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僕は女の子になりたい。  作者: 立田友紀
7. 若葉ガールに春が来た⁉
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95.「安藤家の大みそか」

 色々あったクリスマスが終わり、いよいよ迎えた大みそか。

 お茶の間のテレビCMは、おせち料理やら新年の神社仏閣やらで埋め尽くされ、スーパーの売り場もおせち料理の食材やらお餅やらで埋め尽くされていて。そんな感じで、世間様も年の瀬で忙しいこの頃。

「ハル姉、カーテン外すから手伝ってー」

「はいよー」

 我らが安藤家も、さっそく年越し準備に大忙し。家族3人で、さっそくおうちの大掃除に取り掛かっていた。

「春ちゃん、秋ちゃん。カーテンを洗濯機に入れたら、窓枠とカーテンレールを拭いておいて。私は水回りの掃除をするから」

『はーい』

 そう言ってお母さんは、防護メガネとマスクをつけてお風呂へ。何気に水回りは毎年大掃除になっちゃうから、そういうのをやってくれるのはありがたい。そんなわけで、私たち姉妹はカーテンを洗濯しながら窓枠を拭くことに。 

 年に一回しかやらないから、まあ埃とかすごいことになっているのは予想通りなんだけど。

「けほっ、けほっ……」

 あまりの埃の多さに、隣で秋奈が咳き込んでいた。

「良いよ。高いところは、お姉ちゃんがやるから」

 今まであんまり口にしてこなかったけど、実は秋奈はこれでもアレルギー持ち。普段はしっかり薬も飲んでて、家も毎日しっかり掃除してるから最近はあんまり咳き込むことも無くてあんまり日常生活にも支障は無さそうなんだけど。

「苦しかったら、ちょっと休んで良いからね」

 でもこういうところを見ると、やっぱりお姉ちゃんとして代わりにやってあげなくちゃって気持ちにはなるよね。いや、お姉ちゃんとか以前に人としてね。

 だから彼女の代わりに、踏み台を取ってきてそれにのぼる。幸い私は、身体だけは丈夫だからね。……まあ身長、体重、身体能力はいまだに残念な記録を更新し続けているわけなんだけど。あと関係無いけど胸も。

「んーっ! レールが見えないっ!」

 背伸びして何とか手だけは届いたけど、これじゃちゃんと拭けたか見えないよ。そういう意味で、背の低い私に高所作業って言うのはやっぱり大変で。

「それはありがとうなんだけど、ハル姉届くの? 一応、あたしのほうが背が高いんだよ?」

 こういう時は、秋奈のさり気ない優しさがかえって痛い。

「さらりと気にしてるところを突くのはやめてよ……」

 そうなんだよね。私、これでも秋奈よりちょっとは年上なはずなのになぜか身長と体重に関して言えばなぜか秋奈のほうがちょっと高かったりするのだ。まあ、私が小学生の頃にはすでに身長は秋奈に抜かれていたから今さらってところなんだろうけど……にしたってだよ。

 「男の子は身長伸びるのが遅いから」ってお母さんにも宥められてきたから何とかなってたけど、今や私も立派な女の子。ってことは……まさか私成長期を迎えること無いまま大人になっちゃうだなんてことないよね?

 ともかく、そんなことを一人で考えていると。

「だから、無理しないで」

「えっ?」

 驚きの声を上げている間にも、秋奈に手を掴まれて優しく下ろされる。

「あたしは大丈夫だから。それにお姉ちゃんはドジなんだから、落ちて骨折なんかされたほうが困っちゃうんだから」

 そう言うなり、秋奈のほうがマスクをしてさっさと窓枠を拭き始めたんだ。

「ハル姉は代わりに、ゴミ袋とかを外に出してくれる?」

「う、うん。分かったけど……」

 こういう時の秋奈も頑固だから、どうせ言っても聞かないんだろうけど。

 でも、なんでそこまで私が代わりにやろうとしたことを拒んだんだろう。私の言い方が、まずかったのかなぁ? でもその割に、私がやるほうがのほうが危ないからなんて言っていたし。

