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僕は女の子になりたい。  作者: 立田友紀
6. 若葉ガールは夢を見る
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90.「クリスマス・ラプソディ(後編)」

 芦原に誘われて映画を見ることになったわたし。

 最初は、アクション映画を見るということで話がまとまりかけたんだけど、色々あってどういうわけか芦原と恋愛映画を見ることになってしまい……。

「にしても、まさかあんたと『あなたべ』見ることになるだなんてね」

 上映前の告知CMを見ながら、ついそんなことをつぶやいてしまった。

「良いじゃんか。俺もはやりの作品は見てみたかったし。『ブランチ』でも映像が綺麗な作品って言ってたしな」

「って、情報の入手元『ブランチ』かよ」

 この子、『ブランチ』のメインターゲットが主婦ってことを知ってて言っているのかな? いや、知るわけ無いから言ってるのか。

 ちなみに『ブランチ』とは土曜日の朝に放送されている、女性向けのワイドショーである。週末のお出かけ情報やグルメ情報、ショッピング情報など女性ならつい気になっちゃうであろう情報が山盛りの番組なんだけど……。

「あんたは主婦か」

 さすがのわたしも、この番組はそんなに見ないよ? 一応、わたしのほうが本物の女子だっていうのにさ。

「いや主婦じゃねえけどさ。土曜の朝とか、寝ぼけてテレビつけたら大概ブランチやってる時間だろ?」

「そりゃまあ、そうだろうけど……」

 うーん。これは、深刻なイメージ崩壊発言だ。

 これでも一応、サッカー部のキャプテンで2年生1番のモテ男なのだ。信じられないけど、実際にラブレターとかたびたびもらったり1年生の女の子とかに告白とかもされたりしているみたいだし。にわかには信じがたい話だけどね。

 でも、そんな彼が週末に寝ぼけ目でブランチを見たりこんな映画を見るだなんてそれはもう重大なイメージ崩壊案件だよ。こいつにベタ惚れしてる女子たちのイメージが崩壊しないか、割かし心配になってきた。

 ちなみにわたしは――もう慣れた。今さらなので、もう気にしないことにしてる。

「そういう春奈ちゃんはどうなんだよ?」

「わたしは見ないよ。興味ないし」

 土曜の朝なんて、それこそ家事に追われててそれどころじゃないんだよ。炊事にお掃除。タイムセールに合わせて買い出しに行って。あとは、秋奈が汚してきた部活のシャツとかのお洗濯もしなきゃいけないんだから。

「これでも意外に忙しいんだよ」

 そう、だから女の子らしくなくても仕方ないって言いたかったわけなんだけど。

「なるほど。それを聞くと、女の子って言うよりお母さんって感じだな」

「ちょっと、それどういう意味?」

 なんかそれはそれで引っかかるな……。一応これでも、花の女子中学生なわけなんだし。

「良いんですよ。わたし、元からそんなに女の子らしくないことは分かってるし」

 そう言ってついそっぽを向く。別に拗ねたって訳じゃないけど、なんかちょっとやり返したくなるじゃん? 言われっぱなしはシャクじゃん?

 そしてそんなことをしたら、きっと彼はフォローの一言でも言ってくれるんだろうと思ったわけなんだけど。

「でも、女の子らしくは無いかもだけど春奈ちゃんは優しくてしっかりものじゃん? 俺はそういうの、好きだな」

「なっ、何が『好きだな』……だよ」

 だからお前、いちいち言うことが極端ってか振り切れてるんだっつーの。もうちょっと自分の顔とか容姿、しっかり鏡で見返せよ。お前の言葉の破壊力、結構すごいんだからさ。

「まったく、恋愛映画見る前に口説こうとするな」

「いや、別にそんな気は無くて……。いや、多少はあるけど」

「ほら、映画館ではお静かに!」

 芦原の肩を叩いて、目の前で始まった映画泥棒の告知CMを指差す。映画泥棒も言ってるでしょ? 「上映中はお静かに」って。

「おっ、おう……。そうだな」

 はぁ、タイミングよく流れたこのCMに助けられたけど。それにしても、一々口説くようなことをペラペラと言うなってんだよ。だから女の子クラッシャーとかになっちゃうわけで。

