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僕は女の子になりたい。  作者: 立田友紀
5. 若葉ガールと新たな出会い
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53.「新たな旅立ち」

◇第4章までのあらすじ◇

 ついに春奈のもとに初経が訪れた。

 急速な身体(カラダ)の変化。急速な精神(ココロ)の変化――さまざまな変化に追い詰められてしまうなかで、さらに母である佳奈との関係も壊れてしまう。

 痛みに耐えつつも、女性として生きようと覚悟を決める春奈。男の子として育ててきたにも関わらず、急速に女の子になりつつあることを受け入れられない佳奈。春奈の幸せを一番に願い、常に春奈のそばに寄り添い続けた秋奈。

 三者の思いが激突した末に安藤家の出した結論は――『ありのままで良い』ということだった。

 朝が来た。

 9月1日の、朝が来た。

 外はまだまだ蒸し暑くて、日の光が身を焦がすようにじりじりと街を照らす。だけども、そんな暑さが今は不思議と心地よかった。

「今日も暑くなりそうね」

 天気予報を見ながら独り言つ。母さんは、今日は非番で今も爆睡中。秋奈もまた眠いと言って二度寝中。そんなわけで、一人でご飯を食べる。

 ご飯を食べた後は、クリーニングしたてのまるで新品のような制服に身を包む。この夏で幾分か伸びた髪はシュシュでまとめた。洗面台の鏡を見ながら、リボンの位置を慎重に整える。女子たるもの、細かな場所にも気を遣うべきだ。

 そんなこんなで準備を整えていると、秋奈が顔を洗いに洗面台に現れた。いや、秋奈だけじゃなくて……。

「ハル姉おはよー」

「おはよう。早いわね」

 今日は、秋奈だけじゃなくて母さんもお寝坊さんみたい。二人して同じ場所で寝グセが爆発していた。

「二人ともおはよう。ご飯はダイニングに置いてるから各自食べてね。秋奈は、気持ち焦った方が良いかも」

 眠そうな顔をしながら二人してうなずく。うなずき方といい、寝グセの爆発の仕方といいやっぱり母娘なんだなと思ってしまう。

「うん。ありがとう」

「まあ、あたしは食べずに学校に行くんだけど……」

「それはダメ。お姉ちゃんは許しませんよ」

 そうやって、秋奈のおでこに指をあてて念押しした。別に大したことは無い。ただの姉妹でのスキンシップつもりだった。

「どうしたの春奈? 今日はいやにハイテンションね」

「姉ちゃん、何か悪いもの食べた?」

「えっ、なんであたしがおかしいみたいな雰囲気醸し出してるの? いつも通りじゃない!」

 それなのに、どういうわけか家族二人が変なものを見るような目でわたしを見つめてくるのだ。そんなに言うほどテンションというか調子がおかしいのだろうか。わたしはいつも通り振る舞っているだけなのに。

「あっ、まあ良いや」

「何その諦めたような一言。何か納得できない」

「良いから行ってきなよ。あたしたちは自分たちで何とか出来るから」

「まあ、いいけど」

 何だか腑に落ちないけど、気にしても仕方ないか。ともかくである。

「じゃあ、行ってきます!」

 別に元気である必要も無いのだろうけど、二人に手を振りながらそう告げる。

 今日から二学期。二学期は、一体どんなことが起こるんだろう。そんな期待を胸に膨らませながら、わたしは学校へと歩き始めた。


 ◇


「……まあ、こんな感じだよね」

 とはいえ、二学期への期待を胸に膨らませたところで二学期の初日に何が起こるわけも無く、普通に全校集会が終わるとあとはホームルームだけやって帰っていいということになった。

 まあ確かに、夏休み明け初日から授業をやっても夏休みボケしまくっているわたしたちに授業の中身が入るとはちょっと思えないしそういった意味では妥当な判断と言えるのかもしれない。

