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僕は女の子になりたい。  作者: 立田友紀
2. 若葉ガール・安藤春奈
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19. 「『話せない』というもどかしさ」

 梅雨も明けていよいよ夏本番。期末テストが終われば、楽しい楽しい夏休み!

 そんな、一大イベントが迫っている時期だというのに、僕の気持ちはまだまだ梅雨模様。なんだか、心がどんよりと重く沈んでいた。

 授業中だというのに、何となく時計を見る。まだ授業は終わりそうもない。ペンを回してみるが、そんなことで時間が過ぎるわけも無く。ここ最近はこんな調子で、どうにも授業が頭に入らないのである。

 原因は、二週間前の生徒会長とのやりとりだ。彼女はまるで、僕が元々男であったことを知っているかのような素振りを見せた。もちろん、正体については明かしてはいないし断定したわけでは無い。ハッタリの可能性もあるのだから実際のところ真偽は不明だ。

 ただ、どちらにせよ僕の正体を知る人が僕の知っているところで居たとしたらこれは大問題だ。彼女が積極的に吹聴するかはともかく、情報が漏れてしまうことそれそのものが僕の存在を揺るがしかねない事態なのである。

「……安藤さん。窓の外が気になるのかしら」

 などと考え事をしているといつの間にか教科担任の先生が僕の隣にまで来て注意しに来た。クラスのみんなは笑っている。なぜこんな時に限って注意されるのかとムッとしてしまうが、今回ばかりはどう考えても先生の言葉がごもっともだ。

「あっ、いえ……すみません」

「罰として、それじゃこの部分読んでもらおうかしら」

「……はい」

 指示に従って教科書を開く。でも、人にはとても言えないこの悩みをどこにぶつければ良いのか。

 人に言えない、といえば秋奈の一件もそうだ。あれ以来、お互いに何事も無かったかのように過ごしてはいるけど……はたしてそれで良いのだろうか。

「メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければならぬと――」

 すがる相手も居ないまま、僕はどこか上の空のまま教科書を読み始めたのだった。


 ◇


 そうこうしている間に今日の授業は終わり、部活のために調理室へと向かう。廊下をとぼとぼと歩いていると、眞子がせかせかとした様子で追いかけてきた。

「春奈、何かあったでしょ!」

「眞子か、驚かせないでくれよ」

 ため息をつきながら答えを返す。

「別に何があったというわけじゃないよ。ちょっと疲れがたまっててさ」

 心配をかけまいといった大層な話では無い。ただ、ただメンドクサイ。それが正直な本音だった。

「でもさ……テスト近いし大丈夫なの? あんたに限って赤点は無さそうだけども」

 今度は別のことを心配される。

「あのなぁ、それとこれとは……まあそうだな。テスト勉強でちょっと疲れてるんだ」

 それとテストとは関係無い、と言おうと思ったがこの状況ではそっちのほうが無難だろう。もちろん勉強するかって言われたらたぶんしないんだとは思うけども。

 心配してくれるのは嬉しいし、ありがたいことなんだと思う。でも、正体の件とか秋奈の件をこいつに話したところで一体何になるという? それで問題が解決できるわけでは無いし、話したら話したで面倒事に巻き込まれそうだ。

 いや、いっそのこと素直に吐いてしまおうか。どうせ眞子には正体はバレているし、今さら感のある話なわけだから。

「まあ……」

 そう言おうと思ったが、口をつぐんでしまう。なぜなら、引き戸の窓の外に1年生ズと委員長さんが写ったからだ。そしてその懸念は、現実になる。

「あっ、二人とも部屋開けておいてくれてありがとね。それにしても、今日はまた一段と暑いね」

「……そうだね。本当に夏バテになっちゃう」

 委員長さんの言葉に便乗する。そうやって、眞子が言いかけた言葉を封殺したのだ。気持ちを、誤魔化すために。ところが、僕の気持ちをこの厄介な仲間(・・)たちは見透かしてしまったようで。

