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僕は女の子になりたい。  作者: 立田友紀
6. 若葉ガールは夢を見る
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87.「新発売! 料理部印のコラボパン」

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「おっ、春奈ちゃん。おはよう」

「おはよう。こちらこそ、よろしくな」

 コラボメニューを販売する日の午前7時。わたしは、みんなよりも一足先に芦原ベーカリーの厨房を訪れていた。

 芦原ベーカリーの開店時間は朝の10時。それを考えれば、開店時刻の3時間も前に来るだなんてちょっと早すぎるってみんな思うのかもしれない。実際、わたし自身もここまで歩いている間はちょっと早すぎたかもとは思っていた。

 それでも、実際にこうやって現場に入ってみれば今この時間でもすでに芦原のお父さんも芦原も今日販売するパンの仕込みをしている。朝の10時に開店するにもかかわらず、この時間から仕込みを始めないといけないだなんて――パン屋さんって、もっとオシャレで女の子なら誰しも憧れる仕事って認識だった分やっぱりカルチャーショックは大きい。 

 だからこそ、そんな忙しい中たくさんご協力いただいた芦原ベーカリーの皆様に恩返しをするって意味でも、しっかり良いパンを売って良い成果を出したいって思った。まあ、この思いは料理部の全員が共有しているだろうけど。

 ともかくそんなわけで、わたし自身も着替えて厨房に入って仕込みを始めていく。

 今回のコラボメニューは、作り方やレシピの監修こそ芦原のお父さんに協力してもらったが実際に作って売るのは料理部のわたしたちに一任されている。だからこそ、いつもより気持ちを込めて小麦粉に水を含んでこねていく。

「おっ、春奈ちゃんのその手つき、いいねえ」

「ありがとうございます!」

 さすがにもう二週間、毎日やっているんだ。だいぶ慣れてきたほうだとは、若干のうぬぼれもまじってるとは思うけど。でもそれでも、本職の人に褒めてもらえるというのはやっぱり嬉しい。

「これなら、売れるぞ?」

「そうですね。このパンを買ってくれたお客様が美味しく食べてくれるといいですね」

「大丈夫だ。きっと売れるさ」

 そう言い、肩をとんとんと叩く彼のお父さん。一見何気ない動作のようだけども、その肩たたきが不思議とわたしのことを安心させる。

 正直言えば、今この瞬間もこのパンが売れなかったらどうしようって内心では心配でしょうがなかった。だけども、彼の言葉を聞くだけで不思議と自信が湧いてくる。

「そうだな。みんなの思いを乗せたパンだからな」

 つられたのか、芦原までそんなことを言いだす。言い方が何となくポエマーチックだけど、いつもの芦原を知っているわたしからすればちょっとギャグっぽく思うけど――でも言いたいことはすっごく伝わる。

 ただそうは言っても、そこはやっぱり芦原家。

「それに比べてこのぼんくら息子は……」

「いちいち俺を引き合いに出すなよ!」

 だいたい俺の夢はサッカー選手であってパン屋じゃねえよ、と文句をいう芦原。あーあ、せっかくの良い雰囲気なのに。彼の口の軽さはやっぱり親御さん譲りなのかなぁ?

 ただそうは言いつつも、こんな朝早くから家業のお手伝いを文句も言わずにしているあたり芦原は良い子だなって思う。芦原のお父さんも口ではそう言いつつも、作業中は芦原のことをよく褒めているし。そういう暖かさがある芦原家はちょっと良いなって思った。

