プロローグ
「Zzz…」
惰眠こそ至福の時、最高のステイタス…
別に偉人が残した言葉ではないが、これは俺の中の真理である。
俺、氷室和人は高校二年で、時刻はもう起きねば危険な領域に突入している。だが、心地よい眠りからさっぱり、きっぱり目覚める事が出来る人間がこの世のどれほどを占めているだろうか?
俺は出来ない方の人間に属する。幸い今日は邪魔者もいないしな…
学校に遅刻すると言う事とと三大欲求の一つである睡眠欲。当然、睡眠欲が勝利し俺はそのまま満足するまで眠るのだった…
「ふぁ〜よく寝た…」
寝るだけ寝たら満足だ。部屋に掛けてある時計を見ると短針が9を指していた
「9時…完全に遅刻だな…」
同じ遅刻なら焦っても仕方がない。
俺はだらだらと着替えてリビングに降りた
「飯でも食うか…」
ヤカンでお湯を沸かしつつ、カップラーメンを用意。
料理は出来ないわけじゃない。食材も恐らくあるだろう。だが、単に面倒臭い…
俺が料理を作れるのは、両親が数年前に他界し、遺産目当ての親戚連中と縁を切り、爺ちゃんに引き取られ、今住んでいる家に越してきたのだが、
その爺ちゃんも俺が中三のころに死んでしまい、天涯孤独の身となり、遺産とこの家で一人暮らしをしている。そんな経緯から料理を覚えた。
元々、爺ちゃんと暮らしていた時から家事全般は俺がやってたんだがな…
「沸いたか…」
過去を振り返っているとお湯が沸いたので火を止め、それをカップ麺に注ぎ、きっちり三分待ってから食べ始める。
数分で食べ終え、ゴミを捨て、学校に行く準備をし、戸締まりをして家を出た。
「いい天気だね〜」
夏も過ぎ去り、大分涼しくなり、紅葉が始まりつつある秋の景色を眺めつつ、学生がいない通学路を一人歩く。
俺は光林高校の二学年に在籍している。一年から遅刻をしまくっていたのだがよく進級できたなと自分でも不思議でならない…
さらに…
「はぁ〜」
大きな溜め息を吐く。その理由は道行く人、すれ違う人が奇異の視線で俺を見ると言うことだ…
たしかに、この時間に学生服を着てる人間が歩いていたら目立つかもしれないが、大きな理由は俺の容姿にある。
母さんがハーフだったため、銀髪で茶と青の異なる瞳…すなわちオッドアイという風貌である俺はかなり目立つのでこういった視線にさらされるのだ。
もういい加減、慣れはしたが気持のいい気分はしないので俺は足早に学校に向かうのだった
下駄箱で靴を履き替え、教室に向かう為、無人の廊下を歩く。それもそのはず、現在、二限目の途中…
すなわち授業中である
教室の前にたどり着き、普通なら躊躇する場面を遅刻常習犯である俺は普通に教室後ろのドアを開け中に入る。その瞬間…
「そこ!!」
「危な!」
現国の教諭である御堂女史がチョークを投げつけてくる。間一髪でそのチョークを避けると、チョークは壁にあたり粉々に砕けた
それを見届けると御堂女史は忌々しげに舌うちし、授業に戻っていった
俺もそのまま席につき、何事もなかったかのように授業が再開した
現国の教諭、御堂真希。彼女のポリシーは罰はチョークで与える…
当たれば物凄く痛いが、避ければ罰は清算されるという、美人だが変わった先生である。
クラスメートもその性格を熟知しているのでとりわけ驚いたりはしていない
席についた俺は現国の教科書を机から取り出す。そこに隣に座っている俺の数少ない友人…白樺華蓮が小声で話しかけてきた
「おはようごさいます和人様♪120ページからですよ」
「おはよう華蓮。いつもサンキュ」
俺の言葉にいいえと微笑む華蓮。
整った容姿に、茶色のさらさらの長い髪をストレートにした、おしとやかな癒しオーラをかもしだしている華蓮は、その人望も厚く、誰からも好かれている。
彼女に告白し散っていった男共は二桁を越えている…
