第19話:カレーと琢磨と勉強会
――Side Ayaka Tatibana
テスト前に恒例となった勉強会。
和人と二人きりの空間で勉強できる…テストも勉強も嫌いだけど、このイベントはちょっと楽しみだった。
だけど…
「………」
右を見る
「お邪魔しま〜す♪」
「お邪魔する」
「お邪魔いたします。和人様」
ニコニコと笑顔を浮かべているひかりと、若干表情が乏しいけど、口元はニヤッとしている琴乃。天使のような微笑を浮かべる華蓮。
名前で呼び合う仲にまでなった私の女友達で、ライバルの面々
左を見る
「お邪魔します」
「うぅ〜感激だぜ!美女達に囲まれての勉強会!!」
「いや、琢磨に脈は無いから諦めといたほうがいいよ」
冬至くんを筆頭に、常盤、一文字くんなどの和人と仲がいい男子生徒たち。
「沙耶香は用事があるからちょっと遅れるってさ。ま、上がれよ。居間はこっちだから」
家主である和人が皆を案内する
「はぁ…」
ため息を吐く。二人っきりの勉強会が音も無く崩れ去っていく…
どうしてこうなっちゃったんだろう…
事の始まりはお昼休みの事である。
「で、真面目なこところさ、平均点上げていかないと、今年はまずいかも…僕のデータによるとねA組に文武両道の生徒達が集まってるらしいんだ。しっかり対策を練らないといけない」
「そうだね〜勉強しないと…頭じゃ分かってるんだけどさ、私って危機感を感じないと勉強に集中できないんだ〜。テスト前日とか二日前とかじゃないと…一人で勉強するとどうしても誘惑に負けちゃう」
可愛らしいお弁当をつつきながらひかりが言う。でも、ひかりって成績は悪くなかったはず…
「私も…正直、勉学には自信が無いな…」
転校してきた琴乃も、球技大会と中間テストの因果関係を誰かから聞いたのだろう。深刻そうな顔をしている。
「じゃ…、琴乃、今日から俺の家で勉強するか?教えてやるけど」
そう!これだ!和人のこの言葉が、二人の勉強会崩壊の始まりになったのよ!!
「…いいのか?和も勉強しなきゃいけないのに…」
「どっちみち、試験前は彩花にマンツーマンで勉強教えてるからな。一人増えたところで別に負担は掛からないから。」
「ね、ねぇ…私もいいかな?」
「あ、俺も〜」
和人の言葉に、皆が賛成して、めでたくみんなで勉強会となってしまった。
「はぁ〜」
「彩花?」
ため息を吐く私の姿に気がついた和人が怪訝そうな顔をするが、やがて、何かを思いついた様な顔をし
「ああ、心配するな。ちゃんとお前の勉強は見るから」
そういい残し、居間に入っていく。
少しだけ、気分が晴れた……
――Side Kazuto Himuro
皆で勉強会。かつて、俺の家に此処まで人が集まったことは無い…まぁ、だからなんだ?と問われてもオチとかはないんだけどさ…
「初めて入ったけど…綺麗にしてるんだね〜」
「私は幼い頃一度だけ、ここに来た事があるが……懐かしいな」
「ひかりに琴乃、お前ら何しに此処に来たか分かってるか?言っとくが、俺んちで勉強会を開くからには俺流のルールに従って貰う。もちろん、残りの君たちもだ」
「る、ルール?」
「ああ、だが、そう大したもんじゃない。ハジ、頼んどいた物はあるか?」
「うん」
スッと差し出されたプリントの束を受け取り、内容をチェック。うん、流石…いい仕事をする
「さて、このプリントは俺が此の辺がでるんじゃね?っていうテスト範囲からの問題をまとめたもんだ。とりあえず、数学と英語な。まず、一通りやってみてくれ。終わったらその後採点する。そこで、間違った問題を俺が解説したり、自分で調べるなりしてやり方とかを確認する。まぁ、その頃になれば沙耶香も来てるだろうから、一緒に解説役をしてもらうつもりだ。それで、その後で間違った問題をやり直してもらう。ただし、答えの暗記を防ぐためにもう一枚、数字や英文だけ変えてある同じような問題を渡すから、そっちはで間違った問だけやってくれ」
