第10話:お嬢様の目標 後編
時は西暦19××年。
駅前のとある喫茶店である事件が起こった
事件の発端となったのは無垢な美少年。銀の髪とオッドアイという特徴的な容姿の少年は、同じく銀髪の母親と来店し、パフェを注文。
周囲のお姉様やマダムがたから熱烈な視線を浴びつつも笑顔で少年はパフェを食べ続け、対面に座っている母親までもが視線を釘つけにし…
「おか〜さん?どうしたの?」
視線に気付き、スプーンを口に入れたまま、首を傾げる。その瞬間
女性客の鼻血でフロアは染まった…
その少年の名は氷室和人という。
「「………」」
幾分成長したが、まだ健在の可愛らしさの片鱗が二人の少女を襲っていた。
意を決して彩花は和人を起こすべく近付こうとするが…
「…起こしてしまいますの?」
「そんな残念そうな声出さないでよ。わ、私だって…起こしたくないんだから」
あの寝顔をもっとみたいという衝動に刈られ、足が止まる。さらに、起こそうとする度に、紗耶香が残念そうに問うのだ。そんなやり取りが何度か続き…
「大体ね〜あんたは和人を遅刻させたくないんでしょ?」
「それはそうですが…あれを起こすなんて事は私には…」
長いこと直視すると理性を失ってしまう紗耶香はチラチラと和人を見る。
「このままじゃ、朝練が…仕方ないわ」
もう、起こすしかない。
とはいっても、真正面からでは返り討ちにあうのが関の山である。
そこで彩花の取った手段は…
「起きろーーー!!」
「橘さん!?」
目を瞑りながら、和人に突っ込んでいく彩花。
完璧な目測で、ベットの間近にやってくるとそのまま倒れこみ…
「――ぐっ!?」
スヤスヤと寝ていた和人の腹部に肘を落とした。
「ごふ、げほ…。てめぇ、彩花」
「おはよ♪和人。よく眠れた?」
「ふざけんな!天に召されるわ!」
「あんたなら大丈夫よ!」
「氷室さん、大丈夫ですの?」
和人の近くにやって来て、心配そうに沙耶香が問う
「おい、聞いたか?彩花さんよ。これが一般人の見解だ。ありがとうな東條。心配しなくても大丈夫だ」
「………」
「あれ?えっと…西條だっけ?」
和人の発言にフルフル怒りに震える沙耶香。
「…南條?」
「ワザとですわね!?絶対に嫌がらせしてますわね!!」
「……さて、顔を洗ってくるかな」
逃げて誤魔化そうと部屋から出て行こうとするが…
「ちょ、ちょっと!」
「……馬鹿ーーー!!」
彩花の制しを聞かず、怒り心頭で北條が椅子をぶん投げた。
「あ、危な!」
背後からの不意打ちだが、和人は避けるのに成功する。魔弾の射手の攻撃を避けているので反射神経は伊達ではない。
「うぅっ…グス…馬鹿…馬鹿、馬鹿ーー!!」
次々とテレビのリモコン、コンポのリモコンなど、手に取ったものを投げる沙耶香。目からは涙が…
「な、何も泣くこと…」
「そ、そうよ。落ち着いて」
二人は必死に宥めるが、沙耶香が冷静になるには数分を要してしまった…。
「はぁ…朝練遅刻だわ」
「ごめんなさい…私のせいで…」
「ううん。悪いのは全部あいつだから」
「まさか泣くとは…」
予定の時間より、数分遅れで三人は登校し始めた。彩花の自転車は和人が押し、鞄まで持たされている。
「あんたが名前を間違えるからでしょ!そりゃ傷つくわよ」
「い、いや、寝起きで頭が回んなくてな…」
「……橘さんには気が付いていましたわ」
「そ、それは…」
ジト目で二人は和人を見る。
「そ、そうだよ。北條ってのが覚えづらいんだよ」
「なっ!そんなことどうしようもありませんわ」
「ああ、だから名前で呼ぶよ。沙耶香って呼ぶから。俺も和人でいい」
「な、ななな…」
「そうよね。確かに橘さん、北條さんじゃ他人行儀だもんね。私も彩花でいいから沙耶香って呼ぶけどいい?」
彩花がそれに賛同するが、当の沙耶香は顔を真っ赤にしている
(お父様以外の男の方に名前を呼び捨てにされるなんて…でも、嫌じゃ無いですわ…)
「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですわ。おーるおーけー」
