第26話:孤狼と歌姫とお隣さん 中編その2
――Side Kazuto Himuro
「……グス…せんぱぁい…」
「…和人ぉ……」
ここまで語ったところで、女性陣二人に涙ながらに抱きつかれる…
「お、おい…」
「辛かったよね?…ごめん…ごめんね?ボク何も知らないで…」
「大丈夫…もう一人じゃない…私が居るからね?」
……あの〜。だから、過去のお話だって言ってるじゃないですか。てかさ、知ってるはずの彩花まで…
けど、無理やり振り払う訳にも行かず、為すがままになる…。あぁ〜とっくに晩御飯の時間過ぎてるよ…腹減ったな……
そんな事を考えていると、やっとこさお二人さんは離れてくれて…
「…橘さんが…ああなっちゃうのも分かるよ……」
「あ〜、ちょっと違うんだな。直接的な原因はこのもうちょっと後、笑えるような笑えないような話があってな…」
「笑えないわよ!!あの時ねぇ、わ、私が…ど、どんな気持ちだったか…」
そんな事言われてもさ…あれはどうしようもないでしょ?まぁ、無考えだった俺も悪いんだけどさ…
――Side Ayaka Tatibana
あの日のことは絶対に忘れないわ…
〜〜回想〜〜
あの後、氷室君を背負って病院まで帰ってきた。
病室着き、看護婦さんを呼んで互いにタオルで濡れた身体を拭き、処置をしてもらった後、私達はこってり怒られた。
「ったく、このガキャ…いらねぇ手間かかせんじゃねーよ!こちとら忙しいんだつぅの!今度やったらドタマカチ割るぞ!あぁん!!」
随分とガラの悪い看護婦ね…でも、悪いのは私達、というか氷室君なんだけど…。
「す、すいません!あ、それと、面会時間過ぎてるのに、黙って部屋に残ってたりして……すぐに帰り…あの、今晩は泊まっていっていいですか?」
私の謝罪して、駄目もとでお願いしてみる。今のこいつはこいつを一人にしないで傍に居てあげようと思ったからだ。
私の言葉に、看護婦さんがひらひらと手を振り…
「別にいいぜ。もう面会時間は過ぎてるしな、けどな。そのままだとおめぇも風邪引いちまうぞ。院内にある風呂用意してやるからついて来い。なぁに、気にすんな。バレねぇようにしてやっからよ。親御さんにはいってあんだろ?」
「いえ…まだ。この後電話で友達の家に泊まるって言っておきます」
放任主義な家の両親は電話さえすれば外泊を認めてくれる。あ、でも…後で誰かに口裏合わせてもらわないと…。流石に今の状況を説明するわけにはいかない。
私の言葉に、看護婦さんは感心したように頷き…
「おぉやるねぇ〜それでいいんだ。若い頃にしかできねぇからな、いい経験になるぜ。後で後悔するからな。っと、ちっ、ここ禁煙だった」
タバコを咥えながら、そう悪態をつくと。ついて来いと私に言う。私がそれについていこうとドアまで行ったところで……
「…もう、逃げちゃだめだからね」
「…あぁ」
念のため、釘を刺しておいた。
「すいません。何から何まで…」
「いいって。あ、その下着一式はやるから」
お風呂で温まって、お母さんに電話をし終えて病室に戻る道すがらでお礼を言った。
看護婦さんは着替えまで用意してくれて、まさに…至れり尽くせり……後でちゃんとお礼をしに伺わないと…
「着てた服は洗って乾燥機にかけといたからよ。今日のところはそれで我慢してくれ。っていっても後は寝るだけだから別に構わねぇよな…あ、それとだな、あのガキの隣のベットが空いてるから寝るならそこ使っていいぞ」
彼の病室は二人部屋。隣には誰もいなかったから、そこで寝るように言っているのだろう…って、ちょっと待って
「そ、それは流石に…。そ、その…いくらなんでも一緒の部屋で寝るわけには…」
「大丈夫だろ。あんなフラフラな奴に襲う体力なんてねぇって、あ、それとも…おめぇがムラムラしちまうってか?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる看護婦さん
「そ、そそそそんな訳ないじゃないですか!」
「ケケケ、どうだかな〜。あ、マニアックなのが希望ならあたしの替えのナース服貸してやるぞ?」
多分、私の顔は真っ赤だっただろう…
そんな風にからかわれながら病室に戻ってきてドアを開けると…
「…え!?」
「……ちっ、あのガキ…」
ま、まさか…だ、だって約束したじゃない。もう逃げないって…
彼が寝ているはずのベットの上は…もぬけの殻になっていた。
どうして?信じてたのに!!
