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僕は女の子になりたい。  作者: 立田友紀
4. 若葉ガール、始まりの時
54/129

Ex.「母親の苦悩」

「お疲れ様です」

 誰も居なくなったオフィスに一言声を掛けてから、オフィスを後にする。時計を見れば、既に時刻は夜の11時を指していた。会社の前にある大通りも、さすがにこの時間は車の数がまばらで、人っ子一人居ない。それなのに私は、そんな時間になるまで平気で仕事をしている。

 ――社畜、ってやつなのか。

 周囲を見つめつつ、一人で自問自答した。

 今どきの若者たちには流行りの言葉だとは前々から聞いてはいた。でもそれは、彼らとは一回りも二回りも違う私には別次元の話にしか思っていなかった。家族を守るため。大切な子供たちにひもじい思いをさせないために……そう信じて働いてきた私にとっては。

 だからこそ、今日後輩に言われたその一言がショックだった。

 ――先輩は働きすぎです。ちょっとはお子さんのことも顧みてあげてください。

 それは、まるでその直前までの我が家の状況を見透かしたうえでの言葉みたいで。そして、そんな混乱した我が家から逃げ出すように仕事に没頭した私を諫める言葉みたいで。

 春樹の気持ち、秋奈の言葉――どれも正論だ。でもそれが、私の知らないところでトントンと進んだことがどうしても受け入れられなくて。そして、ああいった手前、今さら家にも帰りづらく……。

「……はぁ」

 この時間から空いている店はあっただろうか。もういっそ夜通し飲んで飲んで酔いつぶれて、記憶をすべて失ってしまおうか――なんて考えてしまう。だけどもこんな田舎町で、夜遅くまで飲み屋が開いているはずもなく。

 ……いや、あるか。一件だけ。

 最後に行ったのは、もう5年くらい前。その店が今開いているとも限らない。だけども、今日は家に帰れないのだ。だったら、例え開いていなくても良いじゃないか。開いてなかったら、深夜の公園で一人で飲んで潰れてればいいのだから。

 そんなやけくそな気持ちを抱きながら、私は深夜の街をひた歩いたのだった。


 ◇


 歩くこと30分くらい。日付が変わるか変わらないかの頃合いで、目的の店に到着した。外観はコテージというかロッジハウスみたいな感じで、5年前と変わらず洒落(しゃれ)ていると思った。窓から漏れる明かりが、まだ営業中ということを暗に示している。

 久しぶりの入店に緊張しつつ、扉を開ける。カランコロンとベルの音が鳴り響くと……。

「いらっしゃい。……ってこれまた珍しいお客さんだねぇ」

 そこには、私がよく見慣れている(・・・・・・)人があの時と同じようにカウンターに立っていた。

「久しぶりね、のぞっち」

「カナちゃんこそ……ってまさか今まで仕事?」

「ええ、まあ」

 そう相槌を打ちながら、周囲に人が居ないことを確認してカウンターの真ん中に陣取った。というか、私以外客が居ないというのは、休日のバーとしてはいかがなものなのだろうか。

「そっか。……出世するのも考え物だね」

「そういうあなたこそ相変わらず閑古鳥じゃない。店が傾かないのが不思議なくらい」

 苦笑いしながら皮肉る友人に。いや、悪友にそう仕返しをする。だが彼女は、そんな仕返しには全く動揺していないようで。

「入店早々、ずいぶんとひどい言葉を言うねぇ」

 そんなことを言いながら笑いつつ、冷蔵庫から適当な食材を取り出したのである。

「で、今晩は何をしに?」

「ちょっと一晩飲み明かそうと思ってね」

「さらりと営業妨害宣言したね」

 どうせそんなこったろうと思ってたよと言いながらも、彼女はすぐに生ハムとチーズの盛り合わせを出してきた。そういうところは、やっぱりバーのマスターが板についてきたってところなのだろう。そんな彼女を見て、ますます空虚感にさいなまれてしまう。