 まあ、別にうちの母さんの教育方針を批判するつもりはないのだけど――安藤家は割かし淡白な家だし。普通の親子ってああいう感じなんだろうか、ってちょっと思っていると。

「そうだ。なんなら俊吾のお嫁さんとして来ればいいのか」

 唐突に、芦原のお父さんが言い出した。

「ちょっ! 親父それはホントに勘弁してくれ!」

 そう言い豪快に笑う芦原のお父さんと慌てる芦原。しかも芦原は見る間に顔を赤くしているし。

 ……まあ、彼のお父さんなりの冗談だろうとは思うし真に受けてはいないけど、リラックスさせてくれているってことなのかな? だったら、ちょっとそれに乗ってみようか。

「それ良いですね! 俊吾くん、わたしをお嫁さんにしてちょうだい?」

 冗談のつもりだった。でもそう言うなり、ちょっとわたしも恥ずかしくなって。

 別に嫌って訳じゃないの。でも考えてみたら、芦原のお嫁さんとして二人でこのパン屋さんをやるのも悪くないかもって一瞬でも思ってしまったことに。

「春奈ちゃんまでそんなこと言い出してっ!」

「ごめんごめんっ! ちょっと調子に乗ったね」

「ホントだよ……」

 最後に彼がなんて言ったかは聞こえなかったけど、何だかこれはこれでちょっとバツが悪い。

「さて、気を取り直して仕込みだよ。手伝ってくれる?」

「お、おう。そうだな」

 そう言って意識を切り替える。だいたい、お店の開店時で50個は焼き上がってないといけないんだ。さっさと準備しないといけないんだから、芦原にも手伝ってくれないと困っちゃうんだよ……だなんて。

 おかしいね。誰が訊いているわけでも無いのね。


 ◇


 そんなわけで焼き上げる前の準備がひと段落して、コラボパンのたねを窯に入れる。

 焼き上がるまではちょっと時間が掛かるので、わたしたちはいったん休憩。そしてこのタイミングで。

「おはよー」

「今日は頑張ろうね!」

 わたし以外の料理部メンバーがやって来た。ちなみに、わたし以外はみんな夜遅くまでお店の飾りつけをやっていたせいかちょっと眠そう。

「それにしてもすごいね」

 ずっと厨房に居たからホールの装飾は何気に初めて見ることになるんだけど、それにしてもすごく凝った飾りつけが多い。店内には、1年生ズが作ったポスターがきれいに張りつけられているし、ホールの中心にはちゃんとコラボパン専用の売り場まで設けられていた。

 しかも何気に、コラボパンだけでなく他の製品にまで可愛らしいPOPがつけられているし。

「でしょ? 双葉ちゃんが全部作ってくれたんだよ」

「……楽しかったです。……眠いです」

「うん。双葉ちゃんは無理をしない程度に頑張ってね」

「はい」

 そう言うなり目をつむる双葉ちゃん。まさか立ったまま寝るなんてこと――しないだろうね?

 とは言いつつ、実際にわたしたちの手で本当のお店で料理を売ることになるとは……。目の前の現実は揺るがないものの、まさか会長から言われた部活動報告書の問題からこんな結果になるだなんて……本当に夢を見ている気分だ。

 そして、焼き上がったパンを売り場に並べている間に。

「お待たせ」

 眞子や1年生ズが、ホールの制服姿で現れる。アニメとかでよく見るメイド服ってほどではないけど、ふんわりとしたスカートにエプロンがとっても可愛らしくて、みんなして似合っていた。

 開店前に、最後のミーティングをする。

「それじゃみんな、頑張ろう!」

「うんっ!」

 今回販売するコラボパンの売り上げ目標は200個。この目標を達成するには、200個のパンを成形するわたしや結衣もそうだし、それを実際に売る眞子たち接客班の頑張りも必要不可欠。

 お店の外を見れば、既に何人かがお店の外で列を作っていた。

「お待たせしました! 開店でーす!」

 芦原のお母さんがお店の外で声を上げる。こうして、わたしたちの運命の1日が始まった。


 ◇


 芦原のお母さんの開店宣言と共に、お客さんが徐々にお店に入ってきた。

 みんなしてさっそく持ち場に着くものの、接客班はさっそく常連さんの方々に捕まってしまったようで。

「これはあなたたちが作ったパンなの?」

「あっ、はい。そうです」

「お米粉でもパンが作れるのねぇ?」

「それは……そうみたいです!」

 いつもこのお店に来ているような主婦の方々にとっては、いつもと違う雰囲気がどうしても気になってしまうのだろうか。4人して、コラボパンについて色々訊かれているようだった。

