悪役令嬢の望んだ結末
エージスの年齢を43から32に下げました。
エージスの台詞も少し変更しました。
レインを第二王子から王子に変更しました。
台詞や内容を追加しました。
ロゼッタの望みや、行動の追加と最後の内容を変更しました。
王子を王太子に修正しました。
私は、ある乙女ゲームの悪役令嬢に転生した者です。途中で婚約者に婚約を破棄され、最期には悲惨な死を遂げると言う、バッドエンドオンリーの運命を持ちます。
そんな私の現世の名は、【ロゼッタ・ファリス・クーリジア】齢18歳。クーリジア公爵家の一人娘です。母の【ローフェル・マリア・ヴィ・ヴァルヴァージ】が父の【ジェイン・フォン・クーリジア】に嫁ぎました。母は現国王の妹です。私は、王国ヴァルヴァージの王家の血筋を引いていると言うことになりますね。
そして、私の婚約者にて、ヴァルヴァージ王国の王太子である【レイン・チェス・ヴァ・ヴァルヴァージ】殿下ですが・・・。
正直に申しますと、私は、彼が好きではありません。
婚約者がいる身でありながら、他の女性(この場合はヒロインですね)と懇意になるとは如何なものかと。それに、殿下は性格も見た目も私の好みではありませんし。・・・っとこれは言い訳ですね。
それでも、生まれたときから最後には婚約破棄をされると分かっていることなのに、彼を好きになれと言う方が無理な話でしょう。ですが、私は公爵家に生まれた身。両親と国王陛下が決めた事に、反論はいたしません。それがたとえ、婚約破棄をされるまで、私の時間と自由を奪われるとしても、です。
そんな私、ロゼッタ・ファリス・クーリジアには初恋の方と結婚するという望みがあります(レイン殿下ではありません)。
そのために、私はヒロインを苛めることなく穏便に物語の進め、互いの同意の下で婚約破棄をする必要があるのです。――罪人に望みが叶えられる筈がありませんから。
ですので私は、レイン殿下とは程よい距離感を探りながら関わりました。殿下も、私とはあまり話したりはしませんでしたが、それでも良き友人としてなら互いに好意を持てていたと思います(たまに、殿下に違和感を感じましたが、気にしないことにしました)。
そして、物語の通りにヒロインが現れました。彼女はとても可愛らしいです。小動物のように周りをせわしなく走り回っています。――ですが、淑女がそんなに走り回るのはいかがなものでしょうか?
私はヒロインとは一切関わりませんでした。彼女が現れそうな場所にはあらかじめ足を運ばず、他の貴族令嬢の方々にお話を聞き、彼女とは反対の場所へ行ったり・・・。徹底して会わないように苦労しておりました。
そんなある日、貴族のご令嬢方とお茶会をしていたのです。どうやら噂によりますと、ヒロインの【エリー・ゼイス】男爵令嬢は我が婚約者殿だけではなく、宰相の息子殿や騎士団長の息子殿など、様々な殿方と懇意であるそうですよ。どう考えても、彼女も転生者でしょう。
そうなると、いくら私がヒロインを苛めていないと申しても、攻略された方々は私を断罪するでしょうね。ああ、本当にくだらない。私の好みにかすりもしない方々であるのに、何故この私が彼女に嫉妬をすると思うのでしょうか。私はつい、カップを持っていた手に力が入ってしまいました。
こちらは必死に関わらないようにしてきたのです。それなのに、やはり物語は軌道修正をするようですね。
ほら――、お茶会に乱入してきた無礼者がいました。ヒロインとその攻略対象者方です。どうやら、とうとう婚約破棄のイベントに入ったようです。殿下以外の彼らの顔が怒りと侮蔑で歪んでおります。私はカップをゆっくりと置き、礼儀として立ち上がりました。
「ごきげんよう、殿下。このような場所へ如何いたしましたか」
王妃となるべく教育された淑女としての礼をすれば、殿下はさらに顔をひどく歪めました。そんな殿下に隠れるようにいたヒロイン、エリー殿が怯えたような演技をしながら出てきました。
