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Rumble  作者: 久遠
13/38

第12話:師と銀狼と白姫 中編

何も変わらないはずの毎日。それが、少し変わったのは…


中学二年の夏の終わりだった。


「はっ、はっ、はっ」


深夜の、人気のない海辺。夜空に浮かぶ満月が海面に映り、美しく幻想的な夜。


そこで日課のランニングをしていると…


「…?」


波の音にしては不自然な水の音がした。


その音の元を探るように、辺りを見回すと…


海に入り、沖の方に歩いていく人影らしきものが見えた。


おかしい…


こんな時間に泳いでいるのか?とも考えたが、それはない。何故なら、その人影の肩の辺りまで水に浸かっている。


そんな深さで泳ぐこともせず、ただ沖に歩いている。


遠いにも関わらず、その人影が明確に見えるのは髪が月光に反射して、白く光ってるように見えたからだ。


髪の長さからして女性…


嫌な予感がした


「…!?」


その予感は的中した。


頭さえ、海水に浸かりながらも、その人は浮かんでこない。予感がしたときから体が動き、俺は海に飛び込み、その人影を目指して泳いでいた。


「はぁ…はぁ…」


「ケホ!…ケホ!…コホ!…はぁ、はぁ、は、離して…」


水中で白髪の少女の右手を掴み、左腕で抱きかかえるような形で引き上げる。苦しそうに咽かえっている事から、最悪の事態になる前に救出に成功した。


しかし、少女から出た言葉は助けたことからの感謝の言葉とは程遠かった。


「離して…離してよ!!」


暴れる少女。そこで、違和感を感じた。


掴まれた右腕と、足で必死に抵抗し、俺を引き剥がそうとするが…


(左腕が…動いてない)