「本当は? さっきから見てたけど、最近のハルちゃんはやっぱり変だよ。私で良ければ相談に乗るよ?」

 などと、わざわざ心配をしてくれるのである。

 男だったときと違って、こうやって僕のことをちょくちょく気にかけてくれるというのは本当にありがたい話だ。でも、今回に限って言えばその心配はある意味で仇となってしまう。今回の悩みの本質は僕の正体について。だから、正体を隠さないといけない彼女には絶対に切り出せないわけで。

「ありがとう、でも大丈夫」

「本当に?」

 無難に切り抜けようとしたが、今度は委員長さんがしつこく食い下がってくる。

 最近気がついてきたことだけど、この街の人々は男も女も基本的にお節介焼きな人が多い。地域性? とでも言うのだろうか。振る舞いが粗暴で言葉も荒い反面、義理人情に篤い人が多いような気がする。だから、こうやって触れて欲しくない話題であってもおかまいなくずけずけと入り込んでくる人が多い。

 だけど、それが今回のような厄介な悩み事だったとしたらどうなるか。お互いに、ますます泥沼にはまり込んでいくに決まっている。

 それを考えると、嘘でももっともらしいことで取り繕った方が早いような気がしてきた。さてどうやって誤魔化そうか……。

「そう、テストが不安なのよ。ほら、転校してきたばっかで? どんな傾向なのか分からないし? あと、わたし英語が苦手だから誰かに教えて欲しくて」

 結局、眞子と同じで嘘だけれどもそれらしいことを言っておく。でも実際、英語は苦手だし僕の勉強を無理やりにでも監視してくれてかつ教えてくれるなら一石二鳥なわけだから。

「あぁ、なんかすっかり馴染んでたから忘れてたけど、ハルちゃん転校生だったわね。私で良ければ、もちろんいくらでも力になるよ!」

 正直嘘だから心が痛いのだが……まあそれで彼女が納得してくれるならそれでいいような気がしてきた。

 そう思っていると、眞子が耳打ちをしてきた。

「……本心では無いでしょ?」

 はぁ、察しが良い奴だ。だから、たまにこいつが嫌になる。

「嘘だけど、ここはそう言うことにしておいてくれ。話が厄介になる」

 眞子に釘を刺して話を続けた。

「今度の土日は空いてるかな? どっちか都合のいい方で」

「日曜はどうかしら?」

「じゃあそれで。場所は、うちを用意するよ」

 そう言い、今度こそ話を切って部活を始めようとする。

 本当ならば、これはありがたい話だ。なのに、自分の保身のためにこんなことをするだなんて……僕は最低だと思う。でも仕方が無い。女の子になるということは、こういうことなのだから。何をするにでも、代償はいる。そんな当たり前のことを今さらになって知ることになったのであった。


 ◇


 そして、約束の日がやって来たのだが。

「え……」

「あっ……」

 朝の九時過ぎ。インターホンが鳴る。眞子か委員長のどっちかだろうと思って、パジャマ姿のまま玄関を開けた。ところが、玄関先に立っていたのは本来そこには絶対(・・)に居ないはずの男たちだった。

「春奈ちゃん!? ってか、それパジャマ? なんか地味だね」

 宮川と、その後ろに居たのは芦原だ。おかしい、どう考えてもお呼ばれじゃないはずの二人が立っていたのだ。あまりの想定外に、第二声が出てこない。男たちと、僕で顔を向い合せる。静寂が、周囲を包む。それを破ったのは、意外な人物だった。

