第29話:決戦前日
明日に迫った球技大会。
静に戦いの時を待つクラスもあれば、明日のために雄たけびを上げ、士気を高めるクラスもある。
だが、各クラスに共通する事が一つだけあった…
――Side Kotono Kasuga
……どうしちゃったのだろうか。
その日の昼休み…いつもならカズたちと一緒に食事を取るのだが、その日は珍しくみんなバラバラで…私は管理人さんが作ってくれたお弁当を食べていたんだけど…
何でだろう?私だけテンションが違う…カズから球技大会の事は聞き、そういう事なら全力を尽くそうとは思っている…この気持ちはクラスの皆と変わらないはずだ。
けど…何故だろうか…
クラスの…いや、女子生徒達がバレンタイン前夜の様な雰囲気を出しているのは…
「あれ?春日さんテンション低いね?狙っている男子とか居ないの?折角のチャンスなのに…」
「…何の話?」
そんな私に、転校してから良くしてくれたクラスの女子生徒である、桜さんが話しかけてくるが…話が見えない。意味が分からない。
「あ、そっか、転校してきたから知らないんだね」
「球技大会のルールは聞いているが…」
「あ〜そうじゃないんだ。いうなれば、裏ルールかな?ふふ、あのね…光琳の行事は彼氏GETの大チャンスなんだよ。それで、明日の球技大会は最初の行事。好きな人に恋人ができていないから最初で最大のチャンス。いわばファーストアタックなの!」
「……は?」
ファーストアタック?
「ちょ、ちょっと待って、なんで球技大会がチャンスなんだ?確かに、いいところを見せれば好きになってくれる人も出てくると思うが…」
そこまで躍起になることでもないだろうと思う…だが……
「あまぁぁぁあああい!!アイスにあんこと、きなこを大量をふんだんに入れて、抹茶で仕上げたくらいに甘い!!」
「そ、それは、本当に甘そうだな」
「まぁ、それは置いといて。いい春日さん!」
置いといての仕草をし、ビシッと指を指す桜さん。いや、自分で言い出したのに…
そんなことお構い無しの桜さんは話を続ける。
「確かにいいところを意中の相手に見せるって言うのもあるわ。けどね、光琳はそれだけじゃ留まらない。ドサクサに紛れてのタッチが可能なの!」
「た、タッチ?」
「うん、ひらたく言うと、堂々と抱きつくことが出来る。いや、むしろ抱きつかない生徒が周りから浮く!ねぇ、春日さん今、好きな人に抱きついてって言われたら…出来る?」
「で、出来るわけ無い!」
な、なんて事を言うんだ…そ、そんな公衆の面前でカズに抱きつくなど…など……てへへ♪
「? 春日さ〜ん。おーい」
「ハッ!?」
あ、危ない、妄想で意識が飛びかけた…
「ゴホン。話を続けるね。春日さんの言うとおり、今それをやれって言われたら出来ない。それはね、あなた以外にそんな事をする人が居ない…だから恥ずかしいの!だがしかし!光琳の行事は違う!活躍した男子に…または自分が活躍したドサクサで皆が皆…男に抱きつくからよ!!」
「なっ!?」
そ、そんな夢のような…あぁ…
〜〜妄想〜〜
「はぁ、はぁ…」
「か、カズ!カッコよかったぞ!」
―ガバッ
「ありがとう…琴乃。」
―ギュ
「か、カズ…」
「琴乃……」
そして…徐々にカズの顔が近づいて…
「……さん!……日さん!!……春日さん!!」
「ハッ!?」
ほ、本当に拙い…今、意識が完全に遠のいていた…。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫だ」
「そう?それじゃ、話を戻すけど…、皆が抱きついちゃってるんだから恥ずかしくないでしょ?」
「い、いや…しかしだな…」
「というかね、その時のテンションでさらりといけるってわけ」
簡単に言うけど…恥ずかしいものはやっぱり恥ずかしい…
