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僕は女の子になりたい。  作者: 立田友紀
2. 若葉ガール・安藤春奈
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14.「手作り料理は恋の味?(後編)」

 自己紹介もそこそこに。そして、1年生3人が日直を終えて合流するとさっそく下ごしらえに移る。今日のメニューは、おにぎりらしい。

 最初はおにぎり? と思わず聞き返したけど、ここ最近は総体に向けて頑張る運動部に差入れすると言うことをテーマに活動しているらしい。さらにいえば、例年料理部ではこういう活動を重視しているみたいだ。運動部とかと違ってコンテストなどの機会が少ない分、こういう活動も貴重な実績のうちの一つなのだろう。そう考えれば、たかがおにぎりされどおにぎりである。

 もちろん、おにぎりといってもただ炊飯器で炊いて握って完成というわけではない。先ほども軽く触れたけど、炊飯は土鍋を使うという本格的なものだ。海苔に関しても、県内産のものにこだわっているらしい。具材も、なるべく県内の畑や港でとれたものを使うようにこだわり、炊飯のお水も市内の湧き水でまかなうことにしている。なるほど、これは思っていた以上に本格派だ。

 そんなわけで最初はお米研ぎからスタートである。

「それじゃあまずは、お米を研ぐところからだね。ハルちゃん、お米を研いだことあるかな?」

「一応妹と交代で毎日作ってるから、それなりにはしてるつもりだよ?」

「そうなんだ! それじゃ、特に何を言わないでも大丈夫そう……うん、ちょっと手を止めて」

 早速のダメ出しである。一応、ほぼ毎日やっているからやり方くらいは教わらないでもいいつもりだったんだけど……。

「まず、水を張ったまま研ぐのはNGだよ。しかも最初の水は、ぬかを落とすために入れるものだから軽くお米をすすいだらすぐに捨てないといけないの。だからその水は落とそうか」

「あ、うん……」

 口調は穏やかだし、表情もニコニコしているんだけど……何だか逆らえない雰囲気だ。ここは素直に指示を聞いておこう。

「うん、そしたらボウルの中を軽くかき回すようにお米を研いでみて。力は入れちゃダメだよ」

「こんなイメージ?」

「おっ、いいじゃない。さすがに飲み込みが早いね」

 なるほど、正しいのはこういうやり方か。ちなみに、我が家のやり方はたぶん間違った方法だ。そもそも、そんなことに気を遣ったことが無いし教えてもらったことも無いのだ。もっともお米の品質が良い分、適当でも研ぎ方がヘタクソでも美味しく炊けるのというのもあるのだろうが。

「うん、そしたらもう一回水を張って研いで落ちたぬかを落とそうか」

 そして同じ操作を3回程度行うと作業は完了である。本来は2回程度でも充分らしいけど、このお米は委員長さんのおうちでとれたお米をいただいてきたものらしく、市販のお米よりもさらに丁寧にやらないといけないみたいだ。

「うん、これで大丈夫。そしたら、もう1つ土鍋にお米を研いで入れてね」

 眞子のほうは既に一人で3つ片づけていた。さすが、手際が良い。というか、家でご飯作っているのにこれでは僕のほうが立場が無い。委員長さんや1年生ズは既におにぎりにいれる具材の準備を始めているし……ここでもたつくだなんて悪いところは見せられない。

 次のぶんは一度やり方をマスターしていたこともあってあっという間に終わる。そうして無事、お米の下ごしらえは完了したのであった。


 ◇


 お米の下ごしらえが終わったので、次は炊飯に移る。

 と、僕は思っていたのだけれど……どうにも違うらしい。委員長さんが言うには、お米を炊く前に水をしっかり吸わせてくことが大事なのだとか。吸わせておくとお米の中まで水分が行き届くので、結果として熱が通りやすく芯ができにくいのだとか。

