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第100話 例外の存在

 自分の力の正体を、思わぬところから知ってしまった。

 そして、超原始的なだけで、大したことではなかったという事実……。


 ただ、理屈は納得できた。

 本来、魔力だけなら粘土みたいなものだろうか。

 現在の魔法は、属性というトッピングを加えて形を定めることで、様々な効果を出せるようになった。

 その代わりに、素人お断りな難易度になってしまった。

 けど、それにも理由があって、そうやって限定しないと無駄に魔力を浪費してしまうんだ。

 それこそ、有り余る魔力がないと使いどころなんかない。俺みたいに。


 だから、やり方は単純でも今では伝説みたいになってんだよな。

 それでも魔法使いたちが確実に絶えたと言わないのは、可能性としては、ありだからだろう。

 ちょっとばかり人の限界を超えそうな雰囲気は、話の端々にあったのは気になるけどな。発見した人が、異常な魔力持ちだったからなのかもな。

 なんせクロムが、かなりの高耐性らしいのに、それでも大魔法を使うのに妙な外付けの力を利用していた。

 ……問題は、それを俺が叩き潰せたこと。生身で。俺、なにもん?


 まあ、俺の魔力とやらの出処は分からんわけだが、そこは置いておくとして。

 その魔力を直接こねるんだから、ものすごく融通が利くってことだろ?

 その分、精度や強度が弱いとかあるのかもしんない。

 それでも、考えたら俺の場合はこれで良かったな。

 もしすごい魔法が使える才能があるとか言われてもさ、根気のない俺だ。細かい操作を練習するだとかなんとかしてる間に、身につく前に投げてる。んで、いつ帰れるんだよ! とか切れてるに違いない。




 そんなわけで、一通り考えをまとめると現実の闇に目を向けた。文字通り、闇属性の暗い謎空間。

 こんな鬱蒼とした場所などものともせず、勝手にあれこれと喋っているクロムだが、とりとめのない魔法話を聞いても俺には分からん。

 話を変えようと辺りに目を向けるも、どこまでも続く黒い木々だけだ。

 うっすらと白い雑草に縁取られた道が伸びている。

 道案内役の半モヒが先導する道……あれ?


「なぁ、道って変わらねぇの?」

「え」


 呟くような呆れた声がハモる。

 クロムはぽかんとしてるが、半モヒは無駄に俺の意図を探して考えるときの癖で眉間に皺を寄せて睨んでくる。怖いから。


「すいやせんアニキ。そりゃぁ一体、どういった意味で」

「魔力の集まる場所? だとかに、こういった変な森やら雲とかできるっつってたやん?」


 ふむふむと真面目に聞かれると、大したことなかったら、ちょっと恥ずかしいな。


「これ獣道っぽいけど、魔物が作ったわけじゃないだろ? 人間が後から作ったなら、消えそうなもんだと思って」


 それどころか、内部が常に変化していてもいいくらいじゃね?

 ここの木の実の生命力も異常なんだけどさ。もいだ木の実が翌日には復活してるとかも、この森の現象らしいし。あれも定位置なんだよ。


 たんに意味不明の気持ち悪い場所と思っておけばいいんだろうけど。

 少しくらいは理屈を知っておきたいと考えるのは、無意識に元の世界と比べてしまうからかもな。


「なに言ってるのよ。木は、木じゃない」


 クロムはさも当たり前のように言う。


「普通に生えてんの? 何も起こらないのが新天地だって思ってたからさ。なんか魔力渦巻く所にあんなら、色々変化してんだろ。違いってなんなんだ。街が、こんな真っ黒になられても困るけど」


 あ、つい半モヒの前でいるのと同じように気にせず話してたが、まずいか?


「木は木。ああそうか」


 モヒ家のある森や、逆側の金持ち区画の隅にある怪奇踊る木の葉の出る森も、元は外にあるものを取り込んだんだろうと考えたよな。


 境界っぽくなってるのは魔力らしい濃度の影響だかによるもんで、地上に乗ってるもんはそれに影響を受けるだけなんだろうって……。


「あー答え出てたわ。考えすぎて深みに嵌ることってあるよねははは!」


 誤魔化し笑いしてみたがクロムはヤバイ奴を見るような顔だ。


「アニキゃ、気合い入りすぎの山籠もり生活送ったせいで、なんにでも真理を見出そうとする癖があるんス!」

「うそ、山籠もり? バカじゃないの……」


 おや、反応が微妙ですぞ?