 開店直後にこの状況ということもあってか、1年生ズのみんなは早くもあたふたして忙しそうだった。しっかり者の文乃ちゃんでさえも、早くもテンパっているみたいだし。しかしその一方で、眞子は次々と話しかけるお客様にコラボパンを掴ませてはレジへと誘導していく。さすがはコミュ力お化け、可愛い顔をしてなんとおそろしい女か。

 そう考えれば、厨房は売れ行きに応じてパンを作ればいいだけだからある意味平和で気楽だ。パンだって次のやつが焼き上がるまでは、特にやることも無いし――というか朝イチから働いているんだから少しは休ませてほしい。そんなわけで対岸の火事と思ってぼけーっとホールの忙しさを眺めていたんだけど……。

「春奈、大変っ!」

 開店から15分も経たずして、いきなり眞子が厨房に飛び込んできた。

「どうしたの急に?」

 もしかして人手が足りないとか言わないだろうね? 確かに不慣れで大変ってのはあるだろうけど、そうはいっても4人はいるし芦原のお母さんも居るから何とかなるのではないだろうかと思うんだけど……。

「コラボパン、追加で焼いてくれない?」

「えっ?」

 予想とは全く違う一言に、思わず面喰ったような言葉を返すのだけど。

「えっ? じゃないよ。あんたが思っている以上にパンが売れてるのよ!」

「そんなバカな…………嘘でしょ!?」

 いやいや、開店直後で30個用意してたのにと言いつつ実際にホールを見ると本当にパンがかなり減っている。まさかとは思ったけど、コラボパン――わたしの想像をはるかに上回る勢いで売れていたのだ。

「次の焼き上がるのがもうちょっと掛かるから、それはすぐ出すっ! 待ってて!」

 そう言い、慌てて厨房に戻る。そして休む間もなく。

「芦原、成形手伝ってくれる? 結衣はこれの中にあんをどんどん詰めてって」

「はーい!」「ちょっと待て、俺もやるのか?」

「あっ、そうだ。お父さん、俊吾くん借りても良いですか?」

「おう、じゃんじゃんこき使ってやってくれ」

「あんたら、本当に人でなしだな!」

 知るか。その場に突っ立ってるあんたが悪い。なんてちょっと理不尽なことを思いつつ、二人に指示を飛ばして、わたしも生地を作ることに。

 もちろん、売り場に立つ眞子たちもたくさんのお客さんの対応で大変だっただろうけど、厨房も厨房でコラボパンの大量生産で早くも死にそうな状態だった。

 そもそも100個売れれば良いやってレベルでしか考えてなかったし、そんなに売れそうもないって思ってこの時点で50個しか作っていなかったのだ。それがまさかこんなに人気になるとは――。

「ちょっとハルちゃん、思ってたよりしんどいよこれ?」

「そんなのわたしに言わないでーっ!」

 そんなわけで、二人でひぃひぃ言いながらパンを大量生産するハメに。まったく、どうしてこんな目に合わないといけないのだ。これは……2週間前のわたしたちを恨むよ?


 ◇


「ありがとうございました」

 ホール側から最後のお客様を見送る声が聞こえる。とりあえずは、開店時のピークが引いたらしい。厨房側も、次のパンを窯に入れるまで終わってるし――一旦は落ち着いた感じ。

「つ、疲れた……」

「こっちも。死にそう……」

 眞子と二人でひぃひぃ息を切らしながら、ついイートインコーナーの椅子に腰かけてしまう。

「あらあら。眞子ちゃんも春奈ちゃんもお疲れ様。二人ともすごかったものね」

 そう言って、芦原のお母さんからペットボトルをもらう。

『ありがとうございます……』

 二人してお水を口に含んで、そう一言だけ。本当に疲れてしまい、そんな言葉しか出なかったのだ。それなのに、次の来客が休むことを許さない。

「やぁ」

『せ、生徒会長?』

 ピークが収まったかと思えば、今度は千歳会長がふらっと来店。正直放置してもいいやとは思ったけど、顔見知りだからむげには出来ないし。もちろん、どんなお客様でもむげにしてはいいわけではないんだけど。