 隣で興味津々にスクリーンに目を向ける彼を見ながら、ついため息がこぼれちゃう。

 まあ、これでもわたしは元男だしそんなに簡単には落ちないけどさ。何だか、一人の『友達』として色々と複雑な心境だ。

 もしかしてわたし、雰囲気に流されちゃったりしているのだろうか。だから、ちょっとした彼の言葉でモヤモヤしたり舞い上がったりしてるのかなぁ。

「……はぁ」

 思わずため息をついたものの、それでもこの場が一気に変わるわけも無くて。

 周りの席のカップルたちの雰囲気を浴びつつ、映画が始まった――。


 ◇


 何だかんだ言いつつも、映画自体はとても面白くてつい見入ってしまった。そんなわけであっという間の2時間。映画を見終えると、時間帯的にはランチタイムになっていた。

「せっかくだから、お昼食べていこうぜ」

「いいよー」

 映画を見ることが本来の目的だから、正直ここで帰ってもいいっちゃいいんだけどそれじゃさすがに味気ない。せっかく映画の感想とかも話したいしね。そんなわけで、わたしたちはレストラン街の洋食店に入ることにした。

 のは良いんだけど……。

「俺、ハンバーグセットで。ご飯大盛りでお願いします」

「じゃあ、わたしはナポリタンセットのナポリタン少なめで」

 正直に言おう。はっきり言って、お腹いっぱいなのだ。誰かさんがポップコーンを山盛りで注文したせいでね。

 けれどもここはレストランだし、何か注文しないとそれはそれで申し訳ないから何か食べれそうなものを何とか注文したんだけど。

「春奈ちゃん、少な目で足りるのか?」

 注文を終えて店員さんが厨房に戻る間に、彼はそんなことを訊いてきた。

「ええ、誰かさんのせいで山盛りポップコーン食べさせられるハメにあったからね!」

 原因を作ったやつに言われるのは、ちょっと腹が立つ。

 だいたい男子って、もうちょっと女子のこととかをよく考えて欲しいって思うの。例えば身長差を無視してグングン早く歩いて彼女を置いてけぼりにするとか。例えば明らかに食べきれない量の料理を注文したりとか。例えば、お手洗いに行く時間を考慮してくれないとか……。

 もちろん、女子がそういうのを言えば良いって言われちゃそれまでかもだけど――もうちょっと自分に置き換えてものを考えて欲しいとは思うかな。まあ、元男のわたしが言うのもどうかとは思うけど。

「それはゴメンって! でもさ、やっぱり……食べなきゃ大きくなれないから」

 それなのにこの人、さらなる地雷を踏み抜いていくし。

「ちょっと、どこ見てそれ言ってるの?」

「あっ、いや違うって。別に春奈ちゃん小柄って言ってるわけじゃなくて」

「言ってるじゃない」

「あっ……」

 はぁ。ついでに言うとデリカシーってものもないよね。こいつに限らず、大多数の男子ってさ。

 だいたい女子って、こういうコンプレックスみたいなものを誰しも必ず持ってるし、そういうのすっごい気にしてるってのに、そういうのを男子は気にせず土足で踏み抜いて行くし。

 しかもこいつら、決まって「そんなこと気にしなくていいのに」とかのたまうし。気にしないでいいなら、最初からコンプレックスになってないわって言いたくなるのにね。

「違うの。これは、まだ成長期が来てないだけ」

 そう言いながら、ナポリタンに手を付ける。

 だいたいわたしだって本物の女では無いけど、低身長と貧乳はそこそこ気にしてるんだから。いや、低身長とは貧乳って言うより成長期がまだ来てないってだけなんだけどね。女になっても成長が遅いことが変わらないってあたり、神様の嫌がらせだなとは思うけど。