 まあ、無理に言い聞かせても喧嘩のもとだし秋奈に言われた通り私が出来ることをやろうと部屋を出たわけなんだけど。

 けど、部屋を出てふと思ったんだ。そういえば秋奈って、ここまで大人っぽいことを考えるような子だったかなって。


 ◇


 まあ悩んでいても仕方ないし、今できることをやるだけ。そんなわけで、お母さんが溜めていた新聞を回収袋に入れて倉庫へ入れようとするわけなんだけど。

「うぅ……新聞重いなぁ」

 うん。これまでうすうすと感じてはいたことだけど、どうも身体能力のバランスが男だった頃とかなり変わってるっぽい。はっきりいえば、力が男だったときよりも明らかに落ちているのだ。  

 今持っている古新聞の束だって、男だったときは全然重くなかったはずなのに……。

「春ちゃん大丈夫? よたよた歩きになってるけど」

「大丈夫だから。お母さんはお母さんの作業を進めて」

 古新聞の束だけじゃない。秋奈とお母さんの、もう着ない洋服が入った紙袋もいつもになく重く感じたし、私の読まない漫画雑誌とかもいつもに無く重く感じてしまう。

 これまで大掃除の力作業って全部私がやっていたことなんだけど、男だったときの私ってこんな大変なことを平然とやっていたんだ……。

 いや、大変なことっていうのは何もこういう単純な力作業だけじゃない。

「そうそう、春ちゃん。車のタイヤ交換ってできそう?」

「冬タイヤにってことだよね? うん、あとでやってお……」

 と言いかけたところで、言葉を止める。

 毎年やってる車のタイヤ交換。この時期のタイヤ交換は、お店が混んでるから今までは私がちゃちゃっと変えていたんだけど――今の私でそれができるのだろうか? 新聞さえ持つのに一苦労な私が、タイヤを運ぶことができるような気はしないし。

 同じことは、お母さんも思ったんだと思う。

「あっ。ごめん、今のあなたにはちょっと大変な作業だったわね」

「いや、やればできるけど……」

「できるかもだけど、危険なことはさせられないでしょ? もし怪我したら、どうするつもりなの?」

 ましてあなたは女の子でしょ? と続く。確かに今までと違って、無茶が効くような身体ではないのは事実だ。それに、自分で言うのもどうかと思うけどやっぱり身体に傷が残っちゃうかもしれないことはしたくない。

「あっ……うん」

 結局、タイヤ交換は年明けにお母さんがお店に持っていってやってもらうことになって、あとはこの大掃除も私が積極的に何かするってことは無いまま終わってしまった。

 そもそも私が男だった時だって、我が家で力仕事をすることはあんまり無かったし結果として大して今までと変わりはなかったんだろうけど。

「けど、私が男だったら……」

 もうちょっと、2人を楽させることだってできたのかもしれない。

 そもそも、女になってからの私は男だった頃の私を全部否定して生きてきた。男だったからこそ、苦しい思いをしてきたって思い込んでいたし、その逆さえすれば同じような苦しみはしないっていうことは経験で察していたから。

 確かにそれは、一定のところでは想像の通りだったし女になって「生きづらさ」はかなり取り去ることができた。でも、だからって男だった頃の私に良いところが全く無かったってことも無くて。

「無い物ねだり、ってこういうことを言うのよね」

 アルバムの中で笑うかつての「僕」を見ながら、そうひとりごとを言う。だいたいそれだって、自分で決めたことだっていうのに。本当に、人間って都合のいいことしか考えないものである。

 なんて、考え事をしていたときだった。

「お姉ちゃん、ちょっと良い?」

 コンコンというノックの音と共に、秋奈の声がした。

「入って良いよ。どうしたの?」

 アルバムを閉じて、中に入るように促す。すると、シャワーを浴びた秋奈がゆっくりと入ってきた。次にシャワーを浴びて良いよって言いにきたのかな、って思ったんだけどそれにしては表情が険しいような。