一人一人にプリントを配る。
「皆が問題を解いてる間に、俺は夕飯の準備をしてるからな。そんで、再テストの問題で解説したのにまた間違えちゃった奴にはペナルティーを与える。これが、ルールだ」
「ぺ、ペナルティー?」
「あぁ、そうたいしたもんじゃないぞ。ただ、間違え一問ごとに夕飯の品が一品減るだけだ」
「な、なんだって!?おい!そんなの俺が格段に不利じゃねーか!!!」
「知るか!日ごろ勉強しないでナンパばかりしてるお前が悪い。あ、そうそう、一つ言っとくけどな。今日は人数が多いからカレーにしようと思ってるんだ。あとスープとサラダ、デザートってとこか…分かるかな拓馬君?ライフポイントは4。つまり、四問間違えたら…夕飯に何も食べられない…」
この衝撃のルール内容に琢磨の顔色が青くなる。
「ひ、人でなし!横暴だぞ!!氷室!!!」
「諦めなさい…そして慣れるのよ。私はこうやって何時も耐えてきた…」
「…苦労してたんだな。橘」
「はいはい、弱者で傷を舐めあわない!あ、一つだけ教えとくけど、没収される品は自分で選べるから、3問間違えならカレーだけは食えるぞ。今日の夕飯時、ヒモジイ思いをするか、リッチな会食をするかは、お前次第だ…と、言うわけで始め〜」
俺の開始の合図に、問題に取り組んでいく。う〜ん、テスト本番並み、いやそれ以上の真剣な空気だ。
やっぱ、食べ物がかかってると必死になるな〜
そんな事を思いつつ、野菜の下ごしらえをはじめるのだった。
カレーのスパイシーな香りが食欲を引き立てる…
そんな中、後からやってきた沙耶香と共にみんなの再テストを採点する…結果は…
「うん、冬至、華蓮、ハジ……そして、彩花は全部正解だ」
「わ、私も?ほ、本当に?」
「ああ、昨日俺が教えたとことかもちゃんと出来てたみたいだし…えらいぞ。ほ〜ら、いい子いい子」
いつも通り、子供にしてやるように頭を撫で撫でしてやる
「ち、ちょっと!皆見てるじゃない!!」
「俺は頑張った子は褒めるんだ」
「では、私も…」
「そうだな、華蓮も冬至もハジもよく出来ましたっと」
華蓮たちにも順番に頭を撫でる…
「ふふ…」
「な、なんか…恥ずかしいけど…」
「ちょっと嬉しいね…」
満更でも無さそうな三人。うむ、やはり褒めることは大事だ
「さてっと、次は惜しくも一問だけ間違ちゃった子だ。ひかり…惜しかったな」
「うぅ〜…な、撫で撫では?」
「無いな。次に頑張りなさい。ちなみに一品没収だからな。さて、次は2問間違えだ。琴乃、飯食い終わったらみっちり扱くからな」
「…すまん……よろしくお願いする」
「二品没収だが、カレーは食えるだろう。みっちり食べとけよ。さて、最後にほぼ全滅。理解度ゼロのアホたれ。もう、名前を呼ぶことすら不快になる…」
「ひ、ひでぇ…あからさまに態度が違う……」
琢磨が未練がましく、言うがそれにしたって再テストでほぼ全滅とは酷すぎる…
「……常盤さん、よく三年生になれましたわね」
「ほ、北條お前まで…」
「いや、むしろ高校生になれたのが不思議だ。なんだこの『I is have dog』ってのは!!答えがまるで違う上に! Iにはamだろうが!いや、そもそも!be動詞と一般動詞を同時に使うな!!基本だぞ!中学で何習ってきた!!」
「え?そうなの?」