 確かにのぞっちのお店は閑古鳥が鳴いている。世間から見れば、決して有名なお店ではないのかもしれない。でも彼女は、自分の人生を謳歌している。

 それに対して私はどうだろうか。確かに仕事は出来るようになったし出世もしたのだろうけど……今の人生を楽しめているのだろうか。

「……だって家に帰りたくないんだもの」

 自信が持てなくて、だからこそ消え入る声でそう答えた。

「あのさぁ、アラフォーの家出だなんて聞いたこと無いよ?」

「良いじゃないたまには! 人間飲まなきゃやってられないんだよ!」

「唐突な逆ギレ!? というかカナちゃん、すっごいやさぐれてるよ?」

「うっさい! あんたのどうせ閑古鳥じゃない!」

 そう言って、後悔する。それは、人生を謳歌している彼女へのただの八つ当たりだと気がついたから。

「……はいはい。要はそれだけ追い込まれてるってことだよね? 愚痴ならいくらでも聞くからさ」

 それなのに彼女は、どこまでも優しい。私はこんなにもワガママで、人として未熟だというのに。こんな理不尽な私でさえも、彼女は優しく受け入れてくれる。

 だからこそなのだろうか、私はまた甘えることになってしまうのだ。彼女の優しさに。


 ◇


 彼女が作ったカクテルで唇を湿らせる。

 普段はお酒をあまり飲まないようにしているが、今日ばかりはついお酒のペースが進んでしまう。学生時代からの友人がそばに居るということもあるのだろう。近況や仕事の愚痴について話すことがお酒の肴になってしまい、ついお酒が進んでしまうのである。

 酔いが回ったというのもあるのか――さっきまでのキツさが徐々に和らいでいく。それに、隣にのぞっちが居ることもあってか、気分はまるで高校生の頃のようだった。そんな空間がいつまでも続いてほしいと、心の隅でふと思ってしまうのだが……。

「……でも、今日話しに来たことはそんな仕事とかの愚痴では無いんでしょ?」

 彼女のふとした一言が、私の心地の良い「夢」を覚ましてしまう。

「……せっかく忘れてたのに」

 つい恨み節を唱えてしまう。

「『夢』が醒めたとき、再び悩まされることになるんだよ?」

 だけども、彼女の言葉は正論だった。確かに私も最初は酔いつぶれることだけを考えていたが、そもそも酔いつぶれたところで今の悩みが消えて無くなるわけがないのだ。それにのぞっちの店に来たというのも、本心では問題を誰かに相談したかったからではないだろうか。

 だから私は、素直に打ち明けることにした。

「まあ、仕事は何だかんだ言っても充実してる。お給料も待遇も何だかんだで良い方だし、色々な仕事を任せてもらえているから良いんだよ。でもさ……」

「家庭のこと。というよりも、お子さんのことでしょ?」

「……えぇ」

 どうしてそれが分かったのか、と思ってしまった。だが事実なので首を横に振ることができず。

「はぁ、なんで分かっちゃうの?」

「だってカナちゃんがそこまで仕事に打ち込むのは、お子さんのためでしょ? なのにそんな働きづめでまともにお子さんと向き合えてるようには僕には思えないからね」

「……何もかもお見通しか」

「マスターをやってるとね、こういうの分かるんだよ」

 そっか、叶わないなあ。のぞっちがますます遠くに行った気がする。

 だけどもそんなことうらやんでも仕方なく……カクテルを一気に喉に流し込んで話を続けた。

「……あたし(・・・)にはさ、子どもが二人いるってことはもう知ってると思うの」

「うん。確か春樹くんと、秋奈ちゃんだっけ?」

 春樹という言葉が、心に刺さる。いくら大切な子供でも、その名前を今は聞きたくなかった。

「そうね」

 母親失格だと思ってしまった。だけどもそれを悟られないように、努めて無表情を作る。それでも表情は明らかに険しくなっており……。

「直接会ったことが無いから何とも言えないけど、二人が何か問題を起こしたとかなの? でもカナちゃんの子どもに限ってそんなこと……」

「いや、問題は起こしてないわ。むしろ逆」

 問題という言葉で、目が醒めた。

 そもそも春樹も秋奈も、何か問題を起こしたことはあっただろうか。いや、そんなことなど1つとして無かった。

「……あの子たちは、あたしが親として何もしてあげられていないにも関わらず進んで家事を手伝ってくれたり、家のこととかを全部切り盛りしてくれてるの」

 むしろ逆で、二人はあたしには勿体ないくらい出来のいい子だった。いや、出来の良いという言い方は上から目線の酷い言葉だ。二人は、あたしには勿体ないくらいの優しくて人のことを思いやれる立派な子供たちだ。