そして、何故か俺を様付けで呼ぶ。何度訂正しても止めてはくれず、理由を尋ねてもはぐらかされてしまうので、もう諦めた…というより、慣れた
そんな華蓮のサポートもあり、現国の授業を乗り切り休み時間になる
「よう、和人。おそよ〜」
「おう、冬至。おそよう」
俺に声をかけてきた黒髪の眼鏡をかけた青年、時雨冬至は数少ない俺の友のなかでも貴重な男友達だ。
冬至は積極的でリーダーシップもあり、サッカー部の部長でさらには学級委員もやっている。当然、人望もあり、皆から好かれている
親友が学級委員なので遅刻をとやかく言われないのは助かる。しかし問題は…
「和人!!また遅刻!?」
「げっ…彩花」
長い黒髪を黄色いリボンでポニーテールにし、少し吊り目で強気な態度。だが誰が見ても美人だと答えるであろう容姿の橘彩花。この中で一番付き合いが長い中学時代からの友人であり、
俺んちの隣に住んでいる。
さらに、剣道部主将でお節介やきで面倒見もいい。当然、人望もあって…以下略
「昨日、言ったわよね!?私、朝練があるから起こしにいけないって!そしたら一人で起きるって!」
「……過ぎ去りし過去より未来に目を向けないと…」
「うっさい!!携帯に電話までしてあげたのよ」
「んなこといわれてもな〜別に頼んでないし…」
……はっ、ま、まずい、地雷踏んだ。
彩花さんはゴゴゴという効果音が聞こえるくらい怒っていらっしゃる
「流石に私の朝練の時間に起こすのは可哀想だと思って情けをかけたのに…いいわ!明日から絶対に叩き起こしてやる!!」
「あ、彩花。わ、悪かったと思ってるよ。だから…」
「駄目!!もう決定事項よ!」
すでに決まってしまった事らしい…
「和人様、お昼は?」
午前の授業を乗り切り昼休みとなる。隣で華蓮が可愛らしいお弁当を広げながら聞いてくる
「いい…あんま腹減ってね〜から」
かなり遅めに朝食を食べたからな。
「駄目よ!ちゃんと三食食べなさい!」
俺の前の席を陣取った彩花が怒ったように言う。昔のとある出来事のがあり、その影響からか彩花はなにかと過保護に俺の事を気にかけてくれる。
まぁ元々のお節介やきという性格も理由の一つだろうが…
「相変わらず。橘さんは和人の保護者みたいだね」
「ち、違うわよ!ほっとくと和人の奴、餓死しかねないから…」
彩花の隣の席に座り、購買の戦利品を抱えている冬至がからかうような口調で話している
「へいへい。食えばいんだろ。じゃ、これは頂き♪」
「あーーー!!」
彩花の卵サンドを ひょいとつまみ一口で平らげる
「美味い!さすが凉香おねえさんだ」
凉香おねえさんは彩花の母親で、以前おばさんと言ったとき、すさまじい殺気をぶつけられたので以来、こう呼んでいる。明るく、活発に人だ
「ち、ちょっと!何て事すんのよ!!」
勝手に卵サンドを食べられ怒る彩花。それを見て華蓮は自分のお弁当箱を差し出す
「和人様。私のも食べますか?」
「いや、悪いからいいよ。ありがとな」
「私のは無断で食べといて!!」
「ま、彩花だし…俺、飲み物買って来る」
「どういう意味!?こら!待て和人!」
尚も食ってかかる彩花から逃げるように俺は自販機に向かった
昼食時ともあって、自動販売機は結構混んでいる。
だが…
「ひ、氷室だ…」
俺を見ると、列がわれ、自販機までの道ができる。
俺は中学時代は相当荒れており、世間で言う不良だった。高校に入ってからはそんなことはないのだが、その先入観、容姿、遅刻多数という、普段の素行から未だに不良のレッテルが張られたままなのである
(こういう時は便利だけどね)
とりあえずジュースを買って早々に退散することにしよう…だが、自販機には先客がいた
「あれ、おっかしいな〜なんでだろ?」
(水野さん、マズイんじゃないか?)
