第11話:師と銀狼と白姫 前編
――Side ???
「カーーット!お疲れ様Soraちゃん!いい声だったよ」
「ありがとうございますディレクター♪」
都内にあるテレビ局のスタジオで、歌番組の撮影が終了した。
笑顔でスタッフに挨拶をしているのは、去年デビューし、大ブレイク中の新人歌手Sora。
その白く長い髪と明るく元気な笑顔、そして美しく、優しい歌声が人気を呼んでいる。
「ふぅ…」
楽屋で疲れたようにため息を吐く。
やっと人並みの幸せが掴めるようになった。今の私は恵まれていると思う
だけど…
何故だろう…
「昔の…辛かったときの方が楽しかったなんて」
そんな私の元にマネージャーがやって来て…
「霞、お疲れの所悪いんだけど…」
「また仕事?今日はこれで終わりだったはずだよ?」
「いえね…仕事じゃなくて、その…今、事務所に貴方を訪ねてきたっていう弁護士が来てるのよ」
弁護士?私の所に?一体…
「分かったよ♪じゃ、早く戻ろう!」
この弁護士さんが持ってきたもの…
それが、私の本当に求めるものの道しるべになるなんて…
このときは考えもしなかった…
――Side Kazuto Himuro
俺の住んでいる。ここ春ヶ丘市は、海があり、山があり、温泉やその他の観光地があり、アリーナなどの施設もあり、それなりに賑わっている。
さらに、東京まで電車で1時間ちょっと。
そんな事もあり、GWなどの長期休暇では大量の観光客が訪れる。
ここ光琳高校でもGWの予定で話題が挙がるようになってきていた。
昼休み。男四人で教室で昼食を取っていると琢磨が話をはじめた。
「なぁ、聞いたか?Soraちゃんのライブの話!」
「僕が知らないわけ無いじゃん。5月5日に春ヶ丘アリーナでのライブ!タクは行くんでしょ?」
「当たり前!あ〜あ、どうにかしてナンパできないかな」
「芸能人までナンパする気か?お前は」
琢磨とハジの会話に呆れながらつっこむ冬至
「んだよ、時雨。いいじゃんかよ」
「いい悪いじゃなく不可能だと思うんだが…」
「そうとも言い切れないよ」
珍しく琢磨を弁護するような事を言うハジ
「まだ不確定だけど…凄い情報が入ってきたんだ。だから分かんないかも…」
「本当か?まぁ、一文字が言うなら本当なんだろうが…」
「よっしゃ、なんか燃えてきたぜーーー!」
「タク、熱くなるのはいいけど…僕の感だと……和くんがまた波乱を起こす気がする…」
ハジの言葉に今まで黙って惣菜パンを食べていた和人がうんざりしたように口を開く
「またそれか…。お前の言葉は予言じみてて当たるから嫌だな」
「氷室!そのリアクションはなんだよ!Soraちゃんと会えるかもって言ってるんだから喜べ!」
当初は和人にビビリがちだった琢磨も、慣れたのか平気で喋るようになり、それを若干嬉しく思う冬至は笑みを浮かべる。
「ん?冬至なんか嬉しいことでもあったのか?機嫌よさそうだけど…」
「いや、なんでもない。で、どうなんだよ和人。芸能人との波乱を予告された気分は」
「そう言われてもな…そもそも、そのSoraって誰だ?」
「なっ!?お前、知らないのか!?」
「テレビとか見ないからな…」
ならば教えようと、興奮気味に琢磨が熱弁を語ろうとしたところで…
「あ、そろそろ休み時間終わりだ」
「次の時間ってなんだった?」
「英語だよ。僕、今日当たりそうなんだよね…」
その場を立ち去ろうと背を向ける三人
「って、聞けよ!!ま、待てよ!置いてくなよ〜」
三人の後を情けない声を出しながら慌てて追いかける琢磨。
「では、此処の和訳を…一文字さん♪」
「はい。えっと…『私は、あなたと一緒に居たい。なのにあなたは何故分かってくれないの…』かな?」
英語の授業中、そんな言葉が耳に入ってきた。
『ボクは先輩と一緒に居たいんだよ!!なのに、どうして分かってくれないの!?』
似たような事を昔、言われたな…
ボーっと窓の外を見ると、そこには青く、何処までも続いている空が見える。
あいつの名前と同じ美しい空が…
その空を見ながら、俺は過去を思い出す…あいつとの出会いを
〜回想〜
「またか氷室…」
「………」
