第3話:再会
「お〜し、席に着け」
朝のドタバタした時間が終りを告げ、HRが始まった。俺のクラスの担任は、『魔弾の射手』の称号を持つ、チョーク投げの達人、現国教諭の御堂真希である。俺と目が合うと不適な笑みを浮かべ…
「氷室ぉ…私のクラスとは嬉しいぞ。最後の一年で決着をつけてやる」
決着とは言わずもがなチョーク投げ攻防戦の事である。初対戦から二年…様々な色のチョークが襲いかかり、避け続けた結果、ヒットせず…奥の手の黒チョークの攻撃も避ける事に成功し、御堂女史の宿敵という不名誉な称号を与えられた。
ちなみに黒チョークは先生の特注品で、投げやすい形状をした最終兵器である。黒板に黒いチョークを使っても文字が分からないため、チョークとしては機能しない。なら、チョークじゃなくともいいんじゃないか問いかけた所、ポリシーの一言で片付けられた。
「橘、あんまり氷室を甘やかすなよ。遅刻しなくなったら私は困る」
堂々と教師にあるまじき事を言う…流石の彩花も苦笑いを浮かべるしかないようだ。
「さてと…じゃ連絡事項だが…まぁ、三年だしやる事は分かってるだろうから省略。必要最低限の事だけを伝える」
おいおい…そんなんでいいのかよ…
「一文字がいるから知ってるだろうが転校生がこのクラスに来る。今は校長室で話を聞いてるから始業式が終るまで対面はおあずけだ。それに伴って席替えをする。余った所を転校生の席にするから、悪いが北條、クジを作って転校生が来るまでに席が替えを完了させておいてくれ」
「分かりました」
その返事に満足したように頷き、白紙を北條に手渡すと教室を出ていってしまった。
「よっしゃ、御堂先生なら堂々と遅刻できる」
「するな!」
「……皆さん、クジはこちら側から回していきますので記入をお願いします。」
俺と彩花の漫才の合間にあみだを完成させた北條が皆をまとめ、書いた人間から始業式に向かうのだった。
始業式。何処の学校にもある当然の行事で基本的には学校長の長話で幕を閉じる。そんなもんを楽しみにする生徒はまず居ないだろう。だがこの学校は少し違った。
「皆さんおはようございます。早速ですが私から言いたいのは一つだけです。」
いきなり結論にぶっとび、長話とは無縁の校長。狩谷美鈴。そしてこの人の異名は…
「青春を満喫しなさい。恋愛、略奪、不倫、愛があれば法など関係ありません。全ては正当化されます。私は全力で恋愛のサポートすることを誓います」
『愛の伝導師』である。
「しかし、愛なき行動で相手を傷付けた場合…問答無用で断罪します!皆さん、いいですね!?」
その基準を決めるのは誰なんだろうか…
視界の端に頭をおさえ、頭痛薬を服用する教頭先生が見えた…心中御察しします。
教室に戻り、クジの開封及び席決めが始まる。
「げっ…」
「何よそのリアクションは!」
窓際の一番後ろと言う好ポジションに喜んでいたのも束の間、俺の二つ隣に座った彩花。射程距離に入ってしまった…
「こんにちは」
「ん?水野が前の席か?」
「うん。よろしく」
「ああ」
「……私の時と随分態度が違うじゃない…」
「そ、そげんことなかですわ〜」
「様々な方言が混ざってワケわかんないよ氷室くん」
「い、いや…えっと…そ、そう恥ずかしくって…ほ、ホントは彩花が近くで嬉しいな〜」
「えへへ♪」
何とか誤魔化せた…正直俺のキャラじゃないが、死ぬよりはい…
「ふ〜ん…氷室くんは橘さんが近くで嬉しいんだ〜」
「み、水野?」
「ごめんね〜私が氷室くんの前にいるより橘さんの方がいいよね〜」
目が据わっとる!?これがあの水野ひかりなのか?とても同一人物とは思えん…そもそも何で俺は攻められてるんだ?