 とはいえ、本当に何もないまま一日が終わったのかと言えばそういうわけでもなく……。

「そっか、グラン・マルシェ行って来たんだー。でも宮川と一緒って言うのが意外だよね」

「分かる。あいつそもそも女子に興味なさそうだし」

「不良こじらせて彼女出来ない=年齢にならなきゃ良いけど」

 ……女子にしては少々お口が悪いような気もするっちゃするけど。でも、これまで学校で話し相手がいなかったわたしにも、いつの間にか話し相手が出来ていたのだ。

 もちろん、友達といえるかは微妙な関係だとは思う。でも、夏休み中は眞子や結衣以外の友だちとはまともに話してないし、そもそも男だったときはまともに話せる話し相手も居なかったからこういうのは何だかんだ新鮮だし楽しかった。

「まあでも、宮川も何だかんだで楽しんでいたよ。ね、眞子?」

「そうね。あいつ意外に笑いの沸点が低いのよ。普段はとても笑わなさそうなのに、映画館ではじゃびっくりするくらい笑っていたし」

「あら、正ちゃんは結構笑うタイプよ?」

「おお、結衣っちが言うと説得力増すよね」

「さすが幼馴染み」

 そう言って、再び盛り上がる。

 当たり前と言えば、当たり前の光景なのかもしれない。でもそれが、今までのわたしには。僕にはどうしても手に出来なかった。クラスのみんなから爪はじきにされ、自分で打ち解けようともせず、わたしは孤独のままに男であることを終えた。

 思えば、これこそがわたしの身に訪れた「変化」ではないだろうか。そうか、「変化」っていうものは何も大きな話でなくてこういう小さなところに転がっていたのか。

「……なんか、納得かも」

「どったの安藤ちゃん」

「いや、何でも」

 二学期は、始まったばかりだ。わたしはこれから、どんな変化をしていくのだろう。登校していた時に膨らませていた希望は、確信へと変わった。そんな瞬間だった。


 ◇


「さて、新学期早々のホームルームだが今年の体育祭の応援団を決めようと思う」

 担任の先生が教室に入り、そう告げた。

 どうやらその直前まで臨時の職員会議があったようだ。まあ実際夏休み明けにやることなんて無いし、ホームルームも議題が無ければただの無駄な時間だ。そう言った意味では妥当な時間の潰し方なのだろうけど……。

「――うわぁ」

 クラスのみんなが、体育祭。世間でいうところのいわゆる運動会に向けて浮足立った雰囲気を出しているにもかかわらず、結衣だけは露骨に嫌そうな顔を浮かべていた。というか、隣のわたしにぎりぎり聞こえるか聞こえないか程度だったけど、明らかに不服そうな声を出していたし……。

 まあ、わたしほどじゃないけど結衣も結構な運動オンチだし体育祭ってイベントそれそのものを嫌ってる節もあるからなぁ。

 そんなわけで、結衣受難の時だと思わず苦笑いを浮かべていると。

「というわけで中村、あとはよろしく」

 驚くことに、結衣にとって嫌いなはずのイベントの役員を決めるという役割を押し付けられたのだ。

「ちょっと! 丸投げですか?」

「丸投げも何も、お前は委員長だろうが。特にやることも無いし、ホームルームの時間目いっぱい使っていいから応援団員を決めてくれ」

「これまたアバウトな……」

 溜め息をつきながら、やれやれと言った表情で結衣は教壇へ立つ。結衣にとっては嫌いなイベントであっても、委員長である以上はやるしかない仕事だ。

「じゃあ、応援団決めるんでやりたい人手を挙げてください」

 ……やけくそだ。

 後ろの席にいる眞子と、二人でアイコンタクトをする。そもそも委員長って仕事自体、結衣が好き好んでなった仕事ではなくて押し付けられたものだと聞いている。なんというか、結衣ってつくづく不憫な子である。

「えぇ……」

「なんかそう言われると難しいよね」

 おまけに、やけくそ結衣が応援団を決めようとしてもクラスメイトたちは誰も立候補しようとはしない。誰かやりそうな人がいるのか周りを眺めたけど、皆さんはお互いにやったほうが良いんじゃない? と押し付け合う始末。教室の端っこを陣取っている宮川に至っては授業じゃないことをいいことに堂々と居眠りしてるし。ついでに先生も舟をこいでいた。おい教師、仕事しろ。

 もっとも、押し付け合うと言ってもギスギスしたものではなくてのほほんとのんきなものだからまだ雰囲気としては救いようもあるけど、この中から誰かを選ばなくちゃいけない結衣にとってはたまったものではないのだろう。