「そっか。じゃあその時に備えて食べなくちゃ」

「誰のせいだと思ってるのよ!」

 まだ言うかこの男は。さすがに頭に来たので、立ち上がって軽く頭をはたく。

「痛っ! 暴力反対!」

「うるさいよおバカ!」

 とまあ、軽く制裁だけして。

「で、映画の感想とか無いの? むしろそういう話をしようよ」

 話の話題を切り替える。というか、本来こういう話をするのがデートなんじゃないだろうかってわたしは思う。いや、デートじゃないけどね。今日のは。

「あっ、そうそう。感想って言われると難しいけどなぁ……」

 そう言うなり、首をひねる芦原。

 まあ、何だかんだ言いつつもわたしよりもよっぽど真剣に見てたからなぁ。

「やっぱり、最後のなるみが死んじゃうシーンはきつかったよね」

 そこから続く彼の話は、さっきまでのデリカシーの無い話とは一転してすごい真面目なもので。

 楽しいかって言われれば、これまた悩ましいものだけど。でも、真剣に話している彼の話を聞くことは嫌じゃなくてむしろ何だかもっと聞きたいって思って。

 気持ちが動くって言葉があるけど、それってこういう時に使うのだろうか。

「春奈ちゃんはどうだった?」

「そうね、わたしは……」

 まったく。言いたいことを先に言っておいて、わたしに振るだなんてさ。そんなの……。

「     」

 でも、こうやって楽しく映画を見てくれたんだったら良かったのかな。最初は正直、不安で仕方なかったけどさ。こうやって、良い時間を共有できたんだとしたら。


 ◇


 そんなわけで、ご飯を食べて落ち着いたところで。

「でっ、午後はどうしようか」

 彼が今後の予定を聞いて来る。

「何言ってるのよ。夕方まで遊ぶに決まってるでしょ?」

「えっ、良いのか?」

「当たり前じゃない。わたし、一日開けちゃったんだから」

 このまま午後やること無い状態にされても困っちゃうのだ。

「だから午後は、わたしのやりたいことに付き合ってもらうよ?」

 というわけで、ここからはわたしのターン。まずはいつも通り、デパートの新館に移動して新しい服のチェックから。行きつけのお店を、1階から順番にチェックしつつ上に進んでいくんだけど。

「ちょっと待て。春奈ちゃん、もう十分服を持ってるだろ?」

 さっそく付き添いの芦原から苦情が。まあ、男だった経験もあるわたしもそこは分かってるんだ。女子のウインドウ・ショッピングに付き合うのって、男サイドからは結構しんどいことに。それはまあ分かってるんだけどさ。

「何言ってるの。服との出会いは一期一会なんだよ?」

 とはいえ一度体験すれば分かる。これは……やっぱりやめられないんだよなぁ。

「三春みたいなこと言い出したよ」

「眞子ほどのファッションオタクじゃないよ、わたしは」

 と言いつつ、フリルスカートを腰に合わせて姿見で確認するわたしの言葉は……。

「説得力が無えよ」

「だよね」

 芦原も引くくらいの、とんでもない発言だったと思う。

 だが、その程度でウインドウ・ショッピングを止めちゃうほど春奈ちゃんは甘くないよ? だいたいここ最近、まともに買い物もできないどころか諸方面から訳わからないことばっかり持ち込まれたんだ。誰かさんのせいで体育祭に巻き込まれたり、誰かさんのせいで東京に連れて行かれたり、誰かさんのせいでパン職人になったりな!

 そうです、たまには春奈ちゃんもお買い物でストレスで発散したいんです! まあ実際に買えるほどのお金は――あるにはあるか。バイト代とかね。

「で、買ったりするのか?」

「んー、悩み中かな。欲しいとは思うけど、もっと良いものがあるかもって思ったらやっぱり買えないし」

 昔はこんなこと無かったんだけどね。母さんが買ってくれた服を適当に着てたし、服関係で悩むことなんて全く無かったくらいなんだけど。

「女子って大変だなぁ」

 それは、芦原の言うとおりかな。女になって、オシャレに目覚めたからこそこういうことで悩んじゃう訳で。そうだ、いっそのこと。

「あんたも女になっちゃう?」

 そうすれば気持ちが分かるかもよ? と言ってみたものの。

「やめてくれよ、そんなありもしないこと言うの」

 その返事は、めっちゃばっさりとしたもの。まあ、普通は異性になろうとかは思わないものだからね。ただ、あんたが言う『ありもしないこと』――これは、あんたの目の前で起こってるわけなんだけど。……いや、今は知らない方が幸せかな?