 もちろん、今どきの炊飯器は優秀なのでそこまで考慮しないでもそこそこ食べられるものは炊けるらしいのだが。そう考えると、つくづく残念なご飯の炊き方である。

 で、お米が水を吸うには30分掛かるのでその持て余した時間のうちにやることは……。

「そういえば、春奈先輩ってカレシいるんですか?」

 ……まさかの「コイバナ」である。

 もちろん、そんな話題が来ることはあるだろうとは考えていた。事実、僕のそばに居る女子である眞子と秋奈だって顔を合わせりゃそんな感じだし。正直……女子中学生にとってのコイバナは、もはやあいさつのようなもの。別に僕自身のことをバカ正直に話す必要もないし、そもそもあいさつのようなもんなのだから適当に周りに合わせてりゃいいって、眞子から聞いてはいたんだけど……。

 ただ、そうはいってもやっぱりコイバナは――元男子の僕にはキツい。

 いくら周りに合わせて適当にうなずけば乗り越えられると言われても、僕恋愛経験ないし。彼女マウントとかされたら、さすがに僕もちょっとムカってするよ? ……あぁ、今は男だからマウント取られるとしたら彼氏なのだろうけど。けど、それもそれでねぇ……。

「彼氏? ……いないよ」

 回答に困りつつも、バカ正直に答えてしまう。いや、彼氏がいたらそれはそれで大問題なのだが。

 けどさぁ……そもそも彼女だって出来たことが無いし、何なら恋愛経験だってゼロ。恥ずかしながら初恋だってしたことないくらいなのだ。それなのに恋愛系の話題なんて、どう考えてもキツいよ。

「ウソ! 絶対居ますよね? それとも、こっちに引っ越すから別れたとか?」

「そういうわけでもなくて……」

 うそー! と1年生ズに驚かれる。委員長さんも少し驚いている雰囲気だ。唯一納得しているのが眞子だけなんだけど、こいつはこいつでノーカンだしなぁ。

「眞子先輩は居るんですよねたしか!? 結衣先輩もでしたよね?」

「なんか意外だなぁ。眞子先輩もだけどそれ以上に華やかそうなのに」

「二人とも落ち着きなさい。そういうのは相性もあるから、年齢とは比例しないものよ」

 あと、私は居ないと委員長さんが続ける。今回は委員長さんが上手くフォローしてくれたおかげで、これ以上の追及はされなかったけど……でも冷静になればそれはそれで何だかショック。

 委員長さんは、まあ良いのだ。仮に彼氏がいたとしても、そもそも最近仲良くなったばっかりだから何か特別な感情は起こらないのだろうけどさぁ。

「ちょっと! わたしだって居るにはいるけど……別に好きで付き合ってるわけじゃないのよ? ただ、あそこまでしつこくされたから仕方なくが本心で……」

 と、困ったような顔をする眞子。

 実際ああいう表情を浮かべるってことは、まあ本当にこういう彼氏いじりとか苦手なんだろうとは思うけど。眞子は腹芸とかできないタイプだし、気持ちが結構顔に出るタイプだからね。

 けどさぁ、やっぱり幼馴染が僕の知らないところで彼氏を作っていたと知らされると……やっぱり来るものがあるよな。

 もちろん、幼馴染ってこともあって特別考えたことは無いけど――眞子の見た目は正直学年でもトップレベルに良いとは思う。お世辞抜きでこの子は小顔でモデル体型だし、顔もかわいらしい顔立ちをしている。

