表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rumble  作者: 久遠
14/38

第13話:師と銀狼と白姫 後編

さて…どうしたものか……


「先輩?聞いてる!?」


「ん?あぁ…」


「って、違うよ!そこは青を使うって、さっき言ったでしょ!」


出会ってから数日が経過した。病院を退院した霞とはすっかり、打ち解け、頻繁に会うようになった。


今は、俺に絵を教えてくれている。


「きちんとやれば、先輩ならいい絵が書けるよ!私が保証しましょう!」


霞先生から出された課題は空。一見、単純に見えるが、絵に関しては単純な物ほど奥が深い。


しかし、俺は絵よりも気になる事があった。


楽しそうに教えている霞だが、時折、一瞬だけ表情が曇り、右手で左腕を握るのだ。


早く…何か見つけないと…


霞が楽しく、夢中になれるものを……



「〜♪〜〜♪♪」


「霞?」


「あ、ごめんね。邪魔だったかな。これね、ボクの大好きな歌なんだ」


きっかけは、不意に訪れた。何気なく口ずさんだ霞の歌。


前から声が綺麗だとは思っていたが……その歌声も綺麗で…澄んでいて…スッと心に響く


そうか…


「これだ…」


「? 先輩?」


霞の新しい翼…


翼は見つかった。後は…それを大きくし、大空へ羽ばたけるように俺が…助ければいい。



翌日


駅前にある楽器屋…


「毎度どうも。何かあったら言ってくださいね」


さて、次は…


少し、歩いたところにあるCDショップ…


昨日霞が歌っていた曲は、数年前のメジャーな音楽で、女たらしの爺ちゃんは当然のごとく知っていた。


俺はそのCDと譜面と…そして…


【ギター入門 虎の絵巻】


楽器屋で買ったギターが入ったケースを持った左手に力を込める。


準備は整った…後は、俺の努力と才能次第だ



「ほぉ、ギターか……和人、ちょっと貸してみなさい」


今日は霞は家には来ない。なので、早速練習を始め、不協和音を奏でていると爺ちゃんにギターをぶんどられた


「♪〜〜♪♪」


「上手いね…」


「ほっほっほ、言ったじゃろ!女子にモテる術は心得ているとな。尺八からふるーとまで何でもいけるぞい」


左右の手の動きがまるで生きてるかのように動き、複数のギターが音を奏でているような旋律


「俺にも…出来ると思う?」


俺の呟きに爺ちゃんはギターを弾くのをやめ


「当たり前じゃ、誰の血を引いていると思っておる。自分の力を信じるんじゃ!和人ならすぐに弾けるじゃろう」


音楽の成績は元々悪くなかった。


そのお陰と爺ちゃんの特訓の甲斐もあって…


「〜〜♪〜♪♪」


三日後にはそこそこ弾けるようになった。


「ほらの、言ったとおりじゃ(冗談じゃったんじゃが…末恐ろしいヤツじゃ)…誰の孫じゃとおもっとる」


「凄い…凄いよ先輩!うわーギターなんて弾けたんだね。しかもボクの好きな曲…」


「歌えよ…これは、お前の為に練習したんだ」


「先輩?」


まだ、喋りながらギターを弾けるほど器用じゃないので、演奏を止めて、俺は霞に語る


「その手じゃ絵は書けない。だけど…歌なら…」


「歌?…ボクが…」


「お前は声が綺麗だ…才能があると思う。だから、歌でもきっと人を感動させる事が出来る。俺が音を奏でる。だから、お前は歌ってくれ」


そう言って、俺は霞の好きな曲を弾く


「…先輩……分かった。ボク歌うよ…先輩の言葉を信じてみる」


最初はお互いに上手いとはいえなかった。しかし、日に日に…


「…いい歌じゃ………」


上達し、人に聞かせる事がなんとか出来る位のレベルまで来た…


「…思ったとおり、霞には歌の才能もあったな」


「それを言うなら先輩だって…ギター上手くなったじゃない。あんな短期間で…」


しかし、弾けるのはまだ一曲だけだ…


「ふむ、では。すてっぷあっぷじゃの…」


何時の間にかコーチになりつつある爺ちゃんがニヤリと笑い、そんな事を言う


「ステップ…」


「アップ?」


「そうじゃよ。今のままじゃと、他人のものを歌っているだけに過ぎん。それでは本当に伝えたい思いを伝えられん…」


練習中に幾度と無く聞かされた…爺ちゃんが言う音楽の定義。


「音楽とは、思いを伝えるためのものじゃ。思いを込めなければ、いい音楽は生まれん。そこでじゃ、二人が思いを伝えるために…」


さっと、数枚の紙の束を俺と霞の前に差し出し…


「音楽を作るんじゃ!!」


そう宣言した。


俺の前に出された紙束は…


「楽譜?」


「ボクのは…ノートだ…」


「そうじゃ、和人は曲。霞ちゃんは詩を書くんじゃ」


とんでもない無理難題を言う爺ちゃん…