(あぁ…我が学園のプリンセスが氷室の毒牙に…)
小声ではなす生徒。っていっても聞こえてるんだが…まぁ無視して、自販機に目を向ける
自販機に悪戦苦闘をしているのは学園のアイドル。水野ひかりだった。面識はないが、確に美人だと思う。
ストレートの長い髪に、可愛らしい髪飾りがよく似合っている
(何やってんだろ?)
様子を伺うと、どうやら自販機が百円玉に反応しないでジュースが買えないらしい
(他の硬貨なり、紙幣で買えばいいのに…)
学園のアイドルは意外とアホな子なのではないかと思った
「えい、この…」
(とはいえ、このままだとジュースが買えんな)
ギャラリーも関わると自分が危ういと思ってるのか、成り行きを見守っている
俺は不良らしく彼女の前に割り込む
「あ…」
突然割って入った俺に驚き、恐怖から少し震えている水野。俺は金を入れて彼女の方を見ないで問う
「どれ?」
「え?」
突然、話しかけられ怯えた反応を示す水野
「だから、どれを買おうとしてたんだ?」
「え、えっと…レモンティーを…」
俺はレモンティーと自分のコーヒーを買い、レモンティーを水野に渡す。
「ほら、これやるからその120円は代金でもらうな」
「え?えっと…その…あ、ありがとう」
レモンティーを受けとると、水野は120円を差し出す
「別に礼はいいよ。あのままじゃ俺が飲み物買えなかったし」
しどろもどろにお礼を言う水野に俺は金を受け取りつつそう答え、とっとと教室に退散した。
この出来事は瞬く間に噂になり、呆然とレモンティーを持ち、ひかりは…
(確か…氷室くんだよね。不良って聞いてたのに…)
少し赤くなった顔で、ひかりは和人の事を考えていた
「お前、学園のアイドルからカツアゲしたんだって?」
「はぁ!?」
五限目の休み時間。トイレから帰ってきた冬至がそんなことを言い出す。
「時雨さん、和人様がそのようなことをなさる訳がありません」
まったくその通りですよ。華蓮さん
「どうかな〜水野さんは綺麗だからちょっかい出したくなったんじゃないの」
そう不機嫌そうにいい捨てる彩花。くそ、昼のこと根に持ってやがる…
「はぁ〜。もう呆れて頭にもこないな」
「まぁ、誤解だとは俺も思うけどな。何があったんだ?」
冬至に言われ、昼のことを説明する
「なんだ、いいことじゃないか…なのに何であんな噂になるんだ?」
「不良って先入観があるし、周りの奴らが勝手に捏造したんだろ。傍から見れば盗ったようにも見えるからな」
「それは…悲しいですね」
「まったく!和人、気にしちゃ駄目よ!」
「ああ。んな事でいちいち気にしてたら学校にも来れん…全然気にしてねーよ」
不愉快な思いをしている二人にそう言う。そして冬至がこの空気を変えるために、からかい始めた
「それにしても珍しいよな。自分から人に関わろうとしない和人がそんなことをするなんて…さしものお前も学園のアイドルの前では一人の男だったか…」
冬至の言葉を聞き、彩花と華蓮から殺気が出ている…怖!
「んなんじゃない。ああでもしないとジュースが買えなかったんだよ」
「不健全な奴だな。健全な男子なら関わりをもったらもう少し反応があるぜ。ま、お前みたいなのが案外、ああいう子のハートを射止めるんだろうな…今回の事で向こうは興味を持ったと思うし…頑張れよ!」
「いや、正直、俺はそんなに興味はないんだが…」
応援されたところで、俺は特に恋愛感情など無い…俺の言葉に二人の殺気が四散する。なんだったんだ一体…
そしてまた授業が始まる…
仲間と過ごす平和な日常。だが、俺は物足りなさを感じていた。
時は進み、物語は三年の春から始まる…
とうとう始まった〜
和人「今回の話しはあまりあらすじに関係してないよな」
ま、プロローグだし…
和人「にしては長いな…」
僕の辞書には計画性という文字はないんだよね〜
和人「……ま、いいけど。あぁ、次回は彩花があとがきに来るから、迂濶な事を書くと……」
そ、そこで黙んないでくれ
和人「次回は、キャラが増えるらしいから楽しみにしてくれる人がいたら待っててくれ」
では、優しい文でのご感想をお待ちしております。