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Rumble  作者: 久遠
16/38

第15話: 手紙

――Side Kasumi Misora


「ふぅ…」


五月三日。よいよ明日だ…


ベットに倒れこみ、ため息をつく。


時計を見ると、もうじき日付が変わろうとしていた…


「帰ってきたんだ…」


もう二度と来ないだろうと、あの時…思った場所に。


今日の仕事を終え、明日のリハーサールに備えるために、一日早く春ヶ丘に帰ってきた。



ボクはホテルの一室でベットに寝転びながら、先輩の事を想う…


「先輩…」


本当なら今すぐ飛んでいきたい…でも、もう深夜。先輩は寝ているかもしれない


「会いたい…会いたいよ……」


明日の午前中はリハーサル。一発で終わらせて、先輩に会いに行く…


左手の小指を見つめながら、ボクは…一年前、日本に帰ってきたときの事を思い出す…



回想


「ただいま♪」


駅に着いたボクはまずそう言った。


ここはボクの原点で、ボクの帰るべき、場所がある…


アメリカでの手術は成功し、頑張ってリハビリをした。


その結果……


「〜♪〜〜♪」


ボクは鼻歌を歌いながら、右手でハンドバックを持ち、左手を振り、元気良く歩く。向かう先は…大切な人が居るところ…


あれから三年…


桜が舞う春の季節にボクは此処に戻ってきた。約束を果たすために…


ボクの左腕は大分回復した。まだ、お箸とかはもてないけど、それでも感覚が戻り、動かせるようになっただけでも大進歩だ。


けど…


「あ〜あ、でも偶にしか会えないな〜」


お父さんの仕事の都合で春ヶ丘ではなく都心に引っ越した。それほど、遠くないが毎日通うとなると電車代が馬鹿にならない。


でも贅沢は言えないと自分を嗜める。だって…やっと、会える距離にまで来たんだから


「楽しみだな〜また一緒に歌いたいな〜♪」


別れた日から先輩とは一切の連絡を取っていない。声を聞いたら会いたくなっちゃうから…


だから、ボクは先輩の事を考えながら歌を歌っていた…


でも、あの歌…『Together』は歌っていない。あれは、ボクと先輩の二人が揃わなきゃ歌えないから…


だから、ボクがいいなと思った歌を歌っていた。


だから先輩と会ってあの場所で、久しぶりにあの歌を歌う。その後で、約束の指切りして…手を繋いで帰ってきて…


そんな楽しい未来に思いを馳せ、懐かしい彼の家に向かう。そして、その淡い期待を抱いた未来は…


「…え?」


もろくも崩れ去っていった。


「………」


ようやく見えた先輩の家。けど、ボクはそれ以上、足を進める気が無かった。だって家の前には…


「折角の休日だってのに…」


あの時より、大人びて凄くカッコよくなった先輩と…


「ほら、早くしないと遅刻しちゃうじゃない!!」


凄く綺麗な女の人が楽しそうに喋っていた


「…いや、なんでお前が練習行くのに、俺がチャリこぐんだ?」


「どうせ、春休みで暇でしょ!だったら、こぎなさい!!」


「横暴にもほどがあるぞ〜。彩花、横暴〜」


「いいじゃない!貸しにしといてよ!」


…先輩?


嫌…


「利息はトイチだからな。10分で一割。」


「どっちが横暴よ!!大体、この場合の利息ってどうなるのよ!」


「100分…1時間と40分で、貸しが二倍になりま〜す。嫌ならいんですけどね〜。ほらほら、ぐずぐずしてると遅刻しちゃいますよ〜?」


「ぐ、ぐぐ…」


「…くっくく。ふぅ〜。十分からかったし、乗れよ彩花」


「あ、あんたねぇ!」


「ほら、さっさと乗れ」


その女の人は誰?