 それに対してあたしはどうだ。赤ちゃんの頃からそばに居てあげることも出来ず、生活のために働く日々。周囲の家では、母親や父親がいつでも子供たちのそばにいてあげているにもかかわらず、そんなことができずに二人には寂しい思いをさせてばかり。

 一緒に公園で遊んであげる。一緒に遊園地にお出かけしてあげる。食べたいものを作ってあげることも、夜隣で寝てあげることもほとんど出来なかった。

 唯一出来たことは、二人が困らないように生活するうえでどうしても必要になるお金を家に入れてあげること。二人がやりたいと思うことは、例え本音ではどれだけ反対したくても後押しをしてあげること。本当にそれくらい。

「あの子たちは、あたしなんかにはもったいないくらいのいい子。あたしが胸を張って自慢できる、たった二つの宝物なんだよ」

 その言葉と共に、テーブルに涙がぽたぽたと落ちて広がっていく。我慢しているつもりは無かった。でも、二人のことを想うと胸が痛んで、ついに貯めていた何かが決壊してしまったのだ。

 のぞっちは何も言わずに、ポケットからハンカチを取り出してわたしに差し出す。でも、彼女のハンカチではあたしの涙を全部拭えるわけもなくて。

「……だったら、どうしてそんな宝物に悩む必要があるの?」

 彼女は静かに、そう問いかけた。彼女の言い分はもっともだ。

「悩む必要は無い……ことなのかもしれない」

 だってこの問題は、きっとあたしが勝手にこじらせているだけの話なのだから。

「……あのさ、子どもが性別を変えるってどう思う?」

 だけども、あたしにはどうしてもそれが受け止められなかった。

 確かに二人は。春樹は、よその子どもなんかよりもよっぽど出来が良い立派な子だ。責任感もあって、人の痛みがよく分かる。よその男の子なんかよりもよっぽど器の大きい子だとあたしは思ってる。

 でも、今まで息子として接した子供が娘になったとしたら――親としてはどんな心境でいるべきなのか。

「……僕でも、さすがにそれは驚いちゃうと思う」

「そうだよね。あたしも最初は驚く、って気持ちのほうが大きかった」

 何せ、秋奈からいきなり聞かされた話だったのだ。それも、直前に春樹は自殺未遂をしてその後高熱を出してと衝撃的なことが立て続けに起こっていた。今だって同じことが起こればたぶん当時と同じ反応を示すだろう。

 それくらい、その時のあたしには「驚き」という感情以外のものが出てこなかったのだ。

「最初は驚きの気持ちが大きくて、でも生きてくれているだけでも嬉しくて。だから性別が変わったことなんか、最初はさほど問題だとは思わなかったの」

「……僕の両親も、そう言えばそんな感じだったっけ」

「そっか。のぞっちのお父さんもお母さんもだったんだ……」

 きっと世間だってそういうものなのだろう。最初は驚きのほうが大きくて感情が麻痺してしまうから。

 でもそれも最初だけ。性別が変わって変わった性別に適応しようとすればするほど、周囲の人のその人への接し方は徐々にズレていってしまう。男だと思っていた人が女っぽくなる。あるいはその逆もそうだろう。

 男への接し方、女への接し方。そこには、暗黙のルールがある。だからこそ、徐々に変わりつつあるその人に上手く合わせることができない。

「それで、性別が変わるってどんな感じ?」

「……信じられないかもだけど、つい3か月前に突然起こった話なの。上の子が急に性別が変わって女になって」

「うん」

「最初は驚いたというのが正直なところ。でも上の子は、そこからものすごい勢いで女っぽくなっちゃって」

「それは……当然のことだよね」

「あたしもそれは理解しているつもり。上の子――春樹の立場になって見て考えればね」

 さっきも言った通り、社会は二つの性別で成り立っている。そして男と女によって接し方は変わる。春樹が女になったとしたら、彼は社会では女として扱われる。女らしい振る舞いをせざるを得ないことは、当然なことだと……。