「どうしたの? そんな難しい表情をして」

 大掃除も終わったし、強いてやることといえば買い出しからお母さんが戻ったら夕飯の下ごしらえをするくらいだし。あるいは何かで怒らせちゃったのだろうか。しかし今日に限って言えば……秋奈を怒らせる要素が思いつかないんだけどなぁって思っていると。


「あのさ、今晩一緒に寝ても良い?」


 秋奈から言われたことは、ちょっと私の予想の斜め上のことで。

「えっ、それなら全然良いけど……」

 断る理由も無いし、むしろこういうのは姉妹らしくて私は好きだから全然ウェルカムなんだけど。でもそんなことを頼むわりに、どうして秋奈の表情がここまで堅いのか……。そこだけは、ちょっと分からなかった。

 いや、分からなくても仕方なかったんだよ。だってまさかこれが、秋奈の真摯な気持ちに向き合うことになるとは――夢にも思わなかったんだから。


 ◇


 そして迎えた大みそかの夜。

 安藤家の今年最後の夕飯は、毎年恒例のすき焼き鍋。テレビでやっている紅白歌合戦を見ながら、みんなでわいわい夕飯を食べる。……までは良かったんだけど。

「ハル姉、お母さん寝ちゃった」

「やっぱりかぁ……」

 夕飯食べながら飲んでいたお酒のせいだろうなぁ。お母さんは、テレビを見ながらこたつで寝落ちしちゃったのである。せっかく年越しそばまでゆでたというのに。

 結局その場で寝かせると風邪をひいちゃうので、二人がかりでお母さんの2階まで運んでベッドに押し込むことに。だいたい、お酒に弱いくせにビールだけじゃなくて調子こいでワインまで開けちゃったのが悪いんだよ。

 まあ、たまにはお母さんだってハメ外したいだろうしそんなには怒ってないんだけど。

 ともかくそんな感じで、1年の最後でとんでもない目に合わされつつも明日のお雑煮の準備だけすれば今年やることはもう本当に全部終わり。

 お風呂を上がると、私の布団にはすでに秋奈が入っていたみたい。

「お待たせ。布団温めてくれてありがとうね」

「ちょっと! お姉ちゃんお風呂長すぎない?」

 あたしを待たせるだなんて、とさっそくクレームが。

 いやいや、普段からこれくらいの時間をかけてお風呂入っているんだけどなぁ。寒い時期だからしっかり湯船に浸からないと身体冷えちゃうし、髪も長いから洗うのがどうしても時間がかかっちゃうのだ。ドライヤーも時間掛かるけど、しっかり掛けないと風邪を引いちゃうしね。

「だって一緒に寝るって言ったのは秋奈の方でしょ? 別にお布団は寒くないんだし、良いじゃない」

「そうだけど……待たされるのはなんかちょっと嫌だ」

「もう悪かったって」

 駄々っ子かって言いたくもなっちゃうけど、妹だもの。ワガママを言うのは仕方ないこと。お姉ちゃんなんだから、たまにはこの子のワガママに付き合えってことなのか。そう思いながら頭を撫でると、機嫌もちょっとは直ったみたいで。

「まあ、良いよ。お姉ちゃんも女の子だからね、時間掛かるよね」

 ほらね? 私だってこの子のお姉ちゃんなんだもん。扱い方は心得ているつもりなわけですよ。

 とまあ、そんなやりとりもそこそこに部屋の電気を消して布団をかぶる。それにしても、1年の最後にこうやって妹と一緒に眠ることになるだなんて。

「なんか、去年の私たちからは想像もできないことだよね」

「何が?」

「いやだって、こうやって姉妹仲良く2人で寝るなんて考えもつかなかったでしょ?」

「まあ、そもそもハル姉が女の子になること自体想定外だったというか」

 だろうね。そもそもそこが全ての始まりだったって気がする。

「私も。14年生きてきたなかで、今年が一番激動な年だったなって思ってるよ」

 成長が遅いせいで周りと合わせられなくて、周りの人に散々いじめられて生きる希望を失っていて。藁をもすがる、って本当にそんな気持ちで願ったのが「女の子になりたい」ってことだった。

