88.「小さな恋のうた」
「今日はありがとねー!」
そう言いながら、春奈ちゃんは小さな身体で大きく手を振って帰って行く。その姿は、初めて彼女と出会った時と比べてずっと明るくて穏やかなものだったはずなのに。
「今日も、言えずじまいだったか……」
距離感は縮まっている。以前よりも確実に。
それなのに彼女は、どうして俺の気持ちに気づいてくれないのだろうか。いや、そもそもそういう気持ちをはっきり伝えていないのだから、春奈ちゃんが分かってくれるわけも無いってことくらい分かるんだけど……。
いや、言う機会はあったはずなんだ。二人きりの時間はいくらでも作れていたんだ。それなのに俺は、せっかくのチャンスを生かしきれなかったんだ。
好機を掴めない人間に勝利を得ることなんて出来るわけが無い。それは、サッカーを通じて散々経験したことだし、今までは出来なかったことが無かったくらいだというのに……。
◇
そうは言っても、目の前にある現実が変わることはやっぱり無くて。
「んで、どうだったんだ?」
翌日。宮川の家に行くなり、さっそく昨日の成果について訊かれたが。
「ダメでした」
当然、上手く行ったって報告が出来るわけもなく。
「まあ、だろうな」
そう言いながら、彼は表情も変えずにいつものごとくカップラーメンをすすっていた。まるで、こうなることを最初から知っていたとばかりに。そういう態度を見せられると、こいつが悪くないことは分かっていても、やっぱり文句の一つも言いたくはなる。
「分かっていたならもっと成功率高い作戦を立ててくれよ!」
正直言うと、失敗したことについてはそこまで引っかかってはいない。というかそもそも行動に移せなかったのだから、実質ダメージはゼロだし。もちろんフラれちゃったら、大ダメージではあるけど。
でも、最初に宮川にこの件について相談した時こいつ何て言ったと思う?
恋愛の初めは告白だろって、俺は正論を言ったはずなのに『分かった。もういっそ告って盛大に玉砕して来い』って言って来たんだぞ? そんな怖いこと聞かされたら、そりゃ直球で動くことなんか出来なくなるさ。
それでまあ宮川の言う、『いきなり告白の前に信頼関係を作れ』っていうアドバイスは確かにその通りだと思ったし、この数か月宮川のアドバイスの通りに行動したつもりだ。
春奈ちゃんにとって安心できる男であろうと行動したし、実際に距離が縮まった。そこはそうなんだけど。
「確かに距離感は縮まったけどこれじゃなんか、恋愛感情というより友人ルートまっしぐらじゃねえか」
距離が縮まるあまり、異性の友だちになりつつあるような気がするんだ。
「良いじゃねえか。嫌われるよりはマシだろ?」
「そりゃまあ、そうだけど……」
もちろん春奈ちゃんに信頼されていることは嬉しい。けど彼女はきっと俺に“LIKE”って感情しかないんだろう。それじゃ気持ちがすれ違ってるし、そんな状態になるくらいならかえってフラれた方がマシだ。
それなのにこの男は。
「お前なあ、気づいてないだけで安藤からは相当好かれてるぞ?」
そんな根拠もなさそうなことをだるそうな目で言うのだ。めんどくさいからさっさと帰ってくれって、そう言わんばかりに。
「本当か?」
「いや知らんが。てかそういうのって、結衣のほうが詳しいと思うぞ?」
「えっ? 結衣ちゃんに訊くのこれ?」
いや待て待て。そりゃ結衣ちゃんのほうが春奈ちゃんの気持ちとかには詳しい。それは、いつも春奈ちゃんと三春と三人でつるんでいるから分かるよ。分かるけどさ……。
「いや、気まずくねーかこれ」
訊かれる結衣ちゃんの心境としてはどうなんだこれ?