 そんなわけで対応しようと立ち上がるんだけど。

「会長さん。いらっしゃいませ」

「うん。でも今日はオフできてるから『会長』じゃなくて良いのよ?」

「そうは言われましても……」

 わたしが行く前に、文乃ちゃんが進んで会長に話しかけに行っていた。フォローを入れようと眞子も立ち上がったけど、その手を掴んで止める。

「それにしても、みんな似合ってるね」

『ありがとうございます!』

 そう言って、文乃ちゃんについで桜子ちゃん、双葉ちゃんまでもが会長へ話しかけに行った。

「すごいね、1年生。会長に堂々と話しに行って」

 正直、驚いたというのが大きかった。やっぱり、初めてみんなと会長が出会った時に1年生のみんなが委縮しているのを目の当たりにしていたから。

 でも今の様子を見れば、そんな彼女たちがわたしたち以上に成長してるってことが明らかだった。彼女たちだって本当は疲れているだろうに、先輩以上に頑張ってて。

「で、ハルちゃんたち先輩チームはもうへばってるの?」

「へばってないです。ちょっとだけ、休憩してただけで」

「まったく……本当にしょうがない先輩たちね」

 彼女の言う通り。1年生たちだって自分たちなりに頑張ってるのに、わたしたちもいつまでも休んでいる場合じゃないよね。

「さて、じゃあコラボパンを2ついただけるかな?」

「ありがとうございます」

 そう言いつつ、焼き立てのコラボパンを詰めて彼女に渡す。

「じゃあ、頑張るのよ?」

 そう言いつつながら、優しい表情で手を振りながら去って行く彼女。その様子を見つめていると。

「すごいのは、会長もじゃないかな?」

 突然、眞子がそんなことを言いだした。

「いやいや、会長は元からすごいでしょ」

 武道の段位、合算して50段。成績は常に1位。生徒会長として常に学校に尽力している。並の人間じゃ、絶対に務まらないと思うんだけど。

「いや、そういう意味じゃなくてさ」

「えっ? そうじゃないなら、どういう意味」

 それ以上にすごいことってなんだろうって難しく考えてたけど、眞子の言葉は私が思ってるよりずっとシンプルなものだった。

「ほら、あの表情」


「会長、表情が豊かになったよね」


「……そうね」

 そう言いつつ、彼女の背中を追う。その背中には、かつての『鬼会長』の面影はなかった。


 ◇


 それからしばらくは、ピークを抜けたということもあって人の波は穏やかだった。

 ホール側ではお客さんが居ないときはみんなちょっとおしゃべりをしたり、座って休んでいるようだったし厨房側も割とまったりとしていた。芦原のお父さんからは、ちょっと早めのお昼ご飯ってことでピザトーストをいただいたりね。

 だけども、お昼時になるとそんなまったりもしていられず。

「来たよー!」

「やっほー! 上手くいってるかい?」

 お昼になったタイミングでお客さんが次々と来てくれるのだけど、その中にはうちのクラスメイトも何人か含まれていた。もちろん、2年生組だけじゃなくて1年生組のクラスメイトも次々と来てくれて、みんなしてコラボパンを買ってくれる。

「来てくれてありがとうね! コラボパンだけじゃなくて他のパンも買って行ってねー」

 もちろん、他のパンも買ってくれてはいるんだけど、そもそもコラボパン自体がそんなに準備していなかったしそこまで売れないだろうと睨んで少なめに作っていたから再び大忙しに。

 かといってクラスメイトが来た以上は、わたしや結衣も厨房に引きこもってもいられず顔を出さなくちゃいけないわけで。そしてそうすれば当然、作業時間がどんどん削られていく。

 もちろんパンが売れていくことは嬉しいことだから良いことなんだけど……身体がそれに追いつかないわけで。嬉しい悲鳴ってやつだ。

 その後もパンを作っては焼いてってのをひたすら繰り返す。昔よりも作業自体は手慣れてきたとは思うけど、いかんせん量が多すぎてちょっとだけしんどい。特に昼間は戦場って言っていた通りでかなりしんどい。焼いても焼いてもすぐにパンが無くなってしまうのだから、大変以外の言葉が出なかった。ってか、もうしゃべる余裕すら無かったね。