「ロゼッタ様・・・、もうおやめください」
――は? 何を、言っているのでしょうね? この小娘は。そもそも、私は殿下に聞いたのです。本来であれば、男爵令嬢である貴方が、許可もなく公爵令嬢である私に話しかけることは許されないのですよ。本当に、恋に溺れた哀れな娘ですね。無礼を働けば家がどうなるか、理解も出来ないのでしょうか。
私が冷たい視線を向けたのに気が付いた攻略対象の方々が、私に向けてエリー殿に謝れとほざきます。誰に、言っているのでしょうね、この男共は。
「私に意見を言えるのは、この場では殿下だけです」
言外に、お前らと私の立場は平等ではないと言えば、彼らは、苦虫を噛んだような顔をして引き下がりました。どうやら、ヒロインよりは理解力があるようで安心しました。
そして、私は殿下に向き直りました。彼は表情を歪めているだけで、未だに一言も発しません。何を考えているのか理解できない。
「ロゼッタ、正直に答えてほしい。――・・・君がエリー・ゼイス譲に危害を加えたと言われているが、事実だろうか?」
予想外でした。随分と落ち着いて話をなさるんですね。もっと怒りに身を任せて私が悪いと決め付けるかと思いました。何もしていない私は、淡々と殿下の質問に答えます。
「いいえ、殿下。私は決してそのようなことはしておりません」
「嘘よ!! 私に、殿下に近づくなとか、階段から突き落としたりしたじゃない!!」
それは、ゲームの中でのお話でしょう? ここは現実だということを理解しなさい、愚か者が。そもそも、私は貴方と会話したことなど一度も無いでしょう。
「私は、嘘など言いません。王妃となるべく教育をされた者、不必要な嘘など言う理由もありません」
特に、ただの学生である彼ら相手に、嘘を言うなんて、そんなのは時間の無駄ですから。それにしても、随分と自信満々に仰いますが、もちろん証拠があるのですよね?
「でも、私は怪我を負わされました!! ロゼッタ様、貴方にです!!」
「証拠はありまして? 証言ではなく、物的証拠ですよ」
そう言うと、ヒロインは黙り込みました。あるはずが無いのですよ、やっていないのですから。証言だけではいけないのです、必要なのは証拠もなのですから。証言だけで罪人を裁いていたら、今頃人々はいないでしょうね。だから、証言と証拠を集めるのですよ。矛盾の無い証言と証拠をね。嘘を言えば、そこから綻びが生まれ、最後には自身が破滅するのですから。
「ロゼッタ、どうやら君が危害を加えたというの虚言だったようだね」
「そのようですわね、殿下」
それが決め手でした。殿下に信じて貰えなかったヒロインは怒りで叫びました。
「どうしてどうしてどうして!!! こんなのストーリーが違うじゃない!! この後、悪役令嬢は批難されてレイン様に婚約破棄されるはずなのに!!!!」
目が血走り、大口を開けて叫び続けるエリー殿に攻略対象者方は、恐ろしいものを見るように彼女を見ていました。
「捕らえなさい」
突如響いた美しい声。その声は周りに静寂をもたらしました。その声に従い、狂ったヒロインを鎧を身に纏った方々が捕らえました。そして、抵抗するヒロインを引きずるように連れて行きます。その指示をしたには・・・。
「王妃様・・・!」
私は慌てて、礼をとります。周りの者もつられて礼をとりました。王妃様が「楽になさい」と言うと、私達は少しずつ顔を上げ立ち上がりました。でも、何故王妃様がこの場に? 混乱をしている私に答えるように、王妃様は口を開きました。
「我が息子レインとロゼッタ嬢の婚約についてです。・・・エージス」
「はっ」
その名を聞き、私は目を見開きました。だって彼は・・・。
「我が国王陛下より言付でございます。王太子レイン殿下とクーリジア公爵令嬢ロゼッタ嬢の婚約は破棄とする、とのことです」
「え?」
婚約を破棄する・・・? 本当に?
