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第103話 闇練り羊羹の向こう側

 俺たちの行く手を巨大な異物が遮っているため、探検は諦めて帰ることにした。

 完全に道を塞いでいるわけではないんだが、迂回しなきゃならんし、初めての場所を無理して進むこともない。もともと早めに切り上げる予定だったしな。


 ギルドに報告するため、ついでに様子を見て戻ろうと言ってはみたが、ちょっと考える。

 変なもん生えてた、と伝えるだけでも十分だろと思ったが、毒姉だからなぁ。

 少しくらい役に立つ情報でも持ち帰らないと、なにか言われそうな気はするが。


「こういうのも魔法団なら観測できてるんじゃないか?」

「難しいかな。そこらじゅう不安定だもん。こんな影響の一部だけを見ていても、意味はないだろうし」

「でも、何か危険なやつは掴んでんだろ?」

「それは、あらかじめ怪しい場所に気付いたから、しばらく探ったはずよ」


 どうも観測器材とやらは、ランダムに湧いたもんを自動的に受信するようなもんではないらしい。

 じゃあ、こいつぁやべぇと分かってるもんを、わざわざ調べる意味は何かといえば、質を見てるという。


「魔法団にとっては、天然記念物に繋がるかどうかというのが重要だから」

「そういえば魔法おやじも、今回の件はそれとは違うって言ってたな」


 どう見分けてるのかと思ったら、天然記念物の魔力は質から違うということのようだ。器材も、その識別のためと。


「結局は、あちこち見て回らなきゃならないのか」

「怪しいところは、定期的に団員が回ってるでしょ」

「それもそうか」


 離れた場所との連絡手段がないし、大変な世界だ。

 まあいいや。俺たちは見て分かる範囲だけでも伝えときゃいいだろ。


 改めて、木々に絡みつくような川を見上げながら目で辿る。

 曲がりくねってるから分かりづらいが、多分、道の奥へと流れ込んでる。

 初めは、こっちに流れ出してきてると思ったんだが、より闇の強い場所に向かってるというのが恐ろしいな。

 もしかして、原因らしい場所が強化されるのって、これのせいじゃね?


 よし、そのくらい伝えときゃいいだろ。


「じゃ帰るか」


 振り返ろうと、隣に顔を向けたところで固まった。


「お、何か掴めやしたか!」


 そこには上半身を横に向けた半モヒが川に刺さろうとしており。

 トサカの先が、さくっと闇川に吸い込まれ……。


「うぼばぼぼぼぼぼぼべぼぁ!!」

「なに、してんだよ!?」


 何を思ったのか、半モヒはトサカで川をつついた。

 頭だけ横向き状態の半モヒは、そのまま闇の流れに引き摺られていく。

 なかなかの奔流のようだ。モヒの川流れ。そりゃ流されるだろうけど。


「ごッ!」


 あ、木にぶつかった。


「あんま、遅くなんなよー……」


 半モヒが身をもって、触れるだけならば害はないと証明してくれた!