慌てて、また外に探しに行こうと振り返ると…
「キャ!?」
「…ぐっ」
ドン!っと人にぶつかって、その人を押し倒すような形で床に倒れてしまった…
「ご、ごめんなさい。急いで…って、氷室君!?」
「……何かあったのか?」
「何かあったのかじゃ…ないわよぉ……ばかぁ」
Side Kazuto Himuro
なんなんだろうこの状況…
病室のドアを開けた瞬間、橘に体当たりをされて、そのまま押し倒されたかと思ったら、わんわん泣き出す始末。
とりあえず、小さい子供にするように頭を撫でてみる…
「う…ぐす…ばかあああ」
…泣声が三割り増し強まってしまった。
「どうして?居なくなっちゃったのよぉ〜、信じてたのに…」
どうやら、俺が黙ってまた消えたと勘違いしたらしい。
「…トイレ行ってたんだ」
自分だけで歩くのはかなり辛かったが……尿瓶にするのは抵抗があったからな
「……で?」
「いや、なんでそんなジト目で俺を見るんだ?」
「当然だよ!トイレ?折角いい話だったのに…ぶち壊しだよ!」
いや…そうは言われてもな……避けては通れないだろ
「あ、あの時の気持ち…私は絶対に忘れないからぁ」
「だ、だから何度も謝ってるじゃないか」
だから嫌なんだよ。この話するのは…こうなった彩花を宥めるのは一苦労なんだぞ。
その後…、看護婦さんがベットを用意してくれたのだが、彩花は俺の手を握ったまま椅子で眠ってしまい、退院してからも毎日俺の家に通いつめる始末…。信用無いな…俺って
涼香お姉さんから
『あら♪どうせなら同棲しちゃいなさいよ』
とか言われた事が懐かしい…まぁ、それは当然断ったが…
高校に入ってくらいにやっと普通に戻ったと思ったら…
「ねぇ、最近…元気ないわよ…まさか……」
「いや…ちょっとな色々思い出しちゃって…」
梅雨の季節になると爺ちゃんの事を思い出す。そんな俺が暗く、また危ないように見えると彩花が言い出して…
そこから毎年梅雨の季節に彩花が泊まるという行事?が始まったのだ。
説明を終え、何気なく時計を見る。あーあ、今から買い物行くと相当遅くなるな…有り合わせで我慢するか……出前は高くつく分、はずれがあるからな〜
そんな事を考えていると、説明を聞き、なにやら俯いている霞が…
「………る」
「ん?」
「ボクも泊まる!!」
「「……はぁ!?」」
とんでもない爆弾発言を落とした…思わず彩花と声を揃えて反応してしまった。
「そんな話を聞いたらほっとけない!だからボクも泊まる!!ううん、今住んでるマンション引き払ってここに住む!!」
「お、おい…「な、何言ってるのよ!!あんたね、自分の立場分かってるの!?」…お〜い…」
「分かってる!!ボ(・)ク(・)の先輩の為だもん!なんなら芸能界を辞める!!「…もう少し…考え…」…文句ありますか!?」
おいおい、どうしちゃったんだ霞は…というか俺の発言は無視ですか?
彩花は彩花でワナワナと怒りに打ち震え…
「文句あるに決まってるじゃない!!和人はね!あ(・)た(・)し(・)の!あたしが面倒見るの!!「…ちょっと待て…」…新参者は引っ込んでなさいよ!!」
「なっ!?新参者じゃない!ボクと先輩には物凄く深い絆があるんだから!「俺の話を…」…あなたこそ!たまたま隣に住んでるだけじゃないですか!?」
「なんですってぇええ!!」
「って、お前らいい加減に…「「煩い!黙ってて!!!」」…はい……」
……冬至の家にでも泊めて貰おうかな…
でもなぁ…それやったら、二人から物凄く怒られそうな気がするんだよな…。
そもそも…喧嘩の原因はなんだ?俺か?俺が悪いのか?でも、特に何もしてないんだけどな……とりあえず……
「飯でも作ろう…」
怒鳴りあっている二人を無視することにし、台所に向かおうとしたところで…
二人の目がキュピンっと光る。うわ、怖ぇ〜
「なら、勝負よ…負けた方が出て行くの…」
「いいですよ。ボクもそう考えてた」
何故、そんな結論に到達するのだろう……
「お題は…料理よ!!」
「どっちの料理が先輩に喜んでもらえるか…勝負!!」
しかもよりにもよって料理かよ!!お前らな…自分の力を自覚してるくせに、なんでそんなに自信満々なんだよ!