 何もしなくてもかわいいってこと自体が、眞子の見た目の良さを証明するものに他ならない。

 だから、彼氏の一人や二人いてもおかしくは無いのだけど……。

「でも別に、彼氏がいるからすごいとかそんなことはないからね? みんなそこは勘違いしないでね?」

 って言われても、それを彼氏持ちに。恋人持ちに言われるとどうにも素直に受け止められない。

 悔しいとかムカつくとかってわけじゃないのだけど、なんか……言葉にできない引っかかりがあるんだよね。

「特に春奈。別に無理に恋愛とか、今は考えないで良いから」

「というか、なんで眞子先輩はそんなに安藤先輩に過保護なんですか?」

「それは私も気になった。教室でもいつもこんな感じなの」

「えぇー? もしかして眞子先輩……」

「違うから。あと、冗談でも春奈をそういうことに巻き込まないの。この子は特に繊細なんだから」

 そう言ってこんな時でも眞子は気を使ってくれるのが、なんかますます引っかかった。

 何というか、眞子と僕は同じ時間を一緒に過ごして同じだけの人生の経験値を共有しているはずなのに二歩も三歩も先に行かれた気がして。

 そっか、そういう僕の知らない世界を眞子が知っているという現実を叩きつけられたことに……なんとなく劣等感を抱いているってことなのだろうか。でも眞子は努力してその立場を掴んでいるであろうに、それを僻むっていうのは……ちょっとずるいのではないだろうか。

「眞子……おめでとう」

 だから、そう言ってお祝いの気持ちで劣等感を上書きしようとしたのだけど。

「春奈何言ってるの? 別にそんな『おめでとう』ってほどのことじゃないんだよ?」

 というかわたしは、先輩の押しに負けただけだしって言い訳するけど。でも現実問題、居るには居るんでしょ? 恋人が。

 翻って僕はどうだ。

 そもそも見た目もお世辞には良いわけでない上に、元は男子という超地雷物件。もちろん僕だって仮に男子に告白をされたとして素直にそれを受け入れる気は全くないけど。でもかといって、僕が女の子を好きになったらそれは周囲から見れば同性愛に写ってしまうわけでしょ。

 こんな状況で僕は……眞子と同じ世界には立てないし。なんかそれって、すごく嫌なものだった。

「春奈? 聞いてる?」

 と、思っていたら無理やり眞子によって意識を現実に戻された。

「あのね、さっきも言ったけどコイバナなんて所詮はバラエティのようなもんだし、恋人の有無は勝ち負けとかと関係ないんだからね?」

「えっ、ああ。別に気にしてないって」

「だったらどうしてそんな考え事しちゃうかなぁ。ともかく、こんなこと気にしても仕方ないんだからちゃっちゃか忘れなさいな」

「……うん」

 納得は行かないけど、今はいったんそれで矛を収めることにした。

「もちろん結衣も、みんなも同じ。恋人がいたとしても、実際大して何も変わらないから。いいね?」

『はーい』

「は別に……」

 何か委員長さんが言いたげだったけど、その瞬間図ったかのようにキッチンタイマーが給水時間の終わりを告げる。

「よし、休憩終了。わたしと春奈で火を見るから、結衣と一年ズで具材づくりね」

 眞子の指示で、コイバナは強制終了。各自作業に移ることになったのだが……やっぱりそんなすぐに気持ちは切り替わらないよね。結局、眞子の恋人とか考えてしまうと何も集中できなかったのである。


 ◇


 はじめチョロチョロ中パッパ、赤子泣いてもふた取るな――。

 昔の人が伝え残した、炊飯のコツだ。今みたいに炊飯器が普及してない時代は、かまどでご飯を炊いていた。その時に、かまどの中身がどのような状況になっているかを擬音で表現したというわけである。なるほど、上手く考えられた言葉だ。実際に、先人の指示に従ってご飯を炊いてみると。

「出来上がりは……おっ、いいね!」

 眞子が土鍋の蓋を開けると、鼻腔にほのかに香ばしい香りが通り抜ける。米粒は一つ一つがきっちり立っており、火と接している面にはおこげがきっちりと出来ていた。心無しか、炊飯器で作った炊いたご飯よりもおいしそうな見た目と香りだ。もちろん、委員長さんの家のお米の出来が良いというのもあるだろうけど。

