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Rumble  作者: 久遠
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第8話:お嬢様の目標 前編

――Side Sayaka Houjou


高校生活最後の1年がスタートしました…


私は、生徒会長になるに当たってひとつの目標を立て、それを成し遂げるために日々努力しています。


その目標とは…


『遅刻撲滅運動!!』


……今まで何度も達成目前にまでいったことがあります…


ですが…


たった一人の生徒により、悉く失敗…


その人のクラス委員長に掛け合い、注意を促すように言っても、怖いから注意をする事ができないと泣き出す始末…


しかし…今年度は同じクラス!


私は学級委員に就任し、このクラスの遅刻をゼロにして、目標への近道をしたいと思っています…。



学校が始まり、数日間彼を観察していますが…遅刻はあまりしていないようです。ですが…ついに今日、彼は遅刻をしてきました…。早速、注意をしたいと思います…


「氷室さん!?」


だらしなく机に突っ伏している彼に私は声をかけます。彼は面倒くさそうに起き上がり、私の方を向き…


「…えっと……ほ……田中?」


「―――っ!?北條!!北條紗耶香ですわ!何で「ほ…」がでかかっていて、田中になりますの!?」


信じられませんわ!名前を忘れるなんて!


「あ、そうだった。北條、北條。んで、何か用?」


くっ、相手のペースに乗せられてはいけません!冷静に…落ち着いて…


「氷室さん。最近遅刻が目立つようですが…」


「? 今日遅刻したくらいだろ?ここんとこは彩花に、叩き起こされて連行されてたから、遅刻はしてないぞ?」


えへんと誇らしげに言う氷室さん。お、落ち着け…怒っちゃ駄目。怒鳴っちゃ駄目…


「で、ですから、今日遅刻したでしょう?」


「あぁ…彩花は朝練で先に行っちゃったからな。これで、気兼ねなく二度寝ができる♪」


「ですから!遅刻をお止めなさい!!」


もう…限界だった。この男は私の宿敵だ。中途半端に言っても効果は望めないでしょう…


「ふぅ…いいか、よく聞け…」


私の両肩を掴み、真剣な表情で私の目を見る氷室さん。


ドキドキと鼓動が早まります…


「できるようならとっくにやっている!」


――プツン…


今、私の中で何かが切れました。


私は肩を掴んでいる彼の手を振り払って…


「あなたは何歳なんですの!?そんな我侭が通用するはずが無いでしょう!?」


「出来ないものは仕方が無いだろ!?」


「努力もしていないのに、分かりませんわ!!」


「努力はしてるぞ?目覚まし時計は当然駄目。無意識に壊しちゃってて過去、どれだけの犠牲があったことか…。で、冬至に言われて、消防士さんが使う目覚まし時計を通販で買ったんだ。あの、空気で盛り上がるやつ。だが、盛り上がった布団の上で俺は起床した!つまり!ある程度の睡眠時間を満たし、自然に起きるしか無いんだ!!」