幼馴染みが親友のことが好きで仕方ないなんて相談されたら困るのは結衣ちゃんのほうじゃないだろうか? それに、そういうことを相談したところで結衣ちゃんの性格を考えるにあんまり味方にはなってくれなさそうだし。
「だが安藤と一番仲が良いのは、結衣か三春だしそれ以外の人とは意外に安藤は話してない。その上で、その二人だとしたらどっちを取る?」
「それは……結衣ちゃん一択だろ」
「だろ? そんなわけで、あいつを呼んどいたから」
「そうか。そりゃ気が回るって……ちょっと待て! 今何と?」
「だからあいつを呼んでいるって」
「はあ!? なんでそんな勝手なことを!」
そう言って宮川の首根っこを掴んでゆっさゆっさ揺らすが時すでに遅いようで……。
「相変わらず散らかり放題の部屋ね……」
そうため息をつきながら、後ろから聞き慣れた声が聞こえる。その声だけで、誰が来たかが分かってしまう。生まれたときからの付き合いなんだ。分からないわけがないじゃないか。
「うるせえよ」
そう言いながらも宮川が手を上げて挨拶をする。それにつられて振り返るとそこには……。
「で、俊ちゃんの相談って何のこと? まあ、予想はつくけどさ」
結衣ちゃんが、呆れた顔をしながら立っていた。
◇
「それで、どうして呼び出されたのかな?」
彼女はため息をつきながら、そう切り出す。それにしてもお嬢さま育ちで今日も綺麗な服を着ている結衣ちゃんがこんな汚い家に居るだなんて、場違いも良いところだ。
まあそれは、金銭的な事情もあるだろうけどそれ以上にお互いの性別の違いってのも大きいのかもしれない。いくら幼馴染みでも、やっぱり性別が変わると立ち位置って変わってしまうんだろうし。
まあ、まさか宮川家があんなことになるとは思ってなかったし、そこの事情もありそうだけどね。幼馴染みといっても、いつまでも同じ関係性は維持できないのだろう。そんなことをふと思っていると。
「ああ。芦原の恋愛相談に乗って欲しくてな」
「お前、本当に容赦ねえな」
まったく、ちょっと昔のことを思い出してしんみりしてたのに全部台無し。おまけに宮川のやつ、ド直球に呼び出した理由を暴露してくれたやがった。
うん、まあ分かりやすいよ。確かにそのだからさ。でもさあ、もうちょっとオブラートってものに包んでものを言って欲しかったなあ。そんなド直球な言葉を聞かされちゃうと、こっちの身が持たないのである。
ちなみにオブラートって言うのは苦い薬を包んで飲みやすくする紙のことで、そこから言い方を柔らかくするって意味で使われているんだって。春奈ちゃんに教えてもらった言葉だ。
「あぁ。ハルちゃんについてでしょ?」
しかも結衣ちゃんも結衣ちゃんで、宮川の回答を聞くだけであっさりと俺の好きな人のことを言い当てるし。なんでこいつらこんなにも考えがシンクロしてるんだよ。さすがは夫婦だわ。……って言いつつ、こんだけ仲良いのに付き合ってないらしいのな。本当に意味不明すぎる。
「いやまあそうなんだけど……どうして分かったんだ?」
「見れば分かるじゃない。あんだけ好きですオーラを放たれたら、さすがに私でも分かっちゃうよ」
「うっそ……」
まじっすか……。俺の気持ちだだ漏れってことっすか? それが分かっていて春奈ちゃんがあの態度を見せるってことは――もう完全に恋愛対象外ってことなんだろうか。だとしたら完全にこれ詰んだじゃないか。
「えっ、そんなに好き好きオーラ出してたのか?」