「待ってくれ、俺は曲の作り方なんて知らない…」


「ぼ、ボクも詩なんて…国語の成績最悪なのに…」


「大丈夫じゃ、基本は何を伝えたいか…それを考え、形にするのじゃ」


そう言われてもな…


「曲を作る場合はそれを考えに考えるんじゃ。すると、ふと頭の中にメロディーが流れる…後はそれを再現すればいいんじゃ」


無茶言ってくれる。まだ、弾けるようになって間もないんだぞ…


「霞ちゃんじゃが…字は書けるかの?」


「う、うん。右手で絵を書いていたし、練習したから…書けるけど…」


それを聞き、爺ちゃんは電子辞書を取り出し…


「それを霞ちゃんにプレゼントじゃ。必要になると思って買ったんじゃぞ」


「あ、ありがとう玄ちゃん。で、でも…これでどうすれば…」


「まずは、自分の伝えたいこと、それのあらゆる単語と表現力を書き出して…詩を作るんじゃ…」


いきなりそう言われても…霞の表情にも困惑が見て取れた


「歌を作るには二通りあっての、詩を先に書いてから曲にするか、曲を書いてから詩にするか…じゃが、今回はそれを同時に行う」


そんな俺たちには目もくれず、どんどん話を進めていく爺ちゃん。


「お主らの思いの全てを…ぶつけて作るんじゃ。さすればおのずと、素晴らしい歌が生まれるじゃろう」


頑張るのじゃぞ〜


とか責任に言うだけ告げて、爺ちゃんはナンパにいそいそと出かけて行く。


後に、残るのは唖然と立ち尽くす俺と霞


「と、とりあえず…やろっか?」


「やるのか?」


「うん…ちょっとまだ混乱してるけど…でも、ボクもね、先輩の曲って凄く聞いてみたい。歌ってみたいんだ。だから、ボクは詩を書くよ」


「俺も、やるだけのことはやるが…」


とは言っても…


「曲なんて…ちっとも浮かんでこないな…」


「あ、あはは…」


前途多難な曲作りはこうして始まった。





浮かんできた、メロディーを再現して書き残せ!


とは言うが…そんなものは浮かんで来ない。さらに、楽譜の書き方も良く分からない。


とりあえず、楽譜の書き方を学びながら曲を考えることにした。


一方…


「うぅ〜」


辞書を片手に、頭を悩ませる霞…


「全然、わかんないよ〜」


前途多難である……





最初はどうなることかと思ったが、紅葉がピークに達し、秋も深まってきた頃…


「出来た…」


「やった…書けたーーー!!」


俺たちの歌は形になった。


「ようやったの…じゃが、まだじゃ。まだ大事なものが残っておる…」


「大事なもの?」


「そうじゃよ。曲名じゃ…」


「そんなのは後でいいよ玄ちゃん。とりあえず、歌ってみたい!ボクね、凄く楽しみなんだ!!」


「だ、そうだ…」


「そんなもの…酷い扱いじゃの…」


霞にいわれた言葉でショックを受ける爺ちゃん。だが、霞は歌いたくて仕方がないのか…


「ねぇ、行こ?」


「行こうって…何処に?」


時刻はもう9時過ぎ。本当なら霞はもう帰る時間である。


「えっとね、夜景が綺麗に見える場所があるの…とっても気持ちいいんだよ。どうせならボク、そこで歌いたいんだ…」




霞に案内された場所は、女子寮や温泉旅館がある山沿い。そこの山道の頂上にある見晴台。


「これは…」


「ね、いい気持ちでしょ。それに…綺麗だよね」


そこからは春ヶ丘が一望でき、満点の夜空と夜の静かな海。まさに絶景…


「よく此処で絵を書いたんだ…でも、夜に来るのは初めてだよ」


夜風を気持ちよさそうに身体で受け…ながら、目を瞑る霞。


俺の演奏を待っている…そう感じた俺は、ベンチに腰かけギターで音を奏ではじめた…



その日から、俺と霞は毎晩のように、ここでライブをした。


ただ、自分の思い、気持ちを思いっきりこめた歌を…全力で歌った。


「ねぇ、先輩…曲名決めたよ」


「…どんなだ?」



『Together』



「どうかな?この曲はボクと先輩が一緒に作った。どっちがかけても歌は出来ない。だから、『Together』」


「…いいんじゃないか?」


「あ〜!何、そのどうでもいいって言い方は!?」


「お前がよければ、俺は何でもいいんだ」


俺と霞。一緒に居れば、楽しく、辛いことなんて忘れられた。


だが…


一緒に居られる時間は唐突に終わりを迎えた…



「アメリカ?」


「うん…」


何時のように、ライブを終えた帰り道に霞がそう切り出した。


「向こうにね、とっても凄いお医者さんが居るんだって…その人に手術してもらえば治るかもって…お父さんとお母さんが言ってたの」


感覚が無い、左腕を右手で触りながら語る


「あ、でもね。断ったんだ…」


「……何でだよ?」


「え?」


「…行けばいいだろ。治るんなら」


「――っ!?どうしてそんな事言うの!?]


