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僕は女の子になりたい。  作者: 立田友紀
6. 若葉ガールは夢を見る
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84.「崖っぷちの料理部(前編)」

 それはまさに、眞子との東京お出かけデートに浮かれている最中の出来事だった――。

「んで、あなたたち三人を呼び出したわけなんだけど」

 2年2組の教室前で、わたしたちは生徒会長にお呼び出しを受けていた。

 ちょっと前に料理部に会長を招いて、それ以来笑顔を見せる機会が多くなっていた生徒会長だけど、今回ばかりは顔つきがいつもよりもずっと険しい。いくら親しい仲だといってもこうやって険しい顔をして呼び出しを受けるだなんて、何かまずいことをしでかしてしまったような気がしてならないのだけど……。

「どうしたの、会長? 顔が何か険しいようなんだけど」

「何か困ったことでもあったんですか、会長さん?」

 しかし、先の東京デートで浮かれているのか眞子も結衣も能天気に会長に訊ねる。まったく君たちはどうしてそんなゆとりのある様子で居られるのだろう。これ、どう考えても会長は怒っているような気がするんだけど。

「まあ、困ったことといえば困ったことだけど」

「そうなの? じゃあ――」

 そう言って眞子は、ポケットから東京みやげのお菓子を彼女に手渡す。

「悩んでるときは甘いものだよ! 会長さん」

 いやいや、なんでここでそうなるのよ。どう考えてもこの状況から察するに、わたしたちが困ったことの主犯だと思うんですけど。

「そうよ。何か悩みがあったら私たちも相談に乗るからね?」

「そ、そう? じゃあいただこうかな」

 なのに結衣まで眞子のペースに乗っかってしまって。しかも会長まであっさりと受け取っちゃうし……。なんか怒られるであろう立場なのに、これでいいのかなってちょっと思ってしまったのだけども。

「ってそうじゃなくて! つい丸め込まれかけたけど、そんなために来たわけじゃ無いんだから!」 

 久しぶりに会長のきっつい一言に首をすぼめてしまう。いや、分かってはいたことだしやっぱり言われると怖いけど、でも眞子たちにあっさりと丸めこまれたりしなかったという意味ではちょっと安心したり……。って、なんか叱られてるはずなのにどうしてこんなこと考えているのか。

 もちろん、会長の言葉でやっと事態の重さを把握したのか結衣も眞子もまたわたしと同じように首をすぼめていた。やっぱり、類は友を呼ぶというのは当たりなんだね。

「まったくもう。せっかく仲良くなったのに、あんまりガミガミとは私だって言いたくないんだけどね」

 ため息をつきながら、彼女は持っていたファイルから一枚の書類を取り出す。よく見るとそこには『部活動活動報告書』という題字が。

 詳しく話は聞いていないとはいえ、どうして彼女がこんなものを持ち出してきたのかくらいはさすがに察しが付く。

「まさかとは思うけど……うちの部活、出してない?」

「ええ、そうよ」

「結衣? これって見たことある?」

「……しまった、忘れてた!」

 わたしが会長に問いかけたところ、どうやらうちの部活。この書類を出してなかったらしい。しかも眞子が結衣に訊ねたところ、部長の結衣自身が存在をすっかり忘れてたみたいで。

「……はぁ。そんなことだろうと思ってたよ」

 そう言って会長は結衣に書類を渡して続けた。

「あのね。私のことを友達として扱ってくれたりしたことは、すっごく嬉しく思ってる。でもね、だからと言ってこういうので特別扱いをすることはできないの。それは、3人とも分かるよね?」

『……はい』

「それに、私が居るうちは色々手を掛けてあげることが出来る。けどそれも、もう長くはないのよ?」

 その言葉に込められたメッセージに、ハッとする。

 そっか、会長は3年生で近いうちに卒業してしまう。そうしたら次に下級生を引っ張るのは、わたしたちの代なんだ。それなのに、いつまでも出し忘れましたなんて凡ミスが通用するわけじゃない。

 それに会長とわたしたちは確かに仲が良いのだろうけど、だからといってやらなくちゃいけないことを疎かにして良いわけも無いんだ。

「……ちなみにユキちゃ。会長。提出の期限はいつまでになりますか?」

「そうね。期限はずっと前に過ぎちゃってるけど、かといって昨日の今日で出来るわけも無いよね。だから、とりあえず3日でいったん提出してちょうだい。一旦生徒会で処理を通すから、その後にもう一度正式版を出してもらえばたぶん大丈夫ね」