「正ちゃんは逆に周りを見なさ過ぎ。と言いつつ最近は毎日顔出すようにはしてるものね。そこは偉い偉い」
「うぜえよ。頭撫でるな」
それにしてもこいつら、俺がフラれたかもしれないって状況でイチャイチャしやがってマジで腹が立つな。ちょっと前にクラスの地味な奴らが行ってた何だっけ? リア何とか爆発とか言ってたっけ? その気持ちがちょっとだけ分かったわ。
「てかこれじゃ、告る前からフラれたと同じことにならないか?」
「何でだよ?」
「だって結衣ちゃんが俺の気持ちに気づいたってことは、いつも一緒にいる春奈ちゃんや三春が気づかないはずなくね?」
何だろう。この告白する前からお断りって分かった時のみじめさ。いや、宮川も言ってた通りもともと落とすのは難しい子だって考えれば多少気楽になるのだろうけど……と思っていると。
「ああ、そこは大丈夫よ」
結衣があっさりとそれを否定する。ってあれおかしくね? 当事者でないはずの結衣が気づいてるのに、本人が気づかないわけがないだろう。そんな状況で、なんで大丈夫と言えるのか? って思わず尋ねてしまったのだが。
「だってハルちゃん、鈍感だもの」
『……確かに、な』
何だよそれって思ったけど、そうだとすれば今までの行動も納得いく。
たぶん春奈ちゃんは、純粋に恋愛感情とかそういうのではなくてそもそも俺の気持ちなんか気づいてない。とはいえ人並み以上に関わってはいるから、だからそういう意味で信頼みたいのがある。単純にこういうことなんだろう。つか、そう信じさせてくれ。さもなくば、今度こそ俺の心が折れそうだから。
「なるほど。要するにまだチャンスはあるってことだな?」
であれば今度こそ、告るだけだ。というか最初から告るのを、宮川のアドバイスで先延ばしにしていただけなんだ。今ここでやらないで、いつやるのさ?
「よし決めた。近いうちに俺は春奈ちゃんに告るぞっ!」
そう立ち上がって宣言した。そこに意味は無いんだけど、二人の前でこういえばもう後戻りは出来ないだろうからね。
「まあ、俊ちゃんそう言って毎回ヘタレてるけどね」
「うるせえ。水を差すな」
ヘタレてるのは事実だけど、とりあえず後は行動に起こすだけってことが分かった。それだけでも、かなり前進じゃないか。……とは思ったものの。
「ちなみに成功率はどれくらいだと思う?」
「あーあ、さっそくヘタレたぞ芦原のやつ」
「あのねえ……」
いやいやいや、成功率を確認するのは当たり前じゃないか! それをヘタレだのなんだの言うのってちょっとひどくねーか?
「『敵を知り己を知れば何とやら』って言うだろ?」
ことわざでもそう言うじゃないか。中国のあの人。えーっと、孔子さんって人。あれ、韓国人だっけ? 春奈ちゃんがそんなこと言ってたけど――それにしても何とか子って名前だから最初女の人なのかなって思ったんだよなぁ。小野妹子とかも、あの名前で写真はオッサンだしな。ちょっと変だよな。
「確かにそういうことわざはあるけど……そこは、ハルちゃんしか分からないでしょ」
「なんだよ。もうちょっと『脈あり』とかあるじゃねーか」
女子ってそういうの好きじゃん。
「それでいえば確かにそうだけど。でもね、ハルちゃんはそういう話はしない」
「ホントか?」
「だって、そういう性格なんだもの。だから私には本当に分からない」
「そっか……」
だとしたらいよいよ本当に分からなくなってきたぞ?