中学に入学してまだ間もない頃…
それにも関わらず俺は生徒指導室に呼び出されていた。
「三年との喧嘩…まったく、入学早々何回目だ!」
「………」
「今回こそは、共犯者を名乗らせるぞ!言え!誰と一緒に喧嘩したんだ!?」
「誰も…俺一人だ…」
「嘘をつけ!!三年は五人が怪我をしたんだぞ!お前は無傷だ!!どう考えても仲間が居たとしか考えられん!!」
「………」
「大体だな!その髪の色といい、カラーコンタクトといい!どれもこれも校則違反だ!!」
またそれか…
「……これは…生まれつきだ」
「ほぉ…お前のような輩ほどそういう事を言うんだがな…」
「………」
「ふん!まったく、貴様の親はどういう教育をしたんだ!?ええ!?」
「!?」
何を言われても頭には来なかった…だが…
「な、なんだその目は…ひ!?」
父さんと母さんの悪口だけは許せなかった。
結局、この教師を殴ってしまい、二週間の停学処分になった。
「帰ったか和人」
家に帰って俺を出迎えた電話中の人物
氷室玄統斎。母さんの武術の師にして父親。俺の祖父である。
「ただいま…」
両親を失った俺を引き取ってくれた人で、俺に残された唯一の肉親。
剣術、拳術、合気道、柔術、あらゆる武術を独自に昇華した総合戦闘術…氷室流の当代で、銃弾さえも避ける事が出来るという、日本で三本の指に入るであろう武術家である。
正直、人間離れしているが、本当に凄いのは…
「おぉすまんの家のもんが帰ってきおってな…なぁに、心配いらんわい。今日は夜までないとふぃーばーじゃ」
物凄い色魔…つまりはエロ爺で女性にモテルスキルの全てを取得したと豪語している所である。
今も、何処かのOLさんをナンパしているのだろう…
「ふぅ…さて、和人や、話がある。ついて来い」
俺に待っているように手で伝え、電話を終えたかと思うと、真剣な表情で俺を見てになり、ついて来るように言う。
先程のないとふぃーばーとか言ってた人間と同じとは思えないほどの威厳をだしている。本当に同一人物かどうかと思うこともしばしば…
逆らったところで俺の命がやばいので素直についていく
「先程の、学校から連絡があったんじゃが…先生を殴ったそうじゃの…」
「………」
爺ちゃんの畳がある和風内装の部屋で、正座で向かい合うと話を切り出した。無言の俺に…
「ふん、別に咎めはせん」
「?」
「お主が誰よりも優しい子だというのは分かっているしの…殴ったのも余程の理由があったんじゃろう…」
「そんな事…俺は優しくなんか…」
「和人や、本当に優しい人間は本当に辛いことを知ってるんじゃ」
「………」
「その経験があるからこそ、他人が辛いときに助け、協力したくなる。気持ちが分かるからじゃ」
「お主は、父と母を失い。孤独という辛さを知っとる」
爺ちゃんは二カッと笑って、ごつごつした硬い手の平で…
「じゃから、お前は優しい。ただ今は、まだ自分の辛さで精一杯で他人のことまで頭が回らないだけじゃよ」
「爺ちゃん…」
「さて、話しは終わりじゃな。折角、明日から学校に行かなくて済むんじゃ。山篭りに行くぞ!」
「……話って…それの事?」
「そうじゃよ?嬉しいじゃろ。付っきりで強くしてやるぞ!そうじゃの…そろそろ生身で熊の二、三匹を倒せるようにならんといかん」
ガッハッハと強引に笑う。
「では、出発は明日の昼過ぎじゃ。それではワシは菜穂子ちゃんとのふぃーばーしに行くかの…」
元から容姿のせいで、周囲からは浮いていたが、上級生との喧嘩や先生を殴った事で完全に不良のレッテルを貼られ。
銀髪と何時も一人で居ることから、銀髪の一匹狼という意で『銀狼』と呼ばれるようになった。
だが、少しも辛くはなかった。
俺には爺ちゃんが居たから…
そう考えていた俺お前に、中二の夏の終わりに…
俺は翼を失った白く美しい少女に出会った
更新完了〜
さて、まずは…すいません!!
予告まで話が進みませんでした!!
続きは以下次号って事でお願いします。
さて、Rumbleも11話です。ひとえに読者様の応援のお陰ですね。感謝感謝です。
これからも頑張っていきますので応援をよろしくおねがいします。