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第7章 決断の時

今回文章の面で自信がないので大幅改修を行う場合があります。

ニホン国領 ナンヨウドウ上空 やすらぎの入り江より西に500(メイル)


 ハーミルの偵察任務の支援の為に送られたフィールとミミは箒に乗って夜の空を飛んでいた。

 ミミは箒に跨りながら操作し、フィールは横向きに座っている。

 彼女達はまもなく合流地点の入り江に到着しようとしている。


「もうすぐ着きますね、フィールさん。高度はもう下げたほうがいいですか?」

「いや。この高度を維持しつつ減速してくれ」


 フィールに言われた通り高度を維持したまま速度を落とすミミ。

 やすらぎの入り江まで、あと100メイルを切りそうな時だった。


「止まれ!」


 突然フィールが小声で叫んだ。

 ミミは咄嗟に箒を停止させ、滞空状態になる。


「どうしたんですか?」


 何事なのかフィールに尋ねるミミだったが、フィールは入り江のある方向を睨んだまま何も言わない。

 入り江は誰かが火を起こしているらしく、明かりがわずかに見える。

 普通に考えるとハーミル1人しかいないはずなのだが、フィールから発せられた言葉にミミは驚愕することになる。


「入り江内に7人……周辺に3人……」

「!?それって……?」

「格好からして、ハーミルやニホン軍の可能性は低い。となると……」


 フィールはおもむろに荷物の中から自分専用の弓矢を取り出した。

 そしてミミに指示を出す。


「高度はそのままで、入り江の手前までゆっくり飛べ。音は立てるな」

「りょ、了解」


 ミミは速度をゆっくりと上げ、入り江の手前上空まで飛ぶ。

 その間にフィールは箒に膝裏をかけて逆さまの状態になりながら弓を構える。

 数秒程度で狙いを定めると、自分達から一番近い位置にいた周辺の見張りにめがけて矢を放った。

 矢は見張りの喉を貫き、彼は声も上げられないまま大量の血を流してゆっくりと絶命した。

 フィールは同じ要領で残りの見張り2人にも矢を放つとミミに着陸の指示を出す。

 近い位置にいた死体の側で着地すると、フィールは死体の持ち物を漁り始めた。


「国籍がわかるものは持っていない。装備は暗殺用や工作用の道具や武器ばかり。だとすると、ニホンではない別の国の密偵であることは間違いないな」


 ハーミルの報告書でニホン軍の特徴や装備を知っているフィールは即座に彼等を他国の密偵であることを見抜いた。

 しかし、これだけではどこの国の人間であるかまでは分からない。

 可能性として最も高いのはノイズ王国だが、確証が必要だった。

 フィールは周囲を警戒していたミミに再び指示を出す。


「入り江の東側に回り込んで岩壁の上で待機しろ。そこで攻撃魔法の準備をしておけ。目標は私がここから指示する。いいな?」

「了解です」


 ミミは箒に乗って地面スレスレの低空飛行を行い向かい側の岩壁まで飛んだ。砂浜を岩壁で囲んでいるような小さな入り江であるため、それほど距離はない。

 目標地点に着くと、身を低くしながら密偵達が居座っている砂浜を見据える。

 彼等は焚き火を囲んで夕食を取っている。食料はおそらくハーミルの物資を奪ったものだろう。

 一応ハーミルがいないか確認するが、やはりどこにもいない。

 ミミは静かに杖を構えて攻撃魔法の準備を始めた。

 入り江西側の岩壁で待機しているフィールも弓を構えながら、彼等の会話を聞いてタイミングを窺う。

