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桜国幻想記  作者: 森看板
6/8

今、戦いのとき

 進めば進むほど瑞雲や鬼の像、ガイコツの数が増したが、マニラもまた新しい力を使いこなせる様になっていた。

「やっ」気合と共に息を吐き、横に一閃。真っ二つになった鬼の像は煙となる。

「良い感じじゃない!」

 ナルコマが楽しげにマニラの頭の上にとまった。

「ふーっ、なんとかなりそうだね」

 マニラは嬉しそうに答える。


 崖の遺跡を進むと、大空洞に出た。

「ほーーー」マニラもナルコマも大きく息を吐く。見上げた先のそのあまりにもの天井の高さに圧倒される。入り口から天井へと巻き上がる空気がごうごうと音を立てている。

 一切凹凸の無い、見事に磨かれた床を鳴らしてさらに進む。

「どこに水の申がいるのかな」

 奥行きはあまり無く、行き止まりの壁に手を当てながらマニラはつぶやく。

「うーーん」

 ナルコマもさすがに唸り声を上げた。


 パラパラと砂が落ちる音が聞こえる。

「いま、ゆれた?」

「飛んでるからわかんないや」

「たしかに……」

 気が抜けた二人が笑い合おうとした、その時。

「ああっ」

 轟音と共に崖全体が揺れた。


 マニラはなんとか屈み、転倒を免れた。ナルコマが怯える様にマニラの頭にとまる。

「あ、あれ」震えるナルコマの声。

「ん?」

 マニラはその声が指す方をみやる。

 そこには、なにかがいた。はっきりと視界に入ってはいるが、そのあまりにもの巨体にマニラは一瞬、理解が追いつかなかった。

 二人が言葉を発する前に、それが地面を打つ。

「ああっー!」

 間一髪避。今しがたまでマニラがいた場所は粉々に砕かれ、大きな窪みになっている。やっと頭が回ってきた。巨大な怪物だ。

 顔は人、体は獣、尾はヘビ、背には鳥の翼がついている。

 巨木の様な腕が振り下ろした拳が、先程マニラを襲ったのだ。

「ちょっとまっ」

 容赦は無い。状況を整理しようとするマニラをまたも拳が襲う。ナルコマがマニラの髪の毛に身を埋め、震えている。


 どうやって戦えばいいのか。まったくわからない。

 自分の中にある闇の力がなんなのか、この変化した体が何なのか、なにもわからない。必殺技も、大逆転が起きる望みもない。


 怪物の顔はしわくちゃの赤ん坊の様で、気味の悪い目がぎょろりとマニラを追う。なんとかしのいではいるものの、この怪物に捕まるのは時間の問題だ。


 どうすればいい?

 一度でも殴られればおしまいだ、ぺしゃんこになってしまうだろう。

 どうする?どうすれば?……にげる?


 怪物が翼をはためかせる。空気の奔流と、圧迫される轟音と共に、金属の粒子が襲い来る。身構えた体を小さく切り刻む。

 怪物は、聞く者の吐き気をもよおす様な呻り声を上げた。


 にげてどうするの?

 誰かが助けてくれるのを願うの?


 怪物が跳躍する。その脚力は地面を揺らした。

 想像を絶する質量が飛び込んでくる。

 マニラは紙一重で避け、衝撃で吹き飛ばされそうになる。が、鎧の重みを借りて踏み止まり、両手で振りかざした剣を、渾身の力を込めて振り下ろした。


 怖い。でも、やるしかないんだ……!


 剣は怪物の右腕を切り落とした。

 怪物は頭が痛くなる様な絶叫を上げる。その顔はみるみると赤く膨れる。

 マニラは慌てて剣を構えなおすと、その胴に目掛けて走り出す。

 金属の粒子が突風と共に襲い掛かってきた。怪物が大きく一振り翼をはためかす。しかし、マニラはひるまない。「やあああっ!」雄叫びを上げ、横薙ぎに怪物の胴を切りつけた。

 ほんの一瞬、マニラは気が緩んだ。その時、しなやかなヘビの顔を持つ尻尾がマニラの胴をなぎ倒した。

 勢いよく壁に打ちつけられる。肺の中の空気が空っぽになり、うまく息が吸えない。なんとか口を開ける。滲んだ視界の先、怪物と目が合った。

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