「腕が治るんだ…断るような事じゃないだろ?」


「ボクは先輩と一緒に居たいんだよ!!なのに、どうして分かってくれないの!?」


「それじゃ…駄目なんだよ……」


霞にはもう新しい翼がある。一人で何処にでも飛んでいける。俺という篭で閉じ込めてしまう訳には行かない…


「何が駄目なの!?」


「お前は…治したくないのか?出来なくなった事をまたやりたく無いのか?」


「別に…アメリカなんかに行かなくても…此処にもお医者さんは……」


「その考え方が駄目なんだ…。そんな気持ちじゃ、治るものも治りっこない」


俺も正直、別れたくはない。だけど…いつかこんな時が来るような気がしてた。


出会いがある以上、別れも必ずある。それはとても辛く、悲しいこと…


「でも…嫌だ…ボクは嫌だよ……」


だが…


「別に、今生の別れじゃないんだし、また会える」


父さんと母さんの時とは違う。生きていれば、別れたとしても、どんなに離れていたとしても、いずれ会える。


「なぁ、約束が必ず護れる指切りをしないか?」


「約束が必ず護れる指きり?」


「そう。約束はアメリカで左手を必ず治してくる。そして、手が治ったら左手で指切りするんだ…」


約束を護った後での指きり。母さんが教えてくれた、絶対に護る約束があったときに使う指きり


「な、なにそれ…グス…そんなの指きりじゃないよぅ…」


涙ぐむ霞。だけど、俺は泣けない…。俺は笑ってこいつを送り出す…


「だけど、確実に約束は護れるだろ?」


「そ、そうだね…分かった…ぼ、ボク…絶対に約束護るから…」


「あぁ、約束だ。そしたら、またここでライブしよう。その時までにはもう少し、演奏を上手く出来るようにしとく」


そして…数日後に


霞はアメリカに約束を護るために飛び立っていった。




あれから…五年…


まだ、霞とは会っていない…だから俺は…待ち続ける。





――Side Kasumi Misora


「先輩…私は……」


「霞?」


事務所で弁護士から手紙を受け取り、それを読んだ霞はポロポロと泣き出す…そんな霞にマネージャーが心配そうに声をかける。


忘れようと思ったあの人の事…


でも、そんなのは無理だ…


「馬鹿みたい…私…」


両手で、丁寧に手紙を仕舞って…


「会わなきゃ…」


そう決意した。


勝手にいじけて、勝手に忘れようとして……。そんな馬鹿な私を今もあの人は待ち続けているのだろう…


「玄ちゃん…ボク……」


忘れようと誓った時から、ボクから私と呼び方を変えた。でも、それも止める。こっちが本当のボクだから…


そして、この手紙で気持ちを思い出させてくれた、今は居ない優しいお爺ちゃんに…感謝して……


五月五日。あの人の住んでいる場所でのライブ…


「マネージャー、ボクねライブの前日に先輩に会ってくる」


「……大事な人なのね?」


「うん。ボクに、歌うことの楽しさと生きる希望をくれた人に会いに行くの。明日から頑張って仕事するからいいでしょ?」


「はぁ…ライブの時間までに戻ってくるのよ?」


「うん!ありがとう。大好きだよマネージャー♪」


あの時…子供っぽい感情のせいで出来なかった約束…


今度こそ果たしに行かなきゃ!







更新!


さて、霞ちゃんと和人くんの回想は今回でラストー


和人「ちょっと待て!霞って、Soraだよな?デビューしたのが去年だろ…って事は一年前には帰ってきてたのか?」


霞「そうだよ〜。でね、先輩に会いに行ったんだけど…まぁ、いろいろあった訳なんだ」


和人「わけわからねぇ…」


霞「真相は次回!」


いや、次々回位かな…次回はシリアスが続いたからコメディーを風にいこうかと。


和人「そうなのか…ところで、俺ってギターの才能あったんだな…」


まぁ、実際、そんな短期間で弾ける訳が無いだけど…ジャンルコメディーだし、時間の都合上こうしないと…だから、そういったつっこみはスルーの方向で…


霞「出てるキャラで人間離れしてる人とか居るもんね…」


和人「大半は俺の身内なんだが…御堂先生とかな」


ま、まぁ、とにかく。次回は、久しぶりにあの人が出てきます。実は、一番好きなキャラなんだよね。彼女


霞「誰だーーー!?」


和人「お、落ち着け!」


ではでは、よかったら感想をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