「おいしそうだね。お米もきっといいやつでしょ?」

「そうかなぁ? 一応、じっちゃんが言う一番美味しいところでとれたお米を取ってきたんだけど……ブランドのお米にはさすがにね」

 断言するよ。例えブランド米だとしても、スーパーで買ったお米より絶対においしいに決まってる。それに農家さんが家で食べるご飯だって、普通は自身が持つ田んぼの中でも一番いい区画のお米を食べているわけでしょ? そんなのマズくなる要素が無いじゃないか。

 それにしても委員長さんのおじいさんも太っ腹だ。たかが部活のために使うお米だというのに……きっと孫娘可愛さなのだろうなぁなんて。

「いや、これコシヒカリより美味しいでしょ」

 と思っていたら眞子が勝手にお匙ですくって試食していた。おいこら、勝手に試食して良いと誰が言ったよ。

「みんなもちょっと食べてみて。部員特権で」

「え、いいの?」

 前言撤回。委員長さんが快く許可してくれたので、一口程度だけどお匙ですくって食べてみる。なるほど、これは……。

「美味しい」

 思わずうっとりとした声が漏れてしまう。でも、舌にのせた時点ですでにほのかな甘みを感じるのだ。噛みしめると、さらに甘みが舌に広がっていく。でもその甘みは決してくどくなく、すっとお腹へと進んでいくのだ。

 これは正直、おにぎりに加工する方がもったいないとさえ思う。おかずだって薄味の煮物とかで食べたほうがお米そのものの味を感じそうな気がする。それくらい美味しいのだ。

「そっか……そう言ってもらえるとじっちゃんたち喜ぶと思う」

 委員長さんも喜んでいるようだ。というよりは、自分の家のお米に誇りを持っているというか。残念ながらうちは親戚に農家さんがいなくてこういう気持ちは分からないけど、農家さんにとっては大切に育てた子供が褒められるような心境なのかもしれない。

 その後は、ビニール手袋をはめていよいよおにぎりづくりである。自分たちが食べる用は、自分達が食べたいような具材を詰めて握る。一方で差入れ分は、型にお米を詰めて一定量の具材を入れて作っていく。こういう時は、差入れ分じゃなくて自分で食べる分を作るときのほうが楽しいって気持ちだ。

 好きなことが仕事にならない、とは聞いたことがあるけどこれを体験すれば何となくその気持ちも分かる気がする。

 そんなわけで、6人で協力するとあっという間に20人分のおにぎりが完成する。あとはこれを持っていくだけだ。

「で、これをどこに持っていくんですか?」

 試食しながら1年生の子が問いかける。そういえば20人分だなんて結構な量だ。それだけ大きい部活っていうとこの学校では割と限られてくるのだけど……ただそれらの部活ってどれも僕と仲が悪い人が所属しているわけでして。そりゃそうだよ、僕は運動オンチで相手はみんなスポ―ツバカなやつばかりだったのだから運動部のどこかには多かれ少なかれ当たるに決まっている。

 何となく嫌な予感がしつつ耳を傾けるのだが。

「あぁ、言い忘れてたみたいね。サッカー部よ」

 ……今日一番のため息が、漏れてしまったのである。


 ◇


 そんなわけで、試食のおにぎりを一通り食べ終えるといよいよ差入れタイムである。体験入部だから、差入れは参加しないでもいいよと委員長さんは言っていたけど、入部する気がある以上そういうわけにもいくまい。そんなわけで、なるべく感情を抑えておにぎりを持っていくことにした。

「……本当に嫌なら、ここで切り上げてもいいのよ? それが嫌なら、部室に戻って後片付けをしてくれればみんな助かるだろうし」

「大丈夫、これも料理部の活動なんだから」

 眞子は心配してくれたけど、これはある種僕なりの挑戦でもあって譲れない。

 秋奈もかつて言っていたけど、周囲に合わせられない子は自滅する。我を通すには、それなりの代償がいるのだ。男だったときの僕は、その代償として孤立した。同じ思いは、二度としたくない。だったら、どこかで妥協をしないといけないではないか。