ピクリとも動かず、ダラリと力が入っていない左腕。


「じっとしてろ…」


「嫌!ボクに構わないでよ!!ほっといてよ!!」


喚き、暴れる少女に若干手こずったが、ようやく浜辺に戻ってきた。


よく見ると少女は俺と同じか年下くらいで、白く長い髪と整った顔立ちで美少女と言って差し支えない容姿をしていた。


着ている服が、病院の入院患者の着ている服なので、春ヶ丘総合病院の患者なのだという事が伺えた。


浜辺で力を抜いた俺の手を振り払うと、少女は睨みながら…


「どうして…邪魔するの?」


「……お前…何をする気だった?」


「キミには関係ないでしょ!!」


「……何をする気だったんだ!!」


「…死ぬ…死ぬつもりだったんだよ!!いいでしょ!?関係ないんだから!今度は邪魔しないで!!」


ザブザブと海に入っていこうとする少女の腕を掴み、それを阻止する。


「離してよ!!どうして邪魔するの!?」


「逃げるなよ…」


「何も知らないくせに!無責任なこと言わないでよ!!」


「だとしても…自分から死ぬなんてのは逃げでしかない!!」


「もう…生きていても仕方ないの…」


「生きたくても生きられない人間も居るんだ!死ぬなんて絶対に許さない!」


許せなかった…


俺の両親のように、死にたくなくても死んでしまう人間が世の中には沢山居る。なのに、自分から死のうとするこいつが許せなかった。


「……話して見ろよ…死にたい理由を」


「………」


「………死ぬ覚悟があったんだ、俺に事情を話すなんて、それに比べたら大したことないだろ」


俺の言葉をどう思ったのかは分からない。


それでも少女は、自分に何があったかを話してくれた。


少女は生まれつき病気で…それを治す薬を投与していた。


やがて、その薬の甲斐あって少女の病気は治った…しかし、その代償があった。


髪の色素。髪が白くなってしまったのだ…


「そのせいで…ね。小学校の時にボクは虐められた。毎日泣いた…そんなボクにお父さんはスケッチブックとクレヨンを買ってくれた」


少女は絵を書いた。何枚も何枚も…。才能と努力の結果、少女の絵は世間に評価され、そのお陰で学校の虐めもなくなり、絵を通して友達も出来た


「嬉しかった…。絵は好きだったし、書いたのを見てくれた人が喜んでくれるのが……でもね、それももう書けなくなっちゃったんだ…」


中学にあがった頃、不良グループがちょっかいをかけてきた。理由は俺と同じ、髪の色が気に入らないというもの…


「無視したり、相手にしなかったり、先生に言ったりしてやり過ごしてたんだ。でもね、それが気に入らなかったみたい…」


放課後、不良グループの女子生徒が男子生徒を呼び、少女を地面に組み伏せ、ナイフで衣服を切ろうとした。


「当然、抵抗したんだよ。そしたらね、相手の激情に触れちゃって…」


脅しのつもりだったナイフが…少女の左腕を…切り裂いた。


「……あとは、キミも気がついたでしょ。左腕が動かないの…神経を切られちゃってね。私、左利きだからもう絵は書けない」


生甲斐だった絵は書けない。右手で書こうにも、タッチなどの繊細な部分でどうしても差が出て、満足な絵を書けなくなっていた。


「服を着るのも一苦労だし、ご飯食べるのにも時間がかかる。生きてても皆に迷惑かけるだけ…」


「………」


「絵を書かなきゃ、また気味悪がられるだけ。キミもそう思うでしょ?」


自嘲気味に問う少女…だが、俺は


「別に…俺はいいと思う」


「?」


「俺の髪もお前と同じような色。俺の場合は目も違う」


こいつは俺と同じ辛さを知ってる。外見で世間から迫害を受ける辛さを…


だからこそ、気持ちが分かる。


俺も自分の境遇を少女に話した…。爺ちゃん以外の人間とこんなに長く会話するのは久しぶりだった…



「………」


「だから、お前の気持ちは多少なりとも分かる…だけどな、死んじゃ駄目だ。残される人の気持ち、考えたか?」


「―――っ!?」


「生甲斐はまた見つければいい…。他人にどう思われようと、自分を理解してくれる人が一人でもいれば、それでいいんじゃないか?」


「……だけど…ボクにはもう」


「居るだろう?両親とか心配してくれる人は…なんなら、俺をそこに含めてもいい」


俺はこいつの辛さが分かる、だからこそ、こいつがして欲しい事が分かる。そして自分がして欲しい事をこいつにする。


「…一緒に新しい生甲斐を見つけよう。だから、自分から死ぬなんて馬鹿な真似はもう絶対にするな…」


「う……っ、うぁぁ…!!」


堰を切ったかのように泣きじゃくる少女を優しく、優しく抱しめる。


人の温もり…


それが、辛かったときに俺が最も欲しかったものだったから……


「俺は…氷室和人……」


「ボクは……美空みそら かすみ



翼をなくした白い少女。その名の通り美しい空に再び飛び立てるように…


「…とりあえず、家に来いよ。海水気持ち悪いだろ?」


新しい翼を少女に…俺はその翼を捜す。




互いの事を話しながら家に帰ってきた。聞いた話だと霞は俺の一つ下らしい


「ただいま…とりあえず、先に風呂に入れよ。一人で大丈夫か?」


「だ、大丈夫だよ!!い、意外とえっちだね先輩は!?」


親切心から言ったんだが…


風呂の場所を教えると、顔を真っ赤に染めた霞は一目散に消えていった…


呼び方は霞と先輩という風になった。初めてだな、他人から先輩なんて呼ばれるのは…


「ふぅ…やれや…れ?」


「和人、こっちこいや」


何時の間にか居た爺ちゃんが、ちょいちょいと手招きする。呼ばれたので俺は近くに行くと…


―ガシッ!


「よくやった!!」


「……は?」


「お持ち帰りとはの!ふふ、お楽しみじゃのう和人。いいか、色々と注意事項があるぞ。おぬし達は若い!ゆえに諸々に気をつけるんじゃぞ…」


「………」


「で、あの子は誰じゃ?」


「…普通、真っ先にそれを聞かないか?まぁ、いいや、爺ちゃんちょっといいかな」


霞が風呂に入っているし、丁度いい。居間で爺ちゃんに事情を話す


「なるほどの…流石ワシの孫じゃ。女の連れ込み方も並ではないの」


本当に嬉しそうに語る爺ちゃん。


「それに、口数も増えて…」


「爺ちゃんとは喋ってただろう?普段から」


「いやいや、それでもそんなに柔らかくはなかった…。女が出来ると変わるもんじゃの…」


出会ってからまだ数時間とたってないが…変わるものなのか?


「とりあえず、今日は客間に泊めて明日病院に送ってくよ」


「なんじゃ?お前の部屋じゃないのか?」


「…当たり前だ」


「つまらんの〜。まぁよい、和人、布団はワシが敷いておくから着替え持っていってやれ、お前のワイシャツなんかがグッとくるじゃろうて」


…言ってる意味はよく分からないが、着替えは必要だ。Tシャツとジャージでいいかな…


「覗くなら、ばれないように気配を消すんじゃぞ、その鍛錬はしたじゃろう」


とか言ってる爺ちゃんを無視し、着替えを取りに部屋へと向かう




和人が出て行った後、居間では…


「…昔のあやつの目に戻ったの。本人は気づいてないじゃろうが、近づきずらい雰囲気が緩和されておる…」


本当に嬉しそうに笑う玄統斎


「霞ちゃんといったか…あの子には感謝じゃの……」


そう呟くと、玄統斎は立ち上がり…


「さて、布団でも敷いて寝るか…年寄りには夜更かしは辛いわい…」


居間を出て行く玄統斎の、その瞳は孫への慈愛に満ちていた。











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