 そんなわけで、コラボパンは早くもお昼過ぎには完売御礼。本当は、料理部の活動的にここで終わりにしても良いんだろうけど――。

「もし出来たら、こっちのパンを焼くのも手伝ってくれるかな?」

「了解です!」

 せっかく芦原ベーカリーに協力してもらったのに、ここで帰るというのも失礼な話だ。というわけで、コラボパンは作らない代わりにいつものパン作りのお手伝いに。もちろんホール側もコラボパンではないパンを売ることに大わらわ。こんな状況で休むゆとりなんか全く無くて――。


『疲れたぁ……』


 日も沈みつつある夕方。ようやく、全てのパンが売れて閉店ということになった。

 わたしたちは一足先に仕事を上がることになったんだけど、更衣室に入るなりみんなして机にもたれかかっていた。

 本当ならば、制服を返さないといけないのでさっさと着替えたりしないといけないんだけど……。

「ほら、みんな着替えようよ……」

 一応後をわずらわせてもアレなので、みんなにそう言ってはみたものの。

「分かってますけど……あと5分だけ休ませてください」

「そんなこと言うなら、ハルちゃん先輩から着替えればいいじゃん」

 みんなしてそう言っては、起き上がろうとはしなかった。言い換えれば、それだけ一日が壮絶だったということ。すっごく良い経験をさせてもらったとは思うけど……。

「あれだけ働いて、まだ作業が残っているんだね」

「パン屋さんって、オシャレな仕事ってイメージばっかりだったけど意外に大変なお仕事なのね」

「本当にね」

 ため息をつきながら、眞子と結衣がそう言い合う。確かにその通りだと思う。ちなみに、芦原のお母さんやお父さんは閉店後だというのにお店の売り上げ計上やら厨房の掃除やらでまだ作業をしているみたい。

 毎日やっているから慣れっこといえばそれまでなのかもだけど、それにしてもすごい体力だ。やっぱり何事も憧れだけでは通じないんだなぁって思った。

 そんなわけで、あと5分って言いつつみんなしてだらだらと机にもたれかかっていると。

「おっ、どうしたみんなして。若いのにへばっちゃって」

「ちょっとお父さん! みんな初めてなんだから空気を読みなさい。それにしても、みんなお疲れさま」

 閉店作業を終えたのだろうか。芦原のご両親が、更衣室まで来てくれてねぎらいの言葉を掛けてくれた。

「いえ、こちらこそお疲れ様です」

「今日はありがとうございました」

 料理部を代表して、わたしと結衣であいさつをする。これは、たくさん協力をしてもらった以上当たり前のことだ。それなのに……。

「どういたしまして。それとこれは……」

 そう言うなり、芦原のお父さんから料理部一人一人に茶封筒が渡される。

「開けてみて」

 何だろうか。わざわざ茶封筒に入れて渡すもの――まあ、一日こうして働いていただくものなんだからなんとなく予想はつくけど。

 みんなして神妙な面持ちで開けてみると、中からは……まあおそらくアルバイトの給料という意味での現金が。それでも、1000円札の枚数が結構多い気がする。

「い、いただけませんよ……こんなにたくさんは」

 結衣が恐ろしいものを見たと言わんばかりの顔で慌ててふたをする。こういうところは、生真面目だなって思ってしまう。まあわたしも、料理部の企画に協力していただいたのにお金をもらって良いのかとはちょっと思うし。

「そうです。料理部の企画にご協力いただいたのに、お金までいただくなんて」

「そんな難しいこと考えないで良いんだよ。今日頑張ってくれた分としてのお給料なわけだし、これを今後の活動に当てるなり勉強代にするなり、なんならみんなで遊びに行けば良いじゃないか」

 そっか。だったらここは――。

「ありがとうございます!」

 受け取るべきだと思う。ただのお金って思ったら確かに、受け取って良いかって悩んじゃうかもだけど。

「どういたしまして。それと、たまにはうちのパンを買ってくれよ」

『はい!』

 なるほど、これは――一本取られたかも。芦原と違って、商売上手なお父さんだ。

 ともかく、そんなわけでわたしたちのコラボメニュー企画は大成功の内に幕を下ろすことになったのである。

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