「分かりました」

「3人とも、しっかりしてね。あなたたちが、この部活の柱なんだから」

 そう言って会長は立ち去っていく。

 前と比べてトゲみたいなものは無くなったけど、やっぱり厳しいのは相変わらずみたいで。でも前までのような無機質な厳しさというよりは、今のそれは厳しさの中に優しさがいっぱい詰まっているようだった。

「……そうね。いつまでも駄弁ったばかりの部活じゃダメよね」

「確かに。わたしも、反省しなきゃね」

「わたしたちが、頑張らなきゃだよね」

 確かに叱られたというのはちょっとへこむけども、かといっていつまでもそうしてはいられないし週末のことで浮かれているわけにもいかないんだ。それに3日以内に何かを書いて提出しないといけないわけでもあるし。

 そんなわけで、3人で話し合うべく教室へと戻ることにした。


 ◇


「おっ、三人とも戻ってきた! って、怒られたのか?」

 教室に戻るなり、早速芦原に話しかけられる。そういえば、ちょっと前まで東京に行って来たって話で芦原と他のクラスメートで盛り上がってたんだっけ。

「怒られたって訳じゃ無いんだけどね……」

「まあ、会長にお呼び出しを受けたってことから察してちょうだいな」

 そう言いつつ、わたしと結衣で今回の出来事について簡単に説明した。ついでに結衣が、会長から受け取った書類を芦原に見せる。

「あぁ、この書類か。そういえば見た覚えあるな」

 書類を掴むなり、深くうなづく芦原。そう言えばこの人、忘れかけてたけどサッカー部の部長だったはず。もしかしたら、書き方のヒントとか知ってるかもしれない。 

「そいえばあんた、サッカー部の部長でしょ? 何書いたの?」

 せっかく近くにいるのだから活用しない手は無いと、つい訊ねてはみたものの。

「それが俺も何も書いたか覚えてなくてさぁ」

「はぁ、聞いたわたしがバカだったよ」

 そうだよね。だって芦原だもんね。そりゃ何かを聞いたところで良い答えは返ってこないだろうさ。はぁ、分かってはいたけど思わずため息が出てしまうよね。

「でもあれだよ。確か、部活動でどんな活動をしたかを書くんだよ」

 とはいえ全くアテにならないというわけでもなく、珍しくちゃんとそれらしいことを言ってくれた。

「例えば?」

「そうだなぁ。俺らだったら、練習試合とか大会の戦績とかそういった感じだな」

 結衣の問いかけに、芦原が答える。サッカー部の場合と前置きしつつも、例えば練習試合でどこの学校と戦ったかとか、市の総体などの大会でどこを目標として実際にどこまでの勝ち上がったのかといった成果を書いていけば良いようだ。

 それに、学校の部活動なんだから実際に必ずしもいい成果を出さないといけないというわけでもない。あくまでも目標を立てて活動をしたか、っていう観点に軸を置いているんだからそこまで気を張って書く必要も無いみたい。

「まあ俺らも言うほど大した成果は出してないから、まあ良きように書けばいいんじゃねえか?」

「あんたの口から『良きように』って言葉が出るなんてね」

「三春ってさ、ここ最近俺への当たりキツくないか?」

「気のせいじゃ無いかな?」

 あーあ。ちょっと目を離せばなんか眞子と芦原が軽くバトりかけてるし。芦原はともかく、眞子は事態の重要性に気がついているのかなぁってちょっと小言を言いたくなってきたよ。

「ともかく、サッカー部としての活動を聞けたわけだからそれを料理部に置き換えればいいってことよね?」

 そう言って結衣が、無理やり話を元に戻してはくれるのだけど。

「ただ、私たちに大会って無かったよね?」

 その言葉に、全員がだんまりしてしまう。

 いや、話に水を差すつもりは無かったんだ。でも実際に活動の様子を思い出しても――困ったことにここ最近真面目に料理をした記憶が無いのだ。最近のわたしと結衣と言えば、家庭科室でだべってお菓子をつまんでばっかり。眞子は眞子でファッション雑誌を持ち込んで読んでばかりだし、1年ズに至っては平然とゲームをやってる始末。一応文乃ちゃんが真面目にお菓子作りの本とかを読んでレシピとかを研究してくれてはいたけど、そんなの部活というか趣味のようなものだし……。