二人して気合十分で台所に突貫していく…その後ろ姿を俺はただただ眺めながら…
「はぁ〜…」
重いため息を吐いた。結果は見えてるからだ……二人の後を追って台所に入ると、案の定…
「うぅ〜せ、先輩…」
「はぁ〜霞、向こうで休んでろ」
真っ青な顔で立ち尽くす霞の視線の先には彩花が持った包丁…
刃物恐怖症というのだろうか?左手が動かなくなったときの事件以来、霞は刃物がトラウマになっているのだ…
あと、血液恐怖症も同様に抱えてしまった…。怪我は治ったとはいえ心はまだ癒えていない…何とかしてやりたいんだけどな……
「ったく、無茶するなよ…こうなることは分かってたろ」
「うぅ〜だって…具なしのチャーハンなら刃物使わないから作れると思っただもん……橘さんは思わぬ伏兵だったよ」
米オンリーかよ……せめて、卵くらいは入れて欲しいぞ。つか、他人が包丁使ってるのを見ても駄目なわけね…あぁ、昔から俺が料理してる時に一度として手伝いに来たことなかったのはそんな理由があったからなのか…
ともかく、次は…彩花か……
「…うぅ〜勝負に負けちゃう」
「大丈夫だと思うぞ。さて、俺は胃薬でも用意しておくか」
場合によっては救急車も必要かもしれん。そんな俺の行動を不思議そうに見ている霞。まぁ、百聞は一見にしかず。ここは説明をせず黙ってみていれば、俺の行動が理解できるだろう。
「〜〜♪よし、味付けOK」
しばらくして、台所では彩花の鼻歌を歌いながら、楽しそうに料理する彩花の姿が。作っているのは家にあった材料を駆使した野菜炒めである…うん、いい匂いが家の中を満たしているな…
けど…
「………」
――バタッ
「…え?」
「…やっぱりな……」
味付けを確認するため味見をした彩花だが、そのままの姿勢で硬直して…倒れた。
「よっと…」
倒れた彩花を抱きかかえてリビングのソファーに寝かせる。症状は……B−ってとこか。なら、暫しの休息と胃薬で大丈夫だろう。あまり、凝った料理じゃなかったのが幸いしたな。
「ど、どうなってるの?あんなに美味しそうだったのに…」
「あぁ、見た目と匂いはな…だが、惑わされるなよ」
彩花の料理…それは恐るべき毒物料理だ。
何が恐ろしいかというと…見た目、匂いは完璧。いや、むしろ食欲を誘う魔性の料理だ。だが、魔性の料理とは良く言ったもので、一口食べると、あまりの刺激的な味に倒れてしまう。
「うわぁ〜それは…なんていうか…」
「唯一の美点は味見をするって所だな…。これにより、他の人に災害が及ばない」
しっかし、つくづくすごい才能だと思う。あんな美味そうな匂いをしてるのに、倒れるほどの味。一度、食べてみたいと思うのは人の性か…。とはいえ、俺では絶対に作れないな…
どんな黒魔術を行使してるんだこいつは?とか思いつつ…
「はぁ…結局、出前だ…」
材料は彩花の手によってほぼ全滅。この二人が料理をはじめたときから結果は見えてのだが、ため息は出てくる。
「ごめんね…先輩」
「いいよ。さて…勝負は引き分けだな。出前とるから今のうちに霞は風呂に行って来いよ。着替えは俺のを好きに使っていいから」
「え?」
「…泊まってくんだろ?つか泊まってけよ。もう夜だし雨も降ってるし、お前を一人で帰せない。かといって彩花を放置することも出来ない。部屋は彩花が泊まる客室に布団敷くから」
「先輩…うん♪ありがと。えへへ〜♪」
何がそんなに嬉しかったのか…霞は満面の笑顔で足取り軽く浴室の方に歩いていってしまった。
「……はぁ〜〜なんかどっと疲れた…」
霞を見送り、ソファーで時折苦しんでいるが安らかに寝ている彩花を見つつため息を吐く。
何があったかは良く分からないが、この二人の相性はあまり良くないようだ。
願わくは、一緒の部屋で寝泊りすることによって仲良くなっていて欲しいと思いつつ…
「何食おうかな…」
夕飯で何を取るか考える事にした…。
更新完了!
奈緒「………」
あ、あの…奈緒さん?どうして怒ってるんでしょうか?
奈緒「…ずるい……ヒム君の家に……お泊り……ずるい……」
そ、そう言われても…
涼香「ほっといたら?それにしても、家の娘と来たら…はぁ〜どうしてこうも料理下手に…」
一話ではトースト作ってましたけど…あれは?
涼香「あれは料理とは言えないでしょ。味付けもしてないし…」
なるほど…
涼香「せめて、味見するように徹底的に仕込んだのよね」
そんなに教え込んでも…駄目だったという風にも取れますが?
涼香「言わないで、悲しくなるから…」
奈緒「…ずるい……ずるい……ずるい…」
ま、まだ言ってるし…
涼香「よっぽど、羨ましいんでしょうね〜。愛されてるわね♪ライバルも多いし、彩ちゃんは勝てるのかしら」
すっごく…楽しそうですね
涼香「当たり前でしょ。あ〜私もあと○年若かったら参戦するのに…離婚してでも!」
…なにやらすごい事を言ってますが。こ、今回は此の辺で…感想をよろしくお願いします。
奈緒「……ずるい……ずるい……ずるい……」
涼香「うふふ〜あんなことしたり〜♪こんなことしたり〜♪」
……はぁ…(あとがきに呼ぶ人選間違えたかも…)