桜国
はるかむかし、傲慢な竜神が世界から色を奪った。
大地は白く空は黒に覆われ、生き物は色の無い世界を嘆いた。
神の娘 女人・頗梨采は六天将を率いて竜神を封印し、平穏が常世に続くよう自身の淡紅色の髪を世界に分け与えた。
知恵を持つ者達は女人・頗梨采への感謝を忘れぬよう自らを人と名乗り、全てを埋め尽くす白と、無を表す黒を色無きモノとして恐れ敬った。
そして遥かなる時の流れは全てを神話にかえ、
遺跡達は口を閉ざしたまま静かに佇む。
「ちょっと強引すぎるんじゃないかな……」
マニラは客室のベットの上でごろりと寝返りをうちながらぼやいた。
「なによう」
ナルコマは不満そうに羽を動かす。
「やっぱりさ、私達お互いの事をよく知らないし、竜神とかいきなりすぎるというか……」
「まだ納得してなかったの? じゃあ、私のなにを知りたいわけよ、なにを話せば仲良しこよしなわけよ?」
「そ、そんな言い方しなくてもいいじゃないか」
理不尽に攻められ、マニラはばつが悪そうに布団に潜り込み、隙間から顔だけをのぞかせた。室内の明かりに照らされてナルコマがゆらゆら飛び、語気を強める。
「どうせ、あての無い旅でもしてたんでしょう。私につきあうくらいいいじゃない」
「たしかにそうだけどもさ」
「なによ?!」
「わかったよ、わかった。行くよ。」
堪りかねたマニラは勢いよく起き上がった。彼女の鼻先にナルコマはとまる。困ったと言わんばかりに眉を寄せマニラは言葉を続ける。
「明日どこにいけばいい?」
「そうね……まずは水の申の封印を解くの! 竜神の封印を解こうと暗躍しているやつがいるみたいで、そいつが六天将を封印したみたいなのよ」
「ねえ、ナルコマはさ、いったいなにをどこまで知ってるの? というかなんで私なのよ」
急に雨が強く窓を叩く音が聞えた。村時雨だ。ナルコマは相変わらずの調子で答える。
「どこまでもなにも今話しているくらいしか知らないわ。私は使いで、あなたが勇者で、あなたなら竜神を封印できるって教えられて、はるばるここまで来たよ」
「だれに? それにどこから?」
「誰にっていうのはもうじきわかるわ。私は辛から来たのよ」
そんな胡散臭い話をどうやって信じろと?マニラは喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。正直に言うと少しわくわくしている。名前すらない自分の出自が探せればいいなと、軽い気持ちで旅に出て半年。とくになにもなく、結局平凡で代わり映えのない毎日に飽きかけていたのだ。
考えがまとまらないままマニラは口を開く。
「とりあえずさ、もう文句言わずに行くけど、でも、そのなんか暗躍しているっていうのもよくわかんないし、私の剣は飾りみたいなもんで、その」
「大丈夫。そこは私がサポートするから」
「じゃあ、わかったよ」
マミラは強く頷いた。満足そうにナルコマは瞬き、行き先を説明する。
「鎧の袖に行くんだけど、ちゃんと案内するから。よろしくね」
「そこって、結構な断崖じゃないか」
「大丈夫大丈夫! がんばりましょ! よろしくね!」
「出来る限りの事はしてみるよ……よろしく」
本当にこれでよかったものか、一抹の不安を抱えながらマニラは頷いた。