「姉ちゃん、お湯が沸いたよ……ってこの人たち誰? 彼氏?」

「んなわけあるか!」

 秋奈の一言で我に返る。だがそう大声を上げたところで目の前にいるのはやはりどう考えても僕にとってお呼びの無い人物なわけでして。

「えっと……宮川君? あと芦原君もだけど、うちにどんな用かな」

「それは、俺のセリフだ。結衣に指定されて渋々来たのだが……ここってどう考えても安藤の家だよな? これはどういうことだ」

「どういうことかはわたしのセリフだよ!」

 いつもは例えこいつらであっても、女子らしくおしとやかに接するようには心がけているのだが今回ばかりは想定外すぎてそんな演技をするだけの余裕さえないくらいだ。

 ともかくどうしたものか。だいたい、なんでこのバカどもも事情を知らないくせに僕の家の前に立っているのか。そう思っていると、すぐに答えは出てきた。

「正ちゃん! 人の家の前で大騒ぎしないの! ……あとなんで芦原君も居るの?」

「委員長さん! あと眞子も――なんでこの二人が居るの?」

「正ちゃんは私が呼びました。芦原君は、私も知らない」

「あぁ、だいたい事情が分かって来たよ」

 朝っぱらだというのに、あまりの出来事に早速ストレスがマッハである。これが秋奈と眞子しか居なかったら早速お説教コースで片がつくのだろうけど残念ながら正体をお見せ出来ないお三方が居るわけでして……。

「もういいや、外で騒がれると恥ずかしいしさっさと家に上がってよ」

 こうして、女しか居ない家に思春期男子も二人も連れ込むことになった。しかもわたしはパジャマ姿というままで。


 ◇


 というわけで、来客を全員家に上げる。

「なんで勉強なんだ。しかも安藤の家だなんて聞いてないぞ」

「正ちゃん今度こそ赤点取ったら補習なのよ? それで夏休みを潰しても良いの?」

「しかし春奈ちゃんち、すっげぇ綺麗だよな。テレビ横に掛かってるの、春奈ちゃんの写真だよな?」

「はいはい、他人の家をジロジロ見ない。春奈、お茶出すの手伝う?」

 上から、宮川、委員長さん、芦原、眞子の言葉だ。まあこの中でも委員長さんと眞子に関しては、最初から勉強会をやるという約束でこう集まっているから良いのだ。しかし、残る二人の男子。お前らは何なんだ? どうしてここに居る? 

「はぁ、冷蔵庫に昨日買っておいたお茶とリンゴジュースあるから勝手に開けて飲んじゃって。あっ、秋奈の分は残しておいてあげて」

 突っ込んでも仕方が無い。溜め息をつきながら、眞子に指示を出す。もちろん、服はちゃんとお外にも出かけられるようなものに着替えている。取り急ぎだけど。

 正直、女しか居ない前提だったから何もかもが中途半端なまま慌てて戻ってきたという感じなのである。

「姉ちゃん、気にしすぎだよ」

 秋奈はそんなことを言って相変わらずパジャマ姿だけど……君には恥という概念は無いのだろうか?

 ともかく、そんな一幕があっていつもの3人とお邪魔虫(・・・・)2人による勉強会が始まることにあったのである。ちなみに、さっきの話を聞く限り事情はおそらくこうだろう。

 最初は、僕と眞子。委員長さんのいつもの3人で勉強会をやるつもりだった。ところが何かしらの事情で委員長さんが宮川を巻き込み、その宮川が芦原あたりでも巻き込んだのだろうか。いずれにせよ、厄介なことをしてくれたものだ。

 そんなわけで、化粧もそこそこに居間に戻る。眞子に指示をしておいたこともあって、とりあえず珍獣どもは椅子に座ってくれているようだ。良かった、被害が拡大しなくて。

「はぁ、まあ事情は深く問わない。とりあえず今日はテスト前だから勉強会するから。おとなしく勉強して帰ってね」

 正直異性を家に上げるというのは少々抵抗があるのだが、上げてしまったものは仕方ない。それにこいつらの集中力なんか一日持つわけが無い。だから昼過ぎになったら適当に解散させてしまおう。そんなことを念頭に置く。

 元男のくせに、それはあまりに薄情ではないかと人は言うかもだけど、仮に僕が男のままだったとしても多分同じことだろう。男が嫌いというよりは、仲が良いわけでも無い人を家に上げたくないというのが正解なのである。とはいえ、委員長さんの手前あからさまに邪険に扱えるわけも無く……。あぁ、芦原は本当にお呼びじゃないから邪険でも良いのか。ともかく、上手いこと午前を乗り切るしかない。 