 ともかく。

「じゃあ、これ見終えたらちょっと休憩しようか。ケーキとか食べれる?」

「えっ、良いのか? 春奈ちゃんのショッピングを無理やり終えちゃって」

「別にひとりでもこれはできるから。それに今は、あんたとの時間を大切にしたい」

「そ、そうか……」

 そう言うなり、彼はどういうわけか左手を差し出す。

「ん? どうしたのー?」

「いや、何となくさ」

 そう言いながら彼はそっぽを向く。まさか――手を繋ぎたいってこと? ったく、この子も大概流されやすい子だなぁ。

「しょうがないわね。良いよ」

 そう言うなり、わたしも右手を差し出して彼の手を握る。彼の手は、意外に暖かかった。


 ◇


 そして、芦原とケーキを食べて、食べ終えた後はスポーツショップで芦原の買い物に付き合って。ゲームセンターによって一緒にゲームを遊んで――そんなことをしている間に帰る時間がやってきてしまって。

「ふぅ、今日はたくさん遊んだね!」

 ゲームセンターで取ったぬいぐるみを抱えて、家路につく。って言っても、二人とも家の方向は同じだから一緒に帰ることになるんだけど。

「しかし、もう終わるってのもさみしいね」

 なんだかこの楽しい時間が終わるっていうのは、ちょっとさみしくて嫌になる。

 こんな思いをするなら、いっそ遊ばなきゃいいって気がするから。でもこう思えるってことは、裏を返せばそれだけ今回の芦原との一日が楽しかったってことなわけで。

 ところが、さっきから話しかけているのに芦原はなぜかだんまりを決め込んでいて。

「どうしたの、だんまりを決めちゃって?」

「あっ。いや、ちょっと考え事をしててさ」

「そっか。それなら良いんだけど……」 

 まさか体調を崩したとか、無いよね? そう言えば、朝も言ったけどこいつそれなりの薄着でここに来てるわけだし。

 もちろん、ずっと建物の中でしかも暖房が効いた空間に居たからそれはちょっと心配のしすぎかなって思ったりもしてはいるものの……。

「マフラー。つける?」

「いやいや、春奈ちゃんのほうが風邪を引いちゃう」

「あーもう! どうせ家帰るまでなんだから良いの」

 やっぱり心配だから、無理やりにでも巻いてしまう。わたしはコートも羽織ってるからマフラーが無いくらい平気だし。

「どうせあっという間でしょ? 歩いて10分なんだから」

 だから、マフラーを貸した。なのに続く彼の言葉は、何かが変で。

「いや、それが……ちょっとだけ春奈ちゃんと話したいことがあるんだ」

「えっ? 今ここでじゃダメなの?」

「別に良いけど、やっぱり人が居ない場所が良いかなって」

「そう? じゃあ、近くの公園で良ければ」  

 何だか、嫌な予感がする。

 いや、「嫌」って言うのはちょっとおかしな表現になるかもしれない。でも、これから起こるであろう出来事は、間違いなくこれからのわたしと芦原の関係性を決定的に変える(・・・・・・・)何かであることは疑いないことで。

 そんなわけで、お互い無言のまま公園へとひた歩くとあっという間にその場所についてしまう。

 誰も居ない公園の真ん中。お互いに向き合う。

「それで、話って何?」

 分かってる。これから言われるであろう言葉くらい。でもそれには気づかないふりをして、あえて明るく問いかけた。

 動揺を隠すために。わたし自身を、騙すために。

「あぁ、そうだね。シンプルに行くね」

「うん」

「春奈ちゃん。いや、安藤春奈さん」


 ――俺と、付き合ってください。



ついに、運命の告白の時がやってきました。

男の子だった春奈は、この告白にどのように向き合うのか。次回に続きます。

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