そんな私に桜さんは意地悪な笑みを浮かべ…
「で?春日さんは誰に抱きつくのかな〜?」
「そ、そんな人間は…」
「うふふ、冗談だよ。言わなくても分かる。氷室君でしょ?」
「―――違!?」
「で、ルールって言うか暗黙の了解って言うか…抱きつけるのは女からだけ。男がやったらセクハラになっちゃうから、だから堂々とやっちゃおう!」
「人の話を…」
「あはは〜分かってるって、お互いに頑張ろう」
「だから、違うと!」
否定もむなしく、私は散々からかわれた。けど…せ、折角だし、勇気を振り絞って…うん。明日は活躍しよう…そして、和に…
その日、変な妄想ばっかり膨らんで寝付くのに時間がかかった…
Side Ayaka Tatibana
「今年…今年こそ…」
お風呂から上がって、寝る前にベットの上で気合を入れる。
明日は球技大会。堂々と和人に抱きつける。
一年の時は和人がサボったので実行できず、二年では球技大会には参加していたものの、何時の間にか姿を消し、何処かで昼寝をしていてやっぱり実行できなかった…
だからこそ、今年は最後のチャンス。あいつにはきちんと応援に行くように厳命し、一文字君と常盤に連行するように脅…コホン!お願いしておいた。
「華蓮には悪いけどね…」
私と同じ苦渋を味わってきた華蓮はクラスが違うため堂々と和人を応援できない。でも…華蓮、あなたの分まで私が…
そう心に誓い、電気を消した…願わくばいい夢を見ますように…
Side Hikari Mizuno
「うぅ…どうしよ…」
光琳の球技大会…女の子にとってはどういうものか、三年も通っているので当然、私も知っている。
今まで、気になる男の人、好きになった人なんて居なかった…だから、こういうときにどうすればいいか分からない…
「けど…そのままの流れで告白すれば成功率3割増しだって言うし…」
ちなみにこのデータは一文字君が教えてくれた。彼が言うことなら信憑性が高いし、校長先生ならその根拠を独自の理論に基づき科学的に説明できるらしい…
「彩花ちゃんは告白とかするのかな…」
それはしなくても抱きつきはするのかもしれない…ううん。彩花ちゃんだけじゃない。琴乃ちゃんも要注意だ…
頼りになる親友に電話して、事情を説明すると…
『なるほどね〜それで琴ノンは……ひかり…いきなさい!」
「で、でも…」
『告白までしろとは言わないけど、抱きつく位はやらないと!いい?例えばね、他の子が抱きついてひかりだけやらなかったら、完全に蚊帳の外…カズッち争奪戦から戦線離脱しちゃうよ?それでもいいの?』
「そ、それは嫌だ!」
『でしょ?ならやんなさい。他の子がしてきてもイーブン。逆にひかりだけなら一歩リード。大丈夫、女に抱きつかれて嫌がる男は居ないから、自身を持って!』
「わ、わかった!頑張ってみる!」
翠に背中を押されて決意を決める。明日は…やる…やってみせる!けど、やっぱり恥ずかしい…かも…
恥ずかしさを誤魔化そうとベットの上でごろごろしていると…
「な、何してるのお姉ちゃん?」
部屋を訪れた妹に奇異の目で見られた…
「な、なんでもない!ちゃんとノックしてよ!」
「いつもはそんなこと言わないくせに…」
妹と話していると少しリラックスできた。よし、今夜は良く眠れそう…
Side Karen Sirakaba
はぁ…
やっぱり、憂鬱な気分です。原因は球技大会…
今年こそ、勇気を出して和人様に…と思っていたのですが、クラスが違ってしまいました……
クラス替えの日にも落ち込んで…振り切ったつもりだったのですが……行事を前にしてまた思い出してしまった…
正直、他の方達が羨ましい…特に彩花さんは去年一緒に目的を果たせなかった事を慰めあったのですが、私と違って今年もチャンスがあると思うと…
