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桜国幻想記  作者: 森看板
7/8

雨の終わり

「マニラ……!」

 ナルコマが淡い光で輝きながらマニラに寄り添う。

 その光の暖かさが、マニラの痛みを和らげてくれた。

 しかし、怪物はそんな二人に容赦なく拳を振り下ろす。


「ナルコマっ! ありがとう。もう、大丈夫だよ」

 マニラは跳躍して拳を避けた。手のひらに大切にナルコマを包んでいる。

「マニラ、がんばって!」

 マニラはその言葉に頷き、剣を両手で構える。

 怪物は呻りを上げる。それは腹の底から抉られる様な響きだ。

 どちらからともなく駆ける。それは一瞬だった。すれ違う様に振り抜いた剣が怪物の胴を薙いでいた。怪物は真っ二つになり、マニラ自身もその自分の力に驚きを隠せない。だが、それ以上に安堵で一杯になっていた。

 絶叫も、血飛沫も無かった。さっきまで圧倒的な存在を示していた怪物は、まるで最初からいなかったかの様に、水の粒になり掻き消えてしまった。


「た、倒した・・・・・・?」

 呆然とするマニラにナルコマが頷く。

「倒した!」

 マニラは大声を上げた。ナルコマも一緒に叫ぶ。

「たおしたー! たおしたよー!」

 二人は飛び跳ねて喜んだ。しかし、そんな二人とは裏腹に、辺りは静寂に包まれている。

「そういえば、水の申は?」

「大丈夫、ちゃんと開放されてるよ。さっきの怪物に封印されていたみたい」

「そっか・・・・・・よかった。というか、そういうの分かるんだ」

「え、ええ。もちろん」

 ナルコマは頷く様に上下に一回動いた。

「あ、マニラ、元に戻ってるよ」

「えっ」

 興奮が冷めてきた二人はやっと辺りが視界に入ってきた。

 マニラが見つめる自分の手は、たしかに長年見慣れたものに戻っていた。


 風が止んでいる。

 つい先程まで唸る様に鳴り響いていた音は止み、連綿と連なる切り立った崖がそこに静かにあるだけだった。空には雲ひとつなく、空気は静かに揺れている。

「なんだろう・・・・・・」

 その変化にマニラは戸惑いながら、辺りを見回した。

「ねえねえ、疲れたよ! はやく戻ろう」

「うん」

 ナルコマは気にならない様で、マニラをせかした。


 町の様子も変わっていた。

 どれだけ晴れていても、どこか水の匂いを感じさせた空気はからりと乾いており、道行く人たちもどこか不思議そうにしている。

「ねえ、ほんとによかったのかな。なんか変じゃない?」

「そうかな? 今までが変だったんじゃないかな」

 不安そうに話すマニラに対して、ナルコマはのん気に答える。

「さあさあ、ご飯食べましょ! もうお腹ぺこぺこ!」

「うん、そうだね」


 ふかふかのベットに飛び込む。

 マニラはごろりと転がると、天井を見上げた。

 心地よい充足感に体が包まれる。

「次は、木の卯(うさぎ)が近いわね」

 机の上に置いてある地図にナルコマがとまる。

夔の国(きのくに)ね、私はそっちから来たんだ」

 マニラは枕を抱えながら地図を覗き込む。

「じゃあ、色々と楽そうね」

「うーん、道は良いとして、今は時期が悪いかな」

「どういうこと?」

 首を捻って困った声を出すマニラに、ナルコマはひらひらと飛んで行く。

「次の船は半年後なんだ」

「あらあらあら」


 魃国(ばつこく)と夔の国の間には雷の川(かんなりのかわ)がある。それはその名の通り、雷が流れている川だ。

 年に2度だけ船が出ており、その船は一本足の巨大な獣、雷獣(らいじゅう)の背中に乗せて川を渡る。

 他に夔の国に行く方法は、北の讙の国(かんのくに)を経由して貫匈山脈(かんきょうさんみゃく)を超えることになる。

 こちらも険しいが、雷の川を生身で渡るより現実味のある話であった。


「じゃあ、半年待つくらいなら讙の国に行ってしまうのがいいのかな」

「そうだね」

 マニラは大きく欠伸をした。ナルコマも眠たそうに話す。

「讙の国には火の蛇がいるね、まずはそこからそうしましょーふぁーあ」

「うん・・・・・・」

 言葉はどちらともなく途切れ、二人は柔らかな眠りについていった。

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