 俺だけ何もしないわけにはいくまい。


 思い切って、とはいえ直に触りたくないので、試しに闇の触手を伸ばすようにしてつついてみた。

 なんと、その感触は、中までみっちり闇の練り羊羹だった。


 川と呼んではみたが、純粋な闇属性の魔力が凝縮したものだとはっきりした。

 見た目通りだしクロムも言ってたけどな……。

 黒川は一応、黒森の影響を受けているだけで本物の水だ。この辺にある木々だとかと同じく、闇属性に変質してるだけ。


 半モヒは、この川も場の影響を受けた範疇と言ってたが、違う気がする。

 元の何かがあるわけでもなく、闇をそのまま固めたようなもんだぞ。


 その考えは、隣から漏れ聞こえる呪詛……情報も、俺の答えを裏付けるものだった。


「突然湧いたみたいなのに、これだけの闇の濃い場が、ここまでしっかり形になるなんて……確かに、なにか原因となるものがあるなら危険ね……」


 クロムは俺の横で、川に沿って闇座布団をふらふらと左右に傾けて行き来させながら、むにゃむにゃ呟き続けている。

 俺と同様に、闇イソギンチャクでつつきながら何かを確かめていたんだ。

 じっと胡散臭げに見ていると、不意に愕然とした様子で止まった。

 クロムは、闇の流れを見ながら複雑な表情を浮かべる。


「……これ、覚えがある」

「闇玉……闇大魔法が安定したっていう場だよな」


 闇玉と言いかけてギロリと睨まれたが、これまでの勢いはなく名称を訂正されることもなかった。

 クロムは、まだ何か言おうとして、開きかけた口を閉じる。


「なんだよ、気になるだろ。街にも影響あるかもしんないんだから、何かあるなら言っておいてくれ」

「う、ん、分かってるんだけど、そうじゃなくて……こう、何か喉元まで出かかって」


 あるけどさ。こんな時に気を揉ませなんな。

 こういうのは急かすと良くない。ぐっと堪えていると、クロムは自分の襟首を片手でつかんで、もう片方を黒川にぷるぷると伸ばしながら舌を出している。本当に溺れてないだろうな……?


「そ、そうよ、感触!」


 ぽんっと喉から詰まっていた飴玉を吐き出したように、クロムはスッキリ笑顔を向けてきた。


「な、なによその目は。聞かせるから」


 クロムが気付いたのは、この魔力の場の感触に、覚えがあるということだった。

 俺が言った通りに利用してた場ってことじゃないのかと思ったが、場の魔力そのものには関係がなかった。

 魔力にも、指紋みたいに人それぞれのものがあるらしい。

 その覚えがある人の魔力の質ってのが……。


「俺?」


 クロムは真顔でこくりと頷く。


「な、なにもしてないぞ!」

「これについては、そうでしょうね」

「他もだ!」

「とにかく、あなたからは魔力の動きにまつわる、そういった感触がない。そう思ってたのは、違ったの」


 そういえば初めに闇ロールを崩したときに、接触したか分からないだとか言ってたけど……変なところで関連してきたな。

 クロムは、ゆっくりと闇座布団を回転させて俺に正面から向き合うが、視線は揺れている。

 動揺からではないらしい。ハエでも追うような動きだ。

 俺の魔力に意識を向けているんだろう。だよな?

 やがて不安げに顔を歪めたクロムの声が、掠れる。


「うそ……わたしのと、似てるんだ」


 思わず息をのんだ。


「なんだよ、その、うげぇって顔は!」

「だって、こんな奴……他人の魔力なのよ?」


 内臓で作られてるもんだし、汗腺ならぬ魔腺なども存在しそう。見た目が同じ人間だけに、細部があれこれ違うのを想像すると、俺も気分悪くなってくる……。

 まぁ、こういう感覚なんだろう。決して俺と一緒なのが嫌だということではないはずだ!


「……ふーん、自分の臭いは分からんとかそういうのだよな?」

「嫌な言い方だけど、そんな感じ」


 横目に見た力強い闇の流れは、見る事しかできない俺にも、抜群の安定感が感じられた。

 魔法使いの言う、『魔法を安定させる場』という意味合いとは違うかもしれないが、確かにこりゃ利用しがいがありそうとは思える。

 場を利用するって、そのまんまの意味で、魔力を貰ってるのかと思っていたが、それだけではなかった。

 そこも聞いてみたら、すでに場の力が属性を偏らせてくれてるお陰で、人間が魔法を使う負担が減るらしかった。


 クロムは大魔法を使ったときの状態を、詳しく思い出しているんだろうか。目を伏せて説明を続ける。


「あの場と混ざって、あなたの魔力が余計に分からなくなってたんだって、気づいたの。干渉された痕跡だけあるのに、感触がなかったことも……」


 クロムから伝えられる言葉が、徐々に俺の頭の中でも、色んなものに結びついて広がっていく。


 クロムが事を起こしたのは、最近だ。

 魔法おやじは、ちょい前から大自然の変動に気付いていた。滅多にない事象だ。

 そこに……召喚術といったもんはないのに、別世界から飛ばされてきた、俺。


 鼓動が鳴る。


 クロムの大魔法が、異常現象を解体する可能性のある方法らしい。

 互いに闇属性だから、今回に限ってのようではあるが。

 俺も、闇。

 最近起こった異常が全部、闇で繋がっている。


 ――そんな偶然って、起こるもん?



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