 エルフ族であるフィールは優れた視力と聴力を併せ持っており、かなり距離がある密偵達の会話を聞き漏らすことなく耳に入れ、更に口の動きから誰が話しているのかもわかる。

 しばらく彼等の会話を聞いたフィールはミミに手信号で攻撃目標を指示すると、自分も目標に向けて弓を構える。 

 そして、ミミの魔法と同時に矢を放った。





 自分達の周囲に何者かが潜んでいることに気付かぬままノイズ王国の密偵たちは今日あった出来事や今後の動きについて話し合っていた。


「では、遅くとも明後日には情報はノイリスに届くのですね、隊長」

「ああ。陛下も報が届き次第戦の準備を始めるだろう。襲撃者達の正体がダークエルフだと解った以上、恐るものはない」


 未開の地の攻略はノイズ王国の長年の夢だった。

 しかし、プリミントの森で王国軍を襲撃し、多大な被害を出させた謎の襲撃者の存在のせいでその夢は頓挫してしまった。

 だが、これでようやく王国の長年の夢が達成される。

 この未開の地が手に入れば、王国は多大な富に恵まれることになるのだ。


「ここを見つけた時は驚きましたが、あの女が来るまで待ち伏せしていたのは正解でしたね」

「重大な情報も手に入れたし、ルアス同盟の者なら更なる情報も引き出せるはずだ」


 最初にこの入り江を見つけた時、明らかに誰かが生活していた痕跡や大量の食料などの物資が隠されていたことから、自分たち以外にこの未開の地の偵察を行っている者がいると考えた彼等は、その人物が帰ってくるまで近くの岩礁に身を潜めていた。

 そして何も知らずに戻ってきたハーフエルフを捕縛することに成功した。

 彼女が捕まる直前に海に投げ捨てたバックには他にも何らかの情報が書かれた報告書があったのだろうが、その内容も王城でゆっくり聞き出せれば良い。


「しかし、北で開拓を進めている連中も無視できません。奴らはどうなりますか?」

「ダークエルフと手を組んでいるんだ。攻め込む理由としては十分だ。この未開の地から出て行くのならそれで良いし、拒むのなら殲滅するまでだ」

「武器らしいものと言えば、せいぜい奇妙な黒い棒くらいでしたしな。ダークエルフと共同で戦ったとしても勝利は見えています」

「だが、我々は奴らについて全く知らない。今後は更に調査を進める必要があるだろう」


 部下たちがそれぞれの意見を出し合っていると、隊長と呼ばれた男が全員を静かにさせて今後の方針を説明する。


「我々は王国が今後有利に事を進められるようにするため、偵察を続行する。場合によっては奴らを1人でも捕らえて情報を引き出すことも構わん。まだここへ来て3日も経っていないが、明日からは本格的に調査に乗り出すぞ」

「「「了解!」」」


 明日の予定が決まった所で部下の1人が立ち上がる。


「じゃあ、明日に備えて今日は……」


 そこまで言って、急に言葉が止まった。

 不審に思い、その場にいた全員が彼に視線を向けてどうしたのかと尋ねるが、彼は何も言わない。

 そして彼は目の前にある夕食の器に顔を突っ込むように前に倒れた。

 それと同時に別の部下が悲鳴を上げる。


「ギャアアアアアアアアアッ!!」


 悲鳴のした方を見ると、2人の部下が全身火だるまになりながら、まるで踊っているかのように炎を振り払っていた。


「敵しゅ……がっ!?」


 事態を察知した部下が警告しようとしたが、その瞬間に飛んで来た矢が喉に突き刺さった。2度と声を上げられなくなった彼は地面に倒れ、そのまま2度と体を動かすことはなかった。