ふざけてやってるのかと思ったが、どうやらマジらしい…というか、さっきの解説で沙耶香が付きっ切りで教えていたはずだけど…
「もう…疲れましたわ……はぁ〜」
「……沙耶香、よく頑張った。ほら、よしよし、元気だせ」
心底つかれきっている沙耶香の頭をポンポンと撫でて励ます。
「和人さん…私…私……何の力も…無力ですわ…」
「いや、お前のせいじゃない。此処まで規格外だと予想できなかった俺の罪だ……すまなかったな。こんなの押し付けたりして…」
「お、お前ら…すんごい悲壮感だな…正直、すっごく俺に失礼だぞ。あ、こら!憐れみの目で見るな!!」
俺と沙耶香の脳裏には御堂先生のチョーク地獄とクラスのフクロに晒されて生き絶える琢磨が鮮明に映し出されたことだろう…
「な、なんだよ。失礼だな。俺にだって得意な科目があるなぞ。ほ、保険体育とか…」
「……中間に保健体育はありませんわよ。それに、最低ですわね…」
琢磨に女性陣から冷たい視線が突き刺さっている。
「なぁ…冬至にハジ。確かさ、中間テストを入院で受けられない場合、平均の算出の際に加算されないんだよな」
「…そうだね。ここで殺っといたほうがいいかもね…」
「骨折くらいなら球技大会までには間に合うだろう」
「間に合わねーよ!!ってか、お前ら本気で止めてくれ!!謝るから、努力するから!!だから、お慈悲をーーーー!!」
土下座する勢いで懇願する琢磨。ってか、もう土下座してやがる
「……いいか、これはお前の為に言ってるんだぞ。琢磨」
「へ?ど、どういうことだよ?」
「こういうことだ。琢磨、此処で俺たちにボコられば、確かに痛い思いをするだろう。だが、テストは回避できる。いや、クラスに加算されなくなる。そうなれば、お前がいかに悪い点をとろうが、構わない。お前が困るだけだ。だが、もしも…普通に試験を受けて、クラスの平均点を著しく下げたとすれば…」
「す、すれば?お、俺はどうなるんだ?」
「はぁ…鈍い奴だな…。御堂先生や他のクラスメイトにボコボコにされるに決まっているじゃないか」
俺の言葉に、ようやく立場を弁えたのだろう。ガタガタと震えだす琢磨。そりゃそうだ、御堂先生に彩花。俺でもこの二人を同時に相手にするとなると…
逃避の二文字以外が脳裏に浮かばないな。
「ど、どうしよ…どうしよう!た、助けてくれ!!氷室!!」
「無理だ!すまん。力に慣れなくて…」
「諦めんのはえぇよ!!な、なぁ、本当は何か手段があるんだろ!?」
縋るような目で見る琢磨。だが、そう言われてもな…
「いいか、俺から言えることは一つだけだ…」
「な、なんだよ?」
「頭と首を護れ。それでまぁ、最悪の事態は何とかなるだろう。もしくは、自分から意識を飛ばすという手もあるぞ。ま、起きたときに地獄だがな」
「殺られるの前提かよ!!」
「なんなら、俺が最初の一撃で意識を刈り取ってやるけど?ただ、その場合、その後目覚めるかどうかは保障しかねるが…」
「んなこと頼むか!!」
「そうか…なら、頑張るんだな。さて、じゃ、俺らは飯にするか。あぁ、琢磨、お前の飯は無いからな。没収だ」
「お、鬼だこいつ…」
未練がましく見ている負け犬を無視して、俺達はカレーを食べ始める…
「美味いな…」
「お、美味しい!これ、和人君が作ったの?」
琴乃は最初の一口でそう呟き、カレーを凄い速さで食べ始め。ひかりは興奮気味に聞いてくる。うむ、他の面々にも概ね好評のようで何よりだ…
「まぁな。カレーなんぞ、誰でも……いや、訂正。大半の人間は作れるぞ」
「…ねぇ、今、私の方を見て言いなおさなかった?」
「お前には前科があるからな。シチューを爆発させたという…」