「―っ!?いけません!こんな感情!」
自分の醜い…黒い部分が表に出てきます…嫉妬。
そんな自分を戒めますが、暗い感情のままトボトボと下校してると、後ろから軽快な足音が聞こえてきました…
「よっ、華蓮も帰りか?一声かけてくれりゃ良かったのに」
「か、和人様!?」
「だから…様付けなんてしなくていいって…ま、それはともかくだ。一緒に帰ろう」
やってきたのは和人様でした。苦笑いをしながらそう言うと私の隣に並んで歩き出し、私もそれに少し慌てて歩き出しました…
「たるいよな〜。嫌になるよな〜。明日は球技大会だ〜」
はぁ〜〜っとため息を吐きながらそんな事を言う和人様。
「でさ、華蓮は何に出るんだ?」
「私は…テニスに…」
「あぁ、確か去年それで優勝の手前まで行ったんだよな。なるほどね」
うんうんと頷き納得すると…
「じゃ、俺がでる種目とは被んないから応援にいけるな」
そう言ってくれました…ですが…
「ですけど…クラスが違いますし…」
「ん?関係ないだろ?俺は別に優勝とか勝ちに拘ってる訳じゃないし。友達が出場してたら応援するのが普通だろ?まぁ、流石にうちのクラスと対戦したら表立っては応援できないけどさ…でも、終わってから労うことはできるし、心の中では応援してるからさ」
微笑んで言う和人様…あぁ、この笑みを見ていたら悩んでいた私が馬鹿らしくなりました…
「ふふ、でもそれで優勝を逃してしまわれたら怒られてしまいますよ?」
「あはは、そんときは全力で逃げるさ。万が一の時は匿ってくれよ?」
おどける様にそう言います…これで迷いはなくなりました…
明日は結果はどうあれ、悔いの無いように力を出し切るだけです…
――Side Sayaka Houjou
皆さん…なんて…なんてふしだらなんですの!!
誰がカッコいいだの、後輩に可愛い子が居るからお姉さんがご褒美…とか浮かれたようにそんな事を言っています。
まったく、みだりに殿方に抱きつくなど…など…ふ、不潔ですわ!!
そう思いつつ、いつぞや和人さんに抱きつかれたことを思い出し…
「〜〜////」
ぶんぶんと顔を振ってそれを忘れようとします。
でも…
彼は暖かくて…体温が心地よくて……っつ!?
い、いけません!!でも…
他の皆様はどうするのでしょうか?
脳裏に女性に抱きつかれている和人さんの姿を想像します……ムカムカしてきましたわ…
くっ、そうですわ!そんなふしだらな事は断固阻止ですわ!
そんな事を考えていると、何時の間にか授業が始まっており、話を半分ほど聞き逃してしまいました…
Side ???
「ふふ、よいよだ……」
「はぁ…付き合わされる俺の身にもなれ…ってか、完全に逆恨みじゃんか」
「黙れ!!きっと、彼女は…いや、彼女達は騙されてるんだ!もしくは弱みを握られ脅されてるのに違いない!!不憫だとは思わんのか!!」
「別にー。人は人、他人があーだ、こーだ、いう事じゃ無いじゃん」
「ふん、貴様にはこの崇高なる僕の行いを理解するのは所詮無理なんだろう…まぁいい。まずはバスケだ、バスケであいつを徹底的にマークし、潰し、力の差を見せ付けてやる…いいな?」
「へいへい。まぁ頑張るよ」
「そしてその後…剣球で息の根を止める!!」
「いや、殺すのはどうかと…」
「あっはっはっは!!待ってろよ!!!怨敵!氷室和人ぉおおおおお!!」
(はぁ…橘っつったっけ?ったく、女の子に振られたからって完全に方向性間違ってるよ。つか、変にナルシストな所があるからなー。まぁ、氷室も氷室で女を侍らせているって言う噂もあるしな…それだけ、あいつが魅力的だって事か…。いずれにせよ俺らはA組、あいつらとは所詮相容れない存在…明日は全力で勝たせてもらおう。……はぁ、なんで俺、こいつと友達やってんだろ?)