 まだ生き残っている3人は武器を手にして周囲を警戒し始める。

 すると、東側と西側の岩壁の上から魔女とエルフが降りて来た。


「クソッ、あのハーフエルフの仲間か!」

「魔女の分際で俺たちの前に姿を出すとは、馬鹿な奴め!」


 部下2人は武器を持ち直して、先に魔女を討つべく東側に向かい、隊長はエルフと睨み合いながら少しずつ間合いを詰めていく。

 魔法専門の魔女族は接近戦に持ち込まれると不利になるはずであるから、2人が魔女を倒すまでは自分がエルフを見張ればいい。

 隊長はそう判断し、部下も同様のことを考えていたが、これが大きな間違いだった。


 部下2人は相手の魔法に警戒しながら徐々に近づいて行き、2(メイル)程にまで接近すると攻撃を仕掛ける。

 やがて、魔女が何かを唱え始める。

 魔法の詠唱を始めたのだと考えた部下達は即座に攻撃に移った。

 どんな魔道士であれ、魔法の発動中は無防備になりがちであるため、ある意味では攻撃のチャンスなのだ。


「「死ねぇ!」」


 2人は同時に攻撃を仕掛けた。

 たとえ1人目の攻撃がかわされても、もう1人が確実に仕留めるという寸法だ。

 1人目の斬撃が魔女に届きそうになった途端、魔女は詠唱を止めて攻撃をかわした。

 ここまでは予想通りで、2人目が続けて剣を振り放つ。

 だが、魔女は手にした杖でそれを防いだ。


「なっ!?」


 最後に攻撃した部下は魔女の予想外の行動とその俊敏さに一瞬動揺した。

 魔女はその一瞬の隙を逃さず、彼の腰に差してあったナイフを素早く抜き取ると、そのまま心臓へ深々と突き刺した。斬撃を防いでからここまでは2秒もかからなかった。


 仲間が倒されたことで残った最後の部下は魔女への警戒心を強め、少し距離を開けて身構えた。

 息を引き取った部下を解放した魔女はナイフを持ち直すとそれを投げた。部下がいる場所とはだいぶずれた方向に。

 何のつもりなのかと僅かに視線をナイフの飛んで行った方向に向けると、エルフと対峙していた隊長が足にナイフが刺さった状態でエルフに顎を蹴り上げられている姿が映った。

 エルフは隊長の気をナイフから自分へ逸らすために、敢えて正面から異常接近してきたのだ。

 意識を完全にエルフへ向けていた隊長はナイフに気付くことなく正面へ迎撃姿勢をとり、その直後にナイフが刺さったことで大きな隙を作ってしまい、そのままエルフの攻撃を受けてしまった。