 それにここで帰ったら、好意で誘ってくれた委員長さんの顔に泥を塗ることにもなる。その恩義にはやはり報いるべきだろう。

「そう……なんかそれはそれで成長したようだけどわたしは心配」

「心配するのは結構だけど杞憂で終わると思うよ?」

 そう言っておく。実際に、この言葉が事実となった。

 サッカー部の皆さんは、練習でよほどお腹が空いたのかおにぎりに一目散で僕のことなんて最初から眼中になかったみたい。もちろん、一部でお礼を言ってくれる礼儀正しい子も少数は居たがほとんどはむしゃむしゃとおにぎりに夢中。男の子なんだからこれ位やんちゃがちょうど良いのかもしれないけど。

 ただ、客観的に見れば分かることもあって。みんな意外に根は悪くないらしい。最初はよほどお腹が空いていただけで、食べ終わったらみんなして「ごちそうさま」なんて言うあたり、やっぱりやんちゃなだけの悪い子たちでは無いのかも。

「ありがとう委員長。美味しかったよ」

「お粗末様でした。正ちゃんは?」

「今日も来てねーよ。つーかもう辞めたんだろ」

「そう、残念」

 なんて言っているうちに、いつの間にか委員長とキャプテンらしき子が立ち話をしていた。いや、なんか見覚えあるシルエットのような気が……。

「で、今年は芦原(あしはら)君がキャプテンなの?」

 芦原……何か聞いたことがあるような、ってまさか!

「待って! 芦原君がキャプテン!?」

 そうだ思い出した。この子、2組にいたよ。ドッジボールの時も一番で突撃してたよ。こいつがまさかサッカー部のキャプテンとは、何だか世の中は狭いなぁ。

「ってその声は春奈ちゃんじゃん! え、料理部だったの!?」

 相手も相手で驚いているみたいだ。でしょうね、同じクラスの転校生にこんな驚いた様子で声を掛けられればねぇ。というか、気安く下の名前で呼ぶなよ……。

「体験入部だけどね。あわよくば入ってくれればって感じ」

「あわよくばも何も、わたしは入るつもりなんだけどなぁ」

 最初からその気だからそうやって卑下するというか下手に出なくても良いと僕は思うんだけど。

「うわー春奈ちゃんにそう言うように仕向けるあたり、委員長もずいぶんと腹黒だなぁ……」

「言わせてないし。腹黒でもないし!」

 芦原の軽口にムッとした様子の委員長さん。普段は穏やかな性格をしているっぽいけど、芦原の前ではずいぶんとぞんざいな一面を見せるみたいだ。何だか意外である。

「まあ入ってくれたら、歓迎会とかもしてあげないとなーって」

「ちょ、歓迎会!?」

「いいねぇ」

 待て待て。入る気はあるんだけど歓迎会なんかするつもりなの? それはそれでめんどくさくて気が進まないというか、やってくれるのは嬉しいんだけどさぁ。眞子の方を振り向いて止めるようにアイコンタクトをしようにも、眞子は眞子で他の男子と何か話をしているみたいだし。ジャージの色を見る限り同学年なのかなあ。そのコミュ力はうらやましい。

「わたしのためにそこまでしないでも……」

「いや、やるべきだろ! 2組の総力を挙げて」

「なんであんたが入ろうとしてるのよ。違うわよ、料理部でやろうって話よ」

「じゃあ2組でもやろうぜ。俺が幹事やるからさ」

「はぁ、本人が乗り気じゃないのに?」

「そしたら料理部だって同じ話だろうが。だろ、春奈ちゃん?」

 嘘でしょ? まさか思わぬ形で両方とも歓迎会やるみたいな流れになっているのだけど……。しかしここで断ると言うことは、料理部としての委員長さんの面目を潰すことになるし。かといって料理部はともかくクラスとしての歓迎会なんてめんどくさい以前に何が起こるか予測不能すぎて行きたくない……。

 どうするよ、僕――。

「そしたら、お願いしようかしら……ね」

 結局のところ、僕は負けてしまった。世間の圧力という、見えないパワーゲームに。


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