「理屈では分かってるの。でも――」

 理屈では分かる。でも気持ちの上で……。

「今回ばかりは、どうしても受け止められなかったの」

 そこに理屈なんて無くて、ただの感情論でしかない。春樹からすれば。いや、秋奈から見ても――きっと理不尽でしか無いのだろう。

 だけど、その話を聞いたのぞっちが訊ねたことは……春樹の女性化とは全く関係ないことで。

「だったら、お子さんは嫌いなの? カナちゃんは、春樹君が嫌い?」

 そんなこと、言うまでも無いことだよ。


「そんなわけないじゃない! 親がどうして子供を嫌いになれるの?」


 つい、立ち上がってそう叫ぶ。

 だけど、その言葉を聞いてあたしは気がついた。

「……そうだよね。親が子供を嫌いなれるわけないよね」

 のぞっちの、言う通りだ。

 確かにあたしは、春樹の女性化を受け止められていない。それは、今だって同じこと。でもそれと、春樹のことが嫌いになるということは全く違うこと。

「カナちゃんの言い分も、僕は分かる。でもね、今この状況で本当に一番辛いのって誰かな?」

「きっと、春樹だよね?」

「それが正解かは、僕は分からない。でもさ、一つ言えるのは……一番大切なつながりを持った人に存在を全否定されるのってどんな気持ちなのかな?」

 それは、辛いことだろう。でも……。

「辛いってことは分かるよ? でもね、あたしはあくまで春樹を男として育てたはずなの」

 それは、あの事故からあたしが定めた子育ての指針だった。

「子供のうちはいいの。でも大人になった時に困るのは、あの子自身だから」

 春樹が覚えているかは定かじゃないけど、実は春樹がとある交通事故を起こすまでは彼は自身が女であると振る舞っていたのだ。幸いそれが幼少期だったから、周囲の子どもたちは大した疑問も持たずに春樹に接してくれていたようだった。

 でも、大人たちが春樹を見る目はやはり冷たかった。もちろんそれを春樹自身の前では振る舞ってはいなかったが、やはり男の子が女の子のフリをしている姿は大人たちには奇怪に映っても仕方の無いことで。

 だからこそ、大人になる前に矯正しようと思った。矯正という表現は変だけど、それで自身の性別と噛み合わなくなっては困るのは春樹のほうだから。

「確かに今の春樹は女の子かもしれない。でも、突然性別が変わったのだから逆のことだって起こらないはずがないでしょ?」

 だから、というのもあるのかもしれない。でも、のぞっちはそうは思わなかったのかもしれない。少し悩むしぐさを見せると、すぐに言葉を続けた。

「……でもさ、だとしたらカナちゃんのやってることは、その大人たちがやっていたことと同じじゃない?」

「そんなわけないでしょ! あたしは、春樹に苦労をして欲しくないの。元々男の子だったのに、気持ちの面で女になれるわけがないじゃない!」

「そうだよね。そうやって、周囲の大人は勝手に決めつけてさも正論のように言うんだよ?」

「それは……。でもあなただって苦労したでしょ? あなただって同じ目に遭ったのだから」

「うん。まさに今カナちゃんが言った通りにね」

「……違うっ! あたしはのぞっちを傷つけようとしたわけじゃなくて」

 頭がぐちゃぐちゃしていた。

 のぞっちを傷つけるつもりは無かった。春樹を傷つけるつもりだって無かった。

 全ては、春樹を。お腹を痛めて産んだ子を守りたい一心だったんだ。なのにそれが結果として、春樹を傷つけていた。似た境遇を持つのぞっちもまた傷つけていたということに。

「分かってるよ。カナちゃん、不器用だけど根は優しいって僕たちは知ってるからさ」


「でもそうやって世間の常識を押し付けることが、もう僕にとっては。僕たちにとっては迷惑なの。常識に当てはまらない僕たちがおかしいって、遠回しに聞かされているような気がして」