何だろう。1年生とかが俺に向ける視線とかってのは分かりやすいんだわ。今まで何回か告白もされたけど、それも全部分かりやすかったし。
けど春奈ちゃんに関して言えば――本当に分からないのだ。それだけに、余計に不安の気持ちが大きくなっていく。
この状況でどうやって二人っきりになれるチャンスを作れるんだろうか。もう、出し切れるアイデアは無いぞと悩んでいると。
「はあ。しょうがないわね……」
そう言って、彼女は鞄から小さな封筒を取り出して俺に手渡す。何かと思って封筒を開けると、中からは駅前にある映画館のペアチケットが出てきたのだ。まさかとは思うけど……。
「これを使って、ハルちゃんをデートに誘っちゃいなさい」
やっぱりか! ここに来てついにデートにまでなるだなんて。
「えっ? ……良いのかもらって?」
「もともとそのつもりだったからね。私が持っていても仕方ないものだし、これを口実に。言い訳に使っちゃえば、少しは緊張しないで誘えるでしょ?」
確かに。さすがは学年一の天才だ。勉強だけじゃなくて、恋愛についてもいいアイデアをパッと思いつくだなんて。こんなことなら、最初からこっちに相談するべきだったよ。
「確かに。さすが結衣ちゃん! 学年一の天才だ」
「褒めてるの、それ? まあともかく、渡したからにはちゃんと上手く使うのよ?」
「ああ、もちろん!」
こうして俺は、ついに春奈ちゃんをデートに誘いだすことにしたのだが……。
◇
そうは言ったものの、いざ誘うとなるとやっぱり緊張してしまう。
「いや落ち着け。これはデートじゃない。映画チケットの有効活用だ。春奈ちゃんに手伝ってもらうだけだ」
そうやって独り言を言い聞かせてはいるものの、さっきから電話帳アプリを立ち上げて春奈ちゃんのページに行ってホームボタンを押してっていうのをもう何回も繰り返してるのだ。
分かってるよ、俺がヘタレなことくらい。でも、いくら言い訳の映画チケットがあるっていっても……やっぱり緊張するに決まってるじゃないか。
とは言え、ここまで準備をしてもらってやっぱり誘えませんでしたっていったら今度こそ結衣ちゃんと宮川にボコボコにされそう。そんなわけで俺は、一大決心をして彼女に電話を掛けることにした。
プルルルルという、なんともいえない機械音が鳴り響く。呼び出し音が鳴るたびに、俺の心臓もいっしょに震えていく。緊張のせいか、ちょっとお腹も痛いし意識も吹っ飛びそうになる。
掛け始めて、5コールめ――未だに彼女は電話に出ない。もしかして、着拒にでもされちゃったのか。いや待て、電話番号を交換しようと言い出したのは春奈ちゃんなのにわざわざ着拒にするものか?
7、8、9コール。未だ電話には出てくれない。時間にしてはそんなに経っていないはずなのに、どうしてだろう。頭が恐ろしく回って嫌な考えばかり浮かんでしまう。
12コールめ。もうダメだ、きっと彼女は電話には出ないだろう。15コール掛けても出ないのならば、もういいや。半ば諦めの気持ちでスマホを耳から離しかけたまさにその時だった。
「……もしもし?」
「は、春奈ちゃんッ!?」
出ないと思った彼女が、若干気の抜けたような話し方で電話を出たのだ!
「どうしたの。そんな驚いたって感じの声をあげて」
「いや、電話掛けてなかなか出ないから……」
そう言いかけて、なんか催促したみたいに感じ取じとられる気がして反省。そこまでの意図は無いけど、しつこい男は一般に嫌われるからなおのこと。
「ゴメンゴメン、今部屋に戻ってきてさ。そしたらスマホが鳴ったから慌てて取ったんだけど……待たせちゃったかな?」
「それは大丈夫なんだけど……」
と言いかけて本題に移ろうにしたのだけど、今度は緊張のあまり何を話せば良いのかまったく思い浮かばなかった。
「あはは……話したいこと忘れちゃったよ」
つい、そう言わざるを得なかったのだった。こんなことなら、最初に話すことを何かメモ書きすれば良かった思ったのだがそんなこと今さら考えたところでどうにもならず。いや、話したいことを忘れたなんてことは無くて、本当は一緒に映画を見に行こうって言いたかっただけなのに。
「あぁ、そういうことってあるよね。わたしも結構話したいこと忘れるから気持ちは分かるよー?」
「だよなぁ。あるあるだよな」
「うんうん」
