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Rumble  作者: 久遠
18/38

第17話:約束とプレゼント

――Side Kazuto Himro



「でな、チョークを投げる御堂先生が人間離れしててな。凄い速度で曲がったりするんだ」


「…それって、避ける先輩も十分人間離れしてると思うけど…」


俺達は、互いの空白の時間を埋めるかのように談笑をしていた。


俺は、学校の話題を中心に話し、霞は…


「でさ、そのプロデューサーがすっごい嫌な人でさ〜」


「へぇ〜、華やかだと思ってたけど、裏じゃ大変なんだな芸能人って」


芸能界の話題が中心で、あまり耳にする機会が無いので凄く新鮮だった


談笑をしていると、やがて日も暮れてきて…


「お腹空いた〜」


「飯食ってくだろ?今日はお前の好きなもん作ってやるよ。何食いたい?」


「オムライス!!」


パァッと笑顔を浮かべ、即答する霞


「やっぱそれか…昔から好きだったからな」


というか、霞がいるときはオムライスオンリーだったような気がする…


「それは誤解だよ!別にオムライスが好物って訳じゃなくて、ボクは、先輩のオムライスが好物なの!」


「そんな大層なもんじゃないぞ」


「そんな事無い!あれはオムライス界に新風を巻き起こす!オムライスの革命だよ!!」


力説する霞


いや、オムライス界ってなんだよ…


まぁ、確かに、俺のオムライスは普通のと一味違う。何故なら『和風オムライス』だからだ。


「まぁ、いいけど。今からだと時間かかるぞ」


「待ってる!!」


「手伝うという発想は無いのかおのれは…」


俺は苦笑いをしながら調理に取り掛かる。


和風オムライスの概要は、何のことは無い、チキンライスの変わりに炊き込みご飯、それを半熟卵で包み込み、ケチャップではなく醤油をかけるのだ。


そんな単純な料理だが…


「先輩じゃないとあの味付けはできないんだよ!お母さんじゃ駄目だったもの!!」


「さいですか…」


霞の声をBGMにし、ちゃっちゃと料理を済ませる。作業時間は少ないが、炊き上がりに時間が掛かるのだ。


「よしっと、これで後は炊き上がりを待つだけだ」


フライパンに卵を用意し、オムライスの準備は万端だ。その間に、サラダやスープなどを作る。


霞はといえば、何が楽しいのかニコニコと俺が調理しているのを眺めていた。




「さぁ、食いねぇ!」


「いただきま〜す!!」


出来上がったばかりのオムライスを嬉々として食べ始める霞


「美味し〜♪このトロトロの半熟卵と醤油が絶妙だよ〜」


どうやら、満足してもらえる出来だったようだ。俺も、一口食べてみる…うん、我ながら上手く出来た。


何時もなら、一人での夕食…。


こんなに美味して楽しい夕食は久しぶりだ…それに…


「…?ふぁに?」


「食べながら喋べるな。行儀悪いぞ」


前は力がなく、だらりとしていた左腕。だが今は、その左腕を動かし、おいしそうに食べている…


「懐かしいな…食べにくいからって俺が食べさせた事があったよな…」


「む、昔の話だよ!」


俺は、霞が普通にオムライスを食べてるのが凄く嬉しかった。


夕食後、作っているときとは違い、今度は霞も片づけを手伝ってくれた。



「さてっと…じゃ、行くか…」


「うん♪」


考えることは同じらしい。片づけを終え、暫しの食休みをした後、俺達はあの場所…あの約束の場所へと向う事にした…




「ん〜いい風♪」


「そうだな…」


ベンチに座り、ギターのチューニングをしながら、風を感じる。夜風が心地いい…


「この景色を見るのも久しぶり…」


出かけにあの変装をしようとしたので必死に止め、霞には俺の帽子をかぶせている程度の変装をさせ、此処までやってきた。


いや、だって、あれじゃ補導されちゃうって…


今の霞は帽子を取って、髪を靡かせ、風を感じながら、見晴台から景色を眺めている。


「じゃ、始めるか…」


「うん♪」



俺は静に音を紡ぎ…


それに呼応するかのように、霞が歌い始める。


俺と霞のライブの始まりだ…



――Side Kasumi Misora


凄い…先輩……


歌手としてデビューした私は、当然、ボイストレーニングなど歌手として必要な訓練や練習をした。そのお陰で、あの頃よりも確実に歌は上手くなったと自分でも思う…


だが…先輩のギターもあの頃より格段に進歩していた。


プロのギタリストと殆ど差が無い…いや、むしろ…


先輩の方が上手い…