 ますます奇異なもんを見る眼つきを向けられ、思いっきり引かれてる。

 脳筋系にはすげーことでも、普通の女の子には汗臭そうとかで嫌悪されるようなことだったとか?

 普通の女の子というのは例だ。目の前の闇イソギンチャク女のことではない。


「い、いいだろ別に。人生は修行なんだよ……」

「っすがニキ! 求道者の極み! かくありてっス!」

「どうりで、色々と野生に還ってると思ったのよ……」


 ぐぬぬ言い返せない。

 というより、ますます山籠もり設定は突っ込まれると面倒な気がしてきた。


「半モヒ、昼休憩辺りには街に戻るって予定だったけど、結構時間くっちまったろ。どの辺で折り返す?」

「おっと、もうちょい攻めやスか。あー、でも境目辺りゃ魔物は減るんスよ。あと一度くれぇ発泡茸が見つかるかどうかっスかね」

「ふーん」

「あなた、濃度で魔物が変化するのも知らないの?」

「これでも俺は新人冒険者なの!」

「嘘つきなさいよ。あんな技が使えて、討伐に出てないなんてありえない」

「ほんとだって」


 魔物を狩る理由でもないと、一般人が外に出ることはないのか。


「別に冒険者じゃなくても、兵士とか、魔法使いだって討伐くらいするだろ」

「でも、あなたはどっちでもないんでしょ?」

「っだからぁ、アニキはマジモンなんっスぜ!!」


 クロムと合流してから騒がしさ倍増だ。別にうるさいからと魔物は逃げたりしないようだからいいけど。

 話に出たように、空間のもったり具合が強くなってくると共に、奥部区域らしき重苦しい場所が、遠目にも感じられてくる。

 気が付けば深入りしてたらどうしようといった不安があったけど、境目は結構、はっきりしてるんだな。


 おかげで森歩き初心者の俺でも、危険な場所を回避するのは分かり易くていい。

 これだけ濃度の境目が明確なら、そりゃランク付けもしやすいよな。

 魔物は、魔力の場に生まれる……。

 なにか違和感が。

 さっきも気になって自己解決したと考えていた、外の脅威にも関係することだ。

 これまで知った法則らしきものに外れるような、そうでもないような……。


 ……街の中で、唯一の討伐依頼!


 やっぱり、あれは変だろ。

 ゴブ森自体はただの森みたいだが、ゴブの湧き方は街の外にあることが再現されてねぇ?

 それが、生み出した職人の怨念らしきもんが核となってるのだとしても、そいつの霊だかが出てくることはない。

 大量廃棄されたゴブレットの亡霊が沸き出て、職人だか職人と同じ人間を見ると襲ってくるだけだ。

 この世界環境のせいか、魔物として魂の欠片を持って出てくるけど。


 それだよ!

 欠片を持って生まれてくるなら、外並みに魔力の溜まった場が必要なんじゃないのか?

 現に、外の影響を受けただけという木の葉に欠片はない。

 ただ、魔物化した魔道具もあるから言い切れないけど……。


 とにかくゴブ退治は、聞いた感じ皆馴染んでて、常に募集してる依頼のようだった。

 そんなに長い間、討伐し続けても消えないもん?

 毒姉も魔物は見たら片付けろと言っていた理由は、少しでも場の魔力を散らすためだったよな。


 あんなペラッペラな弱い魔物が生まれる元だぞ。長期間退治していて消えてないのはおかしい。

 まさか、新人冒険者用に育ててないよな?

 それ、聞いておくか。


 個人的に、俺のひみつに繋がるようには思えないけど。

 例外的な存在ってところは俺との共通点だ。

 ちょっとくらい確かめておくのもいいな。後で別の何かに関連してくるかもしんないし。


 昼から買い物するけど、ゴブ森はモヒ家に近いし、荷物を置きに戻って時間があれば寄ろう。

 都にも明日出るつもりじゃなかったし。旅の準備に納得でき次第だから、明後日くらいで考えておくか。後は半モヒと相談しながら決めよう。


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