 足にナイフが刺さり、顎に強烈な一撃を喰らった隊長はしばらく起き上がれそうにない。

 あっという間に不利になった部下は、せめて1人でも倒そうと魔女に駆け寄る。

 だが、剣を振り上げようとした途端、その腕に矢が突き刺さった。

 先程、隊長が嵌った作戦と同じことが彼にもおきたのだ。

 魔女は武器を落とした部下の顔に手をかざすと、ある魔法を発動させる。

 部下は身体中の力が魔女の手に吸い取られていく様な感覚に見舞われた。

 そして、段々と自分が年老いていくことに気付かぬまま息を引き取り、その肉体も腐り始めて最後には骨だけとなった。

 かなり年季の入った白骨となった部下は身につけていた剣や服の重みに耐え切れず、軽い音を立てて崩れ落ちた。


勝敗はついた。







 ノイズ王国の密偵を始末したフィールとミミは、隊長と呼ばれた男の側まで寄ると、抵抗できないように手足をロープで縛った。

 そしてフィールは倒れている男の胸倉を掴むと、無理矢理起き上がらせて首元にナイフを押し付ける。


「ここにいたはずのハーフエルフはどこだ?」


 フィールは低い声で男に尋ねる。

 男はフィールを一瞥すると、直ぐに顔を背けた。

 どうやら喋る気はないらしい。

 ミミは白骨化した部下の頭を拾い上げると、渾身の力で男の顔面に叩きつけた。

 頭蓋骨は軽い音を立てて砕け散り、男はその破片で顔のあちこちに切り傷ができた。

 今度はミミが尋問する。


「この人みたいに骨だけになって死ぬのと、ボク達に話すことを全て話して肉体も残したまま死ぬの、どっちがいい?」


 ミミはフィール以上に低い声で、尚且つ今にも殺しにかかって来そうな殺意全開の視線で男に問いただした。

 先程の行為が効いたのか、僅かに震えた声で返答する。


「ハーフエルフなら馬車に乗せてノイズ王国に送った。3時間前にな」

「チッ」


 男の答えにフィールは舌打ちした。

 今から3時間前に馬車で運んでいるということは、とっくに森を抜けて国境を越えているはずである。

 今から箒で飛んでも追いつけるかどうか分からない。


「フィールさん。まだ間に合うかもしれません。急いで……」


 ミミがハーミルの救出を促そうとした時だった。

 頭の上に何かが当たる感触がした。

 掌を上向きに広げて数秒待つと、雨粒が何度か落ちてくる。

 フィールとミミが空を見上げると、夜空を雨雲が覆っており、降ってくる雨も次第にその量を増し始めていた。

 この様子だと、これから更に強くなるだろう。


「これでは……ハーミルの捜索は無理だな」


 ただでさえ暗い真夜中に、しかも雨の中で明かりもなしに広い平原を捜索するなど愚策でしかない。

 エルフの優れた視力と聴力を持ってしても不可能だろう。

 悔しいが、救出は諦めるしかなかった。

 雨が強くなる前にフィールは男にもう一つ質問をする。


「先程、ダークエルフのことを話していたが、彼らはこの地にいるのか?」

「……間抜けなハーフエルフが我々に情報を提供してくれたのだ。この地で開拓を始めている連中と手を組んでいるとな。奴らもダークエルフ族も我が軍によって殲滅され、この地はノイズ王国のものとなるのだ……!」


 話を聞くだけ聞いたフィールは男の喉をナイフで抉り、彼を永遠に静かにさせた。

 それと同時に雨も急激に激しさを増し、完全な豪雨となった。

 2人はマントのフードを被り、今後どうするかを考え始める。

 その時だった。


「フィールさま〜!ミミさま〜!」


 海側から2人を呼ぶ声がした。

 声の方向へ向くと、岩礁に2人の魚人族が身を乗り出していた。


「エルディーネ殿とミント殿!?」


 2人の正体はルアス同盟の協力者であるエルディーネ姫とその近衛侍女のミントだった。

 フィールとミミはエルディーネ達が突然現れたことに驚いたが、すぐに側に駆け寄り、話を聞き出す。


「何故、貴女がここに?」

「私……ハーミルに呼ばれて……でも、ハーミルがいなくて……あの男たちが……勝手にハーミルのものを漁ってて……近くで、コレが見つかって……」


 エルは今にも泣き出しそうな顔で必死に説明し、手にしていた物をフィールに渡した。

 それは、ハーミルが愛用していたバックだった。


「これは!?」

「沖の方に流されていたのを姫様が見つけました〜。中身が散らばって集めるのが大変でしたが〜」


 フィールの疑問にミントが答えた。

 中を開けると、ハーミルの私物や報告書らしきものがいくつも入っており、報告書は海水の影響でほとんど解読不能になっていた。

 バックを閉じた途端、エルはフィールに掴みかかり、自分が一番気掛かりだったことを問いただす。


「ハーミルは……ハーミルは無事なんですか!?」


 フィールは一瞬、エルを心配させないように嘘を言おうか迷ったが、考え直して正直に答える。


「……いや。奴らに連れて行かれた……」


 その答えを聞いたエルはとうとう泣き崩れてしまった。

 ミントは心配そうな顔でエルを慰める。


 フィールはバックの中にあった2枚の報告書を取り出すと、ミミに渡した。


「ミミ。これの復元はできるか?」

「この程度なら大丈夫です」


 そう言うとミミは報告書に手をかざして呪文を唱え始めた。

 すると、掠れていた文字が見る見る元通りになっていき、最終的には湿っていた紙も乾いて海に落ちる前の状態にまで復元された。

 フィールとミミは早速、報告書に目を通し始める。


「あのバカ……単独でニホン軍の本拠地に入ったのか」


 報告書の内容は、ナンヨウドウの北部にあるニホン軍の本拠地(キョクジツ駐屯地という名称だった)の内部の様子や、ニホン軍の歩兵の武器の性能など、事細かに書かれていた。