 常識を押し付けることが迷惑。

 それは……言い方は変だけどのぞっちや春樹のような人たちが常々思っていることで、そしてあたしたちのような普通(・・)の人には全くも考え付かないことだった。

「もちろん、それが親としての愛情ってことは僕だって分かる。だってそれが世間の当たり前なのは疑う前から明らかだし、子どもに辛い思いをさせたくないってことは親なら誰だって思うことだから」

 のぞっちの言葉を聞きながら、春樹のことを思い浮かべる。

 思えば、男として生きている間の春樹はいつも暗い顔をしていた。いじめに苦しめられて、自身の性別での生きづらさを抱いていて、でもそれをあたしは見抜くことができなかった。自殺未遂をして、無事に生きて戻ってきたから良かったけど今度は女性に生まれ変わってしまって。

 そんなことがあったからこそ、今度は春樹を苦しめないようにしてあげたい。男としての意識を持って性転換したからこそ、無理に女に染まることは無い……そう言いたかっただけなのに。今度こそは守ってあげたい。そういう親心だったはずなのだ。

 でも現実には春樹は女になる方が幸せだった。現実を受け入れられなかったのは、あたしのほうであたしの方が春樹に重い枷を付けてしまっていたのだ。

「……思っている以上に当人は平気へっちゃらだと思う。もちろん全く悩まないってことは無いと思う。でもそれは、大人になるうえでは必要なこと。そこにカナちゃんが入っていく必要なんてないんだよ?」

 そうなのかもしれない。春樹は、今のままで幸せなのだ。

 もしまた壁に当たったとしても、それは春樹の乗り越えるべき試練であたしがその壁を壊す必要は無い。あたしに出来ることは……。

「でも今さらそんなこと、できる気がしないよ……」

 親として最低かもしれない。でも、子供を信じてあげることができないのだ。春樹がまた壁に当たった時、もがく姿をあたしは見ていられないだろうから。

「怖いんだよ。春樹がまた、思いつめないか……」

「ほんっと、今まで散々放っておいて今さらそんなこと言える立場ですか? あなたは」

 頬をつねられて、無理やりのぞっちの目をあたしの目が合わされる。彼女の目は、いつもの優しい目では無くて真剣なそれだった。

「僕は毎日が楽しいよ。そりゃもちろん、世間の普通とはちょっと離れてるかもだけどさ。でも、こうなったことを、僕は後悔していない!」

「……」

「佳奈の娘さんはどうなの? 女に生まれ変わってから辛そうにしてる?」

「……いや、生き生きしてるのかも」

「だったら、佳奈の娘さんにだって出来る……そうは思えないかな? 親として、子どもを信じてあげなくちゃ!」

 そう言い、彼女はまたいつもの優しい表情に戻った。

「それが出来ないほど器が小さいって訳では無いでしょ?」

「……そんなの、今説得されたからって急にできるわけ無いじゃない」

「だったら、ゆっくりでも良いんじゃない? まあどうせ今日は帰りたくないでしょうし、明日からにしよ?」

「そうね。頑張ってみるよ」

 本当に出来るかは、正直あたし自身もよく分からなかった。でも、親として今できることと言えば……それはまさにのぞっちの言う通りだった。

「さてさて、お悩みも解決したし積もる話もあるから二階で女子会でも開きますか」

「女子って……そんな年じゃないでしょ?」

「まさかの自虐? でも、今この時だけはね……まあいっか」

「そう。今この時だけは母親でも社会人でも無いカナに戻って良いんだからさ」

 酔い冷ましの水をくらりと空ける。せっかく数年ぶりに、親友に会ったんだ。たまには母親も社会人もお休みしたってバチは当たらないだろう。そんなことをふと思いつつ、私は久しぶりにのぞっちの家へとお邪魔することにしたのだった。

ついに、母親視点での個人回です。そして、長く続いた3章の終わりが見えてきました。

この小説は、基本的に春奈(春樹)で進めていますが、母親である佳奈の視点になったのはこれが初めてだったりします。佳奈もまた、春奈の幸せを願っての行動だったようですが……二人は仲直りすることができるのでしょうか? そして、佳奈の親友「のぞっち」とは何者なのか。次回に続きます。

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