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第10話 討伐の証明

「アニキくらいになりゃ、荒野を何気なく歩いてきちゃったんでしょーが、商人だとか普通のヤツはオレらを雇わにゃ渡れませんぜ」

「お、おぅ、そういえば大変だった、かなぁ……?」


 そこらは誤魔化しつつ、外の様子とやらを詳しく聞き出した。


 この世界には、ものすんごい規模の不思議現象の起きる場所があって、人が家を建てたりして暮らせる安定した場所は多くないらしい。

 だから住める領域を発見できたなら、そりゃもう大変な人類への貢献だ。

 まさしく一攫千金。冒険者らしい活躍だろうな。


 ただし現在はそんなに積極的でないと俺が感じたのは、半モヒが言ったように、あらかた探索し尽くしたためらしい。

 それと幾つかの街が出来て、その各街を繋ぐ道も整備できた今は、そこまで新たな土地を探す意欲はないのだとか。


 後はどんどん遠ざかるしかないが、探すにしろ遠方に出向くには補給拠点が必要だが、それがない。

 よっぽどの力量を持つ人員が揃った上で、かなりの覚悟がないと厳しいだろうとのことだ。


「ほーん。あ、領主だなんだとかあるなら王様の住む街もある?」

「都は隣っスね」

「意外と近いな。ここは辺鄙な街って聞いたんだが」

「まあ、他の街と比べりゃマズイ位置っスから。ここは星歩き荒野のど真ん中なんスよ。虹の浮島の気分によっちゃ迂回せにゃならんし面倒なんスわ」

「そ、そう……」


 この世界、俺には訳が分からなすぎる。


 そんな話を聞き終わると、後は討伐に集中。

 群がってきたゴブどもを、ぱっきんぱっきんと音を立てつつ叩き割り続け、周囲から消えたところで一息つくことにした。


 そういえば、飲み物も何も持ってない。

 後でそこらもどうするか調べないとな。

 それもだが、依頼についての問題に思い至っていた。


「こいつらを俺が倒したって証明は、どうすりゃいいんだ?」

「おぉー、そーっした! 数年ぶりに来たもんで忘れてやしたぜ、さーせん!」


 くっ、自慢かよ!

 半モヒはさっと背を向けると、たったかと走る。

 さっきまで戦ってたところだ。

 やる気あるのかないのか分からん相手だから、戦いというより一方的に蹂躙してるようで罪悪感が湧くけどな。


 屈んだ半モヒは何かを拾っている。

 気になって近付くと手の平を差し出された。

 そこにあるのは、小さくて歪な黒い塊。

 タニシの殻というかなんつーか。


「兎の糞みてぇ」

「ヒャーッ! あ、アニキッヒー! 面白すっスー!」


 笑いの沸点低すぎだろ。


「フーッ、これも見たことないんスねぇ。こいつは、魂の欠片と呼ばれてるもんで、俺たち生き物の心臓にくっついてる代物っス」


 魂の欠片……生き物が持ってる?


「え、コップが生き物? それと人間が同じ???」

「え、同じじゃないッスよ。あいつらは魔物、オレらは人間」


 こいつは半モヒ族という魔物だと思うが、それは脇に置くとして。


「じゃなくて、なんで怨霊が魂なんて持って……いや魂そのものか? ええと、心臓にあるって器官の一部なら、なんで幽体が持ってんだよ!」


 半モヒは驚愕に白目をむき大口を開く。


「マジだー!」

「気付けよ!」


 こほんと咳払いしした半モヒ。


「ああ、思い出したッス。魔物は魔物族として一括りにされてんス。元が人の執念だろうがなんだろうが、この世に意識を持って動く物体として生まれたなら、それが魔物族として生またってことっス」

「いやだから、肉体ないじゃん?」

「そこが人間やら動物との違いっスね。必ずしも赤子から肉体を伴って生まれるわけじゃないってことなんスよ。ま、人間側の都合でそう呼び分けてんしょ」

「なんつーか、現象みたいなもんを総括してると……じゃあ、こいつを持って現れたから、結果的に魔物族と呼ばれるってなもんか」

「うっス」


 にっと笑顔で頷かれた。


 俺は再び、半モヒの話に含まれた、とんでもなく重大な点に気付いた。


「なあ半モヒ君。やはりその、人間が肉体を伴って生まれるには、なんらかの儀式が必要だと思うんだよ。そうたとえば男女の契りといいますか、まぐわうというかだね!」

「そりゃそっス……フヒーアニキ枯れてないんスねぇ」


 だから俺を何歳だと思ってんだよ。興味深々な年頃だっての!