 自分達が到着するまで、この場で警戒・待機していたらこのようなことにならなかったかもしれない。

 いや、自分達も予定通りにこの入り江に着いていたら、あの密偵たちに襲われても返り討ちにできたはずだ。

 ハーミルの失態を心の中で糾弾すると同時に、自分達のミスも非難するフィールだった。


 報告書を読み終えたフィール達は今後の方針を話し合う。


「これからどうしますか?」

「先ずは報告が優先だ。ミミ、魔通信はどれくらい話せる?」

「えっ!?使わなきゃ駄目なんですか?」


 フィールの問いにミミは嫌そうな顔をした。


 魔通信とは、特殊な『魔水晶』を用いて同じく魔水晶を持った遠くの者と会話できる魔法だ。

 非常に便利な魔法であるが、魔通信に使用可能な魔水晶の鉱石の産出量は極めて少なく、更に値段も高額であるため一部の貴族しか持つ者はいない。

 魔女族は持ち前の魔法技術で、精度の低い鉱石でも通信ができ、尚且つ指輪やイヤリングなどのアクセサリーに変えて持ち運べるほど小型にすることができたが、その性能は最悪でただでさえ魔力の消費が激しい通常の魔通信の数倍の魔力を消費する上に、長時間使用し続けると魔水晶自体が勝手に壊れることが多い。

 更に、精度の高い鉱石で作った魔水晶は会話内容が第三者に聞かれない様に使用時に特殊な結界が張られるが、質の悪い鉱石で作った魔女族製魔水晶にそんな優秀なものがついているはずがなく会話は外にダダ漏れである。

 魔力の保有量が多いことで有名な魔女族ですら緊急時以外では使わないほど低評価なアイテムなのである。

日本風にこれを表現すると、『長距離でも使えるが電池消費が激しいおもちゃのトランシーバー』のようなものだ。


魔通信の使用を渋るミミにフィールは叱咤する。


「出し惜しみをするな!今は非常時なんだぞ!」


ミミは仕方なく通話可能時間を答える。


「ここに来るまでに飛行魔法や攻撃魔法でだいぶ使っちゃいましたから、15秒ぐらいです。明日から三日間は魔法が使えなくなりそうです」

「フレイアスに繋いでダークエルフ族が見つかったこととハーミルが捕まったことをなるべく簡潔に伝えろ」

「了解」


ミミは指示通りにフレイアスに連絡を入れる。

その間にフィールはペンと紙を取り出して手紙を書き始めた。

その内容は、


『東部支部支部長レイラ・クラーティム宛


ダークエルフ族がナンヨウドウにおり、二ホンと協力関係にある可能性大。情報源はハーミルを捕縛したノイズ王国の密偵。ハーミルは現在行方不明だが、ノイズ王国の王城に護送されている模様。現在は豪雨のため捜索は不可能。我々は現在地にてハーミルの仕事を引き継ぐ予定。フレイアスには簡単な内容のみを魔通信で報告済み。そちらから何か指示がある場合は、手紙又は魔通信で連絡されたし。


未開の地偵察チーム フィール・アレイシア


追伸 魔通信はミミの魔力枯渇により、明日から三日間は使用不能』


である。

 フィールは手紙に封をすると、それを報告書と一緒にまだ泣いていたエルと彼女を慰めていたミントに渡す。


「これを東部支部に届けてくれ。一刻を争う。上手くいけばハーミルも助けられるかもしれない」


 それを聞いたエルはハッと目を見開いた。


「それ、本当ですか!?」

「ノイズ王国内には亜人族救出のために出向いていたメンバーがまだいるはずだ。王城に入れられる前に救出できるかもしれない。たとえそれが失敗しても王城内にレイリーがいる。レイリーの実力は貴女も知っているはず」