「ちょっと! 本当に誰も居ないの?」

 結衣自身も怒り半分呆れ半分の声で問いかける。そう言えば、去年は結衣と違うクラスだったはずなんだけど……なんだろう、このデジャブ。見たことが無いはずなのに、去年もこんな光景が繰り広げられていたような気がした。

「じゃあ俺がやろうか」

 そんなとき、救いの手が上がった。差し出された、ではない。本当に物理的に手が上がったのだ。

 誰だそんな勇者様は……とつい挙げられた手の根本を見つめるのだが。

 ――うわー。あいつか。

 率先して手を挙げたのは、よりによってクラスのおバカ男子チームのリーダーこと芦原俊吾だったのである。うん、率先してくれるのは嬉しいけど普段の言動や行動を見てるとこの人に任せて良いのかついつい不安になる。

 不安どころか、眞子は……露骨に眉をひそめているくらい。何だか嫌な予感がするぞ。

「春奈は平気なの?」

「平気ではないけど……」

 嫌な予感はするけど、断定はできないし何とも言えないところ。というのも、応援団以前に去年の体育祭は騎馬戦で酷い目にあったことしか覚えてないのだ。体重が軽いことで、タックルされて吹っ飛ばされて地面にたたきつけられたという。

 ……うっ、思い出すだけで去年の全身擦りむいた痛みが思い出されたよ。

「まあ、去年もやってたものね。じゃあ、一人目は芦原君で良いとして」

 やってたんだ。そして眞子のあの反応――相当なカオスだったのだろう。ともかく、一人目は無事決まったみたいで結衣も若干安堵したという表情で黒板に芦原の名前を書いていた。

「はい、じゃあもう一人。ところで先生、各クラスで何人でしたっけ?」

「あーっと、一応2名は最低でも出してほしいって職員会議では決まったぞ」

 思い出したかのように言い出す先生。何というか、ちょっと適当すぎやしないだろうか。だいたい、職員会議の内容を生徒に聞かせてはいけないはずだし、こうして話を進めている間にも先生自身があくびをして居眠りするくらいだし……。

 なんか、男だった頃はゆとりが無かったからこういうの分からなかったけど、ゆとりを持つと意外な一面が見えるものだなぁ、と感じた。ちなみに言うまでも無いけど、今の意外ってのはもちろんいい意味では無い。というかこれでいいのか教師と言うのが本音ではある。

「ではもう一人いませんか?」

 先生の様子に呆れたのか、結衣はさっさともう一人を選び出そうとした。

 一人立候補したのだ。二人目も出やすい、ってきっと考えたのだろう。わたしも同じ考えで、こういうのは最初の一人の壁さえ超えれば誰かが妥協して立候補してくれると考えてはいたのだが……。

「えぇ? 誰も居ないの?」

 なかなか上手くいかないもので、二人目がなかなか手を挙げてくれないのである。クラスメイト達は、お互いに静かに牽制し合うばかりで、誰も立候補しやしない。かといってわたしが立候補するのかというとそういうわけでもなくて……。

 せめて体育祭とかで無ければ、わたしの出来る範囲で出てもいいかとは思う。ただ、やっぱり体育祭となるとその……。

「……ハルちゃん、手を挙げてくれないかなぁ」

 チラッ。そんな顔文字が出てきそうな表情で、結衣がこちらを見つめてくる。まさかこっちに火の粉が飛んでくるとは……。

「えっ、なんでわたし?」

「だってこのままじゃ誰もならないよ?」

「それは……そうかもだけど」

 そんなのアリかよ。なんでよりによってわたしと思ったけど、結衣と友達である以上こういうことは十分に起こりうることだ。結衣だって人の子。大して仲の良くないクラスメイトを指名するよりは、わたしのほうが声をかけやすいというのもあるのだろう。

 でも、それにしたってあまりに無茶ぶりじゃないか?