「本当ですか!? 母上!」
何故か嬉しそうに言う殿下に、王妃様は不思議そうな視線を向けます。
「あら・・・? お前の望みでしょう? ロゼッタのために、婚約を破棄しようと動いていた」
「・・・あ・・・」
心当たりがあるのか、殿下は照れたような顔で口を閉じました。どういうことでしょうか? 私は婚約破棄を望んでおりましたが、殿下も婚約破棄をしたかったのでしょうか? 私と視線を合わした殿下は、秘密だと言う様に指を口元に持っていきました。
「そして、エージス」
「はっ」
「貴方をロゼッタ嬢の婚約者に選びます」
「は?」
その言葉に、殿下から視線を外し、王妃様の方へと顔を向けました。
・・・エージス様が、私の婚約者ですか?
お髭を蓄えた素敵な尊顔。鍛え上げられた逞しい身体。溢れ出る大人の色気。齢32歳。私と14歳の差があります。そんな方が私の婚約者・・・。
「嬉しいです!! 王妃様、本当によろしいのでしょうか」
そう聞けば、王妃様はニコリと微笑んでくださいます。
「ええ。もともと、貴方にはエージスが良いと思っていたのです。どうやら、両思いのようですしね」
「・・・え? 両、思い?」
ちらりとエージス様を見れば、真っ赤なお顔を私から逸らしました。・・・可愛い。
「エージス様・・・、どうか私を貰っていただけませんか」
彼の元へ歩みを進めて、小さく頭を下げる。幼い頃から好きだったエージス様。殿下の婚約者だから、とこの想いには蓋をしていたのですが・・・。
「私達は出て行きますから、二人でゆっくりお話なさい」
「ロゼッタ・・・。もう、ゲームとは違う結末になった筈だから大丈夫だよ」
「え」
今、レイン殿下が言った言葉に私は目を見開きました。ゲームと言う言葉を知っているのですか? まさか、貴方も転生者だったのですか、レイン殿下。・・・だから、落ち着いていたのですか。
レイン殿下は肯定するように微笑むと、王妃様と共にその他の者達を引き連れて出て行きました。本当に、二人きりになってしまいましたね。
「エージス様。私は、幼い頃より貴方様に好意を抱いておりました。殿下の婚約者となってからは、叶わぬこの想いに蓋をしました」
「・・・」
「ですが、殿下との婚約が破棄された以上、私にはもう一度、エージス様に好意を寄せることが出来るようになったのです。これほど嬉しい事はありません」
「ロゼッタ嬢・・・」
私は、顔を上げ、エージス様と目を合わせました。彼の目に私が映っている・・・。ほんの少し彼の顔が赤いように思います。
「ロゼッタ嬢。私は、貴方が生まれ一時的に護衛としてお側にいるとき、8歳になった貴方が私に作ってくださった花冠。あれを渡しながら笑顔を見せてくださったとき、貴方と言う存在に心奪われました」
「――え?」
「王子殿下の婚約者になられて、私はこの想いを消さねばならぬと思いました」
エージス様は、私の右手を取り跪きました。その目は、とても優しかったのです。
「ですが、どうしても貴方への想いを消すことは出来ませんでした。ロゼッタ嬢・・・私は・・・」
言葉を詰まらせたエージス様ですが、私の目から視線を外すことはなく、決意したように口を開きました。
「俺は、貴方にどうしようもなく惹かれています。婚約者となって・・・俺と、共に生きてください」
私は・・・絶対に聞けることが無いと思っていた言葉を聞いて、涙が溢れました。慌てるエージス様に微笑んで、頷きます。
「はい。ぜひ、私を・・・エージス様のお嫁さんにしてください!」
***
王子と婚約を破棄した公爵令嬢は、幼い頃より好意を抱いていたある騎士と結ばれました。真っ白なドレスを身につけ、幸せそうに微笑む令嬢は、14歳も年上の夫と、いつまでも幸せに暮らしたそうです。
その舞台の裏側で、公爵令嬢に無礼を働いた狂った女がおりましたが、その女は人知れず死刑となったのです。そして、その女に惑わされた哀れな男達は、自身のした事で罪悪感に苛まれ一人、また一人と自ら死を選んだそうです。
「私は幸せです。だって――」
私の望みが叶ったのですから――。