「……!?わかりました!行くよ、ミント!」

「了解です〜」


 フィールの言葉に勇気付けられたエルは即座に手紙と報告書を魔法で包むと、ミントと共に海へ飛び込んだ。

 人魚族はマグロと同じ時速70tm(テスメイル)で泳ぐことができるため、数時間で届くはずだ。

 だが、泳ぐのが遅い海月族のミントを連れて行くことを考えるともっとかかるかもしれない。

 いや、あの調子のエルならミントを置いて行ってでも速攻で届けるだろう。

 そう思っていると魔力切れで疲れた様子のミミが連絡を終えたことを伝えてきた。


「さて、無事連絡は済みましたけど、ボクは三日間魔法は使えないしハーミルを捜すこともできない。どうするんですか、フィールさん?」


 フィールは少し考えて返答する。


「お前はしばらく休んでいろ。それと、透明薬はどれくらい持ってきている?」

「4時間用が1人3回分で10時間用が1人1回分です」

「10時間用を使わせてもらう。明日は私1人で北のキョクジツ駐屯地に向かう」


 ミミはフィールの突然の発言に困惑した。

 魔法が使えない状態の自分をここに残しておくということなのだからだ。


「ボクは1人で留守番ですか?」

「雨は明日以降も続きそうだし、新しい密偵がすぐに送られてくる可能性も低い。なあに、本当にニホンがダークエルフ族と協力関係にあるのかを確かめに行くだけだ。行ってすぐに戻ってくるさ」

「……わかりました」


 フィールの説得にミミは渋々納得した。


 今後の予定を決めた2人は就寝のためにテントを建て始める。

 後はフレイアスの決断を待つだけだ。





ドレン王国 ライアス王国国境付近


 ドレン王国は北にライアス王国、南東に旧レーアイナ公国と国境を接するペシオ教圏国家であり、ルアス同盟北部本部の者が旧レーアイナ公国を訪れる際はこの国を通り道にしている。

 この日、旧レーアイナ公国から帰国する途中だったフレイアス一行は、ライアス王国に入国する寸前に東部でナンヨウドウの調査に出向いていたミミからの魔通信で急遽行き先をノイズ王国に変更した。

 ミミから伝えられた内容は、


『ハーミルがダークエルフ族がニホンと手を組んでいることを発見しましたがノイズ王国に捕まりましたので大至急来てください。時間がないのでここでしゅ……』


と言うものだった。

 ダークエルフと言う言葉を聞いたフレイアスは一瞬混乱しそうになったが、ミミの余りに大雑把過ぎる連絡で直ぐに現実に引き戻された。

 連絡が来てから既に数時間が経過しているが、馬を走らせながら全員がダークエルフ発見の報に驚きから立ち直れずにいた。


「まさかダークエルフ族が未開の地……いや、ナンヨウドウにいたとは……」

「よくよく考えみれば、彼処なら確かにいても不思議じゃなかったな」

「どうして今まで気付かなかったのかしら」


ネオード、ギノル、イリアの言葉にフレイアスも同意する。


『プリミントの森に赴いたノイズ王国の軍勢が正体不明の集団に襲撃された』


 この言葉の時点で疑問を持つべきだった。

 ノイズ王国軍は1000人近くいたにも関わらず、その襲撃者の正体が誰にもわからなかったなど明らかにおかしい。

 聞いた話によると、王国軍は前後左右上下から矢の嵐を受け、被害の低下と襲撃者の搜索のために全部隊を散開させたそうだ。

 しかし、それが逆に仇となり、ある者は上を見上げた途端に矢のヤマアラシにされ、またある者は1人になった途端に首を掻かれ、そしてまたある者は落とし穴や宙吊りの罠に掛かって身動きがとれないところに剣や槍で止めを刺された。