技術面では殆ど差が無いが、多分プロの人の方が少しだけ上手いと思う…けど、先輩の音は…私の歌…私の魅力を最大限にまで引き出してくれる。


それに…


月明かりに照らされる先輩の銀の髪は…とても幻想的で……


だ、駄目駄目。歌に集中しなきゃ…


思わず見惚れそうになり、若干音程がずれてしまった。うぅ〜プロ失格だよ…



――Side Kazuto Himuro


練習続けてて良かった…


霞の歌のレベルは流石に高く、あの頃の俺のギターじゃ釣り合わなかっただろう


爺ちゃんが死んだときは色々あって練習できなかったが、高校に入ってからもギターは続けていた


高校一年の頃に何冊かギターの本や楽譜を買い、弾きに弾きまくっていた…。爺ちゃんの部屋が防音になっていたので彩花からの苦情なども無かったのが幸いだ…


だが…もう一つ、ひそかに練習し、霞と再開したときに驚かそうと思ったものがある。


「〜〜♪♪…ふぅ…久しぶりに歌ったけど…やっぱりいい曲…」


歌が終わり、俺はギターをケースにしまうと、感傷に浸っている霞に近づいて、出来る限りの笑みを浮かべて…


「初めて会ったときも…こんな月夜の日だったな…」


「うん…」


そっと、白く細い霞の左手を取り、小指を自分の小指と絡ませる…


「ちゃんと治ったな…」


「うん…」


あの頃、まったく反応しなかった霞の左手からはきちんと反応が返ってきて…


それが約束が果たされた何よりの証


そして…ゆっくりと…


「「……指きった」」


小指を離す…


絶対に護られる指きり…


だが…俺は……


一度…その約束を破りかけたことがある…



「先輩?」


「………」


「先輩!!」


「…んあ?あ、あぁ、悪い何だ?」


「大丈夫?なんかずっとボーっとしてたけど…」


心配そうに俺の顔を覗き込む霞。俺は苦笑いをし、霞の頭を撫でた


「先輩?どうしたの?本当に変だよ?い、嫌じゃ無いんだけど…」


霞には黙っていよう…本来なら話すのが筋なのだが……話したらこいつはきっと責任を感じるだろうから…


「さてっと…することもやったし、行くか」


手を話し、場を取り繕うかのように言う


「なっ!?先輩の馬鹿!!もっと余韻に浸らせてくれてもいいじゃない!」


ぷぅっと膨れる霞のほっぺを指でつつく


「あはは、実はなもう一箇所、行くとこがあるんだよ。俺からお前にプレゼントがあるんだ」


「プレゼント?」


困惑する霞の手を引き、俺は歩き出した。




「ね、ねぇ、やっぱまずいって…」


「へーき、へーき。ほら、掴まれ」


塀の上に飛び乗り、霞に手を伸ばす。


「…その跳躍……やっぱり、玄ちゃんの孫だね」


「おいおい、でこぴんで熊を昏倒させた武勇伝を持つ変態と一緒にしないでくれ」


本人は指先に気を集中させたとか意味不明の事を言っていたが、正直、あの爺さんは人間じゃない…


霞はといえばブツクサ言いながら俺の手を掴み、一気に引き上げる。


そして、俺達は塀の上に立った。


どこの塀かと言うと…


「これ…犯罪だよ。つかまったらスキャンダルだよ…」


「大丈夫だろ。それにここの校長なら許してくれるぜ。なんせ『愛こそ全て!』だからな。デートしてました〜とか言っとけば」


光琳高校。つまりは俺の学校の塀である。


門より塀の方が、上にたったときに安定しているので不法侵入には塀を登るのが一番なのだ…


塀から飛び降り、霞が続いて飛び降りるのを下で抱きとめる。


「慣れてるね…」


「そうだな。結構しょっちゅう進入してるからな」


「セキュリティー大丈夫なの?」


「ああ、職員室以外なら鍵もかかってないぜ。取られて困るようなものは無いらしいし、夜の学校は逢引スポットの一つだそうだからな」


唖然とする霞。まぁ、無理も無い、あの校長の破天荒振りといったら…教頭先生の心中をお察しいたします。


そんな話をしながら、堂々と玄関から学校に侵入し、上履きを履く。霞には適当に彩花辺りの上履きを出してやった。


そして、やってきたのは…


「音楽室?」


「あぁ、学校の七不思議スポットの一つ音楽室だ」


困惑する霞を音楽室に入れ、俺はピアノの前にに座る。


「え?先輩、ピアノ弾けるの?」


「まぁな…。お前が行った後、爺ちゃんから教わった。お前に似合う楽器は、ギターよりもピアノじゃないかって爺ちゃんが言ってな」


その時は中学の音楽室に進入して練習した。当然、光琳のようにセキュリティーが甘くなく、ちゃんと鍵がかかっていたのだが、爺ちゃんがあっさりと開けて簡単に進入することが出来た。