「……口調変わってるわよ」
「き、気にしないで下さい。あ、彩花さん。か、かか、和人…さん」
「う〜ん。呼び捨てで構わないんだけど。まぁ、いいか」
「そうね。沙耶香の性格なら、さん付けが妥当でしょ」
和人と彩花は満足げに頷き、三人は何時もより楽しく登校した。
学校に到着した三人。彩花は剣道場に行くため校門前で別れるのだが…
「じゃ、私は朝練に行くけど…和人。もし帰ったら…」
「あ〜、流石にあんなことがあれば目が覚めた。それに帰ったら誰かさんがまた泣きそうだしな」
「な、ななな、和人さん!!」
睨みながら釘を刺す彩花に和人は沙耶香をからかうような返答をし逃げるように玄関に駆けていく。それを沙耶香が追いかける
そんな二人を苦笑いで彩花は見送り、朝練に向かうのだった。
「ようやくですわ…」
長かった。一番の問題児である和人さんが登校している今、私の目標実現は近い。
しかし…私は忘れていた。
このクラスにはもう一人。問題児がいるという事を…
「なぁ、ハジ。琢磨のヤツは今日は来るのか?」
「多分、粗方声はかけ終わったと思うし。でも、来たとしても遅刻だね。昨夜は遅くまで泣いてただろうし」
「はぁ…あいつも懲りないな」
「立ち直りは早いけど」
和人とハジの会話を聞き、沙耶香は今、その人物について思い出した。
常盤琢磨。我が学園のエロ男の色情狂という噂が名高い生徒で。大半の女性徒は彼にナンパなりの誘いを受ける。
沙耶香も声をかけられたことはあった。
遅刻数で全校NO1を誇る和人の次点が琢磨である。
和人の寝坊とは違い、近くの女子高など他の学校へも朝からナンパに勤しんでいるというのが遅刻の原因となっている。
「一文字さんは常盤さんとは親しいのですか?」
「うん。小学校からの付き合いだし、腐れ縁」
「あいつ、始業式から学校来てないだろ。それは新入生に声を掛けまくってるかららしいよ」
「で、大概振られて落ち込む。僕の予想だと今日くらいから来ると思うよ」
同じクラスでありながら、まだ一度も姿を見ていないのはそういった理由からである。
(こんなこと、考えては駄目なんですけど…。どうか今日だけは休んでください)
遅刻撲滅運動。欠席なら遅刻とはカウントされないので本日無遅刻が達成される。
そんな邪な事を考えていると…
「ちっ、氷室が来てやがる…」
教室に入ってきた御堂先生が舌打ちをし、不機嫌そうにHRを始めるのだった。
昼休みも終わり、午後の授業に突入。調査を行ったところ、本日は遅刻者はいない。
もう少し…あと二時間で無遅刻の完成となるという所で
「おっはよー女の子達!やっぱり、君たちが一番だよ!!」
授業中だというのに、嫌にハイテンションで彼がやって来てしまった。
「そ、そんな…」
うなだれるように机に突っ伏す沙耶香。
遅刻がなくなる日は…まだ遠い…
「ほう…私の授業に堂々と遅刻してくる挑戦者は氷室だけかと思ってたぞ」
「げっ、御堂先生!ヤバ!今、現国!?って、ギャーーーー!!」
そして、拓馬は御堂先生の数本のチョークの散弾投擲によって、粛清された。
いつもご愛読感謝です。
お久しぶりです。久遠です。
なんだかんだで10話目。皆さんには感謝ですね。
霞「……ねぇ、私の出番はまだ〜?」
おっと、フライングだね霞ちゃん。次だから慌てないで
霞「じゃ、とうとう…私との出会いのお話ね♪」
うん。中学時代の和人のお話。では予告編をどうぞ!
「和人や、本当に優しい人間は本当に辛いことを知ってるんじゃ」
「もう…生きていても仕方ないの…」
「生きたくても生きられない人間も居るんだ!死ぬなんて絶対に許さない!」
次回『師と銀狼と白姫 前編』をお楽しみに
霞「シリアスムード満点!」
まぁ、ギャグは殆ど無いね次回は
霞「頑張って書いてよね」
了解です。では、今回は此の辺で…
霞「感想をどしどし書いてね。待ってまーす」
励みにりますので、どうぞよろしくお願いします。