 それだけに、本当になるとは思ってもいなかったし、いざなってしまうともうそっからは無我夢中だった。

「もうね、『本当』の女の子になることに必死だったなって。今思えば、別にそんなの大して悩むことでも無かったんだろうにね」

 なんて。妹の前だからこそ余裕ぶっているけど、実は今もちょっと悩んでいたりするわけで。ただまあそれでも。

「だから来年は、平穏な1年であって欲しいかな」

 それは、本心だった。今年はいろいろなことに振り回されちゃったからね。来年は女の子としての幸せをしっかり掴めたら良いなって。今年みたいなのが毎年続かれたら、さすがに疲れちゃうしね。

「ってゴメン。つい私のことばっかり話しちゃったね」

 そうだそうだ。なんかついつい自分語りしちゃったけど、一緒に寝るって言いだしたのは秋奈のほうだったよね。

 きっと何か悩み事でもあるから、私を誘ったんだろうし。

「それで、どうしたの? 何か悩みでもあるの?」

 一緒に寝ようだなんて誘って来たんだもん。それもこんなタイミングで。秋奈も何か、おもうところがあったってことなんだろうか。実際ここ最近の秋奈は、何だか様子がおかしかったし。

「悩みってほどのことじゃないんだけどさ……今年も終わりだからハル姉に言っておきたいことがあって」

「どうしたのそんな急に真面目になっちゃって」

「なにそのいつも真面目じゃないみたいな感じのこと言っちゃって」

 いや真面目じゃないとは思ってないけど……。でも、私が知る「安藤秋奈」って女の子はこういうイメージではないというか。

「お姉ちゃんさ。この前、芦原先輩に告白されたじゃん?」

「それは、まあ」

「で、色々って芦原先輩と付き合うことになったわけじゃん?」

「うん、そうだけど」

 いい意味で明るくて、怖いもの知らず。小さなことを気にしないし、何かと気にしがちな私と違って過ぎたことはさっさと忘れてどんどん前に進んでいく。それが、安藤秋奈って女の子なのだ。

 それが今日に限っては、こんな調子。さっきもそうだけど、何だか思考が大人っぽいしーー秋奈が言い出すことが予想がつかないぶん、聞いている私の方がなんだかざわざわとしてきた。

「で、それと秋奈の悩みに何か関わりがあるのかな?」

 そもそも私が付き合い始めたことと、秋奈の悩みがなんでリンクするのかが予想がつかなかった。

「うん。あのさ……、芦原先輩って大好きな人が居ることを分かってて。あたしのワガママを聞いて欲しいの」

 いや、繋がらないというのは嘘。あのときもふと考えたことだけど、本当は秋奈のほうが芦原のことが好きで、図らずも私が奪っちゃった形になったから返して欲しいとかってことなんだろうか?

 実際、1年生の女子の中では芦原の人気が高いってのは私も知るところ。秋奈がまさかここまで女の子っぽいとは思ってなかったけど、そういうお年頃ならこう言い出すことだってないとは言い切れない。

 というか、芦原が相手って言ってるんだもん。もうこれでほぼ確定と見て良いだろう。

「まあ……良いよ。言ってみて」

 だけども私は油断していた。秋奈が見ていたのは、芦原なんかじゃ無くて。


「あたし、やっぱりハル姉が好きだよ。諦められない。あたしだけのお姉ちゃんでいて欲しい!」


 私だったってことに。

私事ですが、iPadを導入しました。この話もiPadで書いてます。

それにしても、最近のタブレット端末はすごいですね。パソコンと同じような作業ができるなんて。今後もフル活用できれば良いのですが、果たしてわたしに使い切れるのか……?

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