 毒姉といい失礼な奴らだ。


 あっ!

 なんかすっかり馴染みまくってたけど、こいつは俺を利用しようと近付いた悪辣な奴だと、心の中で盛り上がってた相手だった。

 ゴブの強さ具合は把握できたことだし、そろそろ真実を暴いてやるか。


 念のために、もう一集団のゴブを片付けてから、はしゃいでる様子の半モヒを振り向く。

 てめぇの企みを粉砕してやる。

 手のひらの向きだけは準備しておいてっと。


 休憩を呼びかけて振り返った半モヒに対峙する。


「半モヒさぁ、やけに親切だよな。会ったばかりの、しかもぶっとばした相手を助けようなんてヤツがいるわけないだろ……そんなの漫画の中だけにしとけよ。何を企んでる?」


 半モヒは俺の言葉にぽかんとして見せる。

 細く鋭い眼つきでやられてもガンつけられてるようにしか見えないが、虚を突かれたらしい。目をぱちくりさせているからそうなんだろう。

 軽くモヒを掻いた。


「まんが……ああ魔眼っすか! ちょっと自分、その能力は持ってないっすけど……」

「あんのかよ魔眼……いやいやはぐらかすな」


 あやうく気を逸らされるところだったぜ。その手に乗るか。


 半モヒはぽかんと開けた口をさらに開いた。


「あ、あぁー! 出会い頭のことが気になってたんスか!」

「怪我しといて、その反応かい!」


 思い出すのが難しいほど過去じゃないよな!?


「いや、だってなぁ? あのアニキの姿には惚れ惚れしたんスわ。用件を確かめもせずぶん殴る狂犬ぶり、と見せかけて手加減もする粋さ。瞬時に職員に印象付けて売り込む手際……ヒュー、ダテじゃねえ。マジ痺れたっス」

「まったく褒められてる気がしない!」


 げへっと顔をゆがめて半モヒはモヒを掻き毟る。照れてるらしい。

 草むらを掻き分けてるみたいだ。


「なんつか、オレも勘違いしてたっスから。侮られたとブチ切れられて当前かと。精進するっス」

「勘違い?」


 よく話を聞くと、あの時、こいつは俺にイチャモンつけてきたのではなかった。

 恐慌状態に陥っているように見えた俺を、落ち着けようとしたらしいのだ。


 荒野での道中で魔物に襲われて仲間が死に、命からがらギルドへ助けを請いに飛び込んでくる一般市民――俺はそんな風に見えていたらしい。

 おいおい、歩き辛いとか、ちょっと護衛雇えばいいだけなレベルを超えてんじゃんか。物騒な世界すぎる……。


「だったら、なんでそのあとは、みんな何事もなかったような態度だったわけ? 確かめようとかすんだろ普通」

「ゲフヒヒヒッ! アニキの冗談パネェ! あんだけ強いのに一般市民なわけないじゃないっスか。誰だって別の用件だって見抜くっスよ」

「ちっとも見抜かれてない!」

「禁欲的に鍛錬に励んだあげく満を持して入会に訪れたなんてなあ……くぅ~ごっつい精神性に感服する他ねっス! しかも実績作りに協力できるたぁ幸甚の至り」

「お前たまに小難しい言葉使うよな。キャラ作ってんじゃねえの」


 とまあ、そんな感じで、訳の分からない理解をされていたようだ。

 こんな怖い外見で、あんな舐めた態度で近付かれたら勘違いするのは仕方ねえよな。

 俺は何も悪くない。何もしていな……したな。


「わ……悪かったな。怪我させて」


 パアッと花を飛び散らす勢いで半モヒの顔はほころんだ。

 だからモヒを器用に広げるな。頭クジャクかよ。


「へん、怪我なんぞ日常だ。あんくれぇ大したこっちゃねえ。まあ見ててくれ!」


 半モヒはゴブの群れに飛びかかっていった。

 やべえ。調子に乗ってるよこいつ。単純すぎだろ。


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