第2話:新学期 後編
自転車二人乗りでの登校に加えて、変なお嬢様に絡まれ、普段の登校時の数倍は疲労感を感じていた。
まだ、初日…しかも登校してきただけなのにな…
「はぁ〜」
溜め息を吐き、視線を前に向けると…
「………」
「………」
前に座っていた女子生徒と目があった…
マジマジと顔を見る。
どこかで会ったような…
エナメルのような細く綺麗な明るい茶色の長い髪をストレートにし、鈴のついた可愛らしい髪飾り。幼い可愛らしさと大人びた凛々しさが融合したような整った顔立ちに茶色の大きな瞳。
かなりの美少女だ…
容姿情報を脳内の検索プログラムにかけてみる…
その間、彼女は頬を赤く染め、ちらちらとこちらを見ている。
検索が終り、去年の冬…自販機での出来事が検出された。
「水野さんだよね?」
俺の前に座っていたのは、学園のアイドル水野ひかりだった
「は、はい…え、えっと…今更かもしれないけど…紅茶、ありがとうございました」
ぺこりと可愛らしく頭を下げる水野さん、あんな事くらいで律儀な人だ
「別に気にすんな…。っていうか逆に迷惑かけちゃったしな」
一時期、噂になった事があった…俺は気にしなかったが、彼女には迷惑だっただろう
「い、いいえ!そんな事ありません!」
「そ、そうか…ならいい」
そんなに必死に弁解しなくても…
「あぅ〜」
自分でもそう思ったのだろう、水野さんは恥ずかしげに唸っている。にしても、噂では凛とした雰囲気の美人だと言う事だったらしいが、実際はこの小動物の可愛らしさ…普段は猫被ってんのかな?
「そういや自己紹介がまだだったね、俺は氷室和人。スリーサイズは秘密…ってかわからん。趣味は昼寝で特技は二度寝、時々三度、四度寝までするけどな。ま、気軽に和人とでも呼んでくれ。んで隣の猛犬が橘彩花、近付くと噛まれるからを付けろ」
「ガゥ!!」
「痛っ!だから噛むな!ドウドウ…」
「私は馬か!!」
だから猛犬だって…
「ったく…すぐ噛みついてくるのは止めい!人として問題あるから」
「だって……和人って美味しんだもん…」
あ、あかん…もう手遅れだ…
心の中で、まっとうな人間だった頃の彩花にお悔やみを申し上げ、彩花を貰ってくれる素敵な男性が現れるのを神に祈った後、呆けている水野に視線を戻す
「ま、これからよろしくな水野」
「み、水野ひかりです。こちらこそよろしくです」
そのまま俺は後ろを向き、不機嫌そうなお嬢様をみる
「えっと…名前なんだっけ?」
「北條!!北條紗耶香ですわ!!」
「そうそう、北條も改めてよろしく」
社交的に挨拶をしたのだが、北條は名前を忘れていたことに憤慨し、無視されてしまい、後ろで
「信じられませんわ!こうも簡単に人の名前を忘れるなんて!!」
ミシミシと机に怒りをぶつけていた。俺は火に油を注ぎそうなので気にせず、水野と彩花と三人で会話に参加していた
「意外だな…氷室くんってもっと怖い人だと思ってた…橘さんは何時からの付き合いなの?」
「小学校の頃から知ってるは知ってたんだけど、話すようになったのは中三の時からだね。和人は根は優しいよ。なのに外見とか昔の事で和人が怖い人だと皆が思ってる…」
「まったくだな…入学式に遅刻して、呼び出しをバックレただけなのに…酷いと思わない?」
「あはは……何て言ったらいいのか…」
苦笑いを浮かべながら困ったように言う水野。それに対し、その時の事を思い出した彩花が俺を睨みながら、激昂する
「あたり前でしょ!!大体、なんで起しに行ってあげたのにニ度寝なんてするのよ!?」
「はっはっは、あの時は三度寝までしたぞ」
「威張るようなことか!!」
猛る彩花をどうやって沈静するか、考えを張り巡らしていると教室のドアがけたたましく開き、背の低い男が慌てた様にこっちに走ってきた。
「大変だ!大変だよ和君!!」
「和君は止めろ!!」
走ってきたのは、背が小さく、一見すると女にしか見えない可愛い顔立ちの男。
一文字啓、通称ハジ。
こいつは、情報収集を趣味…いや、生き甲斐としており、何処からともなく取り出す、各項目別に情報が整理されている通称ハジモバイルを手に何やら興奮している。こいつとは、去年の
冬…水野との一件を聞きにやって来た時に知り合い、今や貴重な男友達NO2のポジションにいる。ちなみにNO1は冬至。