ニトログリセリンでも入れたのかと本気で疑った。それ以来、彩花が台所に立つ際には緊急災害マニュアルが発動し、俺や彩花の両親は即座に逃げ出すのだ。
爆発もそうだが、試食なんぞ頼まれたら……考えるだけでも恐ろしい…
「うっ…そ、それは…し、シチューだからよ!か、カレーなら作れる!」
「何を根拠にそんな妄言を…大体、ルー以外、大して変わらないだろうが!!作れるわけ無いだろ!!」
彩花に作れる料理はカップラーメンか、トーストくらいだ。まぁ、料理と定義していいのか微妙な所なのだが…
「和人様、後でレシピをお教えいただけませんか?」
「あぁ。華蓮なら彩花とは違って作れるだろうからな」
「わ、私にも是非…」
「別にいいけど…沙耶香、料理の経験は?」
「………家庭科の授業なので少々…」
どこか自身が無さそうだ…だが、彩花じゃあるまいし爆発はしないだろう…
「ぐっ!ぐぐぐ…」
「本当に美味いな〜。なぁ、一文字」
「うん。僕が食べた歴代のカレーの中で一番だよ」
唸り声を上げる琢磨の前でカレーを頬張る面々。
「な、なぁ!頼む。一口でいい!食わせてくれ!」
「駄目だな。己の無知を呪え」
「後慈悲をーーー!何卒お慈悲を与えてくださいませーーー!!」
「……しかたねーな。今回だけ特別だからな」
「あぁ、氷室様〜。あなたが神様に見える…」
「ったく、ほら」
「あ、ありがとうごぜぇますだーーー!」
あまりに憐れだから、ちょっとばかり慈悲を与えてあげた。うむ、我ながら優しいな俺は…
「って、なんじゃこらーーーーーー!」
と思ったら、奇声を上げる琢磨。まったく、やかましいことこの上ない…
「今度は何だ?食事くらい静にできないのか?」
「何だ?じゃねーよ!ふざけんな!!なんだこれはーーー!!」
俺が渡した器を差しだし、何やら怒っている琢磨。なんて失礼な奴だ。折角、慈悲を与えてやったものを…
どうやら、器の中身について俺に問いかけているようだ
「なんだと言われてもな…見て分からないのか?」
「福神漬けだけじゃねぇか!!!しかも器いっぱい!なんのいやがらせだーー!!」
「なんだ?よもやカレーを食えるとか思ってたのか?世の中そんなに甘くは無い。それに、そんな事をしたら真剣にやった奴らに失礼だ。ペナルティーは受けてもらう。でも、慈悲がどうたら言うから、福神漬けくらいは食わせてやろうかと…」
俺の言葉に琢磨は何やらプルプルと震えたかと思うと…
「………ムキィイイイイーーーー!!ハグ、ハグ!!パリボリバリボリ!!」
狂ったように福神漬けをかきこみ始めた。
食事を終え、もう暫く勉強をした後、勉強会はお開きになった。
食事の後の琢磨の勉強ぶりは鬼気迫るものがあった。悔しさもあったのだろうが…ようやく、自覚したのだろう。自分の生命の危機を…
これなら、どうにかなるかもしれないな…
そんな事を思いつつ、俺は現国と科学のテキストを開き、テスト範囲をまとめ、明日の彩花の勉強用問題を作り始めた。
更新完了。皆さん、どうもです久遠です。
霞「Soraこと美空霞です」
さて、中間テストの勉強が始りました〜
霞「いいな〜ボクも撫で撫でされたいよ」
無理だと思うよ?
霞「ど、どうして?」
だって、霞ちゃん、問題解けないでしょ?
霞「うっ!?痛いところを…」
ちなみに…設定上の霞ちゃんの学力は…
霞「わー!わー!」
ま、止めときましょう。あ、でも英語は喋れます
霞「ふふ、当然だよ。アメリカに居たんだし…」
……でも、他は…
霞「わー!わー!こ、今回は此の辺で!また次回お会いしましょう!」
感想を書いてくれてありがとう。これからもよろしくお願いしますね。ではでは