 ……うん、書けない。こんな体たらく。

「なんか大会とか無いのか? 料理の」

「それが中学校はそう言うのが無いのよね」

 高校生だと、そういうのはあるみたいだけどねと結衣が付け足してくれたけど――わたしたちは中学生なのだからその情報はあんまりアテにならないし……。

「しかもよく見れば、学校外の団体、人物と交流が出来たかってのも活動報告の重要な観点みたいね」

 眞子が指さしたところには、評価の観点が色々書かれていた。もちろん部活動の目的にあった活動をしていることも当然だけど、それだけじゃダメでやっぱり学校外でも交流を持ったりとか授業以外でないと出来ないことを達成できたかということが色々書かれていた。

 というか、文化部で対外活動ってなかなか難しくないかなぁ。わたしにはけっこう無茶な目標設定だと思うけど。

「まあ、部活動として学校からお金が出ている以上はしっかりとしないといけないってことかしらね。それが出来ないなら同好会でお好きにどうぞってことなんだろうし」

 結衣が淡々と言い放つ。確かに、部活動っていうくくりになっていて学校からお金が出ているというわけなのだから、お金が出るだけの成果は果たさないといけない。それが出来ないなら、同好会でも良いわけなのだから。

「せめて、手っ取り早く大会とかに出られればいいんでしょうけどね」

 腕を組みながら眞子がつぶやく。

「まあ、活動の実績にはなるからね」

 結衣が同調してうなづく。

 とはいえそんな都合のいいことなんてそうそう起こるわけも無いとは思うし。念のためスマートフォンで料理大会と調べてはみたけど……。

「一応調べたけど……無いね」

 うなだれつつ、スマホの画面を3人に見せる。とはいえ活動報告書には期限があって、何かは出さなくちゃいけないことは確か。最悪のプランではあるけど、これでも夏休み前までは毎週のようにちゃんと活動はしてたんだ。

「夏休み前までの出来事を書く。最終手段だけど、背に腹は代えられない」

 わたしたちの代はどうなっても良いんだ。でもいつかは、このバトンを文乃ちゃん、桜子ちゃん、双葉ちゃんに渡さないといけない。わたしたちの失策で、3人に大変な思いをさせるわけにはいかないのだから。

「……正気なの?」

「切れるカードが無いんだから、仕方ない」

 元はわたしたちのせいだし、最悪これで会長に叱られたときは――わたしが会長に謝って何とかしてもらうしかない。もちろん怒られるのは嫌だけど、まあこれで事態が丸く済むならそんなに悪い手でも無いはずだし。

 そう思っていたはずなのだけど――。

「なら、ウチ来るか?」

『はぁ?』

 突然のウチ来る? 宣言に思わずわたしと眞子は唖然とする。いや、そんなテレビ番組のタイトルみたいなことを言われてもさぁ。それに芦原の家を訊ねてもどうにかなるようには思えないんだけど。

「そういえば、俊ちゃんの家はパン屋さんだったね」

 いや、前言撤回。思い出すように結衣がうなづいていたけど、そういう情報はもっと早く出してよ……。

「えっ……嘘でしょ?」

「嘘言ってどうするんだよ……。まあうちの実家、パン屋なんだよ。そのせいで土日は俺とか姉貴がこき使われてさ、まあロクでも無いんだけどな」

 あぁ、実家が自営業の家だとよくあるやつだよね。食堂とかだったりすると、たまに忙しい時間に皿洗いさせられたりお客さんにご飯出したり手伝わされるんだよね。お小遣いが出るならともかく、大抵は「手伝えっ!」っていう親の強権で手伝わされるわけだしね。

 ただ――。

「あんたの家がパン屋ってことは分かったけど……でもそれとこの料理部のピンチがどう関係するわけ?」

 眞子がわたしの代わりに訊いてくれたけど、芦原家に行くことと料理部の活動が結びつくような気がしなくて……。わたし自身もうーんと首をかしげながら芦原のほうを見つめるのだが。

「要は、何かしらの活動をすればいいんだろ? だったらさ……」


「春奈ちゃんたちの手で、うちの新メニューとか考えれば良いじゃねえか?」


 ……えっ? わたしたち料理部が、パン屋さんの新メニューを考えるってこと?

眞子の問題がひと段落かと思いければ、次は料理部にも問題が?

まともな活動をしてこなかった分のツケが回ってきて大ピンチな料理部。この状況を、春奈たちはどう乗り切るのか? 次回に続きます。

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