「おっ、安藤さん出ちゃう系?」

「良いんじゃない? よその応援団員をメロメロにしちゃえ」

 しかも、結衣の直々のご指名とあってか他のクラスメイトの魔の手がここぞとばかりに襲い掛かってくる。

「ちょっ、わたしがやるの?」

 思わず声が裏返ってしまう。だけども結衣のちょっとした「チラッ」攻撃が、思わぬ形でクラスメイト達の気持ちをまとめ上げ、恐ろしいほどのパワーでわたしに降りかかってしまった。

「えっとその……いや、わたしはやらないよ? だいたい、向いてないじゃない?」

 もちろん、流されてやったところでわたしにそこまでの能力というか適性は無いわけだしそれでみんなを失望させるくらいなら最初から突っぱねてでもやらないという路線を貫くつもりだ。

 だけども、転校以来。いや、正確に言えば転校したわけじゃないけど、女子としてこのクラスに潜り込んでからはクラスのアイドル的な立場になってしまったものだから、こういう時の巻き込まれ方は地味にえげつない。

 なんというか、クラスの同調圧力には勝てないのである。

「えぇ……ノリが悪いよ」

 クラスの女子の誰かがそんな声を上げた。

「いやさ、わたし結構運動オンチなのはみんな知ってるでしょ? 応援団って毎年ダンスやってるのに、そんなことわたしにできると思う?」

「あぁ、そういえば……」

「言われてみれば……」

 何人かが納得をしたかのような反応をとる。 

 実際、わたしの運動オンチは筋金入りだ。もちろん、男だった頃と比べると相対的に運動オンチ度はマシになった。けどそれは、平均の基準が女子のレベルに落ちたからってだけの話であって、恥ずかしながらボール系は未だにダメダメだしジャンプ系や走る系もかなり苦手。

 一方で、うちの中学校の応援は地味に高レベルだ。各応援団の、特に女子であればダンスをやることなんか朝飯前だし、年によってはアクロバティックなジャンプも含めたチアダンスさえやってしまうこともある。

 そんな環境に、運動能力マイナスのわたしが入って言ったらどうなるだろうか? もはや、お察し状態なのは想像に難くない。

「まあ安藤ちゃんの場合、まずボールが前飛ばないしね」

「確かに、運動神経にはちょっと難ありと言わざるを得ないかも」

「あはは……」

 わたしのあまりの運動オンチっぷりを思い出したのか、口々にそう言う。

 幸い、このクラスではわたしが都会から来た箱入り娘というかアイドルというか。ともかくそんな扱いを受けているから運動が出来なくとも何とかなっているわけなのである。

 しかし、それでもクラスメイトのみんなもあんまりでは無いだろうか。なんか、男だったとき以来久々に傷ついたぞ……。

「ともかく、そういったわけでわたしは無し。でも、手伝える範囲で協力するね」

「まあ、本人が嫌がっているなら無理強いするものでもないだろう」

 先生も、わたしのことを気に掛けてくれたのか助け舟を出してくれる。何というかこういうときは、やっぱり先生なんだなと感じて少し見直してしまった。

「うん。だから申し訳ないけどわたしはパスで」

 そう言って、上手いこと逃れられて一息ついた……かのように思われたのだが。

「先生、ちょっといいっすか?」

 そんなときに限って、わたしの平穏を崩す言葉がぽろっと出てくる。

「どうした? 芦原」

「……俺、どうしても安藤さんを応援団に入れたいんです」

 ん?

「えっ? ちょっと待て!?」

 今回ばかりは、頭の処理が思わず声に出てしまう。でも、仕方ないでは無いか。苦労して勝ち取った応援団員免除権が、このおバカによって揺らぎ始めているのだから。

「理由を聞いても良いか?」

「いや、聞く必要は……」

「確かに、安藤さんは運動が得意じゃないかもしれません。でも、応援団って何もダンスするだけが仕事じゃないですよね?」

 この野郎、まさかとは思うがダンスしなけりゃいいだろ的な理論でわたしを応援団員に巻き込もうとしてるな?

「まあ、例年はダンスが多いってだけで確かにそう言う決まりでは無いな」

「だったら、ダンスじゃない形で安藤さんの助けが欲しいんです」

 いや何言ってんだよ。確かにわたしはダンスを上手くこなせないかもとという理由でかわしたのは事実だけど、だからといってダンス以外なら完璧に出来るとも言ってはいないぞ? 