「じゃあ、各自勉強を始めて分からないことがあったら教え合おうか」

 そう言い、僕は前々から不安があった英語の教科書を開く。眞子は理系科目を、委員長さんは意外にも社会の教科書を開いていた。

「委員長にも苦手教科あったんだ……」

「暗記が苦手なのよ。歴史とか言葉が難しいでしょ? 『墾田永年私財の法』とか『班田収授の法』とか。何が違うのよ! って……」

 なるほど、そういうパターンか。確かに歴史は正直暗記ゲーだし漢字も難しくて似たり寄ったりの単語も多いから、暗記が苦手だと詰んでしまう教科かもしれない。英語とか国語も言葉の用法的な意味では暗記ゲーだけど、こっちは日常生活で使うこともあるから覚えやすい環境だろうし。なかなか難しいところだ。

 幸い僕は、頭は悪いけど脳みそはそこそこ有能らしくて一度聞けばある程度は勝手に覚えてくれるからそういう意味では天性の才能に感謝である。

「まあ、頑張って歴史の用語集とにらめっこだね」

 そう言い、僕もまた英語の教科書とにらめっこ。ちなみに僕は英語が苦手だ。先述したが、言葉なんて所詮は暗記とパズルだ。ただ、そうは言ってもアルファベットの暗記はイメージしづらいのかなかなか覚えられないものだ。

「結衣さぁ、ここはどうするの?」

「あぁ、これは二次じゃなくて一次方程式で解いちゃうんだよ。確実に分かってるのは、配布用のチョコレートの合計は100なわけでしょ? だから片方を文字で置いてもう片方は100でそれを引いてあげた数になるでしょ?」

 眞子もまた、委員長さんの説明とサポートで問題集がだいぶ進んでいるようだ。

 最初は勉強会なんかやって意味があるのだろうか、って思っていたけどこれはこれで良かったのかもしれない。少なくとも女子ズの間では、お互いの弱点をうまく埋め合わせて問題を解けているわけだし。最初はおしゃべりしちゃって企画倒れになるかと心配してたから――そういう意味では良かったのかもしれない。

 いや、女子だけじゃない。ちらちら見る限り、珍しく宮川や芦原も勉強をしていた。目線を見る限り嫌々感はぬぐえないけど……まあそれでもやっているだけマシか? 実際は、ちょくちょく委員長が手を焼いてあげているみたいだけど――経緯はどうであれそれは良い傾向だと思った。そう、勉強を始めて1時間を過ぎるころまでは。

 ところが、抑圧ってものはやっぱりいつかは切れてしまうもので。

「あーぁ、飽きた! 春奈ちゃん何か遊ぶものない?」

 最初にやる気を失ったのは芦原だった。とりあえず、駄々こねられて勉強の邪魔になるのも嫌だったから適当に遊ぶものを与えて誤魔化そうとした。

「ゲームとかくらいしか無いけど、それでもいい?」

「えっ、春奈ちゃんゲームとかするの? 朝のパジャマもそうだけど、見た目に反して意外と男っぽい趣味だよね」

 本当にデリカシーの無い男である。実際、もともとの僕は男だから男っぽい趣味をもっているというだけで生まれたときから女の子だった世間の女性たちに同じことを言ったら本気でシバかれることだろう。口には出さないけど。

「一言余計なのよ。どんな系のゲームが良い? モンスターハンターズとかならさすがに知ってるよね?」

「じゃあそれで」

 そんなわけで、芦原にはとりあえずおもちゃを与える。正直今回の勉強会だって、究極のところは僕たち料理部の面々のためのものだから芦原が勉強しようがしまいがどうだって良いのである。大人しく邪魔さえしてくれなければそれで結構なわけで。

