第5話:リフレインver和人
――Side Kazuto Himuro
琴乃が過去を振り返っている頃、和人も同じく昔を思い出していた。
氷室家と春日家は家が隣同士で子供の頃から二人は仲がよく、家族ぐるみの付き合いをしていた
「和ちゃん〜♪」
満面の笑みで、スープを掬ったスプーンを差し出してくる、見た目高校生くらいの美少女。銀のウエーブかかった長い髪とクリッとした碧眼が可愛らしい、ハーフ。
氷室・レミリア。俺の母親である。性格は…
「……母さん…自分で食べるから…」
超絶子煩悩である。拒否され、いじけたようにスープの具をつついている母さん。
「母さん、こんな可愛くないガキは放っておいて、私たちだけでいちゃいちゃしようではないか…」
20代前半に見える黒髪の優男。
氷室健介。俺の父親である。対面からスプーンを母さんに運んで「はい、あ〜ん」とか言ってるが…
−−ダン!!
一瞬で父さんの表情が凍りつく。父さんの前にはテーブルに突き刺さっているフォーク。
「…あ、あの…か、母さんや?」
「…健ちゃんでも、和ちゃんの悪口は許さない…」
隣で物凄い殺気を出している母さん。母さんの父親…つまり、爺ちゃんが武術の師範とかで、母さんも幼い頃から鍛錬を積んでいたらしい。いわば達人クラス。
今は引退したとか言ってるが、強さは顕在。普段は片鱗すら見せないが、怒りの沸点を超えると目が武術家に戻る。
「ち、違う!悪口じゃない!!お、親と子のスキンシップだ!!」
「………」
必死に言い訳するが、まだ目が据わっている母さん。暴れられても困るので助け舟を出しておくかな…
「母さん、はい」
フォークでトマトを刺し、母さんの口元に持っていく
「和ちゃん、あ〜ん♪」
すると途端に上機嫌になり、トマトをパクつき食事を再開し始めた。やれやれだ…
どうにか機嫌も直り、安心からため息を吐く父さん。
「所で明日だが…朝早いから寝坊するなよ。和人」
「明日って?」
「もう、和ちゃんたら。家族で買い物に行くって言ったじゃない…」
「……今聞いたんだけど…」
「それはそうよ♪だって、ついさっき決まったことじゃない…」
……理不尽だが突っ込んだところで無意味なんで黙っておく
「俺、行かないよ…」
……言った瞬間、ガッツポーズをする父とこの世の終わりのような顔をする母
「なななな、何で!?折角の日曜日の母子の触れ合いなのに!!」
いつの間にか父さんは抜け物になっているし…
「琴乃と映画見る約束したから…」
「お〜、手が早ぇ〜な。可愛い幼馴染とのデート。人生の勝ち組がめ!まぁ、俺も美人の奥さん貰ったから人生の勝者なんだがな」
ガッハッハと愉快に笑う父。明日、母さんと二人きりというのが嬉しいんだろう…。対照的に剥れる母さん。
そんなやり取りが何時までも続くと…この時は思っていた
翌朝
「じゃ、行って来るからな。戸締りしっかりしろよ」
「……和ちゃ〜ん」
「来週は、暇だから…」
「ホント!?じゃ、今回は健ちゃんで我慢する〜」
朝早くに両親は車で出かけていき、それを見送った後、部屋で宿題を片付けていた。
「そろそろか…」
時間を見ると待ち合わせの時間に近づきつつあったので、俺は準備をし玄関に向かった。
出かけようとした時に電話が鳴り、琴乃からかなと思いつつ、電話を取ると…
「……は?」
言われたことが理解できなかった……
「………父さんと母さんが…死んだ…?」
居眠り運転のトラックと正面衝突したらしいが…そんなことはどうでもいい…。重要なのは父さんと母さんはもう居ないという事実だけだった。
病院に駆けつけると爺ちゃんが俺を抱きしめ、親戚が遺産がどうとか、誰が引き取るか話をしていた。
その時、思い出したのは琴乃との約束…
父さんと母さんを失った今、俺に残っているのは琴乃だけだった。
病院を飛び出し、琴乃と待ち合わせた公園に急ぐ。
だが…その結果は…
「和くんなんて、大っ嫌い!!」
拒絶の言葉だった…
後はよく覚えていない…
いつの間にか家に帰り、葬式を終え、身よりの無い俺を爺ちゃんが引き取り、今のこの家に来た…
「はぁ…」
過去を思いだし、溜め息をつく。
琴乃と話せなかった…
原因は俺だ…
引っ越す前に、謝り、話をしていればこんなことにはならなかった。
「明日…ちゃんと話をしないとな…」
なんで琴乃が来たのか分からないし…また拒絶されるかもしれない…それでも…
「たった一人の…幼馴染みだもんな…」
そう言うと、和人は携帯を取り出し、誰かと話し始めた…