 森を一種の要塞にし、姿を見せることなく敵を仕留める。

 そんな暗殺のような戦法ができるのは、隠密行動や暗殺を十八番とするダークエルフ族以外に考えられない。

 彼等の能力や特性をもっと視野に入れて調査するべきだったと後悔するフレイアスだった。


 しばらく馬を走らせていると、フレイアスの右腕のブレスレットについた水晶が光りだした。

 このブレスレットは魔女族からもらった魔通信用の魔水晶入りブレスレットで魔女族との緊急連絡用に使われている。

 ただし、フレイアスからは連絡を入れることはできないため、魔女族の誰かからの通信を受信しないと使用することもできない。

 フレイアスは全員停止させ、ブレスレットの水晶を軽く撫でて通信を繋ぐ。


「誰だ?」

『フレイアス君?キキよ』


 声の主はミミの姉であるハイズ三姉妹のキキだ。

 キキはミミからの連絡で大体の状況がわかっているか確認を求め、フレイアスはそれに肯定する。


『時間がないから単刀直入に聞くわ。あなたの決断を聞かせて』


 キキはいつもの軽い口調ではなく、真剣な口調で言った。

 フレイアスは一息おいてはっきりとした言葉で告げる。


「ルアス同盟はダークエルフ族の守護の為にニホン国を支援する!ただし、どちらにもまだ我々の存在を知られる訳にはいかない。あくまでも秘密裏に行動することだ」

『わかった。それともう一つ……』


 フレイアスの決定事項を聞いたキキは別の話を持ち出す。


『ハーミルちゃんの救出のことだけど……』

「それに関しては全てそちらで任せる。ただし、ハーミルがルアス同盟の情報を吐くようなことがあったら……始末しろ」

『……わかったわ。それと、ワイバーンも私達もそっちにお迎えに行くことができないから、なんとか自力でノイズ王国へ来てね』

「了解した。通信切るぞ」


 フレイアスは再び水晶を撫でて魔通信を切った。

 そして待機している4人の方を向くと、全員が驚いた表情をしていた。


「フレイ……ハーミルを始末するって、本気?」


 イリアが震えた声でフレイアスに聞いた。

 フレイアスは顔色を変えずに答える。


「あくまでも情報漏洩をした場合だ。何か問題があるか?」

「問題って……そんな言い方はねぇだろ!」


 フレイアスの冷たい発言にギノルは怒鳴った。

 フレイアスにとってもハーミルは大切な存在だったはずなのに、まるで用済みの道具を処分するかのような扱いをしていることに頭にきたのだ。


「あいつ1人のせいで組織全体が危険に曝されている事態は避けたい。それはお前達にもわかるはずだ」

「確かにその通りだが……もう少し言い方というものがあるんじゃないのか!?」

「じゃあ、聞くが……」


 ネオードも反論するが、フレイアスは全員を黙らせるある言葉を放った。


「相手がミーザだったら同じ事が言えるのか?」


 それを聞いた3人は何も言えなくなった。

 フレイアスは更に続ける。


「お前達は今でもミーザを許せないはずだ。俺自身殺してやりたいとすら思っている。ハーミルが組織のことをノイズ王国に話すことがあったら、全く同じことを考えるはずだ。あいつはルアス同盟を”裏切った”ことになるんだからな。もっと言えば、本当にそんなことになったらミーザの方がまだ良心的だ。あいつは入って3ヶ月しか経っていなかったから被害が本拠地や親父だけで済んだが、ハーミルは組織の中枢まで詳しく知っている。もし、そこまで全ての情報を漏らされたらルアス同盟は今度こそ本当に壊滅することになる。全員の命を預かる身として、それだけは絶対に許されない」


 全く反論ができない4人は悔しそうに下唇を噛んだ。

 フレイアスはそんな彼等を宥め始める。


「勘違いしないでくれ。俺だってハーミルを救いたいんだ。ただ、こんな仕事をやっている以上そういう覚悟をしないといけないことを忘れないで欲しい。俺達は今やるべきことを全力でやるしかない。まあ、女ばかりの東部支部だが、何気に優秀な奴らが揃っているから心配する必要はないかも知れないぞ」

「……そうですね」


 フレイアスの言葉にローグが相槌を打つ。

 ローグはルアス同盟に入ってまだ半年もしていないため、今のフレイアスの言葉が身に染みていた。

 他の3人も気力を取り戻し始めていた。


「さて、だいぶ時間を食った。急いでノイズ王国に向かうぞ!」

「はいっ!」

「「「了解っ!」」」


 そう言って一行は再び馬を走らせる。

 そして、全員がハーミルの無事を祈るのだった。

なかなか更新出来なくて申し訳ありません。

次回は間章ですが近いうちに投稿します。

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