 そんなわけで再び勉強を再開するのだが……今度は厄介なほう(・・・・・)がしびれを切らしたようで。

「……もう良い。勉強なんてやってられるか。俺は帰るぞ」

 突然、宮川はそう言い荷物を片づけ始めたのだ。

「待ちなさい。まだ始めて1時間ちょっとじゃない! というか、今回のテスト範囲の半分だって終わっていないじゃない」

 元々宮川は勉強が好きそうな人では無い。クラスでヤンキーなんかやっているくらいだからそんなのは分かりきっていた話なはずだ。それなのに、なぜ委員長さんはそこまで手を焼くのか。眞子も僕も正直理解不能だった。

「知るか。もともとこんなことは俺の性には合わない」

「性に合う合わないは関係ありません。それに今度こそ赤点取ったら、夏休みは潰れて補習よ? いいの?」

「そんな言い分素直に聞くわけが無いだろ」

 そう言い、荷物をまとめて宮川は踵を返した。ところが、そんな宮川の様子に遂に委員長さんはブチギレた。

「……そうやってまた逃げるんだ? 最近の正ちゃんはそんなんばっかり! やる気が無いだの性に合わないだの言って、結局は逃げてばっかりじゃない。わたしの知ってる正ちゃんはどこに行ったの!?」

 そう言い、彼女は宮川の前に立ちふさがる。あまりの出来事に、僕たちはただ茫然とするしかない。

「結衣こそ、いつまでも姉貴気取りなんだよ。口を開けば勉強勉強って、うぜえんだよ! 俺は俺のしたいようにやらせてもらう」

 宮川はそう言い、委員長さんの肩を掴んで左に避けさせてそのまま玄関へと向かって行ってしまった。程なくして、ガチャンという音がリビングまで届く。宮川は、この家から出て行ってしまったようだ。

「……そっか。『うざい』、か」

 力なく、その場で座り込む委員長さん。力無く笑う姿が、見ているこっちの心まで痛めつけるようだった。

「……俺、宮川が心配だから見てくるわ。春奈ちゃん、ゲームここに置いとくわ」

 そう言い、芦原もまた慌てた様子で玄関に出ていく。さっきまでの大騒ぎとは裏腹に、家の中が急に静かになってしまった。本当なら、この状態のほうが望ましいはず。それなのに、どうしてこう……引っかかるんだろうか。

「……結衣さ、説明してくれてもいいかな?」

 口を開いたのは、意外なことに眞子のほうだった。

「もちろん、責める気は無い。けどさ……ただせっかく春奈が家を貸してくれたのにこれってあんまりじゃない?」

「いいってば、眞子。今日はもう止めておこう」

 眞子の言い分は正論だ。確かに、委員長さんは事前の相談も無く宮川を勝手に招き入れてこの会をひっちゃかめっちゃかにしてしまった。そういう意味では責任重大だとは思う。でもだからと言って……今こうやって力なく座り込んでいる彼女に死体蹴りみたいなことは僕にはとても出来ない。

「今日の件は、いいよ。気にしないで」

 それよりも、委員長さんの精神面のほうが心配だ。彼女を立ち上がらせようと、手を差し伸べる。

「ゴメンね、ハルちゃん。今日のは、私のせいだ」

「気にしないで良いから」

 そう言い、手を掴んで無理やりにでも立ち上がらせる。このままの状態で続けたって、たぶんお互いに身が入らないだろう。だから、机の上を片づけて委員長さんを送れるように準備をしようとする。

 ところが、眞子はやはりどこと無く納得がいかないみたい。ついに、聞いてはならない一言を……。


「ねぇ、委員長。どうしてそこまで宮川なんか(・・・・・)に尽くすの?」

 

 尋ねてしまったのである。

 そしてそれは彼女にとって致命的な一言となり……。


「ごめんなさいっ!」


 彼女は、まるでこの家から逃げ出すように走り去っていったのだった。

先週は多忙に付き連載をお休みしました。


さて。今回はこの物語の、一つのターニングポイントとなる話でした。春奈(春樹)にとっては口が裂けても言えない話題である女性化。でも、それとは違うベクトルで、誰しも人には言えない話題があるのではないでしょうか。次回に続きます。

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