高校に入ってから、週に二回は此処で弾いている。


「プレゼントって…」


「あぁ、一曲だけじゃ寂しいからな…お前と会ったときに聞かせようとおもって新しい曲を作ったんだ。曲名は無い…詩とタイトルは霞が書いてくれ」


爺ちゃん直伝のピアノ…


俺から霞への贈り物の曲を奏でる



―Side Kasumi Misora


窓からの月明かりが先輩とピアノを照らす


ピアノを弾いている先輩…曲も凄く良くて……


幻想的だった…


「ふぅ…どうだった?爺ちゃん以外にピアノを聞かせたこと無かったから、あんまり腕には自信が無いんだけどさ…」


「え?他の人に聞かせたこと無いの?」


「ああ。お前と爺ちゃん以外に聞かせるつもりも無かったしな。これはお前の為に作った曲だから」


「――っ!?」


や、ヤバイ…すっごく嬉しい。グラッときた…


「? どした?顔真っ赤だぞ?ライブだってのに体調悪いのか?」


「な、なんでもないひょ!?」


うぅ〜。ひょって言っちゃったよ〜。大体、誰のせいでこうなってると……


「よく分からないけど、とりあえず帰ったほうがいいな。明日に備えるためにも。送ってってやるよ」


「うん…」


うぅ〜この鈍感……先輩はもう少し自分の魅力に気がついたほうがいいよ…だいたい、あのシチュエーションであんな事言われればさ…


そんな私の気持ちを知る事無く、先輩は私の手を引き歩き出した。


「な!?」


「ん?どした?」


「な、なんでもない…」


さらっと手を繋ぐし…。流石玄ちゃんの孫…女の人にモテる要素が目白押しだ…


決定的に違うのは、先輩は鈍感で、こういうことを天然でやってるから玄ちゃんよりタチが悪い…


赤くなった顔を誤魔化すように私は口を開いた


「ね、ねぇ!明日のライブさ、見にきてね」


「遠慮しとく」


なっ!?躊躇なく一蹴された!


「な、なんで!?ボクの晴れ舞台なのに…」


「いや、人ごみ嫌いだし」


……それは知ってたけどさ…


「それにさ…」


先輩は私に微笑んで話を続け…


「お前の歌は今日聞いたからな。これ以上の贅沢は無いだろ…霞の独占ライブだぜ?」


その言葉に、ムッとなった私の感情は一気に吹き飛んだ


「そっか…」


「あぁ、だから明日はゆっくり家で寝てるよ。うるさい奴もいないし、惰眠を貪る。お前は頑張れ、夢の中で応援してるからさ」


「その応援は微妙に嬉しくないよ」


それに、元気はもう先輩から分けてもらったし…


美空霞の明日のライブに向けての充電は完璧なんだから


明日は何時もより気持ちよく歌える気がした。












更新完了〜


和人「ようやく、霞の話が一段落したな」


霞「あれだよね?最初の設定だとボクは左腕の麻痺障害じゃなかったんだよね?」


うん。当初は霞ちゃんは盲目で絵が書けなくなったっていう感じの設定だった。その設定で書いては見たんだけどさ…


和人「書けたはいいが、続きが思いつかず没にしたんだよな」


……うん。これで書いた話は葛藤とかは無く、アイドルの霞ちゃんがいきなり、学校に転校してきたって感じのお話し


霞「そ、それでどうなったの?」


和人「昼を食ってた俺に、御堂先生の放送が入って校長室に行って、そこで対面。回想って感じの流れ…」


でもさ、盲目だから和人くんの顔を知らないわけさ〜で、回想が書きにくかったから没にしました〜


霞「むむぅ〜そんな裏話があったなんて…」


ま、それは置いといて、お疲れ様。霞ちゃんは当分出番はないと思う予定だから、ゆっくり休んでね


霞「うん…って、待てぇ!納得できない!」


あっはっは、では次回もまたこのチャンネルにアクセス!。いつもご愛読ありがとう!ではまた!!


霞「爽やかに誤魔化すなコラーーー!!」


和人(な、なんか…彩花に似てきてるぞ霞…会った事ないのに)



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