 というか……。

「ちょっと待て。先生に直談判する前にまずわたしに話を通せよっ!」

 順序が違うだろこの脳筋野郎。せめてわたしに相談してからそういう提案をしろよ。なんで本人不在で話が進んでるんだよ。

「だから今この場で言ってるじゃんよ」

 ああ、頭が痛くなってくる。どうしてこうもバカは話が通じないのか。そうじゃなくてちゃんとわたしと一対一で話せって意味なのに。でもまあ、その意図を分からせようとする前に。

「彼女は、転校生です。俺たちには持ってないものを、多分知ってると思うんです」

 バカによって話は強制的に進むのである。というか……確かに転校生扱いされているのは事実だけど、そんな大層なものは見たこと無いし、お前らとみてるものはそう変わらないはずなんだが?

「待て待て、確かに転校生だけどもそんな大層なものは知らないよ?」

「いや、きっと知ってる。俺がお前から見つけ出すから」

「何言っちゃってんの気持ち悪いなぁ」

 本当は言ってはいけないことなんだけど、遂にドストレートの悪口が出てしまった。いや、言っちゃいけないことだとはわたしも分かっている。それでもさすがに今回ばかりはわたし自身もけっこうな怒りが混じっていたのだ。

「ともかく、わたしは大反対!」

「先生、どうか……」

「……と言われてもだなぁ。中村、お前はどう思う?」

 わたしと芦原の板挟みに困ったのか、ついに結衣に助けを求める先生。いやいや、教師ならそこはガツンと言って欲しいところなのだが……。

「私は、芦原君の言うことも一理あるとは思います」

 結衣に判断を投げたあげく、結衣までもが芦原の肩を持ったのだ。というか親友よ、ちょっとはわたしの肩を持ってくれても良いんじゃない?

「ちょっと、裏切るのか?」

「裏切ってないよ。今回ばかりは芦原君の言う通りで、ハルちゃんにとっていい機会なんじゃないかなって思ってて」

 厄介なことに、結衣は悪気無く芦原の肩を持っているのである。悪気が無くて、彼女なりにわたしを持ってくれているぶん、怒りをぶつけるわけにも行かず……。

「そうか。じゃあもうクラス全員に聞くか。ちょっとみんな目をつぶって、安藤がふさわしいと思う人だけ手を挙げてくれ」

 ついに究極の民主主義というか、クラス全員による直接投票になってしまったのだ。なんでこんな大事になってしまうのか。わたし以外の誰かを選べば済むだけの話なのに。

 ただ、そうはいっても救いどころはある。目をつぶれば、他の人の考えは分からなくなる。そうすれば、忖度というか協調という名の圧力はきっと起こらないわけだし、素直な気持ちで、みんな手を挙げないでいてくれるはずだ。

「よし、じゃあ挙げてくれ」

 まあこれで、芦原のバカの暴走も止めれるだろう。そう高を括っていたのだが。

「……驚いた、安藤以外全員手を挙げたぞ」

「はぁ?」

 誰かが手を挙げないどころではない。この中の全員が目をつぶっていたはずなのに、どういうわけか全員が手を挙げやがったのである。

「お前ら期待を裏切らないね! なにこれ、みんな無意識のうちに意識でも共有してるの? テレパシーなの?」

 思わずツッコミの言葉が口から出てしまう。だが、突っ込んだところでこの選挙結果が変わるわけも無くて。

「……というわけだ。すまんが安藤、ちょっと応援団に入ってはくれないか?」

 おまけに、無理強いはよくないと言っていたはずの先生までそんなことをのたまう始末。

「みんなもこう言ってくれてるんだ。だから春奈ちゃんさ、応援団に……」

 そう言って、やつは右手を差し出す。だが今は、その右手さえ憎くて仕方が無くて。とはいえ彼を殴るわけにも行かず……。

「う、裏切り者どもめぇぇえ!」

 教室の真ん中で、ついそう吠えるしか無かったのである。

遂に始まりました、新章です。長く続いたシリアスとは一転し、この章では春奈の日常がストーリーの根幹になってきます。とはいえ、第2章までの平穏な日常が続くかと言うと、そういうわけでもないようで。

早速、体育祭実行委員に巻き込まれた春奈はいったいどのようにふるまうのでしょうか。次回に続きます。

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