早くも話の方向が雑談になってしまって、本来の話題に戻れ無さそうになってしまったのだ。
「眞子とかも同じでさ。でもあの子の場合はもっとタチ悪くて、脱線したままさらに別の話がつづくんだよね」
――で、本来の話に戻れないと。
確かにそれはあるあるだし、なんなら今もまさにそういう状況なんだけど。いつもだったら春奈ちゃんの話を聞くことは楽しくて好きなんだ。でも今話したいことや訊きたいことは、そんなことじゃなくて……。
「眞子だけじゃなくて秋奈もそうなんだよねぇ。あぁ、秋奈ってわたしの妹のことね。だからさ、そういう人って存外多かったりするのかなーって」
ゴメンな、春奈ちゃん。話をぶった切って悪いって気持ちはある。けど、これはどうしても言わなくちゃいけないんだ。
「春奈ちゃん! 話ぶった切って悪いんだけどさ、今度の週末空いてる?」
「えっ? いや、まあそれは空いてるんだけど……。というかさっきから本当にどうしたのさ? なんか様子が変なんだけど」
「今度の週末、映画を見に行かないか?」
「映画?」
ついに言ってしまった。
映画ってオブラートに包んだけど、これって要はデートのお誘いだ。結衣ちゃんの言う通り、デートって言うのは直接的すぎて拒否されるかもだから、つい映画ってことにしちゃったけど。
「そうそう。映画映画。結衣ちゃんから駅前の映画館のペアチケットもらってさ、別にタダだから使わなくてもいいんだけどもったいないから使おうかなって。春奈ちゃんこの前一日頑張ってくれたし、お礼したいってのもあって」
恥ずかしくて、訳が分からなくて。でも必要な情報は全部伝えないといけなくて。だから早口で、まくし立てるように言ってしまう。
「そ、そうなの? それは嬉しいんだけど――わたしで良いの?」
もっと他のお友達とか、気になる女の子とか誘った方がいいんじゃない? と彼女は言う。
さすがは結衣ちゃんも認める鈍感。ここまで来て、春奈ちゃん以外の女の子を誘うって本気で思っているんだから。それとも、まさかの遠回しのお断りってこと?
「は、春奈ちゃんと行きたいんだよっ!」
そんな可能性はあり得ない。あくまで今回は春奈ちゃんと映画に行くんだ。というか、春奈ちゃんに告るために誘うんだ。映画は手段でしか無いし、他の人が出てくる可能性なんて無いんだからさ。
「そ、そうなの? 本当に、わたしで良いの?」
「わたしが良いの! もちろん嫌なら無理強いはしないけど」
「違う! そりゃ誘ってくれたことは嬉しい。けどね、映画の趣味とか合わなかったら申し訳ないし、あと口下手で女の子らしくも無いから……そこを心配してて」
そっか。遠回しのお断りとか、色々なことを考えてたけどそれって結局春奈ちゃんの気持ちを無視した言葉だったんだ。口下手で女の子らしくないだなんて、俺は気にしたこと無いけど彼女はきっと本気で気にしているんだろうし、だからこそ気を遣って……。
「いや、違うよね。わたしが良いから、わざわざ連絡して誘ってくれたんだよね。ごめんね、断るみたいなこと言っちゃって」
「今からでも良いなら、映画、いっしょに行っても良いかな?」
今からでも、だなんて……本当に春奈ちゃんは馬鹿真面目だなぁ。でもそういう不器用で律儀なところが可愛くて、だから好きになっちゃったんだよ。なんて、口が裂けても言えないよなあ。今は。
「何言ってるの。最初からそのつもりに決まってるだろ?」
「ホントっ!? ありがとう! 眞子と結衣以外で遊ぶのは初めてだから、本当に楽しみ!」
「ああ。俺も楽しみにしてる」
「じゃあ、細かい日程とかは後で教えてちょうだい」
「了解!」
そう言って、電話を切る。
何とか、春奈ちゃんを無事に誘うことが出来たけど……手に握られていた映画館のチケットは、緊張による手汗なのか緊張による力のせいかくしゃくしゃになっていた。
そんなわけで、今回は再び視点が春奈から離れて春奈の周りの視点に切り替わっています。
芦原の春奈への気持ちがここまでなのに、肝心の春奈がそれに気づいていないのは春奈の視点で話を辿った通りです。そんなわけで次回はデート回。果たして彼の気持ちは、上手く実を結ぶのでしょうか?
※作中、「敵を知り……」のことわざについて言及していますが、これは正しくは『孫子』と呼ばれる古代中国の兵法書、及びその作者による出典です。芦原は何か勘違いしているようですが、念のため。