「で、何が大変なんだ?」
「今日このクラスに転校生が来るんだよ!」
「三年のこの時期にか?」
「そう!何か訳ありっぽいよね!僕の勘だとそれには和君が関わっている!」
それは…予感でも確信でもなく、単なるハジの期待だった…
「それで、和君は橘さんに怒られる…」
それは…期待でも予感でもなく、単なるハジの確信だった
「でも、和君の生活は劇的に変わるはずだよ!」
それは…確信でも期待でもなく単なるハジの予感だった…
水野の隣の空席に座り、尚も熱く妄想を語るハジを無視し、彩花は北條と俺は水野と話をしていた。
「水野って意外とアホな子だろ?」
「なっ!?いきなり失礼だね君は!」
「だって、自販機ん時さ…別の硬貨なり、紙幣で買えば問題なく買えただろうに」
「うっ…じ、じゃあ!あの百円はいつ使えばいいの?」
「コンビニなり、人相手に使えばいいだろに…」
「………氷室くん、結構頭いいね」
「頭の良し悪しは関係ないだろ…」
「うぅ〜意地悪…」
(……不思議)
氷室くんと話していると、素の自分が出せた…
みんなはアイドルだとか言うけど…本当の私は普通の女の子なのに…
いつからか皆は私をアイドルと呼び、その期待に答えるため、勉強や運動を頑張った。生活態度もキャラを作って、みんな理想の水野ひかりを演じていた。
時折、アクシデントが起こると素に戻ってしまい、不完全な演技だった…自動販売機の件がその例…
それまで私は、男の子は下心ばっかりだと思っていた。親切にしてくれる裏には告白の成功や電話番号の交換などがあった。実際、今まで何度もそのケースがあった。
でも、彼は…氷室くんは違った。何も要求することなく、ぶっきらぼうだったが純粋な親切だった。
あの日から私は氷室くんを目で追っていた。とは言っても、クラスも違い、接点も無いので、遅刻してくる彼を窓際の席から眺めたり、彼のクラスを通る際に覗いたりする位だった。
三年になり、クラス分けを見ると私の名前の近くに彼の名前を見つけ、教室に入ると既に氷室くんは来ていて、後ろを向いて話をしていた。私は彼の前の席に座り、間近で彼を見ながら、話しかけるタイミングを見計らっていた。もっと彼の事が知りたかったから…
そして今、彼と話をしている…最初はアイドルとしての仮面をつけていた。でもいつの間にか仮面は外され素の私で…それも前から友達だったように話せている…
これも氷室くんの魅力だろう…噂を聞いて、怖い人だと思っていた以前の自分が馬鹿馬鹿しくなる…
彼はアイドルとしてではなく、素の水野ひかりを見てくれている…今思えばあの件以来、私は彼に惹かれていたんだと思う…
「……い、お〜い」
話しているうちに考えごとをし、ボーっとしていた。慌てて私は答える。
「な、何?」
「ったく、アホ面でボケ〜っとしてんじゃねぇよ。ふむ、罰としてお前にはクイーンオブアホアホガールの称号をやろう」
「いらない…」
「だな、長すぎるな。アホアホガールにしよう」
「長さの問題じゃないよ!」
「なんだ、不服か?じゃ捻がないがアホでいこう」
「うぅ〜意地悪〜」
高校生活は残り一年…もっと早く…彼に会いたかったな…。
でも……
「あはは、冗談だ…」
会えなかったよりはいい…残り一年。沢山、彼のことを知り、自分を知ってもらう…
「氷室くん…」
「ん?」
「改めてこれからよろしくね♪」
「ああ。よろしくな!」
水野ひかり頑張ります!
更新〜今回のゲストは水野ひかりさんで〜す。
ひかり「水野ひかりです!執筆お疲れ様。前回よりもかなり更新が早いね」
暇な講義ん時とかに書いてるからね。後、PC使ったから
ひかり「今回は私をメインに書いてくれたんだよね」
まあね。頭の中の構図だと結構メイン扱いになってるから
ひかり「やった…これで氷室くんと……キャー!」
い、痛い…恥ずかしがるのは可愛いと思うんだけど叩かないでくれぃ
ひかり「ねぇ、もう一人の新キャラがないがしろにされてたけど…」
聞いちゃいねぇ……ふぅ〜ハジのことか?あいつの登場は次の話の布石だからね
ひかり「じゃ、次って…」
そうです!訳あり転校生です!
ひかり「うぅ〜競争率がどんどん高くなる…」
そう言う話だからね。さて、じゃ今回はこの辺りで…
ひかり「感想、よろしくお願いしま〜す♪」