何時までも高笑いをしている友人を見ながらため息を吐いた…
Side Kazuto Himuro
華蓮と下校し家に帰って来た俺は、夕食を食べてとある場所に出かけていた。
「あ、来た来た。今回すごい真面目だね〜和君」
「おかげさまで…それと和君はやめい!」
不敵に笑うハジと何時もの挨拶を交わす。
そしてハジと挨拶をしていると、向こうで練習していたため、若干汗を掻いている二人がやってくる。そして、その後ろには…
「ぜーぜー、じ、じぬぅ…」
言いながら、ぶっ倒れている琢磨。
「正直、僕はキミのことを誤解してたかもしれない」
「…あぁ、練習にこんなに熱心だとは…」
「別に熱心って訳じゃねーよ。ただ、今回ばかりは真面目にやらないと…俺の身が危ないんだ」
脳裏には羊ヶ崎先生の泣き顔と、放課後に二人だけで顔を突き合わせているシチュエーション…うぅ…考えただけでも冷や汗が…爺ちゃん、確かに女の涙ってやつには勝てそうにねぇよ…
そんな事を考えつつ、やってきた二人に言葉を返す。背が低く細身の体格なのが篠原、対照的に背の高い、体格が良いのが岡島。
俺がやってきたのは市民体育館にあるバスケットコート。ハジが押さえたらしい…(相変わらず恐ろしいまでのネットワークと顔の広さだ…ま、それは置いといて…)で、目の前に居る二人はうちのクラスのバスケットのメンバーである。
俺、ハジ、琢磨は、バスケ部でレギュラーの篠原と岡島の二人に色々ご教授されているわけで、今日はその総仕上げ。
「で、琢磨はどうしたんだ?」
「あぁ、昨日練習サボったから今日その分を前もってやってたんだよ。リバウンドの練習、僕がシュート打って、岡ちゃんが相手をしつつ教えてたんだけど…」
「意外に筋が良くてな…結構本気でやったら、ああなった」
「じゃ、少し休ませといて僕たちは練習しようか?」
バスケはチームプレイが大事という事で始まった練習。対戦相手の情報はハジが掴み、そのデータからハジとバスケ部の二人が相手の戦略を洗い出し、弱点やうちらの長所を生かせるようなフォーメーションなどの練習。いや、此処までやんないでしょ?普通。
篠原曰く…
「インターハイ地区予選でも此処までやったこと無いねー」
らしい。で、ハジをマネージャーにスカウトしていた…まぁ、それはおいといてだ。うちのクラスのバスケメンバーは相当マジで勝つ気らしい。
ハジ曰く…
「ふふ、情報さえ得れば不可能なんて無いんだよ。ほら『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』って言うでしょ?つまりは情報戦こそが戦いの命運を分ける。敵の戦力が分かってるならそれを超えるまでの力を得ればいいだけだしね、それに情報から敵がどう動くかも分かる」
と講釈をし、最後に負ける要素がないねーと締めくくった。
ふぅ、此処までやったら勝つしかないよな…
「そうだ!俺達はかぁああつ!そして女の子は俺のもんだぁああああああ!!」
ぶっ倒れたいた琢磨も復活。相変わらずこういったときには恐るべきパワーを発揮する。煩悩パワーとでもいうのか…だが…
「俺の胸に飛び込んで…ふぎゃ!!」
あんまりにも喧しいので手に持ったボールを投擲する。ふむ、御堂先生とまでいかんがそれなりの速度とコントロール…見事に脳天を直撃した。
「うるさいぞ琢磨」
「まったく、近所迷惑だよ」
と、注意するも、ガバっと起き上がり…
「待ってろよ!紗希ちゃん、美樹ちゃん!」
再び叫ぶ琢磨。どうやら、アドレナリンのせいで痛覚が麻痺してるみたいだ…
こうして、テンションがあがり時折叫ぶ琢磨に度々ボールをぶつけながら最後の練習をするのだった…
更新完了…
霞「……今まで何してたの?」
…え、えっと…
霞「何してたの!?」
は、はい!暑かったんで、クーラーがある部屋でゴロゴロしたり、ゲームやってました!!
霞「ふ〜ん…いいわけにはならないよね?おまけに…ボク出てないよね!!」
はい、なりません。すいませんでしたーーー。でもさ…構想は練ってたんだよ?ただ、文章にする気力が暑さとかで奪われてただけで…
霞「だから、いい訳にならないよね?」
なりませんね…ごめんなさい。本当にごめんなさい…
霞「で、次の話しは?」
あ、うん。大方できてるさ。ただ…後半部分が納得できないから書き直そうかと…ま、出来次第更新するよ
霞「で、ボクはでてくるの?」
……では、次回もがんばっていきます。感想ありがとうございます。時間があるときにレスしますんで…では今日はこれで…
霞「ふざけるなーーーー!いいよ!アイドルなんてやめてやる!転校してやる!!出番は自分の手でもぎ取ってやるもん!」