。


「ひぃゃああああ! 闇の繭おばけが、なんで!? どうやって消したのよ!」


 おまえな。


「は、戻った?」


 言われて、ぎこちなく右手を目の前に持ってくる。

 普通の、いつもの、自分の手だ。


「……おや?」


 未だ違和感は残っているが、全身を見回しても黒い染みさえ残ってなかった。


「川、消えたな……」

「なんで消えるの……信じられない」


 まだ霞のようなものは漂っているが、ただの跡みたいなもんで、それは自然に解消されるとのことだ。


「ははは、ちょっと焦ったかなー」


 なんとなく気まずく、誤魔化し笑いしてみたが、冷え冷えとした目で見られただけだった。

 大丈夫なはずと思ってはいたんだ。

 ちょっとノリでやっちゃった方が強いが……。

 まあ、なんともないから良し!


 いや、なんともないとは言い切れないのが問題だ……。


「クロム、今の現象に覚えあるか。ないだろ?」


 俺は真剣にクロムを見た。

 初めに、俺の闇耐性は異質なんだってことを証拠として見せたかったのは、拳に纏わせた闇でさえ、こんな高濃度の闇の場をぶち抜けるということだった。


 それが、別の形で証明されちまった。

 クロムにも分かるように、全身に闇を巡らせて見せる。


「それって……」

「うん、吸収したみたい」


 これまで、拳以外は少し頼りなかった全身まで、頑丈になった感覚がある。

 他の闇属性のもんに触れても、こんなことは起こらなかった。

 ヒントは、クロムが利用した場と、同じ出処のもんってことだろうな。


「まじめに信じてほしい。俺、別の世界から来たんだよ」


 クロムは、能面のような無表情で固まった。

 あ、信じられてない? ですよねー。

 それどころか、俺の頭ヤバないだとか、逃げた方がいいかとか考えてそう。

 ただ、さっきのことと、今の俺の状態のせいで否定しきれないというか、より混乱して固まってるのか?

 もう一押し?


「山を下りて来たってのは、皆が勝手にそう思い込んでるだけだから。俺、未だにそれがなんなのか知らねぇし」

「信じらんない……」


 クロムの言ったことは、山云々のことではないっぽい。どこか俺を見ているようで遠いところを見てるようだし。


「……この、歩く非常識が!」


 色々と呪詛を呟いているが俺のことではないだろう。ないはずだ。


「あのー戻ってきてくれる?」

「そ、そうね。なにもかも、ありえなさすぎて、どうしたらいいか分からなくなってた」


 こと魔法については、素直に聞いてくれるんだよな。それが通説と違っても。

 どうせならと再び畳み込むように、これまで考えたことをぶつけてみることにした。

 特に、魔法使いが気にしているらしい、人が扱える範囲の魔法。

 けど俺の力は法則を無視してる。

 たとえば、それは妖精のような存在が持つもんに近いんじゃないかとか思ったんだよな。


 人の力を越える力にも、上には上がある。

 魔法団の存在理由でもある、天然記念物とどう違うのかとかは分からない。

 ただ、人間が力を借りることができるのは妖精さんだけだ。

 そして人間が、この世界の大自然に匹敵し得るためには、妖精という存在なくして成り立たない。

 そんな風に思えた。

 まあ、魔法おやじは、だからこそ人間だけでなんとかできる方法を模索してるみたいな感じだったけど。

 現実に、魔法道具の属性決定に妖精の力を借りてる時点でなぁ。


 とにかく、聞いた瞬間、俺の頭には別の不安が湧き上がり覆われたんだ。

 それって、人間を超える妖精ですら、この世界の不思議現象に及ばないってことだろ?

 生身で世界を超えるって、どう考えても妖精の手にだって余るよな……?

 ……俺、帰れるの? って。


「でも、そもそもさ。俺を引き寄せた力ってのが、大自然そのものだったなら」

「そんなこと、ありえない。あり得るなら……あんたを殺すことになる」

「なんでだよ!?」


 説得しようと思って言葉を尽くしたというのに。嫌になって逆切れされた!?

 クロムは恐ろしいほどに真顔だ。


「そんな異次元由来のものなんて、天然記念物の他になにがあるの」


 え、ここで、それ来ちゃう?


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