「威張るような事ですか!!」


「怒鳴るな!!大体、お前には関係ないだろう!?」


「関係ありますわ!!私は学級委員として…生徒会長として…」


「知るか!生徒会長だからって、俺の私生活に口出しする権利は無いだろ!?」


「でしたら、遅刻をお止めなさい!!」


「無理だ!!」


熱くなり、口論に発展してしまう。そこに…


「二人とも落ち着きなさいよ…」


橘さんが間に入る。


「北條さん。こいつに何を言っても無駄よ。私も散々に言ってきたけど…こいつが自力で起きる可能性はツチノコを見つける方が簡単なんじゃ無いかと言われているわ…」


心底疲れたように言う。隣では氷室さんがうんうんと、頷いている。


「北條さん…こいつを遅刻させないで来させる手段は一つしかないわ…」


「方法があるんですの!?」


その方法をこっそり橘さんが耳元で囁く…


「お前ら…何、企んでやがる…」


訝しげに氷室さんが見ているが…


「本当に…大丈夫なんですの?」


「さあ?後はあなた次第ね。頑張ってみて」


ギュッと私の手を握り、あるものを渡す橘さん。



翌朝…


閑静な住宅地のとある家の前に、黒塗りの高級車が停まっており、車から一人の美女が降りてくる。


「立川、ご苦労様ですわ。此処からは歩いていきます」


「畏まりました。お気をつけください」


和風建築の一軒家。その門に掲げられているのは『氷室』という表札。


立ち去る車を見送り、私ははポケットから鍵を取り出し、玄関の鍵を開けた。


先日、橘さんから預かったのは氷室さんの家の合鍵。私の目的を果たすために…。氷室さんを遅刻させないために、提案した案が、私が学校に連れて行くことでした。


「ドキドキしますわね…」


恐る恐る中に入り、向かう先は二階にあるという、彼の寝室。初めて入る男性の部屋に心臓の鼓動が早まります。


「……失礼しますわ…」


ノックをし、中に入ると…


「Zzz…」


ベットの上ですぅすぅと眠っている氷室さん。銀の髪が朝日に照らされ、きらきら光っていて、どこか幻想的な雰囲気を出しており、思わず見惚れてしまいます…


はっ!?いけません!当初の目的を果たさなくては…


何としても遅刻をせずに、彼を連れて行かなくては




【任務1 難度S 氷室和人を起せ!】



「氷室さん、何時まで寝ているつもりなんですか!?このままでは遅刻してしまいますわ!」


掛け布団を取り、大きな声で彼を揺すりますが…


「…彩花〜。後2時間…」


とか言い、寝返りをうち、また夢の中。どうやら、私を橘さんだと思っているようです…


何でしょう…この気持。なんとなく、ムカムカしてきましたわ。起きない事に腹を立てたのか、間違えたことが気に食わないのか…自分でも分かりませんが、とりあえず、起さないと…


「駄目です!起きてください!」


「す〜」


先程よりも、強めに揺すりますが、効果無し。ですが、諦めません。


どうにかして起そうと、考えます。その時でした…


「〜〜〜っ!?ひ、氷室さん!?」


ガシッと手を捕まれ、凄い力で引っ張られて、そのままベットに引きずり込まれてしまいました。


「あぅ、あぅ…」


あぁ、彼の顔がこんなに近くに…。顔が熱くなっているのが自分でも分かります。


掛け布団と取ったことで寒いと思ったのか、彼は私を抱き枕のように抱きかかえ、あどけない寝顔を見せています…


「きゅ〜…」


あぁ、私の意識が遠のいていきます…。彼を…起さなきゃ…い…けな…いのに…



男性に免疫のない、沙耶香はあまりの衝撃に気絶する。その間、時間は刻一刻と過ぎていく…



――Side Kazuto Himuro



心地よい、暖かさと。優しい香りを感じながら、ゆっくりと意識が浮上していく。


「………What!?」


驚きのあまり、英語になってしまった。だって…目の前には


「すぅ…すぅ…」


何故か、眠っている女性の姿。その距離、わずか数センチ。俺の手は彼女の背中に回っており


「うわ!?な、なんだ!?何が起こってるんだ!?」


貞操の危機!?


パニックになりつつ、とりあえず女性を引き離そうとするが…


「嫌だ…」


ガシッと右腕にしがみつかれる。離れない!?


「って、お前は…北條!?」


そこで、この女性が見慣れた人だという事に気がついた。だが、過程がまるで分からない


昨夜は確かに一人で寝た。鍵もかけた。うん、これは間違いない。なのになんでこいつが此処に?


とりあえず起こそうと、空いている手で揺すろうとするが…


「お兄様…」


迷子の子供のような、寂しそうな声での呟き…


「………」


起こそうと動かした手を、頭に置いて、撫でる…


事情は分からない…ただ、夢の中くらいは悲しみを忘れて欲しい…。


自分と似た部分を感じて、そう思った。

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