ボクの前ではそんな表情、見せたこと無い…


「よっしゃ、飛ばすぜ…体感しろ!春ヶ丘の銀の閃光と呼ばれた俺のスピードを!振り落とされないようにご注意ください」


「わ、わわ。こ、こら!自転車で道路交通法を違反するような…って、き、キャーーーー!!」


先輩は、ボクが歩いてきた道とは反対方向に、振り返る事無く、猛スピードで遠ざかっていってしまった。


「……あ、あはは……」


何やってるんだろ…ボク。


一人で舞い上がって…先輩の家に押しかけようとしたりして……


「馬鹿みたい…」


先輩の傍にボクの居場所なんてない…


「う…ぐす……ほ、本当に…馬鹿みたい!」


歩いてきた道をボクは泣きながら走った。


先輩はボクの事なんて忘れてしまったんだろうか…


あの人は彼女なんだろうか…


ボクに会ったらどんな反応をするのだろうか……


分からない…


分からないよ…


今の先輩が…




泣きながら家に帰ってきて、そのままベットの上でひとしきり泣いた。


「…どうしよう……」


先輩には会いたい、でも、今の先輩はボクの知らない先輩。私のことなんて覚えてないかもしれない。


ボクと会ったとき、先輩はどんな反応をするのだろう…


「ボクの事、覚えてるのかな…」


それを確かめる方法…覚えているなら、先輩は笑って私を迎えてくれるはず…



「そうだ…あれが…」


ゴソゴソと財布を漁り、取り出したのは名詞。アメリカの路上で歌っているときに会った、日本の芸能プロダクションの人。


仕事でアメリカに居たその人は、私に名詞を渡してアイドルにならないかと言った。


その時は断ったんだけど…名詞だけは貰っていた。


「デビューしよう。アイドルになって、歌を歌って有名になれば…」


先輩が気づいてくれて、迎えに来てくれると思った。



「最悪のデビューの動機だね……」


先輩に気がついてもらえるように必死になって頑張った。でも…


先輩は来てくれなかった。


デビューしても、シングルを出しても、TVに出れるようになっても…


だから、ボクは…先輩の事を忘れようとしたんだ。


その時から、一人称を私に変えた。その方が、TV受けもいいと前から言われていたけど、先輩に気がついてもらうためにボクと言い続けた。


けどもう、それもお終い。


先輩は完全に私の事なんて忘れてしまったんだから…





「そんなボクに…また、先輩の事を思い出させてくれた…玄ちゃん。ボク、このままじゃ…駄目だったんだよね」



弁護士さんに渡された…玄ちゃん。先輩のおじいちゃんの手紙だった。


ショックだった。知らなかった。もう、玄ちゃんが居ないなんて…


その時、脳裏に浮かんだのは先輩だった。


亡くなったのは私がアメリカに行った翌年だという。その時、先輩は…一人きりだったはず……


孤独という最も辛い経験を私と先輩は知っている。だが、その比ではないほどの孤独。だって、唯一の肉親が居なくなってしまったのだから…


その手紙には私が居なくなってから、先輩の元気がなくなったこと、毎晩のようにギターを弾いていた事、左手の小指をボーっと見つめて居た事など


先輩が私の事をずっと考えて居たという事、そしてその後は私に宛てた言葉がつづられており…


『霞ちゃん幸せになるんじゃ。辛い事を経験した霞ちゃんだからこそ、幸せになって欲しい。ワシは何時までもあの世から霞ちゃんを応援するからの』


と締めくくられていた。


「…げ…玄…ちゃん」


滲んで文字が見えなくなる。手紙にポタポタと雫が落ちる…



「どうして…どうしてもっと早く!これを持ってきてくれなかったんですか!?」


「…玄統斎さんに言われてたんです。美空さんには治療に専念して欲しい…この手紙を渡したらきっと、和人君の心配でそれどころでは無くなってしまうと…」


「そ、それは…」


玄ちゃん…私の事をそこまで考えて…


「ですから、完治するまで渡さないように言われていたんです。私が調べた限りでは問題は無いようでしたので、今日、こうして遺書を渡しに来たんです」


「そうだったんですか…ありがとうございます」


私は大馬鹿だ…一人でいじけて、勝手に落ち込んで…自分の本当の気持ちを隠すなんて…


でも、玄ちゃんのお陰で…ようやく自分の本当の気持ちが分かった…勇気が出てきた


先輩はボクの事を忘れてなんて居なかったんだ…会いに行こう先輩に。


今度こそ…約束を果たしに


そんなボクの勇気を…


「美空さん、これを和人君に渡してあげてください。和人君に宛てた手紙です。あなたから渡して欲しいと玄統斎さんが仰っていました」


玄ちゃんは後押ししてくれた。




「……玄ちゃん…先輩…」


左手の小指から、手紙が入っているバックに視線を移す…


明日…仕事が終わったら真っ先に会いに行こう。



『霞ちゃん、もうちっと大きくなったら、ワシと添いとげんかの?』


『えっと…ごめんね玄ちゃん。ちょっと難しい…』


『むぅ…ワシよりやはり、和人の方が良いか…残念じゃの』


『せ、せせ、先輩は、関係ないよ!』


『まぁ、いいじゃろ。霞ちゃんは孫のようなもんじゃからの。和人と結ばれれば、本当の孫になるだけじゃからの…』


『な、ななな、何言ってるの玄ちゃん!!』


ちょっと意地悪だけど優しい。ボクのおじいちゃん…


玄ちゃんとの思い出を振り返りながら、ボクは眠りについた…。


更新完了!


霞「ねぇ…先輩がボクに気がついてくれなかったのは忘れてたんじゃなくて…」


TVを見ないからですね。


霞「そ、そんな〜ボクの努力って一体…」


無駄だったわけですね。あはは、ドンマイ!


霞「……喧嘩売ってるよね?」


さて、次回の予定は…


霞「誤魔化した…都合が悪くなると何時も何時も…」


ま、いいじゃないか。次回で会えるんだから


霞「ホント?」


予定だけどね。さて、今回は此の辺で…


霞「何時もご愛読ありがとう。次回もまた見てください」


では、感想をお待ちしております。

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