「い、いや…水野とはもっと親しくなりたかったから、近くで嬉しいぞ」
「うん♪私も!」
どうやら機嫌が直ったみたいだ…。つ、疲れる…
「どうやら転校生は僕の後ろ。つまり和くんの隣の席だね」
「ハジが水野の隣か…」
「うん。で、僕の言ったとおりの展開だね」
あの人悶着あるってやつか…エスパーか?もしくは何か仕組やがったか…
「お〜見事な布陣だな」
とか言いつつ御堂女史は俺を見て不適に微笑む。
なるほど…俺が一番後ろだから避けられた時に、巻き添えを喰う事がないから思いきり投げられると言うわけか…
「よ〜し、じゃお待ちかねの転校生だ」
御堂女史は廊下で待機している転校生に合図を出す。
【うぼぉ〜!!】
入ってきた転校生を見て男子生徒は立ち上がり、妙な雄叫びをあげる。野生の血が目覚めたかのように…。
……皆、俺の事を不良だなんだ言うが、実は俺が一番まともなんじゃないかと思いつつ、前に座っているハジを始めとする男どもが立ち上がったために、見えなくなってしまった転校生の姿を見てみたいと思った。
「おら!騒ぐな!」
チョークを構えた御堂女史が一喝し、騒ぎは収まる。皆が席についたところでようやく俺は転校生の姿をみることが出来た…
「―――っ!」
見た瞬間、驚愕で固まる。
赤みがかかった茶色い髪をツインテールにし、両側に結ばれた黒いリボン…強気な印象を与える吊りあがった目に、凛々しく整った顔立ち、均衡のとれた抜群のプロポーション。可愛いというより、美人と形容するのがふさわしい女性。男性陣が騒ぐのも無理は無いが、俺の脳裏には一人の女の子が浮かびあがる…
「…琴…乃…」
大人びているが間違いない…引っ越す前に隣に住んでいた幼馴染みの春日琴乃だった。
「春日琴乃です。よろしくお願いします」
「今日はこれで終りだから質問は後にしろ。で、春日の席は氷室の隣だ。あそこに空いてる席があるだろ?」
「―――っ!」
俺と目が合い、琴乃は一瞬驚いた表情をしたものの、すぐに平静をし、こちらに歩いてきて無言で俺の隣に座った。
正直参っている…今更どう接すればいいのだろう…。喧嘩別れ…いや、俺が悪いんだ…逃げるようにして引っ越した俺が…いまさらどんな顔して会えばいいんだか…
「な、なんか空気が重い…」
御堂女史が教室を去り、ハジが早速、突撃リポートを慣行しようとしたが…
「………」
「………」
近付き難いオーラを出している二人…和人と琴乃。互いに無言で座っているだけだが、それが不気味だった。
「……彩花」
「な、何?」
突如、無言を保っていた和人に名を呼ばれ流石の彩花も驚く
「帰ろうぜ…」
「…へ?」
立ち上がり、鞄を掴むと…
「じゃ、またな。水野にハジ」
固まっている二人に挨拶をし、呆然としている彩花の鞄を持ちつつ、手を引いて二人は教室から出ていってしまった。
「……和く…ん」
去り行く和人の後ろ姿を見て琴乃は呟くが、その言葉は誰の耳にも届く事は無かった…。
更新〜
彩花「な、なんか凄いことになってるわね…」
そうだね〜
ひかり「こ、これからどうなっちゃうんですか?」
さぁね〜
彩花「…他人事のように言うわね…」
別にそう言う訳じゃないんだけどね…ただ自分でもどうしようかなって…次回で回想入れて、仲直りさせるが、引っ張るか……あとがき読んでくれた人が感想で道を示してくれれば…
ひかり「人任せですか…」
彩花「なんにせよ続きをさっさと書けば文句はないわ」
分かりました。サー!
ひかり「感想をよろしくお願いしますね」
彩花「読んでくれてる人がいればね…」